借り物競走
数十分後_
ハードル走が終わり、於菟達は教室から出る。この後3年の競技である“借り物競走”が行われるのだ。於菟と祐は一緒に走れない為於菟は少し残念がる。
(でも、まぁ当たり前か…)
於菟はチラッと横に並んで歩く祐を見る。借り物競走では3番目に走る祐は、どんな人が居るのだろうとワクワクしていた。
「何を借りるんだろうな…!」
「いいもん来るといいな…練習の時は凄ぇもん借りさせられたし…」
「確か“本当はハゲてる先生のカツラ”だっけ?wあれは笑っちゃったよw」
「うるせぇ」
自分の右隣でニヤニヤと話す明朱加の背中を思い切り叩いてから、於菟は祐を軽く引っ張って校庭に向かった。
既に校庭にはたくさんの3年生が集まっており、辰双の姿も見えた。
「新売りも居るじゃん。情報集めのプロも居るとは…」
明朱加がそう言うと辰双が於菟達の方を見た。
そして猛ダッシュで於菟達の方に走ってきた。
「うわぁぁ!?」
祐が驚いて於菟にしがみつく。於菟は一瞬思考が止まったが、我に返って
「急にこっち来ないでください!!!」
と言った。しかし辰双はカメラを取り出すと於菟と祐に向ける。
「あと撮らないでください!!」
「いや〜反応が面白いね〜wま、先生に見つかったらさすがに没収されるだろうし今はしまっとくよ。そこの委員長さんから聞いたと思うけど俺足には自信あるんだよな♪手加減しないからお互い頑張ろうぜ♪」
「は、はい…」
祐が困惑しつつ頷くと、辰双は笑って自分の組の集まる方に行った。辰双のカメラは先生に笑顔で取り上げられていた。
(結局取り上げられてんじゃねぇか…)
そう思いながら校庭を見渡す。観客席はほぼ満員だった。於菟は来ているかもしれないと思い母と晃を探すが見当たらない。
「今年は晃の方見に行ったか…」
「誰か見に来てるんですか?」
「あぁ、去年は母さんと弟の晃が体育祭見に来てたから。居なかったから今年は晃の運動会見に行ったんだと思う。」
祐はその話を聞いて於菟の母と晃に興味を持ったようで、目をキラキラさせている。
「そうなんですね!僕、於菟さんのお母さんと晃くんに会ってみたいです!」
「母さん、最近仕事が落ち着いてきたみたいだし…もしかしたら遊べるかもな。」
「本当ですか!?じゃあ今度遊びましょう!」
はしゃぐ祐を見て於菟は思わず声を出しそうになった。
(朝から思ってたけど、てか毎日思うけど祐マジで可愛すぎる!!今度絶対遊ぶ!!!)
「遊ぶんだったら俺も一緒にいい?」
(あんたは来なくていい!!)
「いいですよ!一緒に遊びましょう!」
祐の答えを聞いた明朱加は於菟を見てニヤリと笑う。於菟はムカついたが何とか我慢する。後で1発殴ろうかと考えていると先生が号令をかけた。於菟達は先生の所に集合する。
「練習の順番に並んで最初の人達以外は待機するように。2番目の人達はすぐに準備が出来るよう近くに居る事。」
言われた通りに並び、座って待機する。借り物競走は個人戦なので負けないようにと気合いを入れる。
(今年も長くなりそうだな…大勢走るし…)
実況無しでも最低30分はかかる為一時期無しにしろと批判があったが、その年で最後となる3年生が行う種目だからか行う事になっている。
於菟は2年までは無くても別にいいと思っていた。2年までは。
しかし3年になり祐と同じクラスになってから、借り物競走をしようと思った。
(祐が引いたお題によっては俺の所に来るかもしれない…!)
