剣と魔導のロウリュフオネ
「くっ……殺せ!」
「まさか、シュトルツ公国随一の、それも他国にまで名を轟かせる剣聖様がこうも簡単に懇願してくるなんて。てっきりもっと遊べるものだと思っていたよ」
「ちぃ……っ! 魔導師風情にこの私がここまで……なんたる屈辱か!!」
この世界では魔導よりも剣技の方が優位とされる。それは魔導を放つためには決まった詠唱が必要であり、詠唱は短いものでも三節は唱えなければならないからだ。そのため、詠唱の時間はタイムロスとなり杖を構えている間に剣を持つ者が間合いを詰め、あとはもう敵の首を跳ねるだけである。
「そなたの帝国では剣士に対抗すべく、魔導開発が盛んであることは知っていたが……。あの鉄クズを使わずしてここまでやるとは……貴様は一体何者なんだ」
「……せっかくの搭乗型魔導兵器を鉄クズ呼ばわりするとは恐れ入る。確かに、君がいるこの場所へ派遣した兵器たちはこぞって一刀両断され、今となっては鉄クズだものな?」
「ふん。その物言いから察するに……まさか貴様が開発者だと言うのではあるまいな」
「あぁ~それならそうだよ? 僕は少しばかり魔導そのものの開発が得意でね、無詠唱の魔導までとうとう開発にこぎ着けたってわけなんだ」
「くそっ、だから間合いに到達する前に魔導が発動していたのか……それは私の剣がお前に届かないわけだ」
「ま、そういうことだ。でもなんだか勿体ないなぁ……君のことをこんなところで殺してしまうのは」
「貴様……ッ! 敵である私に情けをかけるつもりではあるまいな? 敵の情けは剣士の恥だ! 早く! 今すぐに殺せ! さぁっ、今すぐにこの私を殺してくれぇっ!!」
****
――時は遡ること数時間前。アロガント大帝国はシュトルツ公国への侵略戦争を概ね完遂させ、公国最後の残党が潜伏しているという中立国家近くの砂漠地帯へと魔導兵器を向かわせていた。だが先行する魔導兵器部隊はものの見事に全滅してしまう。それもそのはず、シュトルツ公国の最後の残党の中には魔導をも切り伏せてしまうという世界へ名を轟かせる剣聖、シュネーヴァイスが居たのだ。シュネーヴァイスは向かってきた魔導兵器たちをたった一人でものの見事に殲滅してしまった。
アロガント大帝国はこの未曾有の事態に対し、魔導兵器開発者にして魔導の達人であるベーセヴィヒトを向かわせたのであった。
「……ふん、増援が来たと思えば魔導師一人か。アロガント大帝国の連中は私を舐めているのか?」
砂漠に一人、剣を突き刺しては仁王立ちしていたのはシュトルツ小国が誇る剣聖、シュネーヴァイスその人である。シュネーヴァイスの周りには綺麗に真っ二つにされた魔導兵器の山が形成されている。
「いやいや、君もひとりだろうに」
ベーセヴィヒトは殺気立っている剣聖を前に、腑抜けた言葉を吐いた。
「「「――そうか。なら、一瞬で終わらせてやるッ!」」」
――閃光。ベーセヴィヒトその言葉がシュネーヴァイスの怒りを買ったのか、シュネーヴァイスはコンマ何秒かという速度で剣を構えベーセヴィヒトの喉元に剣先を突きつける。それはまさに閃光そのものであり、目視で追うことは不可能だ。……なのだが、そのシュネーヴァイスの剣戟はまるで当たることがなかった。
「……んなっ!?」
シュネーヴァイスの構えた剣は空を切り、ベーセヴィヒトの魔導を発動したのか気付いた頃にはシュネーヴァイスが自身の背後へと移動していたのだ。
「ふむ……なるほどね、確かにこれは剣聖だね」
「……貴様、今何をした」
「何って、避けた。それだけ」
「有り得ない。この私の剣技を避けただと? 一体どういうマジックを使ったらそうなる」
「あ~……でもアレだ、避けきれては無かったかな。ほらこれを見て」
ベーセヴィヒトはそう言うと自身の頬を指さす。そこには確かに一本のかすり傷が入っている。
「貴様、たかがそんな切り傷如きで……私をからかっているな?」
「まさか、そんなつもりはないよ」
「……帝国ではもう、今のような瞬間移動の魔導でさえ完成させているのか」
「いや~無理無理。無理だよアレ。試しては見たんだけどアレさ、魔導の途中で時空の狭間かなにかに引っかかちゃってさ……移動する前に身体がどっかに消え失せちゃうんだよ」
