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百人目はプロポーズ

作者: しろかえで

R15ですがエチなしです。


ある程度安全な“しろかえで”です。

「なんだと!!」


 夷隅(いすみ)家13代当主“嗣治(つぐはる)”は長女“佐奈(さな)”の言葉に目を剝いた。


怠惰な雰囲気を漂わせ、佐奈は言葉を繰り返す。


「だからさ~ 私の“百人目”の相手として(すめらぎ)の御曹司に声を掛けたってだけよ。皇との姻戚関係はお父様が望むところでしょう?」


その長女の言葉を耳にして次女“妃苺(ひめ)”の顔は真っ青になり震える唇から言葉が洩れる。


「お姉様……それは光輝(みつてる)様の事……?」


「決まってるでしょ!あいにくと袖にされたけどね」


「この恥晒しが!!」


当主の怒号がお屋敷の吹き抜けの天井にまで反響した。


「貴様!! 何という事をしてくれた!!! 貴様のような売女は見るのもおぞましい!! 本当に貴様の母親そのものだな!!!」


怒鳴りつけられても佐奈は“どこ吹く風”の(てい)で耳を掻く素振りをして一言返す。


「“人”の母親を追い出しておいてよく言うよ。この腐れチ●ポが!」


由緒ある当主はこの侮蔑の言葉に猛り狂った。


「この下衆が!!売女が!!」

執事の制止も振り切って佐奈を殴る蹴るして床に転がして行く


この当主の激高に割って入ったのは妃苺の母である後妻の和花子(わかこ)だ。


和花子は、よろよろと身を起こした佐奈に、思いっ切り平手打ちを食らわした。


「少しは妃苺の心の痛みを知りなさい!」


「言われなくても!!」

そう言って口に溜まった血をペッ!と吐き、床に投げ出されたバッグを拾い上げ

「あばよ!」と捨て台詞を残して出ていく佐奈の背に

「お姉様!」と叫ぶ妃苺の声だけが虚しく響いた。



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 繫華街の雑踏の中、服の埃を払いスマホの画面をチェックする。


「コイツもダメか……」


「今晩、()らない?」と佐奈が声を掛けまくっても断りのメッセが入るのはいい方で……大半は()()()()()()だ。


 彼女が家を放逐された事はすっかり知られていて、今まで佐奈にメリットを感じて近付いていた男達はいっせいにソッポを向いた様だ。


佐奈はスマホのアドレス帳をスクロールしてゆく。


これはと思う男にはもう全員声を掛けた。たった一人の例外を残して……


古市 燈真(ふるいち とうま)


その名前をタップしそうになった指を止めて佐奈は軽くため息をついた。


「“百人斬り”をショーバイにしなきゃダメかな……」



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 「あれだけご当主が激高なさったのは見たことが無い。佐奈様……いや、佐奈がこの家に戻って来る事は二度とないだろう」家人達のひそひそ話をかい潜って母・和香子の部屋のドアをノックする妃苺。 

あまりに返事が無いのでそっとドアを開け中の様子を伺ってみると母は両手で顔を覆って忍び泣いている。


「お母様!!」

妃苺が寄り縋ると和香子は涙ながらに娘に謝った。

「本当にごめんなさい、あなたを佐奈を叩く言い訳にしてしまって」


「いいえ、あそこでお母様が割って入らなければ、ああでもなさらなければ、お父様は収まりが付かなかったでしょう。たけどお姉様は……」


和香子は両の目にハンカチを押し当ててから顔を上げた。


「あの子の事だから実際にやってみたのでしょう。ただそれは皇様のあなたへの想いを確かめる為にした事、そしてその確信が持てたからこそ完全に自分は、この夷隅の家から身を引こうと決意をしたのでしょう」


