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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
99/164

第99話 府中動乱⑮

「もういなくなりましたね。行きましょう」

 東京競馬場の正門に屯っていた飴奴隷(キャンディソルジャー)は見えなくなった。

 神岐から先程の爆音は隕石によるものと聞かされた。

 それを暁美達には伝えない。余計な情報を与えると制御しきれなくなる。

 2人も爆音が何か不安なのだろうが、暁美に付いていた男、牧村が意図せず近くにいるかもしれない。

 早く東京競馬場に入れば少しは安心するというものだ。

(神岐様によれば再度隕石が降ってくるかもしれないとのことだ…)

 隕石と聞いて肝を冷やしたが、敵が神岐との対決を望まないのなら心変わりするまでの今を大事にしなければならない。

「「……」」

 2人とも無言で男に付いていく。

「義晴様……」

 不安そうな暁美の手を握る。

「大丈夫、もう少しの辛抱よ」

 奏音も不安だが暁美を励ます。

 励ますことで自分自身も落ち着かせる。

(こんな異常のオンパレードの中心に神岐はいるのよね。あいつ、相当裏があるのね。全部終わったら教えてくれるかしら?知った者は殺されるぐらいの闇なのかしらね)

「はぁ、はぁ」

 ピロロロンピロロロン

 自動ドアが開くと音が鳴る。

 さっきは敵の逃走検知器としてだったが今は位置情報サービスとしての役割がある。

 羽原ののは目が見えない中記憶を頼りにコンビニの外まで出て来れた。

(はぁ、くそっ、見えないわね。カラーボールってこんな感じなのね。水場に行きたいわね)

 コンビニで陳列されている飲料水なら手軽に水を手に入れられるが監視人に追われているからコンビニには戻れない。

 ののは携帯しているハンカチや腕で塗料を拭う。

 さっきよりはマシになったが全快とは言い難い。

 ピロロロンピロロロン

 監視人もコンビニの外に出て来た。

 マシになったおかげでどこにいるかとその距離感は掴めるようになった。

 しかし向こうは塗料を浴びてから少し時間が経過している。塗料が乾燥して拭き取りやすくなっているかもしれない。

(私がコンビニに戻って水を手に入れれば同じことをするかもしれない)

 外でどうにかするしかない。手持ちで武器になりそうなのはスタンガンのみ。

(次倒したら『一時の邂逅(ワンナイトラブ)』で記憶を消すしかないわね。『認識誘導(ミスリード)』とどっちが優先度が高いのかも調べなきゃならないし)


 1人の人間に対して2人の精神系能力者が能力を使った場合はどうなるのか?

 基本的には早い者勝ちだがそれが全てにはならない。

 例えば神岐が丹愛に仕掛けた『顔を見たら催眠にかかる』と言った条件付きの場合、条件を満たすまでに上書きをすることが可能となる。

 また、『甘魅了ポッピンキャンディ・フィーバー』の効きが浅い深いで『認識誘導(ミスリード)』の操り具合が変わっていることからどれだけ能力の影響下に置かれているかどうかでも変化する。

 絶対的に操ると言ったことは『()()()()()()()()()』によって不可能となっている。超能力(アビル)には必ず穴がある。その穴を限りなく埋められるのが強い超能力者(ホルダー)の必須事項となっている。


(おそらく『認識誘導(ミスリード)』下であれば私の接触型の『一時の邂逅(ワンナイトラブ)』は使えないが気絶させて『認識誘導(ミスリード)』による操作が出来ない状態であれば『一時の邂逅(ワンナイトラブ)』で記憶を消去することは可能なはず。非接触の記憶消去については判断が付かないわね。こればかりは検証が必要で今その検証を行う時間がないしサンプルケース1では確証が得られない)

 精神系・操作系能力者はこのように自身の能力が効くかどうかの見極めが非常に大事だ。

 効かないのに能力を使えば無駄撃ちになるし弱点を露呈させてしまうことになりかねない。


 男は大振りで横から腕を振るう。

 真っ直ぐだといなかった時に空振りになると踏んでだ。

 殴られることがギリギリ分かったののは腕を上げて顔面をガードする。

「グッ!!」

 何とか腕で受け止めたが振り切った勢いでそのまま斜め後ろに吹き飛ばされた。

 あまりの威力に受け身を取れずそのままアスファルトに倒れてしまう。

「痛っ!っつーーー」

 どこか肌を擦りむいたようだ。チクリとした痛みに思わず顔を顰める。

(ただの筋力や体重差なんてレベルじゃないわね。神岐の『認識誘導(ミスリード)』でバフを受けてるみたい。飴奴隷(キャンディソルジャー)と同じね。このまま受け続けてもいずれ潰されるわね。何よりガード出来なければ一発で持っていかれる。ちっ、転んだせいで自分のいる場所が分からなくなっちゃったわ)

