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第三話 父親の推薦

 あの夢を見てから一週間経った日の夕食の席でのことだ。


 突然父アルマンが咳払いをして、家族皆の注意を惹きつけた。


「アラン」


 自分に声がかけられると思っておらず、水を飲みながら、スープに浮かんでいる肉を、フォークで刺そうとして四苦八苦していたアランは、思わずむせ込みそうになった。


「は、はい。父さん」


 動揺を悟られまいと平然とした口調で答える。


 母アルフォンシーヌはこれから何が起こるのかを知っているような表情をしている。

 ラウルとクリスは困惑した顔をしていた。


「実はな、俺はお前にはもっと外の世界について知って欲しいと思っている」


 アランは黙って頷いた。父親の日頃の態度から、それは何となく伝わっていた。


「それでだ。魔法学園にいる古い知り合いに、

 お前を入学させてもらえないかどうか手紙で問い合わせていた。

 そして今日、魔法剣士科の入学試験を受けることを許可する、

 と学園から返事が返ってきたわけだ」


 魔法学園の入学試験? 僕が? あまりにも予想していない内容だったので、父親が言った言葉の意味をアランが理解するのに、しばらく時間がかかった。


 アランが何も言わないのをみて、アルマンは続ける。


「お前に何も言わずに問い合わせたのは悪かったと思っている。

 正直、俺からの推薦で許可を得られるとは思っていなかった。

 ぬか喜びさせるのは良くないからな」


 魔法学園への入学。それはアランが想像したこともないことだった。


 漠然にいつかこの村を出て行くような気はしていたのだが、そのいつかがこんなに早く訪れるとはアランは思ってもいなかった。ここでの選択が重大な人生な分岐点になるってことをアランははっきりと理解していた。


 もちろん、アランには魔法を学びたい気持ちがある。

 父親の背中をみて育ち、父親から魔法剣士の話を聞いているうちに、いつの頃からか魔法剣士になりたいと強く思うようになっていた。


 剣術では絶対に敵わないラウルに、魔法では勝っているからという気持ちがあるのも大きかった。

 そう、返答は始めから決まっていて、アルマンもそれが分かっていたからこそ魔法学園に問い合わせたのだ。


「父さん、ありがとう。僕、魔法学園の試験に挑戦してみるよ」


「そうか……やはり魔法剣士になる道を選ぶか」


 感慨深そうに父さんは言った。何か昔のことを思い出しているような表情をしていた。


「えっ、お兄ちゃん、家から出ていちゃうの?」


突然の展開に、今にも泣き出しそうな顔でクリスがアランの方を見る。


「クリス、ごめんな。だけど僕は父さんのようになりたいんだ。

 それに次男の僕は、遅かれ早かれここを出ないといけないことも分かっていた。

 それがたまたま今ってだけだよ」


クリスは納得したようには見えなかった。


「クリス、アランが自分で決めたことよ。応援してあげましょう」


 母アルフォンシーヌが諭すように言う。


「お兄ちゃんとも、シロとも離れるの嫌だよお……」


 泣きながらそう言って、クリスはシロを抱きかかえて、二階に駆け上がって行った。自分の部屋に閉じこもってしまったようだ。肉を食べるのに夢中だった幼竜のシロはクリスにされるがままだった。


