第85話 光VS
立て続けの戦闘……書くのが難しい。
光の剣が俺の腹を貫く――。ただの魔力の塊の衝撃だったが故に打撲で済んだ。
ナハトを振り払い、魔力の斬撃を放つ。対抗して放たれた光の斬撃がそれを相殺し、新たに放たれた斬撃が俺に迫る。それを雷が弾き、風の刃が反撃する。
光は強烈な輝きを見せ、俺達を一度に吹き飛ばす。宙で体勢を整え、上手く着地する。
目の前にいる相手はたった一人。その一人に勇者二人と英雄一人は攻めあぐねていた。
「どうした三人とも!? その程度か!?」
「何なのアーサーの力……!? 昔と違うわ!」
「俺の風じゃ、あの光は突破できそうもありません……!」
「くそっ、分かってたことだが……!」
アーサーの力は予想を遙かに超えていた。前回より光の力が格段に上がっている。まるでエリシア達勇者の力よりも上の力だ。
口端から流れる血を拭い、ナハトを構え直す。
アーサーは蒼い剣を床に突き刺し、ホール全体に力を浸透させた。
「まだまだ終わりにはしないぞ! 兄さん!」
「――来いよ、アーサー!」
俺とアーサーは駆け出し、互いの剣を打ち付けた――。
★
空を飛んで直接城に降り立った。
空に対する妨害は無く、何の問題も無く辿り着けた。
ローマンダルフ王国の城内には水が沢山ある。水路が入り組んでいたり、噴水があったりして随分と涼しげな印象を受ける。
俺達は城の屋上のテラスに降り立ち、そこから街を見下ろす。街にはまだゴーレムの姿があり、俺達を探して動き回っている。ララ達の姿は既に見えず、何とか地下へと向かえたのだろう。
「カイはいるのかしら?」
「……どうだろうな。ただ……アイツはいるな」
城の中からは一つの魔力を感じる。光――つまりはアーサーが此処にいる。
だがどういうことだ……? 以前より光の力が増している……ような気がする。
それにこれは……研ぎ澄まされているというよりかは、荒ぶっている? 何だか嫌な感じだ。
俺達が此処に来たことも既に察知しているだろう。
だからこそ魔力の気配を消さずに俺達を挑発している。
此処に来い――此処にいるぞ、と。
背中に背負っているナハトと、体内にある光の力が震えている。
「兄さん、これからどうするつもりで?」
「……お望み通り、中に突入してやろう」
「……兄弟喧嘩は何年ぶりでしょうね?」
ユーリは首をコキコキと鳴らし、ギラついた笑みを浮かべる。
俺達にとって兄弟喧嘩というのは、力をぶつけ合える絶好の機会だ。
勇者というのは大きな力を持っているが、全力で戦える相手はいない。力を手にしてから遠慮無くぶっ放せるのは兄弟だけ。
幼い頃、エリシア達はそれでよく喧嘩という名の遊びをしていた。
ホント、何年ぶりだろうか……勇者と勇者が戦うのは。
あの頃は最終的に親父が皆を止めていたが、今回からはいない。その役目を負うとすればそれは……俺だろう。長兄として、最後の一線を越えさせないように全力を出さなければならない。
――違うな。それじゃまるで戦いをエリシア達に任せるような言い方だ。これは兄弟全員の問題だ。長兄である俺が一番戦わなきゃならない。
「行くぞ、エリシア、ユーリ。弟を叱りに行こう」
テラスを歩き、城内へと突入する。城内からはアーサーの魔力の他に、雑魚の怪物の魔力も感じる。それ程驚異的では無い。アーサーとの戦いの肩慣らしには丁度良い。
怪物を蹴散らしながら城の中を進み、アーサーの魔力を感じる場所へ向かう。
辿り着いた場所は巨大なホールだった。一番奥の壁は分厚い窓ガラスで構成され、その前に玉座が置かれている。
その玉座に――アーサーが座っていた。
アーサーは退屈そうに剣を床に突き立て、クルクルと回しながら俺達が来るのを待っていたようだ。
「アーサー……」
「やっと来たんだ、兄さん。それに姉さんも……ユーリも久しぶりだね」
俺達とは目を合わさず、そう静かに口にする。
「アーサー……カイは何処だ?」
「……カイ兄さんなら此処にはいないよ。もう用は済んだから」
「カイに何をした?」
アーサーは剣を弄るのを止め、玉座から立ち上がってやっと俺達を見た。
いつものように澄ました顔をして、その胸の内を悟られないように感情を隠している。
「安心してよ。カイ兄さんは生きてる。尤も……時間の問題だろうけど」
「何だと……?」
「それより兄さん……今度こそ父さんの依り代になってよ」
アーサーが蒼い剣を構え、光の力を高めた。どうやら俺達と話をする気は無いようだ。
それならそれで話は早い。アーサーを懲らしめてからカイの居場所を聞き出せばいい。
もとよりこっちは話し合いで済むとは考えていなかった。初めから戦うつもりで此処に来たんだ。ごちゃごちゃと話す面倒が無くて寧ろ助かる。
俺はナハトを抜き、ガントレットを出現させる。エリシアもカタナを一振り抜き、ユーリはダガーを両手に構える。
「ねぇ、アーサー。今ならまだお説教で済ませてあげる」