 ギリギリ交差点の形から自分の居場所は掴んだが男の追撃は止まらない。

(私がスタンガンを持っていることは知ってるのだから回避させる攻撃はしないわよね。私が避けきれずガードをさせるように攻撃をするはず)

 少しずつだが見えるようになって来ている。だがそれは向こうも同じ。

(まずは万全にならなきゃ!)


 ♢♢♢


「おい、あのコンビニ……」

「………なんだ?痴話喧嘩か?」

「……でも何か変じゃないか?オレンジ?」

 鬼束達が府中に向かって南下していると、反対にあるコンビニの駐車場で何やら男女がやり合っている。

 女が襲われているが何とかガードしているようだ。何故か男女共にオレンジ色なのが少々気になる。

「どうする?」

「どうするって…」

「んなもん……」


「「「そんな暇はない」」」

 これが何でもない時であれば助けたであろう。しかし今は非常事態だ。萩原時雨の救出のために時計を確認する時間すら惜しい。

 可哀想だとは思う。過去に俺達が憐れみの目を向けられ続けたのだから。

 けど人は、自分が動こうとは思わない。関わり合いたくないからだ。

 ホームレスの何をしでかすか分からない子供に近付く者なんて、汚れ仕事をさせたい人間か俺達を利用して自分に都合の良いストーリーを築き上げる者だけだろう。

 と、思っていたが……


「あの女…」

「「?どうした市丸兄」」

「……、…やっぱりだ。片手しか使ってない」

「…それは、怪我したからじゃないのか?」

「いや、違う」

 市丸はじっと目を凝らしてコンビニにいる女を観察する。

「ずっと通話してる?腕が耳に伸びてる。スマホに耳を当てたまま男とやり合ってる」

「通話ってことは……」

「あの女は、敵?じゃあそいつに襲いかかっている奴は……」

「神岐の息が掛かっている人物ってことだろう。俺達が監視されているんだから仮面の集団の関係者を神岐が監視していないわけがない」

 まさかの仮面の集団の仲間と思われる人物を発見した鬼束達。

「あの構図になるってことは、神岐と仮面の集団は繋がってないってことになるな」

「最悪なケースはなくなったな。だがこれから仲間になるかもしれない」

「仲間にすると言うより配下にしてドクターを追い詰めるかもしれない。仮面の集団と同じことを『認識誘導(ミスリード)』は出来るだろうし」

 神岐の好きにさせてはならない。だがあの女はドクターの敵だ。どちらにしてもドクターに不利になる。

「出来ればだが、あの男を封じて女を捕える」

「俺達を監視してる奴も見つけたいな。もしかしたら俺達があの女に対して何かしらアクションを起こすことが目的かもしれない」

「あの女が既に神岐の手に落ちていて芝居で俺達を誘っていることも否定出来ない」

 『認識誘導(ミスリード)』一つで選択肢は無限に考えられる。

「動きを封じるなら俺が行くべきか?」

「うーん、『氷鬼(ムーブスナッチ)』は時雨ちゃんを助ける時に使いたいが…、下手に温存する必要もないか」

「この中で一番適任なのは実録だよな」

「拘束道具はコンビニの物を使えば良いし、今この場所だと『色鬼(カラースナッチ)』と『高鬼(タワースナッチ)』はあまり発揮出来ないと思う」

 分断は危険だが神岐側の手駒を減らす絶好の機会だ。

「…なら任せる。丹愛、行くぞ」

「実録、すぐ追いついてこいよ」

 市丸と丹愛は南に向かって走り出した。


「さて、この群衆の隙間を縫って向こう側に行かなきゃならんのか」

(コンビニにいる女が仮面側だとして、俺達をずっと追っかけてたことになる。なのに使ったのは車による特攻ぐらい。これから分かることはあの女は非能力者、能力者としてもロングレンジに対応した手段は持ち合わせていないことになる。遠距離では効かないが神坂のように触れずとも相手に干渉する能力かもしれない。発動条件も分からない以上は下手なことは出来ないが…、舐めプはよそう。手早く済ませて2人に合流する)