「ではなぜ、私の剣技を避けれたのだッ!」
シュネーヴァイスは自身の初撃をいとも簡単に躱されてしまい、その悔しさ故かベーセヴィヒトに対し次から次へと目に見えない速さの剣戟を繰り出していく。
「ちょっ、まっ、危ないじゃん……っ」
それでもやはり、ベーセヴィヒトには届かない。
「どうして……どうしてなのだ……」
「まあ無理もないよね。この世界では魔導よりも剣技の方が優位とされるから、剣が当たらない人間を前にしたら誰だってそうなるよ」
ベーセヴィヒトにはこれまでの魔導開発の積み重ねにより、自身の魔導には絶対的な自信があった。そしてシュネーヴァイスという剣聖でさえ、自身に剣を突き刺すことが出来ないという事実に喜びを感じられずにはいられなかった。
「そうだね……このまま一方的にやるのはつまらないし、答え合わせをしよう。これは剣技に使用したりする、君がさっき使っていたような瞬歩に移動速度上昇の魔導を掛け合わせたものだよ。だから一見すると瞬間移動しているように見えるのさ。一応これでも僕、元々剣士志望だったんだからね?」
「元々剣士志望か……貴様、警戒を怠ったな」
シュネーヴァイスはベーセヴィヒトが自慢げに種明かしをしていた隙を突いて、その言葉の通り瞬歩の動きに対して速度上昇の魔導を掛け合わせ、一瞬のうちにベーセヴィヒトに接近してはいとも簡単に一太刀お見舞いした。
「がはっ……」
「これでおあいこだな? 散々私のことをからかってくれたものな」
「畜生……でも……なぜ……?」
「ふん。その台詞、先ほどの私のデジャヴか? ……簡単な話だ。私は剣士だが、剣技には魔導を応用しているのだ。自身に付与する魔導の心得は魔導師ほどにはないが、普段、剣に対し使っていた速度上昇魔導を自身にかけてみただけだ」
「土壇場で……それを思いつく戦闘センス。流石は剣聖というところか……だがッ!」
ベーセヴィヒトは自身の左肩から腰部まで、斜めに喰らった太刀傷からダラダラと噴出していた血潮を魔導でニードル状にして、凝固させていく。それをシュネーヴァイス目掛けて容易く射出させた。
「なんの、こんなもの……っ!」
シュネーヴァイスは剣でそれを振り払おうとするのだが、無数の鋭い針は着ていた鎧さえも貫通し、身体へと次々に突き刺さっていく。
「……っは」
シュネーヴァイスは痛みに耐えきれず、地面に膝をついてしまう。ベーセヴィヒトもまたこの血潮凝固魔導、そして多量出血の反動で地面に膝をつく。二人が接敵してまだ大して時間が経過していないが、シュネーヴァイスとベーセヴィヒト二人の強さが同等なのか戦いはすぐに拮抗してしまう。二人の息を切らす音だけがこの砂漠に響く。そして、しばらくして口を開いたのはベーセヴィヒトだった。
「なぁ……最初に会った時から気になっていたんだけど……」
「敵と……他愛もない会話を……する気はない!」
「良い……だろ、別にさ……どうせここでどちらか死ぬんだから……」
「ふん。それもそうか……よし……良いだろう、付き合ってやる。……なんだ、話せ」
「君、どこかで僕と会ったことが無いか? 君の顔に見覚えがある気がするんだ」
「……見覚えだと? ……ふむ、確かに言われてみれば見たような気もするな。だが、それがどうしたと言うのだ……? 貴様と私は敵同士であるぞ」
「いやな、こう見えて僕には過去の記憶がなくて。覚えているのは剣の道を目指していたが、それは叶わず魔導の道へ進んだということだけ」
「剣の道を諦め……ふん、私の幼馴染にもそんな奴が居たような気がするな。言われてみれば丁度、貴様くらいの綺麗な顔つきで……サラサラな短い黒髪……まっすぐな瞳で……いや、そんなまさかな」
「……?」
「なぁ貴様、名を何と?」
「……ベーセヴィヒトだ」
「なる……ほど……」
「もしかして君、俺のことを知って……?」
「お、おほんっ、勘違いするでないぞ……まだ貴様と……貴様と決まったわけではないぞ! ただそんな名前だったような気がしたまでだ! だが……こうして今! 私の前に立ちはだかるならば……きり……切り伏せるまでだ……!」