「姉さん、それはこっちの台詞だよ。一度でも僕に勝てたことある?」
「アーサー、君は相変わらず兄姉の話を聞かないね」
「ユーリ、僕はアンタを兄と思ったことは一度も無い。僕の兄はただ一人、ルドガー兄さんだけだ」
ナハトを握り締め、魔力を高める。
「泣いても知らんぞ、アーサー……行くぞ!」
俺達は同時にアーサーへと向かった。
一番手はエリシアだ。雷速でアーサーに斬りかかり、アーサーはカタナを剣で受け止める。何度か刃を切り結び、その間に風に乗ったユーリがアーサーの横から斬りかかる。アーサーは左手に光の剣を展開し、ユーリのダガーを弾いていく。
「アーサー!」
最後に俺が斬りかかると、アーサーは回転するようにして両手の剣を振るい、エリシアとユーリを振り払う。そして俺が振り下ろしたナハトを両手の剣で受け止めた。
「あの時は兄さんの強靱な魂が邪魔をした。今度はそれさえもさせない!」
「もう馬鹿な真似は止せ! 親父は死んだんだ! 蘇りはしない!」
「うるさい!」
ナハトが上に弾かれ、アーサーの剣が振るわれる。ナハトで剣を捌き、アーサーの視線を俺に釘付けにする。
あの時と違ってこの場にいるのは俺だけじゃない。エリシアとユーリがいる。
エリシアがアーサーの後ろから斬りかかり、アーサーは光の剣でエリシアに対応する。
そしてユーリがアーサーの隙を狙って斬りかかる。
だがアーサーはユーリに目もくれず、周囲に光の槍を展開してそれをユーリに射出する。
ユーリは風の障壁で槍を逸らし、直撃を免れる。
光の槍は俺とエリシアにも降り注ぎ、後ろに退きながら槍を叩き落としていく。
「光龍槍!」
アーサーの剣から光が放たれ、それはドラゴンの顎へと変化し、槍となって向かってくる。
ナハトの刃で受け止め、槍を両断する。
「タービュランス!」
ユーリがアーサーの足下に風を渦巻かせ、鋭い鎌鼬の竜巻を発生させた。アーサーはその竜巻を中から光の剣で両断し、ユーリ目掛けて光の斬撃を放つ。
「烈風刃!」
ユーリも風の斬撃を飛ばし、光の斬撃を相殺する。
「ユーリ、アンタじゃ僕には勝てない。それに外ならまだしも、室内じゃ力が制限されるだろう」
「ま、確かに。なら外へ行ってくれるかい?」
「行かせてみろよ」
アーサーが剣を背後に振り払う。すると剣が雷を弾く。
エリシアがアーサーに向かって紫電を飛ばしたのだ。
「城を消し飛ばしても良いのよ、こっちは」
「ならやってみてよ姉さん。勇者と勇者が戦うんだ。城の一つや二つぐらい、消えるものさ」
「調子に乗って……! そんな子に育てた覚えは無いわよ!」
エリシアが雷をホールに召喚し、アーサーに降り注ぐ。アーサーは雷の動きが見えているのか、光の速さで全ての雷をかわしていく。そうしてエリシアに近付き、剣を振り下ろす。エリシアはカタナで受け止め、競り合いになる。
「どうしてもう一本を抜かない?」
「姉心よ……! 弟に手加減するのは当然じゃない……!」
「それが命取りになるんだよ、姉さん」
「さぁ、それはどうかしら……!」
「アーサー!」
アーサーが動いていない内に近付き、俺はナハトを振るう。アーサーはエリシアを蹴り飛ばし、俺に身体を向けて剣でナハトを防いだ。
くそっ、三人がかりなのにどうして一撃を与えられない! アーサーの反応速度が速すぎる上に戦闘技術が高い! 流石は最強とまで言われただけはある!
「兄さん! 姉さんとユーリを連れてきたら僕に勝てると思ったのかい!? なら大間違いだ! 勇者の力は室内での対人戦には不向きだ! 力を制限してるようじゃ、僕に一生掛かっても一撃は入れられないよ!」
「それはお前だって!」
「そうだね! でも姉さん達よりはマシさ!」
光が氾濫する。アーサーの全身を光が纏わり付き、アーサーの魔力が増大する。
マズい――そう思った時には、俺は吹き飛ばされていた。
「ディバインドライブ」
アーサーの剣から強烈な光の斬撃が放たれる。俺は吹き飛ばされながらもナハトを振り、斬撃を受け止める。直後、激しい爆発が俺を呑み込み、俺は更に吹き飛ばされてしまう。
「ルドガー!?」
「兄さん!?」
「ディバインソード」
アーサーは左手から巨大な光の剣を出現させ、ユーリへと振り下ろした。
ユーリはかわすことができず、風を纏わせたダガーで剣を受け止める。
「ぐっ!?」
だが重すぎる一撃に耐えきることができず、剣を逸らすことで直撃だけは免れたものの、床に剣が叩き付けられた際に生じた衝撃破に巻き込まれてしまう。
「アーサー!」
エリシアが雷撃を撒き散らしながらアーサーに斬りかかる。
アーサーは雷撃を纏っている光で弾き返し、剣を振り払う。振り払うと同時に光の衝撃波を放ち、エリシアを吹き飛ばす。
そしてアーサーは剣を床に突き刺し、ホール全体に光の魔力を充満させた。視界いっぱいに白い光が立ち籠め始め、俺はアーサーが何をする気なのかを察した。
「耐えてみせてよ――ホーリーノヴァ」
直後、光が大爆発を起こした――。




