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第94話 闇雷

ご評価、ご感想よろしくお願いします!



 周囲から水の鞭が、水の槍が襲い掛かってくる。

 少しばかり動かしづらい身体を気合いで動かし、ナハトも使って全て避けていく。


 海竜は水の中を泳ぎ回り水を操って攻撃し、時折飛び出してきては俺に直接攻撃してくる。

 その時が俺の攻撃の機会で、擦れ違い様にナハトで斬り付けるが、鱗を傷付けるだけで大きな一撃を与えられない。もっとナハトの力を高めなければ海竜を打ち倒せない。


 それに、力を奪われたからか、右腕の呪いに対する耐性が下がってしまった気がする。魔力を練り上げる度に右腕が激しく痛み出す。痛みの範囲が広がっているように思える。


 どうやら長期戦は避けなければならないようだ。一刻も早く海竜を撃退する策を見出して実行に移さなければならない。


 海竜は基本的に水の中に姿を隠している。その状態ではナハトが届かない。何とかして此方側に引き摺り出さなければ勝機は無い。


 どうする? 手持ちの魔法道具は無し。何か使える魔法は――。


 海竜が再び水を操り、槍にして射出してきた。ナハトを振るい、水の槍を叩き落とす。攻撃速度は大したことない。容易に見切れるが、このまま続けばいずれ体力の消耗で捌けなくなる。

 それに、この空間がいつまで持つのか分からない。海竜の攻撃で水没される可能性だってある。その前に倒すか地上に出なければ。


「くそっ、いい加減にこっちに来やがれ!」


 魔力を練り上げ、雷属性へと変換する。


「我、大いなる雷を撃ち放つ者なり――ラージド・ライトニング!」


 ナハトを水の壁に突き刺し、剣身から中位の雷魔法を放つ。雷が広範囲に渡り広がり、水中を泳いでいる海竜を呑み込む。


 海竜は水属性だ。雷属性の魔法なら通りやすい。中にはその性質を利用して雷を取り込む奴もいるが、こいつはそうじゃないと願いたい。


『キシャアアアア!』


 願いは通じたのか、雷撃を喰らった海竜は水中で苦しみだした。


「もういっちょォ!」


 再び雷撃を放つ。雷が湖に行き渡り、海竜を焼き付ける。

 海竜は堪らず水中から此方側に飛び出してきた。巨大な身体で空間を埋める。

 ナハトを水の壁から抜き、雷撃を纏ったまま海竜の身体を斬り付ける。今度は威力も上がっており、海竜の鱗を斬り裂くことができた。赤い血が噴き出し、海竜が悲鳴を上げる。


 だがその傷はすぐに塞がり始める。鱗も再生し、完全に傷が無くなってしまった。


「マジかよ……!?」


 海竜の尾が俺を殴り付ける。モロに喰らった俺はそのまま水の壁を突き抜けて水中に放り出されてしまう。


 マズ――!?


 海竜が動き出し、水中に躍り出る。そのまま水中に漂っている俺に向かって泳ぎだし、大きな口を開いた。


 俺を丸呑みするつもりか!? 巫山戯んじゃねぇ!


 ナハトを縦にして前に突き出し、口が閉じないように受け止める。俺は海竜の口に下半身を突っ込んだまま水中を引きずり回される。


 水中では呪文を唱えられない。無言魔法じゃ中位の魔法を放っても威力が下がってしまう。

 だがやらなければこのまま抜け出させず死んでしまう。


 海竜の喉奥に向かって左手を突き出し、無言魔法で火属性の魔法を放つ。ただの火では水で消されてしまうが、それが爆発系なら話は別だ。


 海竜の喉奥で小規模の爆発を連続で引き起こし、海竜の体内を傷付けていく。


 どうだ!? 固い鱗で身体を覆っていても、体内までは固くないだろ!


『キシャアアア!』


 ダメージを与えられているのか海竜の動きが激しくなり、もの凄い速度で上昇していく。

 そのまま海竜は水面を飛び出し、大きく水面を跳ねた。


「ぶはっ――!?」


 俺は今がチャンスだと大きく呼吸を行い、海竜の口を蹴って口から飛び出す。そのまま落下し、水面に出ている神殿部分に着地する。


 海竜は水中に潜り、神殿の周囲を泳ぎ回る。


 思いも寄らなかった方法で水没の心配は無くなった。地上に出られれば、此方の勝機も飛躍的に上がる。

 体力、魔力共に健在。右腕は相変わらず痛いが、まだ発作ほど痛い訳じゃない。


 やれる、戦況は良い方向へと向かっている。


 海竜は俺の周りを旋回しながら様子を窺っているのか、攻撃してくる素振りをまだ見せない。


 なら先制攻撃を決めさせてもらう。

 左手を湖に突っ込み、再び雷撃を放つ。


「我、大いなる雷を撃ち放つ者なり――ラージド・ライトニング!」


 雷撃は湖を駆け抜け、海竜を呑み込む。海竜は水面から身体を出し、水を操って反撃してくる。水が鞭のように動き、俺を叩こうとする。水の鞭をかわしていき、次の魔法の準備に入る。


