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初めての授業

 4月13日_

 始業式の翌日、於菟と祐の初めての授業が行われた。教科は国語。於菟は国語が得意であり、祐は苦手だった。

「国語かー…僕漢字とか無理なんだよな…」

「俺得意だから分かんねぇ所あったら教えるぞ。」

「本当ですか?ありがとうございます!」

 国語の教科書を持ちながらニコッと笑う祐に、於菟も笑顔になる。

(祐が国語苦手なの意外だな…こんなハキハキ喋るのに…)

 そう思いながら、チャイムが鳴ったので前を向く。全員が席に着いた所で先生が教室に入ってきた。

「皆さんおはようございます!3組国語担当の原岸 榎子(はらぎし えのこ)です!」

 元気な声で挨拶をする3組国語担当の榎子は、3組の生徒を見ると

「うん!このクラスは元気の良さそうな人達が沢山居ますね!私も元気に授業やっていきますよー!」

 と言った。榎子は於菟の苦手なタイプの先生だった。

(俺こういう先生苦手だ…デカい声出す先生は耳が痛くなるしウザイし…)

 チラッと祐を見ると、榎子を見てニコニコしていた。祐はこのタイプの先生は平気のようだ。

(祐すげぇな…)

 於菟は感心する。榎子が黒板に自分の名前を書き、紙を持って

「今回は皆さんに自己紹介してもらいます!」

 と言った。そして榎子は紙を配り始めた。

「ねぇ、於菟さん。」

「どうした?」

「あれ、自己紹介用紙でしょうか…」

「そうじゃないのか?」

 ちょうど回ってきた紙を受け取り、確認する。可愛く装飾された自己紹介用紙だった。

(これに自分の事書くのか…!?)

 さすがに気が引けると思いながら祐に紙を渡す。すると祐は紙を見て目を輝かせた。

「わぁ…!可愛い用紙!これに自己紹介書くんだ…!」

 祐は嬉しそうに後ろの人に紙を渡す。於菟は

(祐、女子力高ぇな…)

 と思いながら紙を見ていた。

「書いた紙は先生が預かりますね!」

(マジか)

 榎子の言葉を聞いて苦笑いする。とりあえず書いておこうとシャーペンを持ち、紙を見た。

(名前に血液型に誕生日…どれもそれっぽい絵が小さく描いてある…)

 於菟はスラスラと書いていく。すると祐が於菟に声をかけた。

「於菟さん…」

「どうした?」

「これ、僕も絵を描いていいんでしょうか…」

 そう言いながら祐は於菟に自分の紙を見せた。誕生日の欄の横にパーティーハットを被ってケーキを食べている猫の絵があった。

(祐、絵上手いし可愛い…)

 心の中で悶えつつ、於菟は

「多分、いいんじゃないか?」

 と返す。祐はニコッと笑った。

「ありがとうございます於菟さん!」

(祐…何でお前本当可愛いんだよ…)

 於菟は自分の机に向き合い、紙に自己紹介を書く。するといちばん最後の欄に固まった。

 “好きな人の名前♡”

(ちょちょちょちょちょちょ!!!)

 シャーペンを落としそうになるのを堪える。平静を装っているが、内心は凄く慌てていた。

(これはさすがに、書かなくていいよな!?別にこの欄書くのは決定事項じゃないからいいよな!?)

「於菟さん?」

「!?」

 急に祐に声をかけられ驚く。バクバクと音を立てる心臓を押さえ、於菟は

「ど、どうした?」

 と返した。

「最後の欄の所…」

(最後の欄!?)

 間違いなく“好きな人の名前♡”の所だ。於菟が慌てている原因である。

「それが、どうした?」

 慌てているのを悟られないように、普通のトーンで話す。祐は

「これ、絶対書かなくちゃダメですかね…」

 と聞いた。それは於菟も凄く気になっていた事である。書かなくてはいけないのであれば、於菟にとっては絶望的だ。

「どうなんだろうな…先生に、聞いてみたらどうだ?」

 あぁ、何てバカな事を言ってしまったんだと於菟は後悔した。祐は頷いてすぐに榎子を呼び、最後の欄について聞いたのだ。

「先生、これは絶対書くんですか?」

 すると榎子は

「そうだな~…皆好きな人居ると思うし、全員書くって事にしようか!」

 と言った。瞬間、クラスからえ〜!?と声があがる。クラスがざわつき始めた。

(ま、マジか…絶対書く事に…)

 冷や汗がダラダラと流れる。反対に、祐は嬉しそうだった。

「誰にしようかな…」

(祐、いったい誰を書くんだ!?)

