新売りに呼ばれて
1校時の数学が終わり、於菟が次の授業の準備をしていると、クラスの男子が於菟に話しかけてきた。
「於菟、新売りが呼んでるぞ。」
「新売りって何だ」
「1組の新聞売りの愛称だよ。今日初めて新売りの事知ったんなら知っておかなきゃいけねぇぞ。」
「そうなんだな…」
適当に聞き流し、於菟は廊下に出る。
すると辰双と祐が何かを話していた。
「祐!?」
「あ、於菟さん来た…!」
「よーこの子の恋人さん♪」
「ば、違ぇよ!勝手に言うな!」
祐の頭をポンポンと叩きながらそう言う辰双は警戒している於菟にある写真を見せてきた。その写真を見た於菟は驚いて辰双を見る。
「おい…これ、何だよ……」
「入手経路は秘密♪」
祐もその写真を見たようで、不安げに於菟を見つめている。
「於菟さん…」
「………」
「違うなら違うって言えばいいじゃん。これ記事にするつもりだからさ♪嘘はあんまし書きたくないのよ。」
その写真は、
於菟がどこかの女子とキスしている所だった。
「………どこで見つけたかは知らねぇが、嘘は付かねぇ方がいいぞ?」
「やっぱ違うかー。ま、普通に恋愛してちゃ俺的にも物足りない訳よ。新売りは面白いニュースを求めてるからね♪」
「てめぇ…!」
手を出すのを堪え、辰双を睨みつける。辰双はニヤニヤと笑い
写真をビリビリと破った。
「!?」
「え…!?」
それに於菟と祐は驚く。破った写真をポケットの中にしまうと、辰双は
「これは記事にはしないでおくから。あと今日の新聞で勝手に記事に出しちゃった♪めんごめんご〜♪」
と手を振って1組まで戻っていった。於菟は姿が見えなくなるまで辰双を見つめていた。
「於菟さん…あの人、あの写真をどこで撮ったんだろう…」
「いや、あれは撮ったんじゃなくて捏造だ。あれを作ったんだ。でも何でそんな事する必要があんだ…?」
「ち、違うんですか?」
「当たり前だろ…俺祐以外好きになった事なんかねぇし…」
「そうなんですね…」
そんな会話をし、しばらくして於菟は赤面させた。
(さり気なくけっこう恥ずかしい事言った…!ヤバいどうしよう!?もう祐は分かってるんだよな!?でもやっぱ恥ずかしいっていうか…)
「ふふ…♪あ、まだ準備してない!於菟さん、教室に戻りましょう!」
「あ、あぁ!」
祐は於菟を引っ張って教室に戻った。
教室に戻り、於菟は顔を手で覆う。祐が心配して声をかけているが、於菟は大丈夫と返しながら唸っていた。
「全然大丈夫じゃない気が…」
「ホント大丈夫…うん…」
「そ、そうなんですね…」
それでも於菟はうぅぅぅぅと唸っている。
(本当に大丈夫かな…)
祐はそう思いながらも、授業の準備を進めた。
するとそこに明朱加が来た。
「2人共、あの新売りには会ったかい?」
「わっ!?」
「!?」
祐が驚きながら頷くと、明朱加はふふっと笑って新聞を見せてきた。今日のものではなく、去年の7月の新聞だった。
「何でこんな新聞………!?」
於菟は見出しに驚いた。
『西慈明朱加はヒトゴロシ』
「…………」
祐もその見出しに固まる。確かに去年学校が騒がしかった時があったが、まさかこの新聞のせいで…?
「これのせいで俺、一時期酷い目に遭ってね。大変だった。」
「そうですか…」
「しかもこれだけやけに鮮明に色々書かれててね。あの新売りは相当ヤバいよ。」
「………」
「新売りの新聞なんて信じない方がいい。ただ人気者になりたいだけなんだ。」
確かに、と於菟は思う。自分が女子とキスしている写真を用意したり、明朱加をヒトゴロシなんて書いたり…
(でも、許可を取ったにしても先生が何も言わねぇのはおかしいんじゃねぇか?こんなの、冗談にしても退学になってもおかしくねぇぞ…)
そう考えていると、祐が
「明朱加さんは、ヒトゴロシじゃないですよね?そんな事してませんよね?」
と聞いた。明朱加はしばらく黙ると
「ヒトゴロシだって?そんな訳無いだろう。本当にヒトゴロシだったら今頃俺がこの学校に来れてる訳無い。」
と言った。祐はホッと息を吐く。
「で、ですよね。よかった…」
「そして、君達も新聞に載ったみたいだね?」
「あの新聞見たんですか」
於菟が聞くと、明朱加は頷く。
「ちゃんと見たさ。OとYなんてこのクラスの人達は誰の事だかすぐに分かる。残念ながら新聞に写真は載ってないから、全体が信じるかは分からないけどね。」
「別に俺的にはどうでもいいですけど」
「クラスの人に嫌われても?」
「どうでもいいです」
「頑固だなぁwあぁそうだ。あれ持ってきた?まさか忘れた訳じゃないでしょ?」
ニコニコと手を差し出す明朱加に、於菟はジト目で紙を渡した。チラッと中を見て、全ての欄が書かれている事を確認した明朱加は
「参考にさせて貰うね♪」
と於菟と祐の元から離れた。
「何を渡したんですか?」
「アンケートみたいなもんだよ…」
「アンケート…やりたかったな…」
やらない方がいいと思いつつ祐の机を見る。狼と犬の可愛いカバーの消しゴムがあった。
「その消しゴム可愛いな…」
「えへへ…前ドンキで買ったんです!」
(祐って本当女子力高いよな…)
於菟はそう思いながら、可愛いカバーの消しゴムを眺めていた。