 アランが家を出るということは、シロも一緒に家を出るということだ。

 それはクリスにとってはとても辛いことだということは、アランには十分理解できた。


「クリスは物分りの良い子だ。いずれ分かってくれるだろう。

 今はそっとしておいてあげなさい」


 父親にそう言われ、立ち上がってクリスを追いかけようとしたアランは、再び席についた。


「それで入学試験を受けるにあたってだ」


 アルマンは話をもとに戻す。


「まず、試験は魔法学園で行われるので、魔法学園に行く必要がある。

 そして、この村から魔法学園までは徒歩で半月の距離がある」


「遠いな」


 ラウルがつぶやく。アルマンはそうだと首を縦にゆっくり振った。


「そこでだ、ラウル、お前に頼みたいことがある。

 魔法学園シオンまでアランに付き添ってやって欲しい。

 一人で行かせるには流石に遠い。

 それに最近、リュデル付近の街道で盗賊が出るという噂を聞いた。

 盗賊たちの中には元兵士も混ざっているそうだ」


「そりゃあ、確かにアランだけじゃ危なそうだ。

 引き受けたぜ、親父」


 即断即決。アランは躊躇せずに答えた。


「助かる。もし盗賊たちに出くわしたとしても、お前とアレン二人いれば、

 元兵士ぐらいであればなんとかなるだろう。だが油断はするな」


 ラウルは黙ってうなずく。


 父さん、いくらなんでも少年二人でも兵士に敵うとは思えないぞ。とアランは心の中で呟いた。


「親父、ちょっと質問があるんだが、

 魔法学園ってそんなに簡単に入れるものなのか」


「なんだ、ラウル、お前も入学したいのか」


 父さんが笑いながら言う。


 ラウルは首を振って全力で否定した。


 身体を動かすのが好きで、勉強が苦手なラウルにとってその選択肢は絶対にない。

 もちろんアルマンもそれが分かっていてからかっている。


「魔法学園への入学は試験結果次第だが、

 試験を受けるためには推薦が必要になる。

 推薦するのは、大抵、入学希望者の出身地の貴族が多いな。 

 優秀な魔術師を輩出すれば、それだけ自分の名に泊がつくし、

 推薦した者が魔術師として戻ってきたら、領地の発展に貢献する。

 だから、魔法の才能を持つものを熱心に探す貴族も多い」


「ってことは、推薦されること自体は難しくないのかな」


 アランが疑問を口にする。


「そういうわけでもない。

 推薦された者が魔法の才能がなかったり、

 才能があっても学ぶ意欲が無い者だったりすると、

 魔法学園からの信頼が下がる。

 そういうことが度重なると推薦すらできなくなる。

 だから貴族たちはちゃんと人となりも見た上で判断するんだ」


「なるほど。確かにアランだったら大丈夫だな」


「そうね、アランなら大丈夫ね」


 ラウルは納得したようだった。

 父親も母親も頷いてアランを見る。暗に褒められてアランは気恥ずかしさを感じた。


「推薦のそういった事情もあって、試験に落ちるものはほとんどいない。

 アラン、お前も大丈夫だろう。試験は剣術も魔法も実技だから、

 今まで学んだことを発揮するだけだ」


 試験と聞いて少し拒絶反応を起こしていたアランだが、父親にそう言われて一安心した。


「さて、出発日を決めんとな。

 試験が行われるのは伝説の五日間の間だ」


 伝説の五日間とは、千年前の戦争で、人と竜が和平会談を行った期間を記念日としたものだ。

 和睦の日、決裂の日、奇跡の日、希望の日、和平の日から成る。

 閏年には、和平の日の後に、閏年の日が入る。


「あら、リュデルのお祭りと同じ時期ね」


「おっ、そうだな。せっかくの機会だから、

 リュデルにも一日滞在して、祭りを楽しむと良い。

 伝説を語り継ぐ町と呼ばれるだけあって、

 祭り中は素晴らしい催しをしているからな」


 お祭りの話を聞き、アランはさらに気持ちが盛り上がるのを感じた。


「今日は実月の十六の日だ。多少の余裕を持って、

 奇跡の日に魔法学園シオンに到着、

 リュデルに一日滞在と考えると……

 出発は明々後日が良いな。

 これより早めに出発しても祭りを見るのなら、

 結局リュデルでの滞在費がかさむだけだからな」


 アランは既に父親の言葉を聞いていなかった。

 まだ見ぬ旅と学園生活に対する憧れと不安で胸がいっぱいで、それどころではなかった。


 その晩はなかなか寝付けなかった。やっとまどろんだかと思うと、夢うつつの状態で、またあの幼い女の子の夢を見たような気がした。


 今回、黒騎士は出てこなかった。こんなことは初めてだった。

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