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ある日の授業

 翌日_

 3校時の国語の授業で、於菟は榎子の話をよく聞かずに教科書を見ていた。

(国語は好きだけど、先生が苦手だからな…家でやりゃいいか。)

 物語のページを開き、文を読んでいると、祐に背中をつつかれた。

「於菟さん…」

「ん?」

「消しゴム落としちゃったので取ってもらっていいですか?」

 祐の指さした方向を見ると、於菟の机の前に消しゴムが落ちている。於菟はそれを拾うと、手を出している祐に渡した。

「ほら、消しゴム。」

「ありがとうございます…!」

 小声でそう言ってニコッと笑う祐に、於菟は悶えた。

(ホント祐可愛すぎ…!)

 教科書で顔を隠し、周り(特に榎子)にバレないようにする。それを教卓から見ていた榎子は小さく笑って

(あの2人、仲良しすぎるわ…♪)

 と思った。


 授業が進み、クラスで交流という事になった。男子も女子も集まって喋っている。

(どうしてこうなった)

 全然話を聞いていなかった為、経緯が全く分からない。於菟は祐に

「何で交流してんだ…?」

 と聞く。祐はうーんと考えた後、

「確か皆仲良くなれるようにって…」

 と言った。

(俺別に祐以外と仲良くなりたいとは思わねぇんだけど…てか普通に授業しろ…)

 そう思いながらも、皆に話しかける祐を追いかける。

「あの、何か得意な事とかありますか?」

 祐は1人の女子に話しかける。その女子は祐を無視して他の女子と話し始めた。

「あの芸人が不倫したの知ってる?」

「あーあれでしょ?めっちゃ話題になってたよね〜」

 於菟はその女子達を睨みつけながら祐に話しかけた。

「あ、於菟さん…」

「祐、行くぞ。」

「は、はい…」

 祐は落ち込んでいた。だから先程自分が話しかけた女子達の会話がやけに大きく聞こえた。

「さっきのアイツ何なんだろ」

「男好きなくせに話しかけてきて」

「ウチそういうの好きじゃないから来ないで欲しいわー」


「……………」

「祐?」

「あ、えっと、大丈夫です。」

 様子を心配する於菟に祐は笑いかける。いつもなら可愛い笑顔が、無理があるように見えた。

(…大丈夫か、なんて言えねぇよな。)

 かける言葉が見つからず、教卓の近くで2人で佇んでいた。

「どうしたの2人共?他の人ともお話してきたら?」

「先生、よく今の俺達見てそれ言えますね。」

 ニコニコと話しかけてきた榎子に於菟は鬱陶しいというようにそう言う。

「だってせっかく授業という授業を全然やってないんだよ?交流だよ?」

「先生としてそれは問題あると思います」

「先生だって皆が仲良く話してる所見たいもん!2人だけじゃつまらないでしょ?」

 行ってこい、と於菟の肩を叩く榎子に、於菟はため息をつく。チラッと祐を見ると、俯いて悲しそうな表情を浮かべていた。

(話しかけてきた相手を無視とか人としてどうなんだよ、全く…)

 そう思ってクラスを見渡す。ワイワイと楽しそうにお喋りしていた。

「あ、そうだ!先生が人連れてこようか?」

「いやそういうのいいんで」

「先生の提案を断るなんて失礼な生徒だなー!まぁまぁ1人ぐらいは友達作っときなよ!」

「余計なお世話です」

 於菟は断るが、榎子は他の生徒の所に行ってしまった。

(そういうのいいから…祐と仲良くなれればいいだけだからさ…)

 とりあえず先生には気をつけようと思っていると、祐が於菟に話しかけた。

「あの、於菟さん…」

「ん、どうした?」

 祐は申し訳なさそうに

「僕と一緒だと、於菟さんまで…」

 と言った。於菟は一瞬キョトンとするが、すぐにニッとして

「んなの関係ねぇだろ。あの時俺が言った事忘れたのか?」

 と言った。

(あの時…自己紹介の時かな?僕の事を好きって言ってくれた…本当、なのかな?)

