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第十三話 魔法学園シオン

これまでのあらすじ


 主人公アランは故郷の村を離れ、入学試験を受けるため兄ラウルと魔法学園に向かっていた。


 その旅路の途中で、魔法学園の生徒で貴族の少女リュセットと、その侍女ミュリエルと出会う。彼女たちは盗賊から竜の子供を救い出そうとしていた。アランたちの介入もあり、盗賊を成敗し、竜の子供を救うことに成功する。


 リュセットたちと仲良くなったアランは、伝説を語る町リュデルの祭りを楽しみ、吟遊詩人が語る千年前の伝説を聞いた。さらに仲を深めた彼らは、共に魔法学園に向けうことになる。


 魔法学園に向かう途中で、アランたちは盗賊たちの待ち伏せに合い、さらに巨大な竜にも襲われるが、謎の魔法剣士マティスの手助けもあり、何とか危機を脱した。その際にリュセットが伝説の英雄の末裔で、王族の姫であることが判明し、竜の親から子供を託される。


 そして遂にアランたちは魔法学園に到達した。

 魔法学園シオンに入るには、湖の上に架けられた石橋を渡る必要があり、橋の入り口は門で守られていた。竜をモチーフとする堂々とした意匠が門の壁の左右両方に施されている。


 門の前には詰め所があり、学園の生徒や、入学希望者らしき若者、学園で商いをする行商人などが列を作っていた。


「守衛さんに受験票を見せれば、滞在許可証を発行してくださいます。

 ラウルさんにも受験者の同行者として、滞在許可証が発行されますので、安心してくださいね」


 列に並んでいる間、リュセットが丁寧に説明してくれた。


「へえ。結構、警備厳しいんだな」


 ラウルが意外そうに感想を述べた。


「それは、もちろん。ネウストリア王国の最高学府ですから」


 リュセットは誇らしげな様子だ。


 その姿を見て、ちょっと可愛いなとアランは思った。


「実際のところ、王国最高クラスの魔法剣士と、

 魔術師がいる学園で悪さしようっていのは馬鹿だけだから、

 滅多なことは起きないけどね」


 ミュリエルが説明すると妙な納得感があった。


「次の方どうぞ」


 やがて、アランたちの番が来て、守衛の一人に案内される。まだ若い青年だった。詰め所では複数の守衛が対応を行っていた。


 ミュリエルが身分証明書のようなものを二人分取り出して、守衛にみせる。


「これは、リュセット殿下!

 お帰りなさいませ。リュデルのお祭りはいかがでしたでしょうか」


「とても楽しめました」


 リュセットが笑顔で応じる。


「それは何よりでございました。

 おや? そちらの生き物はどうされたのですか?」


 リュセットが幼竜のルージュを抱きかかえているのに気付いて、守衛が質問する。


「あ、えっと、この子は――その、竜に託されてしまいました」


「なんと! それが竜の子供!

 生まれて初めて見ます。

 その――、竜の親は襲っては来ませんよね?」


「はい。正式に親の竜より託された子なので、安心してください」


「承知致しました。しかし、竜の子とは……。

 念のため、学園長と寮長には報告をお願い致しますね。

 では、リュセット殿下、ミュリエル様。門をお通りください」


 守衛はリュセットたちを丁重に案内し、そして、アランとラウルに、もの問いたげな眼差しを向ける。王族の姫と一緒にいたのが、どこの誰とも知れない田舎者の青年二人では無理もなかった。


「滞在目的は何でしょうか?」


「魔法学園の入学試験を受けに来ました。

 これが受験票です。こちらは僕の兄ラウルで、同行者です」


「……アラン・デュヴァルさんですね。

 失礼ながら、規定通り受験票が本物かどうか、確認させていただきます」


 守衛は小声で呪文を唱えて、受験票の真贋を見分ける。


「問題なさそうですね。少々お待ち下さい」


 正式な入学希望者と分かると、守衛の表情は和らいだ。小さな紙を取り出してアランの名前を書き、印を押す。


「こちらがアランさんとお連れ様の滞在許可証になります。

 無くさないようにご注意ください」


 アランは大事そうに滞在許可証を受け取り、付き人用の滞在許可証をラウルに渡した。


「城下町の宿に泊まる際は、

 受験票と滞在許可証を店主に提示してください。

 試験期間中であれば、受験者様とお連れ様の宿泊費は、

 魔法学園が負担致します」


「さすが王国の最高学府。太っ腹だぜ」


 ラウルが耳打ちした。守衛は説明を続ける。


「試験は午後から学園の中庭で行われます。

 受験票を持って、城門前の受付で手続きを行ってください。

 試験の詳細については、その際に案内されます。

 説明は以上となりますが、何か質問はございますか」


「あ、僕も竜の子供を連れているのですが」


 そう言ってカバンの中のシロを守衛に見せる。シロは右前足を上げ、きゅーと鳴いて守衛に挨拶した。


「何ですと! アランさんもですか!

