第54話 束の間の講義
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ララの好みは年上の男性。
軍に黒魔道士達を引き渡し、俺達は取っている宿へと戻った。
何か新たな情報が判明すれば軍から連絡してくるだろう。その間俺達は休息を取る。
「なぁ、センセ」
「ん?」
休んでいると、本を読んでいたララが話しかけてきた。
「人族の軍は、騎士とは違うのか?」
「騎士? 何でまた?」
そう尋ねるとララは読んでいる本を指した。その本は小説で、騎士が登場する物語だ。
そういや、ララに軍の形態を教えたことは無かったな。
良い暇潰しになるかもと、ララに一つ講義することにした。リインも剣の手入れをしながら聞き耳を立てている。
「かなり前、そうだな……ざっと五百年前は騎士と呼ばれた兵士はいた。馬に乗り、王に忠誠を誓った兵士が始まりだと言われてる」
「五百……まだ人族と魔族が戦争をしていない時代か」
「小競り合いはあったけどな。ただ、騎士は誰しもがなれるものじゃなかった。魔法力が高く、高貴な血筋であることが前提だった。クソ食らえだけどな。当時の騎士には二通りあって、よく言う騎士道に殉じて王と民達の為に剣を振るった者、地位に物言わせて傲慢の限りを尽くした者。後者であるほど、いざという時に役に立たなかった。やがて魔族との戦争が始まり、騎士の数が足りなくなった。そこで形態を変えて、魔法力が無くとも武器を手に取り戦える者を集めた。それが今の軍の始まり。それらには騎士のような血統主義も無く、あるのはただ国や家族を想い、兵士として戦う覚悟だけ」
だから今の時代に騎士という存在は殆ど無い。血統主義なんてモノも、王族以外に縁が無い。
騎士は廃れた。その必要性を失い、形を変えて存在している。
昔は騎士に憧れ、騎士こそが男の本懐、女は騎士に娶られるのが幸せ。そう言う時代もあった。
今じゃ、男よりも女のほうが強い戦士も多い。時代は変わったのだ。それが良かったのか悪かったのかはさて置き、誰もが戦える時代になった。
そう――例え小さな子供でも、必要があるのなら血みどろになって戦える時代に。
「じゃあ、騎士はもう居ないのか?」
「いや……これから向かうアスガルだけは騎士がいる。とは言っても、数も少ないし軍人より偉い立場の人ってだけだ」
「ふーん……夢が無いな」
ララが呟いた。
「夢? 何だ? 白馬に乗った騎士様とかに憧れてるのか?」
「別に……それを言うなら私の騎士はセンセだし。白馬ならルートがいるし」
「お、おう……」
何だ……何か照れるな。別に騎士に憧れてる訳じゃないけど、ララにそう思われるのは悪くない。
俺が少し照れていると、リインが「え? え?」と俺とララを交互に見る。
「い、いけませんよ聖女様!? こ、こんな男にそのような気を起こしては!」
「だから私を聖女様と……いや待て。何でそんな話になる?」
「貴方も! こ、子供に対して何鼻の下伸ばしてるの!?」
「俺が何時伸ばしたよ? 落ち着け、他の部屋に迷惑だ」
大声で叫くリインを宥め、リインは顔を赤くしてベッドの脇に座る。
どうもリインは俺をずっと誤解しているようだ。たぶん、アイリーン先生の手紙の内容の所為なんだろうけど、いったいどんな風に俺のことが伝わってるんだ?