 祐が戸惑っていると、榎子が1人の男子を連れてきた。

「お待たせ♪」

「いやマジで連れてこなくてもいいんですけど!?」

「え、え!?」

 祐は榎子に驚く。ボーッとしていたのか、榎子が人を連れてくるという話を聞いていなかったようだ。連れてこられた男子もこの状況に困惑していた。

「あ、えっと、その…」

「いやあのごめんなさい!先生が勝手に連れてきちゃったみたいで!」

「ご、ごめんなさい!」

 何故か祐も謝ると、その男子は大丈夫ですよ、と笑った。

「俺、5番の西慈(にしじ) 明朱加(あすか)です。よろしく。」

「お、おう。俺は櫻木 於菟。よろしく。」

「僕は朱野 祐です!よろしくお願いします!」

 余計な事をするなと於菟は榎子の居た方を見るが、いつの間にか榎子は教室にすら居なくなっていた。

(逃げたな…)

 戻ってきたら文句でも言ってやろうと思いつつ祐を見る。祐は明朱加と楽しそうにお喋りしていた。

「何のお菓子を作るのが好き?」

「最近はマカロンにハマってます!」

「そうなんだ!食べてみたいな〜」

「今度作るので食べますか?於菟さんも一緒ですよ!」

「へぇ、じゃあ頂こうかな!」

 今度一緒にマカロンを食べる事になった。

(まぁいいけど…)

 話の邪魔をしないよう、窓の方を見る。すると明朱加が

「於菟さん。」

 と話しかけてきた。

「な、何ですか…?」

「於菟さんは趣味とかありますか?」

「いや、特には…」

「1つぐらい持っておいた方が良いですよ。」

 ニヤニヤしながら言う為、少し苛ついた。

「余計なお世話です」

「え、えっと、喧嘩はしないで下さい…!」

 おどおどしながら祐が言う。於菟ははぁ、とため息をついて明朱加を見た。

「俺も、於菟さん達の事は色々気になっているので、話とか聞かせてくれますか?」

「別に良いですけど、聞いてどうすんですか?」

「別に?」

「…………」

 コイツとはあまり仲良く出来ないかもしれないと思うと、チャイムが鳴った。

 すると榎子が教室に戻ってきた。

「よーしチャイム鳴ったから挨拶して休み時間にしよう!皆仲良くなれたかな?」

(先生ってのは都合のいいもんだ…)

 席に戻り挨拶をすると、明朱加が於菟の席に来た。次の地理の授業の準備をしていた於菟は資料集を持ちながら明朱加を見る。

「何ですか」

「俺の事で気になってる事とか無い?」

「そんな事聞きに来るんですか。

 学級委員長のくせに。」

 祐は資料集を取りに行っており席に居ない。

「ちょっと席借りていいかな?」

「祐に聞いて下さい」

 於菟がそう言う前に祐の席に座ると、明朱加は1枚の紙を渡してきた。

「これに書かれてる事、全部書いて明日までに俺に渡して欲しいな。」

 その紙には

 “於菟と祐について5個 絶対書く事”

 と書かれていた。

「…どういう事ですか、これ。」

「そのままの意味だよ。俺、小説書くの趣味なんだ。」

「まさかここに書いた事全部バラすつもりじゃないでしょうね。」

「そんな事しないよ。ちょっと参考にしたいなって思ってさ。」

 ニヤリと笑う明朱加に、於菟は一種の恐怖を感じた。於菟と明朱加が見つめ合っていると、祐が戻ってきた。

「明朱加さん!」

「ちょっと席借りてるよ。勝手にごめんね。」

「全然大丈夫です!あ、僕ノート取ってくるの忘れたので取ってきます!」

 祐はタッタッタッと自分のロッカーまで早歩きで向かう。何か大事な話をしているんだろうと空気を読んだつもりだったのだろう。

(行かなくてよかったんだけどな…)

「じゃあ俺、そろそろ戻るよ。」

 そう言って明朱加は席を立ち、自分の席まで戻る。

「何なんだよこの紙は…」

 そう呟き、折り畳んでポケットにしまった。

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