 水面に浮かぶ神殿の通路を走りながらナハトの切っ先を湖に入れ、今度は氷属性の魔力を用意する。


「我、広き大地を凍て付かせる者なり――ラージド・アイスバーン!」


 ナハトが触れている部分から広範囲に渡り湖の水面が凍り付いていく。氷は海竜の場所まで侵食していき、水から身体を出している海竜の動きを氷で封じ込める。


 俺は氷の上に乗り出し、海竜へ向かって走り出す。


「ナハト!」


 ナハトに雷属性の魔力を喰わせ、雷を纏わせる。雷神の力を取り込んでからは黒色だったが、今は以前と同じ青色に戻っている。


『キシャア!』

 海竜が口を大きく開ける。口の中から強大な水属性の魔力を感じる。

 そう思った直後、海竜の口から魔力が吐き出された。


 所謂、『ブレス』というやつだ。竜と名の付く種類なら殆どが持っているその種最強の技。


 雷を纏わせたナハトを振り、海竜のブレスを斬り付ける。ブレスを受け止めることには成功したが、その勢いに押されて吹き飛ばされてしまう。氷の上を何度も身体が跳ね、全身打撲を負いながらなんとか体勢を整える。


 海竜はブレスで自身の周囲の氷を割っていき、水中へと潜ってしまった。


「……!」


 俺はすぐさま氷の上を走り、この場からの脱出を試みる。


 何も海竜を此処で倒さなくてもいい。地上に出られたのなら、このまま逃げてしまえば海竜は追ってこられない。


 俺が逃げ出そうとしているのを察知したのか、湖の氷をブレスで割りながら背後から迫ってくる。


 もう少しで大地へと逃げ出せるところで、正面の氷の下からブレスが飛び出してきた。海竜に追い抜かれ、海竜が氷の下から身体を出す。海竜はそのままブレスと水を操って俺に攻撃を仕掛ける。跳び退いて攻撃を避け、海竜から距離を取る。


『キシャアアアア!』

「シャアシャア喧しい! 退けよ!」


 直後、海竜から凄まじい魔力を感じた。氷が割れ、その下から水の柱が立つ。


 ナハトを構えて海竜と睨み合っていると、海竜が水中へ潜った。


 そのすぐ後、潜った場所から海竜が飛び出し、全身を外へと出した。そのまま海竜は落ちることなく昇り続け、空を泳ぎだした。


「……飛ぶのは反則だろ」

『キシャアアアアアアア――!』


 これで逃げるという選択肢は完全に無くなった。逃げたとしても空を飛ぶ海竜は何処までも追ってくる。此処でケリをつけなければならない。


 ゴクリと唾を飲み込むと、俺の足下の氷が割れる。水柱が俺を押し上げ、俺は宙に放たれる。


 俺だけじゃない――水面に飛び出していた神殿や水中に沈んでいた神殿の瓦礫までも宙に放たれ、何かの魔法が働いているのかそのまま空中に固定される。


 俺は大きな瓦礫を足場に着地し、体勢を整える。

 海竜は空を泳ぎながら、自身の周りに水を渦巻かせる。


 成る程、第二回戦って訳か。


 ナハトを強く握り締め、瓦礫の上から飛び出す。近くの瓦礫へと飛び移り、また近くの瓦礫へと飛んで海竜へと近づく。海竜も水の槍を精製して俺に放ちながら近づいてくる。

 海竜と交差するその瞬間、俺は海竜に飛び移り、雷を纏ったナハトを海竜の身体に突き刺してしがみ付く。


「くお――!?」


 激しく揺れ動く海竜から振り払われないようにナハトを更に深く刺し込み、そのまま体内へ雷を流し込む。バチバチと海竜の身体を雷撃が走るが、威力が低いからか仕留めるまでに至らない。


 海竜は俺を振り払おうと身体を激しく動かし、堪らず俺はナハトを抜いて海竜から離れる。空中に浮遊している瓦礫の上に着地し、海竜を見据える。


 今度は海竜が全身に纏っている水を更に激しく渦巻かせ、俺に特攻をかましてきた。別の瓦礫へと飛び移り攻撃を避ける。海竜が再び特攻を仕掛け、俺はまた別の瓦礫へと飛び移る。


 すると今度は湖の水を操り、巨大な水の竜巻を作り上げる。俺が乗っている瓦礫だけではなく、他の瓦礫も竜巻に巻き込む。


 俺はナハトを瓦礫に突き刺し、振り払われないように耐える。小さな瓦礫が俺に襲い掛かり、その内の一つが額に直撃し、血が流れる。傷は塞がらず、血が止めどなく流れ続ける。


