次の授業
2校時目_
チャイムが鳴り、全員が席に着くと、先生が扉を開けて入ってきた。
「…………」
先生は無言で黒板に名前を書く。そして書き終わるとクラスを見渡した。
「俺、神倉 燈真…今日は自己紹介…以上。」
(!?)
於菟は驚く。こんなに投げやりな先生がかつて居ただろうか。クラスが困惑するが、燈真はそれ以上言わない。
(どうすんだよこれ…どっから自己紹介すんだよ…)
「於菟さん、自己紹介って毎回するの…?」
「まぁ、先生は俺達の事あまり知らない訳だからな…めんどくせぇけど。」
「そっか…」
祐はそう呟くと、燈真を見た。早く進めろと言わんばかりの視線をクラスに向けている。
(そんな目で見られても…)
どうすればいいんだと於菟は最初の番号の男子と女子を見た。どちらも戸惑っているようで、顔を見合わせている。
「このままじゃ進まないね…」
「そうだな…」
はぁ、とため息が聞こえる。そのため息にクラス全員が燈真を見た。
「俺が指名した奴から。」
「え」
「8番から後ろに。」
「!!?」
於菟は思った。かつてこんな適当でやる気の無い先生が居ただろうか、と。
(何で俺から!?)
そして於菟は焦った。自分から自己紹介を始めなければならないという状況に困惑した。
(名前と誕生日と好きな事とかか!?えっとそれで…)
於菟は祐に助けを求める。祐は紙に
“名前・誕生日・好きな○○”
と書いて於菟に渡した。
(○○!?何を入れればいいんだ!?)
「早くしろ」
「すいません!」
「うるせぇ」
(うぅ…)
とりあえず席を立ち、名前と誕生日を言った。
「櫻木 於菟…です。誕生日は9月28…えっと、好きな…」
於菟は何を言えばいいのかと迷う。もう好きな人は言った。これ以上言いたくない。でも名前と誕生日だけはつまらないか…?
「好きな…何だ。」
「う……」
言葉に詰まると、クラスがザワついた。
「また好きな人~?」
「そんなに言いたいのかよ」
「てか早くしてー」
於菟は1人ぐらいぶん殴りたい気持ちを抑え、こう言った。
「好きな事は野球。」
言い終わると無言で席に着く。燈真はそれを黙って見ていた。祐はしばらく於菟を見ていたが、自分の番だと気づき慌てて席を立った。
「あ、朱野 祐です!誕生日は8月24日で…好きな事は、お菓子作りです!」
最後恥ずかしそうにそう言うと、席に着いた。クラスの女子が
「お菓子作り好きなんだー」
「意外ー」
と言う。於菟は
(祐がお菓子作り好きなのは意外だな…でも可愛いもんな…女子力たっか)
と思った。そして自己紹介が進み、全員分終わった。途中から燈真は黒板に絵を描いていた。
(先生が絵描いてどうすんだよ…)
しかし絵は上手かったので何も言わなかった。クラスの男子が
「授業終わるまで消さないでくださーい」
と言った。しかし
「自己紹介終わったんなら消す」
と容赦なく消した。男子の悲しそうな声があがる。
「もう授業終わるか…?…まだ10分ある…後はお前ら適当に過ごしてろ。騒がしくならない程度に。」
燈真はそう言って教室を出た。途端にクラスが少し騒がしくなった。席を立つ者や後ろを向く者が居る。
「………」
「何も授業してないですね…」
「まぁ初めは自己紹介ばっかりだろうからな…にしても、あんな先生初めて見たぞ…」
於菟はため息をつく。理科の授業は凄い事になりそうだと思った。祐が於菟に
「於菟さん、野球が好きなんですか?」
と聞いた。於菟は
「全然」
と返した。
「え!?じゃあ何で野球が好きだって…」
「他に思いつかなかったんだよな…言う事…好きな事もそんなにねぇし…1時間目のやつで頭の中が…」
「そ、そうなんですね…」
祐は首を傾げる。祐に質問された於菟は
「祐はお菓子作りが好きなのか?」
と聞いた。祐は笑顔で頷く。
「はい。まぁ簡単なものしか作れないんですけど…ホールケーキとか作れるようになりたいなーって思ってます!」
「すげぇな…」
「今度マカロン作るので食べますか?」
「いいのか?」
於菟が聞くと、祐ははい、と頷いた。その笑顔に於菟は心の中で悶えた。
(今度作るお菓子分けてくれるとか…マジで祐優しすぎだろ…!)
しばらく喋っていると、チャイムが鳴った。すると燈真が帰ってきた。
(!?)
「授業終わるから挨拶しろ」
全員が席に着き、挨拶する。燈真はため息をついて
「次の授業、俺居なかったらノートやってろ」
と言った。
(無茶苦茶だな!?)
黒板にノートのページが書かれる。どうやら2年の復習の所のようだ。
「よかった…僕でも出来そう…」
祐はホッと息を吐いた。そして理科のノートを取り出し、ページに丸を付ける。
「ちゃんと目印とか付けるんだな」
「じゃないとよく忘れるので…」
(偉いな祐は…)
勉強という勉強を全然やらない於菟は、祐を見て少しは勉強をやってみようかと思った。
(まぁどうせやらないけどな)
於菟は苦笑いした。