 神坂戦の反省を踏まえて驕りの感情を消し去る。

 実録はなるだけ直線で行けるように進みながら群衆が途切れるのをじっと待つこととなった。


 ♢♢♢


 東京競馬場内部

 神岐との合流地点でありヘリコプターが来る場所。

 数十分前まではレースが始まろうとしていて観客は満員御礼だったが、今はもぬけの殻となっていた。

 いや、もぬけの殻は言い過ぎだったか。人はいる。しかしその大多数は血を流して倒れている。

 倒れている人間の中で生きている者は1人もいない。

 まだ死にたてホヤホヤなので死臭は出ていない。しかし流血が鼻には刺激臭となっていた。

 鼻だけでなく目にも有害だ。

「うっ!」

「死体は見ないでください。コンコースを過ぎてグラウンドまで出られれば大丈夫です」

 護衛の男は平然と進んで行く。

 平原暁美は恐怖で目を瞑って護衛の男の服を掴んで導かれるまま進んでいた。

 戸瀬奏音は自分の目と足で歩いていたがリアルの他殺体は有害だ。

 気持ちが悪くなるのを必死に抑え込んだ。

 ここで体調不良などなっていたら時間のロスだ。

(ここには敵はいないみたいだから大丈夫だろうけど…。私や暁美もこうなってたってことよね)

 鳥肌が立ってしまう。これは家に帰って気丈な振る舞いをしなくて良くなった途端に泣き叫んで発散しなければ到底自我を保っていられない。

 この極限の状況だからこそギリギリ戸瀬奏音としていられるみたいだ。


「馬の死体はないみたいね」

「ギリギリで避難させたみたいですね。人以外は操れないか耐えきれないかのどちらかですね」

 トラックに降り立った3人。

 活動している人は全員味方のことだったがこうやって競馬場の中央から見ると結構な数がいることが確認出来る。

 これだけ味方がいれば安心だ。平原も戸瀬も味方の多さで少しは落ち着くことが出来た。

「暁美、家の人に電話して頂戴」

「え、あ、はい。わかりました」

 暁美が慌ただしい様子で電話を掛ける。


「ファーー」

 戸瀬がその場に座り込む。

「ずっと移動しっぱなし、隠密行動ばかりで疲れちゃったわ」

「お疲れ様です。ヘリコプターが来るまで何かお飲みになりますか?」

「いや、今は液体は見たくないわ。血を見過ぎて無色透明でも血を連想しちゃうから」

「左様ですか」

「そういえば、あんたって名前は何て言うの?」

 名前を聞くタイミングがようやく出来た。

設楽(したら)柚乃(ゆの)です」

「柚乃?可愛い名前ね」

「あまり好きではないですけどね。Discordの通話でネカマ扱いされたことありますし」

「あぁ〜」

 おそらく柚乃という名前で女性だと思って近付いた口だろう。

「それは御愁傷様ね」

「初対面の人に驚かれるのも慣れっこです」


「えっ、もうすぐ着くんですか?」

 暁美の驚き声がこちらにまで聞こえて来た。

「随分と根回しが早い」

「過保護よ過保護。箱入りとも言う」

「なるほど、お嬢様なんですね」

「はい、東京競馬場です。今はそこに避難してますので、はい」

「あんたと神岐ってどういう関係なの?」

「昔から付き従ってる関係ですよ」

「ふーん。様付けなんて随分遠いのね」

「……確かにそうですね。考えたことなかったですね。でも神岐様は神岐様であることには変わりないので」

「…そ」

 若干の気持ち悪さを感じてしまう。暁美が神岐に心酔するのとは違う。それが当たり前のことだと受け入れているこの男の曇りなき忠誠心が、ただただ怖かった。

「はい、お願いします」ピッ

「どうだった?」

「ヘリコプターで救助に来るみたいです」

 ただ…、と暁美は続ける。

「2人までしか乗れないみたいです」

「どこの骨川さん()よ」

「……骨川?」

「…いや、こっちの話」

 流石にあの国民的漫画アニメを知らないなんてことはないが主人公でもない名前までは知らないようだ。もっと漫画とかアニメを見せてあげようと決めた奏音であった。

「あー、神岐が乗れないって話?」

「はい……」

「大丈夫よ。そもそも私達だけを電車で逃がそうとしてたんだし、神岐も別の手段で帰るはずよ」

「でも……」

 やはり意中の殿方を危険地帯に置きっぱなしにするのは気が引けるのだろう。

「…暁美。私達が最優先でならなくちゃいけないことはここを脱出すること。ここでウジウジして府中から出られなくなったらそれこそ神岐の思いを踏みにじることになる。前科者の話もう忘れたの?再犯するのやっぱり?」

