家に帰って ~於菟の家~
家に帰った於菟は、靴の数を見て父がまだ帰ってきていない事に気づくとため息をつく。
(親父…まだ仕事か?いつもならこの時間帯に帰ってきてんのに…)
靴を脱ぎ、リビングに入る。リビングでは母がテレビを見ていた。
「ただいま。」
「お帰り於菟。どこに行ってたの?」
今日は祐と一緒の道を通った為いつもより帰りが遅くなった。時計を見ると4時42分だった。
(別にいつもより遅くたっていいだろ…)
そう思いつつ、「学校の用事で遅れた」と嘘をつく。すると母はテレビを指さした。
「今この辺りの地区は事件のせいで大騒ぎしてるのよ?それに巻き込まれたりしたらどうするの?」
於菟はテレビを見た。
『連続通り魔事件が苗夜木で発生しています。特に学生に被害が多いので、学生の皆さんは注意して下さい。』
(何だこのニュース…初めて知ったぞ。学校も何も言ってなかったし…)
連続通り魔事件が発生しているようだ。しかし、於菟は学校側からはそんな事は聞いていなかった。学校を出てから家に帰る前までに起きた事なのか?
「それにこんなに遅れて…心配かけないでちょうだい。」
「そんなの母さんが勝手に心配してるだけだろ。怪我してねぇし。」
「於菟、何その口のきき方は!?」
「うるせぇよ!毎日毎日俺には時間守れって!晃には何も言わないくせに!言われなくても時間守れる!ちょっと遅れたぐらいでぐちぐち言うんじゃねぇよ!!」
於菟は母に怒鳴ると、リビングを出て2階に行った。階段を上がってすぐ見える部屋のドアが開いていて、そこには於菟の弟の晃が居た。
「お兄ちゃん…喧嘩したの?」
「……うるさい。」
「え…お兄ちゃん…?」
戸惑う晃を無視し、於菟は自分の部屋に向かった。晃が於菟の背中を涙目で見つめていた。
(何であんな事言ったんだ…)
部屋に入り、鞄を放り投げてベッドに寝転がった於菟はそう思った。別に母が悪い訳ではないのに、母に怒鳴ってしまった。
(別に反抗するつもりは無かったんだけどな…何かムカついた…何でだ?)
自分でも理由が分からず腕で目を覆う。しばらくして起き上がり、ふと思い出してポケットの中を探った。
「これ書かねぇと…アイツに何て言われるか分かったもんじゃねぇ。」
学級委員長の明朱加から渡された紙を取り出し机に向かう。
“於菟と祐について5個 絶対書く事”
(これどういう意味だよ…俺の事からかってんのか?)
紙をじっくり読むと、どこぞの国語教師のように書く欄があった。書く内容を指定されていると書きづらい。
(しかも狙ってるかのような内容…ムカつく…やっぱアイツとは仲良く出来ねぇ…」
書く内容は以下のような感じだった。
・友達になった日
・於菟が祐を気になり始めた時
・祐にからかわれた事はあるか
・恋人らしい事をしたか
・祐の事を何番目に好きか
(あームカつく!絶対どっかで今日の事見てただろ!?てか帰る時尾けられてた!?アイツどこに居たんだよ!?)
後半の悪意しか感じられない質問に紙を破りそうになるが我慢する。落ち着いて回答する。
「ったく…許さねぇぞあの学級委員長め…」
・友達になった日
《入学式》
・於菟が祐を気になり始めた時
《1年の4月21日の体育の時》
・祐にからかわれた事はあるか
《ある あって何が悪い》
・恋人らしい事をしたか
《恋人らしい事って何だ殴るぞ》
・祐の事を何番目に好きか
《1番に決まってんだろはっ倒すぞ》
全ての回答を書き終わり、紙を折り畳んで鞄の中にしまう。ため息をついてリビングに行こうか考えた。
(リビングに行ったらまたぐちぐち言われるんだろうな…覚悟はしてるけどどうするか…)
明日の授業の準備物を確認しながら考えていると、ドアがノックされた。
(ん?誰だ?晃か?)
「お兄ちゃん?」
(やっぱりか…母さんが呼んでるって言いに来たのか?)
「えっと、お兄ちゃんと話したい…」
「?」
その言葉に疑問を抱きつつ、ドアを開けて晃を部屋に入れる。晃はオドオドと於菟の部屋に入った。
「どうしたんだ晃?母さんが呼んでるの言いに来たんじゃないのか?」
「お母さん、お兄ちゃんが2階に行ってすぐに出かけちゃったから…」
また酒買いに行ったかと思い、晃を見る。まだ小学2年の晃は涙目で於菟を見ていた。
「んで、晃は俺と話したいのか?」
「う、うん…」
於菟が聞くと、晃は目元を腕で拭いながら頷いた。何かを持っているようだ。
「お兄ちゃん、昨日から嬉しそうだから、学校楽しいのかなって…」
と、晃は持っていた物を於菟に渡した。それは於菟の似顔絵だった。そういえば昨日晃がリビングで俺の顔見ながら絵描いてたな、と於菟は思う。
「そんな顔に出てたか…?」
「う、うん。ニコニコしてた。だから僕も嬉しくって…お兄ちゃんの顔描いちゃった。」
えへへ、と笑いながら絵を指さす。その笑顔に於菟も微笑んだ。
「そうか…」
晃から渡された自分の似顔絵を机に置くと、晃の頭を撫でた。
「あぅ、お兄ちゃん?」
「さっきはごめんな、晃。」
「全然大丈夫!お兄ちゃんお母さんと喧嘩してたみたいだし…」
でも、と晃は於菟を見つめる。
「喧嘩したままじゃダメだよ…仲直りしないと…お母さん帰ってきたら謝ろう?」
「………」
心配そうな目で於菟を見つめる晃に、於菟は俯く。そして深呼吸した後晃の方を向いた。
「あぁ。母さん帰ってきたら謝ってくる。」
「僕も一緒に行く!」
ニコッと笑い、晃は於菟の手を握りながら於菟と一緒に部屋を出た。
リビングに行くと、母がビール缶を持ちながらスマホを見ていた。於菟は晃の手をギュッと握ると、母の元に行った。
「母さん。」
「於菟…」
於菟は母の目を見ながら「ごめん。」と謝った。そして頭を下げた。
「母さんは別に悪くねぇのに反抗して…怒鳴ってごめんなさい。」
「……母さんも、いつもうるさくてごめんね。ただ事件とかに巻き込まれたりしないか心配だっただけなの。」
その言葉に少し違和感を覚えたが、とりあえず謝れた事に達成感を感じた。
「仲直り出来た?もう喧嘩しない?」
「あー…喧嘩はするかもな。」
「えー?」
ムスッとする晃の頭をわしゃわしゃと撫で、もう一度2階に向かう。
「お兄ちゃん待ってー!」
慌てて晃は於菟を追いかけた。母はそれを微笑みながら見つめていた。