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第八話 伝説を語り継ぐ町リュデル

 翌日、リュデルの大通りは出店や人で溢れかえっていた。


 昨晩、例の夢を見て、女の子に何か衝撃的なこと言われたような気がするが、思い出せなかった。


 なんて言われたんだっけ?


 そんなことをぼんやり考えながら、なんとか人混みの中を抜けて、リュセットたちが宿泊しているホテルに辿り着いた。


 彼女たちは既にホテルの前でアランたちの到着を待っていた。


「おはようございます、アランさん、ラウルさん」


 お互いに挨拶を交わして、ホテル前の大通りを下り始める。


 ルージュと名付けられた幼竜の体調はだいぶ良くなったが、まだ完全に元気というわけではないので、ホテルに置いてきて、面倒を見てもらっているとリュセットから聞いた。


 伝説語りは、町の端にある円形劇場で午後が過ぎてから行われる。それまでは昨日決まったとおり出店を見て回る予定だ。


 ラウルはそうそうにアランたちと別れた。向こうで剣術の試合をしているようだから見てくるとのことだ。相変わらずだ。


 リュセットは好奇心旺盛で、出店の商品に目を輝かせている。


「この木彫りの置物かわいいですね。何の生き物でしょう? 

 ミュリエル、あなたは知っているかしら?」


「なんて綺麗! こんなものは初めて見ました!

 ほら、ミュリエルも見て」


「これは何かしら? 香ばしい匂いがしますが、

 ミュリエルは食べたことある?」


 ミュリエルは困り果てた顔をして、アランに手招きした。


「リュセット様、ご存知のとおり、私は幼少の頃から

 リュセット様の側仕えをさせて頂いております。

 ですので、この手のものは存じ上げません。

 ですが、今回私達は幸運にめぐまれております」


 こちらを向いて微笑んでミュルエルは続けた。


「そう、私達にはアランくんがいます」


 アラン……く……ん?


「さあ、アランくん、リュセット様にいろいろと説明してまわってちょうだい。

 リュセット様、私は人混みに少々酔ってしまったようですので、

 あちらで少し休憩しておきます」


 これはどうやらミュリエルはこのことを面倒だと思っていて、アランに押し付けたようだ。


 その後、ミュリエルはアランの方を向いて小声で言った。


「くれぐれもリュセット様とはぐれたり、

 危険な目に合わせたりしないように。

 何かあったら、ただじゃおかないからね」


 昨日ミュリエルが盗賊たちをあっという間に捕らえたことを思い出して、アランはうなずく。


「は、はい、命に変えても」


 そんなに大事なら、自分で面倒見れよとは口が裂けても言えない。


「ではお二人とも祭りを楽しんで来てください。

 お昼ごろになったら、この木彫りの置物の店前で待ち合わせということで」


 そんなこんなで、午前中いっぱいリュセットの面倒を見ることになった。もちろん、シロも一緒だ。シロはいつものカバンの中で眠っている。


「えっと、この木彫りの置物は、イノシシをかたどったものです」


「イノシシ? 食べたことはありますが、

 こんなにかわいい生き物だとは知りませんでした。

 これからはもう食べられないでしょう……」


「あ、実際のイノシシはこんなんじゃなくて、

 大きくて、牙が鋭くて、危険な生き物ですよ」


「これは木の実を軽く煎ったものです。

 せっかくですから、買って食べてみましょう」


「ほのかに甘いのですね。意外と美味しいです」


「アランさん、あちらにも行ってみましょう。

 きっと面白いものがたくさんあるに違いません」


 ミュリエルがリュセットの世話を託した理由をなんとなく察したが、アランはこれも悪くはないなと思った。好奇心に溢れ、はしゃいでまわるリュセットを見るのは楽しかった。


 貴族だから、庶民の祭りを見ることも少ないのだろう。のんきにそんなことを考えていると、いつの間にかリュセットの姿が見えなくなった。


 大変だ。ミュリエルの言葉を思い出して顔が青くなる。


 幸い、近くの出店の商品をかがんで物色していただけのため、すぐに見つけることができたがこれは危うい。


「リュセットさん、こう人が多くては今みたいにはぐれる可能性があります。

 ですので、手をつなぎましょう」


 言った後でアランは自身が大胆な提案をしていることに気づいて顔が赤くした。リュセットは少し恥じらった様子だったが承諾した。


「そうですよね。こう人が多いと、はぐれると大変ですものね……」


 自分を納得させるかのようにそう言って手を伸ばしてきた。


 彼女の手は一回り小さかった。昔もこうやって誰かと手を繋いだことがある気がするように感じられた。

 妹のクリスだっただろうか?