「そ、そんなことは!」

「だったら!何も考えないこと。あんたが神岐を心配すればするほど神岐を侮辱するの。神岐が何とかするって言ってんだから大船に乗ったつもりで流れに身を任せれば良いの?……何よその目」

 暁美は奏音を睨んでいた。

「あまりにも冷たいんじゃないかって?心配するのは脱出してからよ。私達が安全になれば神岐は私達を気にせずにやれるわ」

「その通りです。正直に言うと2人が府中に居続ける限り神岐様は危険なんです。あなた方を人質に取られてしまうと何も出来なくなるからです」

 ずっと言わんとしていたがこのタイミングだ。設楽は思い切って言うことにした。

 奏音は薄々勘付いていたようだが暁美はそこまで思い至らなかったのか目を見開いている。

「そんな…」

「……駅から飛び出したことは良いわ。イエローカードだけど。…次はないわ。分かる?私達は神岐の邪魔を現在進行形で続けてるの。あんたが、私が、我を通すたびに神岐は追い込まれていくの」

 一番の悪手は府中に残ったことよりもみすみす敵側と繋がってしまったことだろう。あの時の暁美には分かりようがないが、それでも人質戦術の余地を与えてしまったのは神岐への大ダメージになっただろう。

「で、後何分でヘリは来るの?」

「………あと5分もかからないと」

(5分。まぁ整備とか動作確認もろもろのロス考えたらそのくらいか)

「乗車するのはあんたと私。神岐を信じて神岐は府中に置いて行く。いいわね?」

「………はい。分かりました」

「設楽、あんたも大丈夫よね?」

「心配無用です。あなた方の脱出を確認したら私も神岐様と合流して脱出します」

「なら大丈夫ね。後5分……」

 5分ここで待てばヘリが来る。着陸、乗車、離陸にどれだけかかるかは分からない。

(それまで私が守り続ければ良い話。外から入ろうにも同志達が固めているから人が侵入することはない。問題なのは…、隕石が当たらないかだ。牧村という男は神岐様との対決は避けているとのことだからヘリを撃墜することはないだろう。ヘリが来ることは牧村も聞いていたはずだし。いや、楽観してはダメだ。常に最悪を想定しなければ)

 終わりは近い。


 ♢♢♢


「お待たせ。いやぁ、時間が掛かっちゃったわ」

「ァァァァァァァァァァァァ、ァ…」

「…随分と飴をあげたみたいですね」

「隕石なんて世界の終わりだと思うからね。酔いが覚めた人が多くて困るわ。むしろ精神安定剤よ」

 東京競馬場から東に離れた公園で、舟木真澄と九重那由多は合流した。

「ここからどうしましょうか?」

「そうね…、『頭上注意(メテオライト・サテライト)』の射程からは抜けたほうがいいわね。隕石のたびに飴奴隷(キャンディソルジャー)を強制させるのは骨が折れるし」

「牧村がいない以上は少しでも離れた方が良さそうですね。神岐の要求も満たすことになりますし」

「少なくとも東京競馬場での用事?が終わるまでは従っても良いでしょう。要求を飲めば2人を解放すると言ってるんだから」

「…随分と信じるんですね。神岐の超能力(アビル)なら反故にして私達を操作することも出来るでしょうに」

「反故にして私達が全員殺されてもお嬢様とかが生きている。神岐の『認識誘導(ミスリード)』は万能に最も近いけど無敵ではない。電話越しには効かないことが分かったし。攻略の手が全くないわけではないわ。超能力(アビル)の攻略に不可欠なのは能力を正しく知ることよ」


