翌日の朝
翌日_
祐の家を知った於菟は、何も言わずに(というか言えずに)祐の家の近くまで来た。朝から一緒に登校出来れば仲も深まるのではと考えたのだ。
(でもあまりしつこすぎるとかえって嫌われそうだな…今日聞いてみて決めようか…)
しばらく待ち、家から祐が出てきた。於菟は祐の所まで歩くと、祐に声をかけた。
「ゆ、祐…!」
「あっ、於菟さん!」
待っててくれたんですか?と笑う祐に於菟は悶える。
(今日初の笑顔…!眩しい!朝だからか!?祐が可愛すぎるからか!?)
ふぅ、と息を吐いて落ち着くと、改めて祐を見る。祐の髪ははねていて、服も少し乱れている。祐の顔は心做しか曇っていた。
「!!??」
その姿を見て、一瞬信じ難い事を想像する。いやいやいやいやと首を振り、何とかその想像を消すと、びっくりした祐に
「が、学校行こう!!」
と言った。祐は困惑しながらも頷いた。
(いや、さすがにそんな事無いよな…てかあったらヤバすぎる…ただ準備が出来てなかっただけだ…そんなんで変な想像するとか俺の方がヤバいだろ…落ち着け俺…落ち着け俺!!!)
於菟はオロオロする祐の手を優しく握ると早歩きで学校まで向かう。
「え、お、於菟さん!?」
「ごめん今ちょっと心落ち着かせてるから!!」
「は、はいすみません!」
やっと落ち着いた頃には学校前の交差点まで来ていた。校門を通過して昇降口まで向かう。
「ご、ごめんな、引っ張って…」
「大丈夫です…於菟さんは?」
「俺も落ち着いた…はぁ、こんな事で…」
「?」
「いや、気にしなくていい。」
上履きに履き替え、自分達のクラスまで向かう。
すると2組と3組の間の廊下に人だかりが出来ていた。
「ん?何かやってんのか?」
「僕達も見に行ってみましょう!」
鞄を背負ったまま人だかりに向かった。
「1つくださーい!」
「こっちにもくれ!」
「俺も俺も!」
於菟と祐は人だかりを見て驚いた。
学校の生徒が、生徒との間で売買をしていた。
「!?」
「な、何をしてるんですか!?」
於菟が生徒の1人の持っている物を見ると、新聞だった。
「お前らも1つ買うか?」
新聞を於菟達に差し出しながらそう話しかけてきたのは、3年1組の貂鷺 辰双だった。
「いや要りません!何してるんですか!?」
「何って、見ての通りだよ。俺、月に2回ここでこの廻拝の色んなニュースを詰め込んだ新聞売ってんの。知らない?」
「今知りましたそんな事!」
於菟はいつの間にか行われていた新聞売買に驚く。その間にも辰双は新聞を生徒達に渡している。
「はーい10円♪放課後までな〜」
「3つお願い!」
「ほい♪30円♪」
(本当に金取ってんのかよしかも!?)
しれっと祐が新聞を受け取り、新聞を見る。廻拝の名所やある生徒の醜聞、先生の噂などが書かれていた。
「於菟さん、この新聞良い所と悪い所がはっきり分かれてます…!」
「もう読んだのか!?」
すると辰双がずいっと祐に近づき
「読んだなら買ってくれよな?」
と言った。祐はブンブン頷いた。
「何でこんな事してるんですか…」
「俺、噂とか集めるの好きなんだよな♪だから集めた噂をこの学校の生徒にも知って貰おうと思って♪」
先生が来たりしないのだろうかと思っていると辰双が
「あ、先生には許可取ったから」
と言った。
(許可取れたのかよ!!?)
「えっと、今日は何回目ですか?」
今日1回目だから今月は2回目もあるぜ★2週間後を予定中♪」
「今度も買うのか…?」
於菟が不安気味に聞くと、祐は少し考える素振りを見せて
「内容次第ですかね…」
と言った。
「読んだら買ってくれよ?」
「あ、えっと、はい…」
辰双はニコッと笑って
「放課後までに3の1の前にある箱に10円入れといてくれ!入れなかったら次号の新聞に名前出すからさ♪」
と言う。
「怖いですね…」
「わ、分かりました…」
人が多くなってきたので、於菟と祐は自分のクラスに行く。クラスの人も新聞を買っていた。
「どんなのが載ってるんだ?」
「一緒に見ましょう…」
祐に新聞を渡され、それを眺める。
(O先生が宝くじ3等…どこ情報だよホントに…1年のTさんが2年のIさんとキス…これ作ってんのさっきの辰双って奴なんだよな…もう気持ち悪ぃぞここまで来ると…)
どこからそんな情報を得ているのかと若干引いていると、ある文章に於菟は固まる。
《OとY、両想いか?ここに薔薇、生まれる》
「…………」
「於菟さん…?」
心配する祐に何でもないと言うと、新聞を返した。於菟は鞄から教科書類を取り出して机にしまう。クラスから聞こえるひそひそ声に舌打ちをしつつも、準備を終えて鞄をしまいに行った。
「新聞に載ってるー」
「マジキモイ」
「クラスの事考えて欲しいよねー」
(うるせぇ…てめぇらだって同じだろうが。)
はぁ、と息を吐くと席まで戻る。祐はまだ新聞を見ていた。
「祐?準備しねぇのか?」
「あ、今やります!新聞に集中してて…」
祐はそう言って新聞をしまい、準備を始める。祐の顔は曇っていた。
(祐…あの文を見たのか…)
辰双を1発殴りたいと思ったが、そうなったら絶対記事にされるのは分かっていたので何とか抑える。自分達を見てひそひそと何かを話している女子を睨みつけると、席に座った。
「祐、次の新聞買うのか…?」
「………やめておきます……」
祐は俯いてそう言った。