「わわわ、待って待ってちょっとタイム! そこまで話しておいて気になるだろうに! ほらほら、切りかかってこないでくれ! 僕も今は攻撃しないからっ!!」
「そうか、なら良いだろう……冥土の土産に聞かせてやる。私にはな、寝食を共にするほどに剣の道を共に突き進んでいた幼馴染が居たのだ。だ……があやつはある晩、こう告げた」
「……?」
「僕じゃ剣士になれない、こうして一緒にいるとそれが良く分かるんだ、とな。それからあやつは瞬く間に姿を消した」
「寝食を共に……ね……もしかして、そいつのことが好きだったとか?」
「んなっ、ば、ばかもの! そんなわけがなかろう!」
「いやでも寝食を共にするほど仲睦まじい幼馴染……それも相手は男なのだろう? なるほどなぁ……だから君と会ったような気がしていたんだな。感動の再会になるのかな?」
「か、勘違いするな! ……貴様と決まったわけではないだろう!」
「いやでも、その言いようだとさ……」
「まだ決まってないと言っておろうにっ! 一緒に剣の鍛錬で汗を流し、一緒に風呂……ああ、あやつは確か風呂が嫌いであったな。ともかく、私はあやつと一緒に暮らしていただけなのだ! だ、だからそのぅ……私が好意を抱いていたとか……これが感動の再会だとか……そう判断するのはまだ早かろう! 貴様は私の敵なのだぞ!?」
「あれ、風呂は一緒に入ってなかったんだね」
「ああそうだ。私が何度も何度も誘ってもあやつは断ってばかり。根っからの風呂嫌いでなぁ。私はあやつが風呂に入っているのを見たことが無い……とても寂しかった」
「あ~……じゃあ多分それ、僕じゃないな。僕、風呂好きだし。なんかごめん」
「んな、これほど私に白状させておいて……! 無礼であろう、こんな恥辱……っ。よもや切り伏せるしか!」
感情の赴くままに剣を振り上げるシュネーヴァイス。そんな中でもベーセヴィヒトは冷静そのものだった。
「……あ、でも待てよ。もしかして君も風呂好きだったりする?」
勢いのまま剣を振り上げたシュネーヴァイスを前に、ベーセヴィヒトは冷静にそう告げる。それはどうやらご名答だったようでシュネーヴァイスの剣先は空を見上げたまま静止した。
「そ、それがどうしたというのだ……? もう貴様は私の幼馴染ではないのだろう!?」
「なるほど……お風呂は好きと。じゃあさ、近くの中立国家の銭湯へ行ったことは?」
「……あるが。……それがどうしたと言うのだ!」
「なるほどな。あそこの風呂は良いよね、僕も良く行くんだぁ……中でもあのアッツアツのサウナはたまらないよね。確か百二十度以上の暑さでさぁ……だからこの場で戦うことを決めたのかな? ほら、死ぬ前のサウナ的なさ」
「貴様、貴様もまさかサウナー……だというのか!? そうだそうだ、あそこのサウナはたまらない、たまらないのだ! 一度入ったら癖になる熱さで……うんうん、アロマウォーターのいい匂いがするロウリュも良いな……サウナの後の備長炭が着けてある水風呂もこれまた最高で……しっぽりと野外浴を堪能する時間はもう……」
「……ビンゴだ」
ベーセヴィヒトの巧みな話術によって、剣聖らしさ全開でお堅いはずのシュネーヴァイスはおらず、そこにいたのはサウナーのシュネーヴァイスその人であった。
「ビンゴ……だと……?」
「……僕と君は、風呂場で会っているということさ。それも……男湯でな!」
「な、なんだとぉぉぉ……っ!?」
高らかにそう宣言するベーセヴィヒトを前にシュネーヴァイスは驚きがあまり腰を抜かしたのか、膝ではなく尻を地面についてしまった。
「ききき、貴様は一体、何を……何を言っている……確かに……あの場には誰もいなかったのは確認したはずだ……どうして……」
「いいや、居たよね。……サウナの座る位置はさっきロウリュの話からして一番前に座るタイプだろう?」
「そ……そうだが……でも私はちゃんと確認したんだぞ! 誰もいないことをな! そ……それに、男湯に居たという確証はないだろう!?」
「残念だが確証はある。それは単にあの地獄サウナと言われる、中立国家にしかないサウナは男湯限定であるということだ。そして僕は生憎、サウナの座る位置は一番温度が高くなる上の段……壁際だッ!!」