 強い能力者に勝つためには命も捧げる必要がある。

 命を捧げることで発動する能力、命を消費することで強化する能力も存在する。

 リスクが大きいほど得られる力は莫大に増える。

 『認識誘導(ミスリード)』のようなチート気味の能力に勝つにはリスクを負わないといけない。

 この場合ではリスクというより命のバトンで情報を繋いでいくというのが正しい。

「さぁ、行きましょう。ひたすら東に向かえば良いでしょう。反故にされたら飴奴隷(キャンディソルジャー)を拡散させれば良いのよ。私達が遠くに行けば行くほど神岐は収拾に時間がかかるわ。業君の炙り出しも出来るし」

「…なるほど、そうですね」

「それよりも心配なのはののね。1人で大丈夫かしら?追っかけてた3人組に逆襲されてないといいけど」

「…スタンガンくらいしか武器になるものがないですしののさんの『一時の邂逅(ワンナイトラブ)』もこの状況では使い道がないですもんね」

「こればかりは無事を祈るしかないわね」

 舟木と九重は競馬場通りをひたすら東に向かって歩き始めた。


 ♢♢♢


「はぁ、はぁ」

 攻撃をガードしてダメージを最小限に抑えても0にはならない。

 ガードもいずれは崩壊する。

(腕はもう、使い物にならないわね。腕を上げるのが精一杯で握力もゴミになっちゃった)

 『認識誘導(ミスリード)』によって限界まで強化された人間。想像以上に強い。

(人間の動きを超えている。受ける私も限界だけど殴る方も筋肉が痙攣して疲労骨折してるかもしれない)

 それでもなお動き続ける。痛みもなくひたすら与えられた命令に従って最期まで働き続ける。

 壊れない自立思考ロボット。シンギュラリティとはこういうことなのだろうか。

 戦闘タイプではない羽原ののには隙を伺う気力すら失われていた。

(もう、辛い……)

 視界が見えるようになった。しかし、逃げる体力はもう残されていない。見えるようになってしまったが故に、相手の攻撃がクリアに見えるが故に、反射的にビビってしまう。

 男は表情一つ変えない。苦悩も苛立ちも何も感じられない。無表情に攻撃を続けている。


(あれが認識誘導(ミスリード)で操られた人間か…)

 実録は人の切れ目が生じたタイミングで道路を渡った。

 コンビニの駐車場の外で2人の様子を観察していた。

(仮面の集団とは動きが段違いだな。理知的というか効率的というか。操るにしてもここまで精密に詳細に命令出来るものなのか…)



 神岐の『認識誘導(ミスリード)』は人間を操っているようで少しニュアンスが違う。

 誘導とあるように、相手自身にそう思わせる、そうさせるのだ。

甘魅了(ポッピンキャンディ・フィーバー)』は飴玉で中毒にして相手の欲に付け込む。『認識誘導(ミスリード)』は相手の思考を誘導する。

 この2つは受け手側の捉え方が異なる。

甘魅了(ポッピンキャンディ・フィーバー)』の被害者が命令を受けた場合、中毒が浅ければ命令を拒否する。欲よりも自我が勝るからだ。だから命令に従わせるにはより多くの飴玉を食べさせるか時間をかけて飴玉を継続的に与え続けて中毒状態を深刻化させなければならない。

認識誘導(ミスリード)』の条件を満たした者が命令を受けた場合、命令を受けることが当然というように意識を改竄する。つまり動きは本人であり自我がある。しかしその自我が書き換えられている。被害者は自分が操られていることに気付かない。

認識誘導(ミスリード)』の命令を拒否するにはそもそも能力の発動条件を満たさないようにするか、意識を改竄されないようにするしかない。

甘魅了(ポッピンキャンディ・フィーバー)』の中毒が強い及川に『認識誘導(ミスリード)』の効きが悪かったのはこの意識の改竄よりも飴への渇望が強く理性が壊れていたからだ。

 それでも及川も結局は改竄出来たからやはり能力の発動条件を満たさないのが最善手となる。


 ♢♢♢


「んんんんんんんんんん??」

 府中に来ようとする人間を待ち構えている雪走一真。

 目を凝らす。

「………来てる……のかーーー?」

 もう一度目を凝らす。

 しかしさっきとは違う。


 『我が道を行く(アイムハイ)

 雪走一真の超能力(アビル)

 感情を昂らせることでアドレナリンを分泌する。それにより身体能力を強化する。

 感情が昂ることで常にハイテンション気味になって暴走機関車と化す。

 アドレナリンを分泌することにより限界を超えた動きが可能となる。

 今回は視力を強化した。

「………2人か」

 遥か前方に2名。府中に来ようとしているのを確認した。

 『我が道を行く(アイムハイ)』は使うと細胞や身体機能にダメージを負う。しかしそれをアドレナリンの分泌によりヘッチャラにする。ノーダメージにはならないが今のような一瞬だけ能力を使えばリスクはほぼなくなる。