於菟は体育祭で借り物競走がいちばん楽しみだった。於菟は5番目に走るので祐よりも後になる。走る時は休憩している祐からお題の何かを借りようと思っていた。
『では、走者の方はスタートラインに並んでください。』
スピーカーから聞こえる放送に走者達がスタートラインに並ぶ。走者達はそれなりに緊張しているようだ。
(でも…走者の俺の所に借りに来るお題って限られてるんじゃ…ヤバいな…)
まずは走者のお題がどんなものか確認しないとと思いつつ実況の方を見る。於菟は驚いて目を見張った。
(!?実況席に居るの…)
実況席でマイクを持ってスタートを待ちわびているのは、3組の国語担任の榎子だった。
『さぁ今走者がスタートラインに並びました!無事にお題の物を借り1番にゴールするのは果たして誰なのか!この借り物競走、実況を務めるのは私榎子です!以後お見知り置きを!』
(騒がしい実況だな…お題の物とかの紹介とかしてくれんのか?)
於菟が呆れる一方、祐は早く自分の番が来ないかとワクワクしていた。
(まだかな…早く走って於菟さんから何か借りたいな…)
でも走者から借りれるかは分からない為、前に走る走者を観察する事にした。
(実況、榎子先生なんだ…楽しそう♪誰が何借りたかとか言うのかな?)
そう思いつつ祐を見る。於菟は祐が自分を見ているのに気づいてニコッと笑った。祐も笑い返すと、於菟は顔を赤くさせた。
(於菟さん、可愛い…♪今日のお昼ご飯も一緒に食べたいな♪)
祐は赤面した顔を隠す於菟を見て微笑み、走者を見た。スタート直前だった。
「位置についてー!」
(そろそろだ!)
「よーい…スタート!」
パン!
走者達が一斉に地面にある紙に向かって走り出す。
『さぁ始まりました借り物競走!誰がいちばん最初にゴールするのでしょうか!?』
(うるさい実況だな…マイク無くていいんじゃねぇか…)
於菟は榎子の実況を片耳塞ぎながら聞き流し、最初に紙を拾った向かって左端の男子を見る。その男子は観客席の方に走り、帽子を借りた。
(アイツは帽子を借りろって紙か…走者に借りに行けるお題何かねぇかな…)
廻拝は行事の時に帽子を被らないので帽子のお題が来ても走者に借りに行けない事に少し落ち込む。於菟は他のお題に当たってくれと願った。
帽子を借りた男子は1位でゴールした。
『今、帽子を借りた赤組の男の子が1位でゴールしました!速いです!まるで獲物を追いかけるチーターのようだ!』
(どういう例えだ…)
自分もこんな風に実況されるのかと思うと嫌になるが、祐の所に行く為に我慢しなければいけない。あまり目立って実況されないようにしようと思った。
2走目も終わり、祐が走る番になった。祐は緊張してソワソワする。
(うぅ…本番となると、人目が多くて緊張しちゃうな…於菟さんの所に行けたらいいんだけど…お題次第だな…)
祐は自分のレーンに置いてある紙を見る。
ルールを確認したところ、4走目まで同じお題は出ないらしい。なのでどんなお題が来るか分からない。
(走者から借りれるかとか聞いておいた方がよかったかな…)
少し後悔はありつつも、もうすぐ始まりそうなので前を向く。
「位置について…よーい……スタート!」
パン!
ピストルが鳴ると、祐は一直線に走っていく。お題の紙を取りお題を確認する。
《クラスメートのハンカチ》
「!」
お題を見た祐は真っ先に於菟の所へ走っていった。それに気づいた於菟は驚いて自分の元に走ってくる祐を見つめる。
「於菟さん、ハンカチ、ありますか!?」
「お、おう…あるぞ…」
息を切らした祐にハンカチを渡すと
「ありがとうございます!」
とすぐにゴールまで走っていった。それを見る於菟は祐を凄いな…と思いつつ、自分の所にハンカチを借りに来てくれた事が嬉しくなり、ふにゃっと笑った。
『おー!3組の男子がゴールまで走っていきます!』
祐はゴールまで走る。そしてゴールした。1位だった。
(速いな!祐凄ぇ!)