「……んなっ」
「その様子からして、図星だったようだな? ……まぁサウナーなら惹かれるのも分からなくない。そして君のシュトルツ公国には確か大浴場や銭湯がなく、サウナ設備も貧弱……だな?」
「まさかそこまで知って……!?」
「気に病むな、気持ちはよく分かるよ。うちのアロガント大帝国には大浴場はあるし、サウナ設備も充実している……戦場帰りの連中でどこも盛況、満員御礼だ。浴場には至るところで整っている連中ばかり。だがこれでは人目が気になって野外浴なんて出来やしないし、何より男どもの匂いで嫌になるんだよっ!」
ベーセヴィヒトはシュネーヴァイスに負けじとサウナーであることを宣言する。だがシュネーヴァイスも引き下がってはいなかった。
「ベーセヴィヒトと言ったな? 貴様がサウナーであることはよく分かったよ。こうして敵という立場で出会ってしまったのが残念でならん。……だがな、私が貴様と同じサウナーであることがどうしたと言うのだ? それで貴様との国の存続を賭けた戦いが終わるとでも言うのか? ふっ、冗談は止めるんだな」
「……ああ、この戦いは終わるね。僕は君がさっき言っていたことを忘れてはいないぞ?」
「私の言っていたことだと? 大したことは言っていないはずだ!」
「野外浴タイムを楽しみにしている」
「……ああそうだ」
「寂しかったのかも知らないけども、幼馴染には何度も風呂に誘っていた」
「それはそのっ、彼に好意を抱いて……いたからで……!」
「実は寂しがり屋のくせして、一人でサウナに行っている」
「……ぐぬぅ」
「それにはなにかしらの理由があるんだろう?」
「…………」
「目が泳いでいるのを見るとその様だな」
「……っ!!」
「その髪、その男性と変わらないほど短い髪……確かに男風呂に居ても普通は気付かないだろう? 僕はな、あのサウナで君の身体のことも目撃していた。タオルで隠していたのは良いが、女性にしてはあり得ないほど見事なシックスパック、女らしくない体つき……もしかして女らしくない自分がコンプレックスなんじゃないのか?」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「……やっぱりそうか」
ベーセヴィヒトの会心の一言でシュネーヴァイスは完全に崩れ落ちてしまった。それも自身の体を腕で覆うようにして。
「いくら自分の女らしくないその身体がコンプレックスだったからとはいえ、公国の誇る剣聖が男湯に入るのにはどうかと思うな。男が女風呂に入るようなものだよ? 犯罪だよ? これをシュトルツ公国中に流したらどうなるんだろうね……まぁ、社会的に生きていけないんじゃないかなぁ?」
「くっ……殺せ! 今すぐ殺してくれ!! さぁ今すぐ、お前の自慢の魔導でこの私を……殺してくれぇっ!」
「まさか、シュトルツ公国随一の、それも他の国にまで名を轟かせている剣聖様がこうも簡単に懇願してくるなんてな。てっきりもっと遊べるものだと思っていたよ」
「ちぃ……っ! 魔導師風情にこの私がここまで……なんたる屈辱か!! さぁ殺せ、今すぐ物理的に殺してくれぇっ、お願いだぁ!」
「……嫌だね。僕、自分から手を下すのが嫌いだったから魔導兵器ばかり作っていたんだ……だからさ、きっとこれを国中にバラまけばきっと平和的に戦争が終わると思うんだよ」
「そこを頼む! お願いしますっ! 社会的に殺されるよりは今貴様に倒されて死んだ方がマシだ! くぅぅぅ……こんなことなら剣の道を進むんじゃなかった……もっと私は……女らしく……可愛らしく生きていたかったのに……どこで間違えたんだ……」
「そんなの、過去の自分に聞いてみなよ。……さて、なんだか元気出てきたところだし、ぱぱっと魔導使ってシュトルツ公国の残党たちにこの情報バラまきに行くかぁ……」
「この腐れ外道が!!」
「酷いなぁ、僕は平和的解決を望んでいるだけだよ? ……まさか魔導兵器があそこまで活躍するとは思わなかったから……君の国を苦しめてしまったことは謝るけども。じゃ、さっそくシュトルツ公国に行って~っと……」
「いいや待て! 待つんだ!!」
