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始業式の日

 4月12日_

 ついにこの時がやって来た。櫻木 於菟(さくらぎ おと)はそう思いながら昇降口まで向かう。

 廻拝(かいはい)高校は1年毎にクラス分けが行われるので、昇降口の扉にはクラス分けの紙が貼ってある。

(今年が最後の望み…叶ってくれ、頼む!)

 於菟は、1年の時にたまたま見かけた別のクラスの生徒を好きになっていた。2年の時は同じクラスになれず、話しかけようにも話しかけられなかった為、今年こそは同じクラスになって欲しいと願っていた。

(まずは友達になる所からだな、それで友達になって仲が深まってきたら思い切って告白か!?でも…)

 そう思いながら歩いていると昇降口前の扉まで辿り着いた。於菟は急いで自分の名前を探す。

「!!!」

 すると、3組の男子の欄に自分の名前があった。

 そして、もう1人。

 [8番 櫻木於菟 9番 朱野祐]

 於菟の好きな同級生、朱野 祐(あかの ゆう)の名前があった。

(よっしゃあああああ!!!)

 思わず心の中でガッツポーズをする。同じクラスになれただけでなく、出席番号も1個違い。これは日頃の行いを認めてくれた神が自分に与えてくれた褒美なのだろうと於菟は思った。

「ありがとうございます神様…」

 於菟はそう呟いて昇降口に入った。


 上履きを履いて教室に入った於菟は、自分の席に座る。祐はまだ来ておらず、祐の席はガランとしていた。

(祐が来たら挨拶して…それで友達になろうって誘って…)

 祐が来るまでの間にどうやって祐と接しようか考えていた於菟は、ふと後ろを見た。

「!!?」

 思わず席を立ち上がる。

「えっ!?」

 もう席には、祐が座っていた。

「え、え、いつの間に…!?」

「え、あ、は、初めまして…」

 お互いドギマギした状態で見つめ合う。於菟は恥ずかしくなり、目を逸らした。

 すると祐が

「あの、僕、祐です…よろしくお願いします。」

 と自己紹介をした。突然の祐の自己紹介にしばらく固まっていた於菟はハッと我に返ると

「あ、俺、櫻木於菟!よろしくな!」

 と自分も自己紹介した。あ、と何かに気づいた祐は

「あ、苗字朱野です!言い忘れてしまってすみません!」

 と謝った。それを聞いた於菟は

(ちゃんと苗字も言う所可愛い…)

 と思いながらも、友達になろうと話を持ちかけようとした。

 すると

「あ、僕、ちょっと昇降口まで戻ります!自分の名前しか見てなくて、他の人の名前見てなかったので!」

 と言って祐は教室を出ていった。

(いや廊下に紙貼ってある…でも可愛い…)

 於菟は祐を見てそう思った。

 祐が戻ってきた後、於菟は改めて話を持ちかけようとしたが、チャイムが鳴って先生が来てしまったので、タイミングがあったら話しかけようと思った。

 始業式の為体育館に移動する際、於菟は席に座ったままの祐に話しかけた。

「移動するぞ?」

「あ、そうだった…ありがとうございます!」

「あぁ…」

 どうやら始業式の事を忘れていたらしく、祐は急いで席を立ち上がり廊下に移動する。於菟も鞄をロッカーにしまった後に廊下に出た。

(明日から祐と一緒のクラスで過ごす事になるのか…すげぇ学校が楽しみになるわ…)

 於菟はニコニコと笑った。


 そして始業式が終わり教室に戻ると、於菟は祐に話しかけた。

「なぁ、祐…」

「え、はい、何ですか?」

 しかし、緊張と不安で言葉が上手く出せず、目を泳がせる。祐はそんな於菟を不思議そうに見ていた。

「…?」

「あ、えっと、その…」

 “友達になりたい”と言えず、こんな自分を情けないと思う。どうすればいいのだろうと祐をチラッと見た。

 すると祐は鞄から何かを取り出していた。

(え、何を取り出してるんだ?)

 祐が取り出した物は、手帳とペンだった。

「あの、言いたいことが上手く言えなかったら、これに書いて渡してください。」

「え…」

「そうすれば、上手く言えなくても伝えたい事が分かるので!」

「あ…ありがとう…」

 手帳とペンを受け取った於菟は、手帳を開いて書き込む。しばらくして書き終わった手帳とペンを祐に返した。

「あ…そこに、とりあえず今の気持ち書いといたから…返事、くれると嬉しいっつーか…」

「はい!じっくり読ませていただきますね!」

「いや、じっくり読まれると…」

 祐は手帳を受け取ると、ペンをペンケースにしまって手帳を捲り始めた。

(今読むの!?)

 祐は言った通り手帳をじっくり読むと、顔を赤面させて於菟の方を見た。

「えっと…」

「あ…いや、返事は今じゃなくても…」

 於菟がそう言って廊下に出ようとするが、祐がそれを止める。

「今言わないと忘れちゃう気がするので、今言います!」

 祐は於菟が自分を見ているのを確認すると、深呼吸してこう言った。


「友達に、なりましょう!」


「……あ、ありがとうっ……!」

 あまりの嬉しさに口元を押さえて心の中で悶える。ニコッと笑う祐を見て、於菟は自分の手で顔を覆った。

「於菟さん!?」

(あぁぁぁ好きぃぃぃ………!!)



 そして2人の、たった1年の学校生活が始まる……_






《祐へ

 手帳とペン、ありがとう。

 急に話しかけてごめんな。俺、気持ちを伝えるの下手だから…

 俺、祐の事が気になってて、今年一緒のクラスになれて嬉しかった。それで、ずっと言いたかった事をここに書く。

 友達になって欲しい…

 それで、一緒に勉強したり弁当食ったりしてお前ともっと仲良くなりたい。

 ダメならダメでいい。自分の気持ちにちゃんとケジメを付けたいから。

 祐と一緒に居れたらそれでいい。

 これから1年間、よろしく。 於菟》




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