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止まった世界であなたと  作者: 遠藤まめ
第一章 止まった世界の生き方
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ゲニウス

「ふぅ~。にしてもオマエら、人間にしてはよく頑張ったな!コイツら相手にダウンまでさせるとは」


『何か』は、でかい声でそういうと冬馬を抱え、秘密基地内奥の壁へと運んだ。


「げ、ゲニウス…?」


万夏がか細い声で言う。


「ん?あぁ…ってよく見たらオマエ、万夏じゃねぇか!」


ゲニウスと呼ばれたそれは万夏を知り合いのように言い、はしゃいでるようにも見えた。


「なぜ俺の名を…?」


「なぜも何もオマエ、勝手に人の家ん中を『秘密基地』ってほざいて人形やらおもちゃやらをおいてって何年もバックレてくれたじゃねぇか!んなやつの名前を誰が忘れっか!」


それはまさに『秘密基地』の住人であるというような言い方で万夏の疑問に答えた。


「まさかあんたがゲニウスか!」


「あぁ、そんなふうにも呼ばれてた気がするわ。訳わかんねぇ武器持ったおっちゃんたちがオレのことをそう呼んでたな」


自衛隊や海外から来た軍隊のことだろう。万夏に対し軽い口調でゲニウスは答える。やはりヤツと同じような見た目で、しかしそれよりも一回りも二回りも大きい見た目で、ぱっと見では区別がつく自信すらなかった。


「で、何しに来たんだ?ただ助けに来たってわけじゃあないんだろ?」


冬馬は命を救ってもらった相手にも関わらず高飛車な態度でゲニウスに問いかけた。


「ふ~ん…察しがいいじゃねぇか。そのとーり、でもちょいと悪く見過ぎだぜ兄ちゃん。オレはあくまでオマエらに特上の贈り物をしに来たってわけだ」


そう不気味でありながら軽快に、まるで三人を弄び(たの)しんでいるかのような雰囲気で話す。そこに冬馬は苛立ちを覚える。


「………まぁまぁそう警戒なさんなって。オレぁ別にアイツらの仲間じゃねぇよ…って言ったら嘘になるがお前らの敵でもねぇよ」


まるで冬馬の心を読むかのようにゲニウスは答える。それによりなおさら冬馬は警戒を強める。


「アイツらってことは今みたいなのが何体もいるってわけか…」


万夏は顔が青白くなっていくのを体感した。死にかけたことによるトラウマとそれが何体もいるという現実に恐怖を感じる。


「さて、本題に戻ろうか。さっきも言った通りオレはオマエらに特上の贈り物、要はそこにいる日菜乃を救う()()をくれてやる」


その気持ちが悪いほどに都合の良すぎる話は三人にとって怪しくもあり願ったり叶ったりといったところであった。

当初の仮説で日菜乃はヤツを倒すことでもとに戻るというものだったが見ての通り、ゲニウスが確実に仕留めてもなお髪一本も動くことはない。


「で、その見返りは?当然タダでやるってわけじゃないんだろ」


「兄ちゃんなかなか鋭いねぇ…まぁそんなところだな。タダでこんな美味しい話をあげるわけがねぇ」


冬馬の問いかけにゲニウスは軽さを忘れずに答える。対価を求めることなど当たり前、タダで都合の良いものをあげてよかったねと行くほど優しい世界などではない。


「オレから提案する二つ…いや三つだな。三つの条件の下オレはオマエらに日菜乃もといすべての人間を救えるような絶対的な力を与えてやる」


冬馬はゲニウスの表情が分からなくとも良からぬ顔をしているのだけはわかっていた。


「条件を聞こう」


「よしきた。まず一つ目、その力をどんだけ好き勝手に使おうとオマエらの勝手だが俺への攻撃手段として使うのは禁止だ。二つ目、その力は一度オレから貰っちまったら最後、返してくんのもなしだ。返品は受け付けねぇってこった。そして三つ目、今から渡す力にだって禁忌術はある。その使用は全面禁止だ。いいか?この三つを…主に一と二個目を守れねぇときはせっかく救ってやった命でも奪わざるをえねぇ。簡単に言っちまえばお約束を守って力を使いましょーね―ってことだな、でなきゃ殺す」


決して冗談ではない。ゲニウスの殺気が信憑性を高めていく。


「……だってさ。万夏、どうする?僕はあまり信用はできないけどこの提案を呑むべきだと思う」


冬馬はそのまま万夏に選択を仰いだ。この力を得るのはもちろん日菜乃を救える万夏一人。信用ができないため深掘りしていたに過ぎないのだ。


「……あ?そういや言い忘れてたな。この力をはいどうぞってやれるほど軽くはねぇんだ。万夏、てめぇの運も試させてもらうぜ?」


そういうとゲニウスの両手からは小さなブラックホールのようなものが展開され二つの箱が飛び出す。


「この2つの箱のうち一つは日菜乃を救える対象の時を動かす『時の心臓』、もう片方はその反対、対象の時を止める『悪魔の心臓』どっちにしても素晴らしい能力ではあるよなぁ…」