 やはり元の身体に戻ってしまってるようだ。だったら一撃でも海竜の攻撃を喰らってしまったら終わりだと思え。


 振り払われないように耐えていると、やがて竜巻は収まった。海竜が瓦礫にしがみ付いている俺を見付け、苛立ったように咆哮を上げる。


 このままチマチマと戦い続けても埒が明かない。何か一撃、それも海竜を仕留められるほと大きな一撃を叩き込まなければアレは倒せない。


 今の俺に、その一撃を放つ力はあるか……? 力を奪われた俺に、一人で奴を倒せる技を放てるのか……?


 ズキズキと疼く右腕に目が行く。


 ――――ある。あるじゃないか、奴を倒せる力の一端が此処に。


 だが危険な賭けだ。失敗すれば俺は確実に死ぬ。成功しても死ぬかもしれない。

 それでもやらなければ、どの道死ぬか……。なら、やるか。


 俺は覚悟を決め、雷属性の魔力を極限まで高めた。

 同時に、右腕を蝕む力を、抑え込んでいる呪いの力を自分で引き出す。


「ッ――!?」


 言葉にできない激痛が襲う。意識が持っていかれそうになり、白目をむきかける。

 だがそれに耐え、右腕でナハトを天に掲げる。


「我、雷神に――」


 そこまで口にしてハッと気が付く。


 俺は神と戦うことを決めた。その俺が魔法を使う為に神に名を告げたりするのはおかしい。

 今は使えても、その内使えなくなるかもしれない。


 そう考えたら、これから唱える呪文が馬鹿らしくなってしまった。


 だったら……あぁ、そうだな……少なくとも、ララを殺そうとしているような神じゃなく、別の神に頼るのも悪かねぇな。


 俺は即席で呪文を頭の中で組み立てる。


 奴は存在はしてるんだ、魔力だって存在しているし働いている。アーサーにだって使えるのなら、俺にだって使えるはずだ。


 俺は新たな呪文を口にする。


「我、闇神に告げる! 天に遍く全ての怒りを此処に招来せよ! 我が敵は汝の敵なり! 汝の敵は我が敵なり!」


 天に雷雲が立ち籠める。凄まじく恐ろしいほどの雷の魔力が雷雲から漏れ出している。


 海竜が雷雲に気付き、雷雲に向かってブレスを放つ。だがブレスは雷雲をすり抜けるだけで雷雲は掻き消されない。


 俺は更に右腕の呪いから湧き出る闇属性の魔力を掴み取り、練り上げている雷属性へと混ぜ込む。


 二つの属性を同時に使うのは身体に大きな負担を掛ける。それを混ぜて使うようなモノなら尚更だ。下手に扱えば身体が弾けてしまう。


 だがやれる……俺にはできる。根拠の無い自信が、俺にはある。


「我が闇雷(あんらい)によって我らが敵を滅ぼさん! 我が剣に宿れ! 闇神の剣! その名は魔剣――雷霆(らいてい)!」


 雷雲から強大な雷が雷鳴と共に放たれ、掲げているナハトへと落ちる。ナハトだけではなく俺自身も雷に打たれ、雷が駆け巡る。


 だが不思議と、身体には異常が発生しない。通常なら雷で焼け死んでいるはずだが、まるで身体に雷が宿ったように発雷している。


 そしてナハトと俺に宿った雷は漆黒に染まっている。雷属性の魔力と、俺の右腕にある闇の魔力が混ざり合い、闇雷へと変貌したのだ。


「喰らいやがれぇぇぇぇ!!」


 俺はナハトを上段に構え、そして力を解放しながら縦に振り下ろした。


 すると、集束された闇雷が海竜に向かって放たれる。その大きさは海竜を呑み込むほどであり、鼓膜を破るほど大きな雷鳴を轟かせて海竜に迫る。


 海竜はブレスを吐いて対抗しようとしたが、そのブレスごと闇雷は海竜を呑み込んだ。


「オオオオオオオッ!!」


 右腕の痛みが広がるが構わず力の解放を続けた。


 そして最後の一滴まで魔力を解き放つと、後には何も残らなかった。海竜は闇雷に呑まれて肉片すら残らなかったようだ。


 力を出し切った俺はフラつき、倒れるようにして瓦礫の上から落ちた。瓦礫も浮遊力を失い一緒に湖に落ちていく。湖に身体を打ち付け、俺はそのまま湖に沈んでいく。


 もう身体が動かない……意識も保てそうにない。

 くそ……せっかく勝ったのに……このまま死ぬのか……?


 薄れ行く意識の中、最後に見えたのは水の中に飛び込んでくる何かだった――。




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