 一日に二匹も竜の子供を見るなんて!」


 守衛は文字通り目を丸めていたが、やがてハッとしたように姿勢を正した。


「おっと、失礼しました。

 あまりに驚いて取り乱してしまいました。

 正式に入学が決まりましたら、アランさんも学長と寮長に報告してくださいね」


 何度も竜の子供と聞こえたからか、列の後ろの方がちょっとした騒ぎになっていた。


「分かりました。

 こら、シロ! カバンから出ようとするんじゃない!

 もう少しで出してやるから、今は我慢してくれ」


 守衛はアランとシロのやり取りを見て、顔をほころばせて、アランとラウルを案内する。


「では門をお通りください。

 アランさんの試験の成功を祈っております」


 門をくぐると、リュセットとミュリエルがアランたちを待っていてくれた。


「竜の子供って魔法学園でも見かけないものなのですね。

 ちょっと意外でした」


 橋を歩きながら、アランは守衛の驚いた顔を思い出していた。


「昔はいたらしいけれど、もう数十年も前の話って聞いてるわ。

 大人の竜はこの湖に住んでいると言われているから、

 たまに竜を見かけたって人はいるけどね」


「えっ、この湖には竜が住んでいるのか!」


「大賢者様の時代から一匹の白い竜がこの湖に住んでいる、

 と伝えられています。

 と言いましても、見かけたという話をたまに聞く程度で、

 実際のところ本当にいるのかは定かではありませんが」


ラウルは湖の水面を一瞥した。その顔は興奮を隠しきれず、先日の竜との戦いを思い出していることを物語っていた。


 橋を進みながら学園に目を向けると、改めてその大きさに驚かされる。城そのものが魔法学園であり、その学園を取り囲むように城下町が広がっている。


 城と城下町からはところどころ明かりが漏れでていて、黒い湖面を照らしている。湖は夜空の星々をその内に宿して輝いていた。夜の静けさと湖の清々しさを含んだ風がアランの頬を撫でる。


「ここに来る前に申し上げたとおり、美しい光景でしょう?」


 橋に備えられた松明の炎が、亜麻色の髪の縁取られたリュセットの横顔を輝かせる。


 うん、美しい、とアランは思った。


「はい、何というか――これからここで生活すると思うと感無量です」


「その気持ち、わたくしにも分かります。

 わたくしもここに初めて来たときは言葉を失いましたもの」


「ふふっ、アランくんもリュセット様も大げさね。

 まあ、ここは水がいっぱいあるから、居心地の良さは感じるわね」


「確かに良い景色だ。こいつは良い土産話がクリスにできそうだな」


 アランたちは橋を渡り終え、城下町へと入っていった。城に続く道の前でリュセットたちとは別れた。彼女たちは寮で寝泊まりをしているため、真っ直ぐ城の方に向かうからだ。


「アランさん。明日の試験、頑張ってくださいね」


 別れ際に、リュセットに応援され、アランは身体の内から力が湧き出るのを感じた。


「宿屋は数軒あるみたいだが、

 とりあえずここの宿で部屋が空いているか聞いてみるか」


 しばらくリュセットの言葉がアランの頭の中で鳴り響いていたが、ラウルの低音の声でかき消された。


「あ、ああ」


 ラウルは躊躇なく近くの宿屋に入っていく。


「いらっしゃいませ!」


 恰幅の良い女将さんが、快活な声でアランたちを歓迎した。


「魔法学園の入学試験を受けるアランと申します。

 こちらが受験票と滞在許可証です。ほら、ラウルも滞在許可証を出して」


「おう、これだな」


「ん? あれ? お客さん、以前うちに泊まったことありませんか?」


 滞在許可証を提出したラウルの顔を見て、女将さんは考え込むような表情をした。


「いや、俺は魔法学園に来るのは始めてだが……」


「気のせいかしら? あら、あたしとしたことが!

 お二人様ですね。受験者と付き添いの方ということで、

 宿泊費はいただきません。こちらが部屋の鍵になります。

 二階の一番奥の部屋ですね」


「ありがとうございます。食事は提供していますか?」


「食事は一階で取ることができますが、

 こちらはお代をいただきます。

 オススメは当店自慢の特大ふわふわオムレツ定食です」


「それ、二人前ください! あとこいつにも何かいただければ……」


 シロはもう耐えきれなかったのか、カバンの中から半分出ていた。女将さんは竜の子供に驚いていたが、クズ肉や魚の切り落としの盛り合わせを無料で提供してくれた。


 特大ふわふわオムレツは、その名に違わぬ大きさと柔らかさで、シンプルながらも上質な卵の味を堪能できる一品だった。アランはここで何度も食事できるように試験頑張ろう、と心の中で強く思った。


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