 それから二人は引き続き店を見て回る。


 リュセットが質問して、アランが知っている範囲で答える。


 楽しい時間だった。


 午後を知らせる鐘がなったとき、アランたちはガラス細工の工芸品の店を見ているところだった。


「お昼になりましたね。まだ見ておきたいところですが、

 ミュリエルたちのもとに戻りましょう」


 木彫りの置物の店前に戻るとミュリエルはもちろん、ラウルも待っていた。


 ミュリエルはアランとリュセットが手を繋いでいるのを見て奇声をあげた。


 繋いだままが自然の状態になっていたので、手を繋ぎっぱなしだったことを完全に忘れていたのだ。


 二人は顔を赤くして、パッと手を離した。


「えっ、えっ。リュセット様!

 アランさん、これは一体どういうこと!?

 私が、私がひと時の自由を求めたばかりに!

 リュセット様に悪い虫が!」


 ラウルはニヤニヤしてアランたちを見ている。


「ち、違うの、ミュリエル。

 これは、人が多かったからはぐれないように、ね」


 ミュリエルの疑うような視線がアランの方に向けられた。


「リュセットさんの言うとおりです。

 ほら、はぐれると大変って脅し、

 いや、言ったのは、ミュリエルさんじゃないですか」


 ミュリエルは不信の視線でアランを見ていたが、渋々納得したようだった。


 アランたちは露店で軽食と飲み物を買って劇場へ向かった。大勢の人がそちらの方に向かっていたので場所はすぐに分かった。


 円形劇場は丘に建てられていて、数千人収容できるような立派な石造建築物だった。既に席には多数の観客が座っており催しの開催を待っている。


 空いている席を見つけて腰を下ろした。ラウル、アラン、リュセットの順番になりそうだったが、アランとリュセットの間にミュリエルが割って入った。


 リュセットの隣に座らせたくないというミュリエルの気持ちがうかがえる。未だアランを悪い虫として警戒しているようだ。


 開演までの間、先程買った昼食を食べていると、どんどん劇場が人で埋め尽くされていく。人がいないのは劇壇だけだ。


「もうすぐ始まりますね。楽しみです」


 リュセットがワクワクしながら目を輝かせている。


 劇壇の方に再び目を戻すと、リュートを持った吟遊詩人が舞台に上がっているところだった。杖を持った魔術師、演奏団も彼に続いて登壇する。彼らは演出家だろう。大きな劇場では、魔術師が魔法で劇に彩りを加えると、アランは父親から聞いたことがあった。


 そして、最後に恰幅の良い初老の男性が登壇した。


「皆様、本日は伝説を語る町リュデルまでお越しいただきまして、

 誠にありがとうございます。

 私はこの町の町長を務めているジャン・ミンストレルと申します」


 劇場いっぱいに良く響く声で町長は挨拶をする。


 吟遊詩人のリュートの音が会場に響き始め、それに合わせて魔術師が劇壇に用意された燭台に魔法で火を灯す。


「伝説の時代、大賢者様に同行された吟遊詩人リュデル様がこの町に辿り着き、

 余生を過ごされたとされます。

 それ以来、この町は伝説の吟遊詩人様の名を戴くことになりました。

 さらに今ではこの町出身の偉大な吟遊詩人には、リュデルの名が贈られます。

 本日皆様に伝説を語っていただくのは、

 リュデルの名を贈られた当代一の吟遊詩人、ジョフレ・リュデル氏です」


 リュートを弾きながら、紹介された吟遊詩人が軽く挨拶をする。


 客席から拍手喝采が沸き起こった。


 リュセットは変わらず目を輝かせながら、精一杯拍手している。ミュリエルは足と手を組みながら、興味深そうに村長の話を聞いている。ラウルは会場の空気に飲まれたのか、剣術以外では珍しく真剣な表情をして劇場を見ている。


「皆様の盛大な拍手、ありがとうございます。

 それでは伝説を語り継ぐ町リュデルの祭り、

 最大の見世物を始めさせていただきます」


 村長が口上を述べ終えると、吟遊詩人が哀愁漂う声で伝説語りを始める。


「これから語るのは千年前に実際にあった出来事、

 人と竜の争い、それに終止符を打った大賢者様、神竜様、

 そしてネウストリア王国王家の始祖ロイック様のお話です。

 皆様最後までお楽しみください」

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