妃苺の顔にもみるみるうちに悲しみが拡がって行く。


「お母様、それって!!」


「妃苺は覚えているかしら……私達がまだ“日陰の身”だった頃、幼いあなたの手を引いて市民球場へリトルリーグの試合を見に行ったのを……佐奈はただ一人の女の子だったのにピッチャーで……相手チームの子達をみんな三振で打ち取っていた。 そう、まるでお日様を背負っているようにキラキラと輝いていた。それが……あの子のお母様が追われ私達がお屋敷に来た時には、すっかり光を失ってしまって……私達に随分と辛く当たってきたわね」


「いいえ、お母様! お姉様は家ではいつもあんな風でしたけれど、外ではとてもとても優しかった」


「知っています。あの子は聡いから……この家の“負”の部分を自分一人で全部しょい込み“悪役”となって、私達をこの家に受け入れさせて、あなたをこの家の正当な跡継ぎとして揺るぎないものにしたのです。『自分こそが“不義の子”』と思い込んで。

でも……あの子は嫌がるのかもしれないけれど、あの子とあなたの耳の形はそっくりで、しかもお父様とも似ているから……『ああふたりは姉妹なんだ』と思ったものよ。

それにね、あの子がグレたフリをしていろんなものを投げ付けた時も決して人に当てたり大切な物を壊したりせず、自分の物ばかり壊していたわ」


そして和香子は妃苺を抱きしめ大きくため息をついた。


「きっとあの子が意固地になって積み重ねてしまった“ふしだら”も同じ事なのでしょう。全ては私達を思うが故の……」


「そんな!! それじゃ私達はいったいどうすれば??!!」


「妃苺! 今、携帯電話はお持ち?」


「はい」


「これから言う番号に電話を掛けてもらえるかしら」



妃苺は番号をタップしたスマホを母に手渡した。



--------------------------------------------------------------------


 和香子からの電話の途中で“燈真”は駆け出していた。


電話を切ってからは涙が止まらなくて、走りながら涙を拭った。


 きっかけは和香子から懇願されたアルバイトだった。彼の母と和香子は親友で……そのよしみで“密かに” 佐奈のアッシーになるよう依頼されたのだ。


「尻軽女のお守か!」

と最初は思っていた。


けれどもカノジョ・佐奈が、その“行為”のたびにもだえ苦しむのを……

迎えに行った先から乗せて帰る車の後部座席でのありさまがバックミラーに映るたびに……胸が締め付けられた。


こんなバイトなんか止めてやる!!


何度も思ったが止められず、佐奈の顔を見るたびにかなわぬ想いに彼も胸を焦がし悶え苦しんだ。


その“真意”を知った今、彼は猟犬の様に佐奈を求めて駆け続けた。



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 あまりにもあっけなく“成約”できた。

画面の左上の時計を確認すると取り付けた“約束“まで、まだ1時間以上ある。


念のために早めにアポイント場所へ行って様子を確かめよう。

スマホをテーブルに置いて紙コップのコーヒーに手を伸ばしたその瞬間、サッ!とスマホを奪われた。


「あっ!!」


まだロック状態になっていなかったスマホの中身は“奪った男”に易々と見られてしまった。


「古市クン!」


佐奈の声は震える。


「見たの?」


「削除した」


「勝手な事しないで!!」


「困ってるならオレを使えばいいだろ?!」


「あなたには関係ない!!」


「ある!!大ありだ!」


「どうしてそんな事を言うの? ただのアッシーのくせに!」


「アッシーはもう辞めた」


「じゃあ あなたの価値はもうないわ! スマホ返して!!」


「返すのには条件がある」


「『清楚になれ』とか言ってもムダよ!」


「もっと簡単な事だ!」


「何よ?!」


「結婚してくれ!!」


「はああああ????」



「心が弱っているこのタイミングでこんなこと事を言って来る男!!ズルくない??」


呟く言葉がそのままポコン!と浮き上がって来るみたいな勢いで、心の中を血が通って来る。


ああこれが

きっと

“恋”ってものの

入口なんだ。


いつしか燈真の胸を涙で濡らしながら

佐奈は初めて知る心地良い幸せに身を預けていた。






自分としては“イセコイ”っぽいテイストを目指しました。




ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!

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