実行委員の人と少し話をした後、祐は於菟にハンカチを返しに来た。於菟に向かってピースをする。
「於菟さん、ハンカチありがとうございます!1位になりました!」
於菟に伝えると於菟は笑顔になり、祐の頭を撫でた。
「おめでとう、祐…!」
「ありがとうございます!」
ハンカチを受け取った於菟は自分の列に戻る。祐は自分の並んでいた所に戻り、何かを準備していた。
(俺は5走目だから1走目のお題が来るのか…帽子以外だといいんだけど…)
そう思いながらレーンに並ぶ4走目の走者達を観察していた。
そして5走目_
自分のレーンに並ぶ於菟は、自分と一緒に走る走者とお題の紙を見る。皆緊張しているようでピリピリした空気が流れている。
(もっと気楽に行こうぜ…なんて優勝かかってるから無理か。)
ふぅ、と息を吐く。もうすぐ始まる所だった。
「位置について…よーい……」
(絶対祐の所に行く!)
「スタート!」
パン!
ピストルの音と同時に於菟は走り出す。紙を取りお題を確認した。
《赤ペン》
(赤ペン…)
さすがに持ってないか…?と祐を見ると、祐はペンケースを開けて見ていた。
「!?」
すぐに祐の所に走っていき、祐に
「赤ペンあるか!?」
と聞く。祐は
「ありますよ!」
と赤ペンを取り出し於菟に渡した。それを受け取った於菟はゴールに向かって走る。後ろで祐が応援していた。
「頑張れー!」
(1位取る…!絶対取る!!)
於菟は必死に走る。隣には同じく物を借りてゴールに向かって走る男子が居る。
(もっと速く走らねぇと…負ける!)
於菟はスピードを上げてゴールまで走る。そして2人がゴールした。ゴールのタイミングはほぼ同じだった。
『おおっと、ゴールのタイミングがほぼ同じのようです!果たしてどちらが先にゴールしたのでしょうか!?』
ゴールラインに立っていた生徒が於菟と男子を見て言った。
「先にゴールしたのは…櫻木 於菟さんです!」
それを聞いた於菟は一瞬思考が停止した。そしてハッと我に返る。
「おめでとうございます於菟さん!」
いつの間にか近くに居た祐がニコニコとそう言う。
「あ、ありがとう…」
1位を取る気満々で走ったものの、実際に1位を取ると少し信じられないという気持ちになる。でもそれよりも祐と一緒に1位を取れたのが凄く嬉しかった。
「俺も1位取れた…よかった…」
「ですね♪」
祐の満面の笑みを見て於菟はまた悶えた。その様子を見ていた2走目に走った明朱加が2人の所に来て
「よかったね2人共♪俺も3組学級委員長として誇らしいよ♪」
と言った。入ってくんなと言わんばかりに於菟は明朱加を睨む。それを気にせず明朱加は於菟の背中を叩いた。
「っだ!」
「この後は俺達まだまだ出番無いから教室戻って見学だね〜つまんねー」
「でも、1年生も2年生も頑張ってるから応援してあげましょう!」
一応敵なんだけどな…と思いつつも祐と一緒に教室に戻る。1位が取れた事を嬉しそうに話す祐を見て於菟はホッコリした。
校庭で_
1人の男が教室に戻る於菟達を見ていた。
(ふぅん…あれは自覚無いな…ま、会った事すら無いから仕方ないのかもねぇ…初めて見たっぽいし、“委員長の後輩なんだ”ぐらいにしか思ってなさそうだ。これはきちんと報告しないと…♪)
男はニヤッと笑った。
作者です。更新遅れて本当にすみません。
やる気が出なかったのとリアルが忙しかったです。
こんな短いのに投稿が遅れるのは問題ですね
ちなみに本当はこの後閉会式編出して体育祭編終了なのですが(BBS版はそんな感じ)さすがに時間飛びすぎだし短ぇなと思ったのでなろうでは昼の時間などのストーリーも入れようかと思ってます。
そんな事してるからBBSの方の更新が出来ないんですね書かないと
怪しそうな奴が出てきたのは気にしない気にしない
ここまで読んでくださりありがとうございます。次回の更新はもうちょっと元気出して早めに出せたらなぁと思ってます。