くひひひとゲニウスは嗤う。万夏を見つめ、嘲笑い再度聞く。


「さぁ、どうするよ、万夏クン。大切な日菜乃チャンを助けに来たんだろ?そのためにバカ晒しておもちゃ片手にアイツを殺そうと突っ込んできたんだろ?この力を得られ()()助けられるんだぞ」


まさに悪魔の契約を前にしているようだった。二択を外せば今後時の止まった世界で一生を過ごすことになる。万夏の目は大きく開かれ、ひたいに汗がポツポツと浮き出てくる。それを見た冬馬は頭に血が上るのが感覚でわかった。


「ゲニウス!」


「んぁ?なんだ兄ちゃん。今は万夏と話してんだ。茶々入れてくんな」


「『僕たち』が選ぶってのはどうだ?」


「ふぅ~ん。やっぱり面白いねぇ、万夏、いい友達持ったじゃねえか」


その言葉にすずと万夏はついていくことができていなかった。


「と、トーマ?さっきから何言ってんの?」


「簡単なことだよ。万夏が片方食べて残った方を僕が食べる。そうすりゃ確定で救えるでしょ」


「トーマ!!そんなの危険だよ!第一そんなこと…」


「オレは何人で何個も食うのがダメとは一回も言った記憶はねぇぞお嬢ちゃん。兄ちゃん、名前は?」


「冬馬だ。お前が僕に力を与えたこと、後悔するかもな」


「ハッ。調子に乗んなガキが」


ゲニウスは楽しそうに箱を差し出す。


「さぁ万夏!オマエはどーするんだ?こっちの兄ちゃんは乗り気みてぇだぞ?」


「……。乗った。冬馬がここまでしてくれるんだ、俺が尻込みしてちゃカッコもつかないだろ」


万夏は先程のように狂った判断ではなく、自らの意志でそれを選ぶことを決めた。冬馬は自然と笑みが浮かぶ。日菜乃を助けるために。


「万夏、絶対助けような!」


─万夏が後悔しないように─


「よしきた。じゃあ右の箱と左の箱あ、オレから見てな…ってめんどくせぇどっちから見てでも良い!オマエらで選んで勝手に食え!」


ゲニウスはそういうと楽しそうに万夏の選択を待つ。最初に決める万夏が手を取ろうとすると「おっと~?」や「そう来たか…」と煽りながら。


「………決めた。こっちにする。待ってろ日菜乃…今助けてやるからな…」


すると万夏はゲニウスの左手に乗せられた箱を勢いよく開け、心臓を手にする。赤黒く、手のひらいっぱいになるその心臓はドクドクと血管と繋がってなくとも脈を打つ。その気持ち悪さとグロテスクさからの吐き気を抑え万夏は食べようと覚悟を決める。が、なかなか口に入れることができない。


「おっと、言ってなかったけど噛み千切んなよ?ここら一帯血で汚れちまうのは御免だ」


ゲニウスはそういうと冬馬の方に箱を向けた。しかし冬馬は心臓を見つめる万夏の動きを見る。何も言わずに、急かすこともなく。


「ふんっ!」


万夏は勢いよく心臓を口に入れた当然すべてが簡単に口に入ることはなく、ブニブニしたそれを変形させ押し込みながら飲み込んでいく。途中で嘔吐(えず)きながらよだれをこぼしているのも無視して飲み込むことだけに必死になる。嫌な汗が額を流れ地面へと向かう。やがて─


「………ったぁっっっ!!!」


万夏は全てを飲み込んだ口からは血が流れていく、およそ途中で歯などにぶつかり、傷ができてしまったのだろう。だらだらとこぼれまるで吐血しているかのように錯覚する。


「さぁて、今度はテメェの番だな。それとも食うのをやめるか?こいつが時の心臓を食ったことに賭けるか?」


「少し待って様子をうかがう…なんてできないんだろ」


その冬馬の言葉にゲニウスは鼻で笑う。


「食べるよ」


冬馬はゲニウスの右手に置かれた箱を開け冷静に口に流し込む。万夏と同様、嘔吐きながら、涙を目に浮かべながらも一気に飲み込む。しっかりと血を一滴もこぼさずに飲み込む。


少しすると荒い息になり、気持ちが悪くなる。鼓動が明らかに早い、早すぎる。額に浮かぶ汗が床にどんどん流れていく。血の流れが分かる程に体のそこら中にある感覚が研ぎ澄まされているのがわかった。


「トーマ…!大丈夫!?」


二人の反応にすずの表情もこわばる。最悪の事態が頭をよぎり焦る。

ゲニウスは苦しむ二人を気にする様子はなく拍手と思しき行動を取り、見下ろし言う。


「………おめでとう!君たちには力が備わった。それぞれに時の力と悪魔の力がね」

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