「ま、まったく……大人と子供なんだから線引きと言うものを――」
「私は子供じゃ無い。もう十六だ。身体って子供が産めるし、別に十六で結婚するのは珍しい話じゃないだろ?」
「やっぱり貴方と聖女様ってそう言う関係!?」
「いや、そうじゃなくてだな……」
「許せない……! 姉さんに手を出して置きながら聖女様と……!」
もう勝手にしろ……。
一人暴走を始めるリインの相手を片手間でしながら、俺も俺で持ってきた本を読んで時間を潰した。
やがて時間が過ぎ、リインが船をこぎ出した頃、部屋の窓際に一羽の梟が止まった。
明らかに野生の梟ではなく、飼い慣らされた梟だ。きっとアーゼルの梟だろう。
窓を開けて梟を腕に乗せると、梟の足に括り付けられている文を取った。
梟は役目を終えたのか、夜空へと飛んで消えていく。
受け取った文を広げ、中身を確認する。そこには捕らえた黒魔道士から得た情報が記されていた。
「センセ?」
「……拠点の場所が割れた。これから攻めに行く」
「じゃあ私も行く。おい、起きろ牛女」
「ふがっ――!? 寝てないわ! ええ、寝てませんとも!」
「さっさと顔を洗って目を覚ませ。ララの側を離れるな」
コートを着込み、ナハトを背負う。宿を出てルートとフィンに乗り込む。
これから俺達はハーウィルの軍と一緒にクレセントの拠点に乗り込む。
正直、気が重いと言えば重い。これから戦う相手は人族だ。魔族ではない。理由がどうあれ、人族と人族が殺し合う。同族の殺し合いだ。
――ララを人族の殺し合いに参加させるのか?
頭の中で声が響く。
――ララは守るべき存在だ。大切な子だ。そんな子に醜い戦いを見せるのか?
「……ララ。やっぱりお前は――」
「駄目、私も戦う」
「だがこれから行うのは人族同士の――」
「センセが戦うなら私も戦う。この先、ずっと守られてる訳にはいかないから」
「……分かった」
「でも契約は果たせよ? センセはずっと私を守るんだ」
「当然」
俺は軍との合流場所へと急いだ。
迷いはある。その迷いを晴らす為に、俺は剣を振るおう。
ララは絶対に守りぬく。それが俺の役目だ。
軍との待ち合わせ場所はクレセントの拠点付近だ。まだ攻め入ることを悟られてはいけない為、少し離れた位置で潜んでいる。
軍を指揮しているのはアーゼルのようで、待ち合わせ場所の彼女がいた。
「お待ちしておりました」
「状況は?」
「何も変わらず営業中です」
拠点はハーウィルの何処にでもあるような酒場だ。その酒場は朝方まで営業している店で、その店の地下が拠点の入り口らしい。酒場の授業員も黒魔道士であり、今いる客も関係者のようだ。
「作戦は?」
「一気に突撃し現場を押さえます」
「なら俺達が切欠を作ろう。俺達は軍人じゃない。怪しまれるが、懐まで入れる」
「ではお願いします」
背中のナハトをポーチにしまう。これから行われるのは殺し合いだが、それはあくまでも軍の仕事だ。俺は可能な限り人族を殺しはしない。人族相手なら素手でも俺の怪力なら充分だ。
ララとリインを連れて酒場へと近付く。入り口までは問題無く近寄れ、そのまま中へと入る。
中に入ると客も従業員も一斉に此方を見て黙り込む。
今の俺達は見様によっては旅人が夜中に空いている酒場へと足を運んできたように見えるだろう。
カウンター席に三人で座り、酒二つとミルク一つを頼む。
「マスター、酒二つとミルクを一つ」
「……」
マスターは訝しんだ目で見つめてくるが、黙って酒『三つ』を出してカウンターに置いた。
「此処は酒場だ。酒しか出さん」
俺達はジョッキを手に持ち、一口飲む。ララはまだ子供だが、魔族の身体ならこの程度の酒は問題無い。
その時、俺達の背後に誰かが立つのを察した。俺とリインはそろりと後ろを振り向いて確認する。
――大男だった。それも身長二メートル以上ある大男だ。
俺とリインはそろりと前に向き直る。
「大きいわね……」
「デカいな……」
酒をもう一口飲む。
「女連れで旅か? 此処は乳臭いガキ共を連れてくる場所じゃないぞ」
大男が低い声でそう言う。
「それとも……俺達に女を提供しに来たのかァ?」
大男がララのフードに手を伸ばした。
開戦の合図は今、出された――。
俺とリインは振り返って大男の顔面を殴り飛ばし、更に近くにいた男達を拳と蹴りで沈めていく。
「て、テメェら!?」
「ララ、今だ」
「光の精霊よ来たれ――ルク・ド・エグレージェズ!」
ララの杖先から強い光が酒場を包み込み、男達の目を潰した。
直後、外から軍人達が突入してきた。
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アイリーン先生は毎日勝負下着である。