 嬉しそうな祐に恐怖を覚えた於菟は、自分の紙を見つめる。

(好きな人の名前…うぅ…祐しか思い浮かばねぇ…)

 テレビやゲームなどにあまり興味が無い為、芸能人や有名人の名前も分からない。於菟は初めて自分が時代遅れだという事を恨んだ。こうなるならもっとテレビとか見ておけばよかった。1人ぐらい芸能人の名前を覚えてくるべきだった。

 更に追い討ちをかけるように

「皆の前で名前と誕生日と好きな人の名前を言ってもらいまーす!」

 と榎子が言った。

(これ以上俺の精神を削らないでくれ…!!)

 於菟は盛大に項垂れた。


 そして自己紹介の時が来た。ジャンケンの結果女子の最後の番号からになり、スムーズに自己紹介が進んでいった。男子の番になり、10番の男子が自己紹介を終えた。

(次は祐の番か…祐、誰が好きなんだ?)

 於菟はこれまで全員の言っていた芸能人の名前などを全て書いていた。これを使えば自分の番が来て好きな人の名前を言う事になっても対処が出来るからだ。

(俺のイメージと違うとかになっても大丈夫だよな…)

 心配はあるが、於菟は祐の自己紹介を聞く為に祐を見た。

「ぼ、僕は朱野 祐です。た、誕生日は8月24日です。」

(8月24日か…プレゼント買っておこう…)

 於菟は祐の誕生日をメモした。そして祐は少し間を空けてから、深呼吸した。

(祐の好きな人…)

「僕の、好きな人は……」

 於菟の心臓が音を立てる。期待してしまう。

 そんな訳ないと分かっているのに。何で期待なんかしてしまうんだ。

 期待が外れた時のショックはもう何度も味わっているのに。

「…………」

 祐はクラス全体を見て、言った。



「僕の好きな人は、於菟さんです。」



「!!??」

 於菟の心臓がドクンと跳ね上がる。

 今、祐、何て言った?於菟?いや、そういう名前の芸能人かもしれない。昨日初対面だった俺の事なんか、俺は祐の事好きだけど!!

「於菟って祐の前の番号の?」

「マジ?男好きなの?」

「そんな名前の芸能人聞いた事ないしなー」

 於菟はクラスの声に苛ついた。

(俺だって祐の事好きだよ…お前らがどうこう言うもんじゃねぇだろ!)

 しかし、於菟もクラスの反応に怯えていた。この声が、疎外されたら、と怖かった。

(祐…俺の事、好きなのか?)

 於菟は祐の言葉を反芻する。自分の事が好きなのは凄く嬉しい。でも、きっと祐の好きと自分の好きは違う。だからこそ、祐が自分を好きって言ってくれた事で祐が悪く言われる事が嫌だった。

 すると祐が

「皆が何と言おうと、僕は於菟さんが好きです。それは変わりません。於菟さんは優しいです。だから僕は於菟さんが好きです。」

 と言った。そして礼をして席に戻った。席に戻った祐は於菟に言った。

「ごめんなさい、於菟さん…僕、全然思い浮かばなくて…唯一浮かんだのが於菟さんだったんです…僕の事、嫌になりましたか…?僕と友達になってくれたのに…」

 それを聞いた於菟は思わず立ち上がった。

「全然そんな事ねぇ。」

 そう言って、於菟は教卓の前まで歩いた。またクラスがザワつく。

(祐が俺を好きって言ってくれた。クラスの奴らに嫌味を言われても、俺が好きだって言ってくれた…俺も、ちゃんと言わねぇと気が済まねぇ。俺の気持ちは本物だ。)

 教卓の前まで行くと、皆を睨みつけるように見渡す。そして自己紹介をした。

「俺は櫻木 於菟。誕生日、9月28日。俺が好きな人は…」

 そこで、祐が自分を見つめているのに気づいた。於菟はニッと笑う。祐はそれを見て安心したように笑った。

「俺の好きな人は、祐だ。」

 その瞬間、クラスがザワついた。さっき祐が言われたような言葉が聞こえてくる。でも、於菟は怖くなかった。

「誰が誰を好きになろうが部外者には関係ねぇ。他人の好きにとやかく言う資格はねぇ。だから俺は本当の事を言った。それだけだ。」

 そう言って於菟は席に戻った。しばらくクラスは沈黙に包まれた。

 すると榎子が

「さぁさぁ皆!早く自己紹介終わらせよう!誰が誰を好きでも文句言わない!好きっていうのは人それぞれだからね!」

 と言った。榎子の言葉でまた自己紹介が始まった。於菟はそれを聞き流す。すると祐が於菟に話しかけた。

「え、えっと…於菟さん、さっきの…」

「ん?自己紹介のやつか?あの時も言ったけど、俺は本当の事を言っただけだ。」

「え……じゃあ、僕の事……」

 祐が赤面する。於菟はニヤッと笑い、

「祐、俺の事好きって言ってくれてありがとな。俺も好きだ。」

 と言った。祐は少し俯き気味の顔を上げて笑った。

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