この場をすぐ去ろうとしたベーセヴィヒトの前に、シュネーヴァイスは力を振り絞って立ちふさがった。
「なんだよ? もういいだろ、決着はついた。……君の負けだよ、男湯に通うヘンタイシックスパック剣聖様?」
「貴様が剣士になれなかった理由、教えてやろう」
「……?」
「おかしいと思ったんだ……確かに私も一人だったが、それを目撃している貴様も一人でサウナに来ていたではないか」
「……それが何だと言うんだ? 僕は一人の方が自由な時間管理でサウナを楽しめるから、一人で来ていただけ、それだけだ」
「ではなぜ、あの誰も人が居ない時間に来ていた? あのサウナ、そしてあの時間は誰もいない穴場の時間だ! 初めから全然人がいない時間であることを知っていたのではないか?」
「いや~だからそれは一人で来た方が落ち着くしさ……?」
「いいや違うな。貴様の帝国でも立派なサウナがあるのだろう? 地獄サウナまではいかないだろうが、それに近しい物がきっとあるはずだ。貴様はそこで、まるで男の目が気になるような発言をしていた」
「……っ!?」
「男風呂、人目が気になる、そして貴様の帝国は男性人口が多かったな? なら導き出される答えは一つだ。おのれの身体に持ちしその剣が貧弱であったため、剣士を諦めた。……そうだろう?」
シュネーヴァイスの一言で、先ほどまで勝ち誇った様子だったベーセヴィヒトの様子が急変する。目を大きく見開き、頭を抱えて絶句する。
「私はな、少し貴様と話していて思い出したのだよ。私の幼馴染は確か、その身体に持ちし剣が貧弱だったがためによく他の男子たちに馬鹿にされていたらしい。そして剣の道は男性が主体であるよな。私も苦労したものだが、男子では特におのれが持ちし剣が貧弱であるとどうやらいじめに遭うらしいじゃないか。……もしや貴様もそうだったのではないか?」
「…………っ!」
「そうだったのだな?」
「……やめろ」
「そう落ち込むでない、貴様と同じで私も自分のこの身体にコンプレックスが……」
「やめろって言ってんだっ! 僕と君が同じだって? 散々小さい剣だ小さい剣だと男どもにいじめられ続けた僕の気持ちが女であるお前に分かるのかよ! 元々銭湯に行くことだって恥ずかしくて出来なかったんだぞ!? 女の子の前でも剣士になれないんだぞ!? それがどれほど悲しくて辛くてキツイことか……っ!!」
「…………」
「平和的な解決はもうやめだ、やっぱり物理で殺し合おうぜ僕たち。このコンプレックスを暴かれてしまったならば君を殺すしかない。それしかもう意地をかけた戦争は止められないんだよ」
「……いいやあるぞ、平和的な解決方法」
「なら会話はこれで最後だ、言ってみろ」
「ベーセヴィヒトよ。貴様は実はやっぱり私の幼馴染なのではないか? あまりにも似すぎている、名前だって同じだ。顔つきだっておんなじだ。それに誰にも教えたことのないコンプレックスだって……同じなんだ」
「なん……だと……」
「だからその……私のことを信用して欲しい……ひとつ、提案があるんだ」
「それは一体どういう……」
「なぁ、ベーセヴィヒトよ。貴様がアロガント大帝国の魔導兵器を作ったと言っていたな。仮に貴様が国を脱したらどうなる?」
「……あの帝国の技術のトップを張っていたのは僕だ。魔導技術の低下は目に見えるし、下手すれば魔導兵器さえ起動できなくなるんじゃないか? あの帝国は脳みそまで筋肉で出来てるバカばかりだ」
「そうか。私もシュトルツ公国を脱すれば戦力は無くなる」
「まさか……君の提案って……」
「ああそうだ、国のトップを張る我らがお互いの国を脱し、失踪する。さすればお互いの戦力が大きく削がれ、結果的に戦争は終わるのではないか?」
「……確かにそうかもしれない。ああ、そうだ」
「だから、ベーセヴィヒト……」
「シュネー……ヴァイス……」
――目を合わせ、息が不思議とどこかで出会ったことのある気がしてならない二人。その言葉は自然と重なるのであった。
『……君の軍門に下ろう』
『……我が軍門に下れ』
――誰が戦闘中に銭湯の話をしろって言った!?
※これは原稿の息抜きに原稿を書いた結果出来てしまった産物です。