(ようやっと鬼ごっこかーーー。いやぁ、はよ来いよなぁ。しゃーない。まずは元気に挨拶からいこかーーー)

 雪走は地面にしていた車から飛び降りる。

(んーーー、ま。挨拶だからまずは会釈代わりに一発……)


 ♢♢♢


 市民球場前交差点

 鬼束市丸と鬼束丹愛は府中を目指していた。

「どうだ?」

「あー、あんまねーな。コンビニとか商店で何かしらを盗っちまえば簡単に調達出来るが…」

「隕石で人の目が無くなっても監視カメラはあるだろうからな。下手なことをしてドクターの迷惑をかけるわけにはいかない。フリー素材を使うしかないな」

「こんな非常時でも権利にビクビクしなきゃいけないのか…」

 市丸の『色鬼(カラースナッチ)』、丹愛の『高鬼(タワースナッチ)』は物体を操作する超能力(アビル)。物がなければ能力は発動しない。

 しかし、いざ探すとなるとそう簡単に見つかるものではない。

 小石や捨てタバコでは小さすぎて能力を使う意味がない。かと言って大きい物は配色が多かったりそもそも持ち上げることが難しいくらい大きかったりして能力で操ることが出来ない。

「接近されたら俺は銀ナイフで応戦出来るが…、丹愛はないんだったよな?」

「あぁ、回収し損ねた。どこにあるかも分からん。もしかしたら神岐が持ってるかもしれんが…」

 市丸は自分達がいる交差点の信号看板を見つめる。

「…近くに球場があるのか。俺の『色鬼(カラースナッチ)』なら硬球。お前の『高鬼(タワースナッチ)』ならバットとか使えるんだけどな」

「市民球場とか言うくらいの場所なら監視カメラもないとは思うが…。市丸兄の『色鬼(カラースナッチ)』は操作限界時間があるから白一色だけじゃ厳しいよな」

「もだし、持ち運びの手間がな。『高鬼(タワースナッチ)』で運ぶのも良いが明らかに超常現象で一目でここにいますって分かるしな」

「市丸兄よりも縛りは少ないからな。逆に市丸兄は縛りが多すぎるよな」

「同じ色を連続で操作出来ないし1分しか操作出来ないし体積、重量と挙動が反比例だしつくづく使いにく……伏せろ丹愛!!」

 突然市丸が丹愛の腕を引っ張ってしゃがみ込んだ。丹愛も引っ張られた勢いでバランスを崩した。

 そして2人が立っていた場所に何かが物凄いスピードで通過して行った。

「っつ…、どうしたんだよ市丸兄!」

 受け身が取れず手を擦りむいてしまった。

「今、前から何かが来てた。あのまま立ってたらどっちかに当たってた」

 市丸が通過していった方向を見るが、何かが地面に落ちた様子もない。何もなかった。

「何かって、何だよ。神岐か?」

「分からない。神岐に操られている人間が何かしたんだろうか。だが何で今なんだ?府中に着いたわけでもない」

 前からということは府中市街からの攻撃になる。

「とりあえずここにいるのはまずい。一旦脇に隠れろ。直線上にいるとまた同じ攻撃が来る。急げ!」

「分かっ……やば!!」

 次は丹愛が気付いた。先ほど手を負傷したこともお構いなしに前方にダイブした。地面にマットがあるわけではない。固いアスファルトに前方からヘッドスライディングのように滑り込んだら無傷では済まない。

 丹愛が飛び込んですぐに、丹愛がしゃがみ込んでいた場所に何かが物凄い速度で通過して行った。

「グッ…」

 痛いし涙が出そうだが今は涙を流す時間すら勿体無い。

「い、市丸兄…。見えたか?」

「いや、何かまでは…。ただ、一瞬光ったように見えた。発光体か鏡とかの反射する物が付いた物かもしれない」

 捉えられないくらいの速度。大きさは手で持てる程度だが速さが異常だ。直撃すれば体すら飛ばされかねない。

「丹愛、今の2回をどう見る?」

 神岐と戦った丹愛。市丸や実録よりも神岐への分析は長けている。

「……」


「……いや、神岐ではない。神岐は計算で動くタイプだ。神岐なら今この瞬間に会話する隙を与えないし『認識誘導(ミスリード)』を使うならもっと俺達が近付いてからのはず。神岐が操っている人間にしてももっと数で押し込んでくるはずだ」

「神岐ではない…。コンビニの女の仲間か?だが今ではないよな。だし攻撃するなら女を襲ってる男や実録のはず」

 方向からして府中側から。2回の攻撃からこちらの姿を捉えて明確な攻撃意思を持って何かが投げ込まれた。

(人影はなかった。俺達が見えないくらい遠くからの攻撃)

(そんなの十中八九能力者だ!)

(俺達がドクターの仲間だと知られたのか)

 第3の攻撃は来ない。

 射線上ではないからか。

「「神岐でも女でもない全く別の超能力者(ホルダー)」」

 結論はそういうことになる。

「どうする?遠回りするか?」

「いや、直線的遠距離攻撃。黒煙を撒いた街道を渡る時に確実に攻撃される」

 市丸の予想は正しい。雪走は甲州街道に鎮座して街道を通って府中に戻ろうとする人間を捕えるつもりだ。そして黒煙の発生地点から南北の府中街道も見張っていた。

 雪走の警戒度…という名の鬼ごっこワクワクテンションは高まっている。街道を通る時には確実に見つかると言っても過言ではない。

「時間差突入で行くぞ。俺かお前かどっちかが敵の目を引けば残りが時雨ちゃんを助けに行ける」

「…なるほど、タイミングをずらして大通りに出れば片方はすり抜けられるって訳か」

「囮になれば実録が真っ直ぐ南下出来るようになるしな。俺が囮になる。丹愛、お前は俺が大通りに出て少ししてから大通りを渡れ」

「……」

 実録は相性が良いから残った。しかしここでの囮役は役に立たないから残ることになる。

「気にするな。制約の多い『色鬼(カラースナッチ)』では力不足だ。逆に奴と戦うことで経験値を積めるかもしれない。神原との戦いで多少の成長を実感している」

「……分かった」

 もう府中街道は使えない。2人はすずかけ通りを通って甲州街道に向かうことにした。


「おぉ、躱したか。んぉーーん。挨拶を返さないなんて礼儀がなっとらんなぁ」

(さてさて、お二人様はどう出るかな。こっちからこんにちはしてもいいが二手に分かれると面倒だ。何より追っかけて別の道から大通りを通過されたら敵わん。大通りで張ってる方が対応しやすいか)

「いいねぇいいねぇこのピリピリ感。楽しませてくれよお二人さん!」


 ♢♢♢


頭上注意(メテオライト・サテライト)

 第二弾が、府中に撃ち込まれる。

現在の状況

神岐義晴

府中駅そばで次の隕石を待っている


平原暁美・戸瀬奏音

護衛の男と共に東京競馬場内でヘリコプター待ち


鬼束市丸・丹愛

すずかけ通りを通って府中市街地に向かっている


鬼束実録

コンビニに向かっている


羽原のの

コンビニで監視人とバトル


舟木真澄・九重那由多

飴奴隷を連れて東京競馬場の東へ移動中


牧村桃秀

隕石を落下させてドクターを探している


雪走一真

府中に向かってくる鬼束達を攻撃



鬼束実録vs羽原のの

鬼束市丸・丹愛vs雪走一真

羽原ののは時間の問題ですが、雪走はノーダメで能力によって絶好調

どういう戦いになるんでしょうか?

前回リタイヤって言っちゃったのにしぶといな

逆に舟木真澄と九重那由多はどうしましょう?

この2人が競馬場に戻って来たらいよいよ収拾つかなくなるんでこのままフェードアウトかな?


神岐は隕石待ちなので動きはありませんでした。

しかし、牧村がようやく2回目の隕石落下を仕掛けました

神岐義晴vs牧村桃秀も期待出来る?


平原暁美と戸瀬奏音はついに最終地点の東京競馬場に到着

護衛の男、設楽柚乃と共にヘリを待つ。

平原家側の視点があるかも?


そろそろ萩原時雨の方も進めても良さそうですね



さぁ、次回は記念すべき100話です

100話で府中動乱編を終わらせる予定でしたが、小説は奇なり、ですなw

せっかく100話だから主人公達全員出しましょうかねぇ

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