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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
97/145

第97話 府中動乱⑬

 試練というからにはそれ相応の難易度が用意されている。

 鬼束達は試されている。持っている力を全て動員して萩原時雨を助け出す。

 そのための障害は神岐義晴。

 奴と奴の能力下にいる人間達をどうにかしなくてはならない。

 さらに、仮面の人間を府中に連れて来た超能力者(ホルダー)が府中駅にいる。その超能力者(ホルダー)は神岐に捕まったとみていいだろう。兄の鬼束零も捕まっている。自分達の行動は神岐側には筒抜けになっている。ドクターにも連絡出来ない。相談出来る相手はいない。

 仮面の集団と神岐が手を結んでいようとも結んでなかろうとも…、仮面の人間を府中まで連れて来た超能力者(ホルダー)の仲間がまだ府中にいるかもしれない。

 仮面の人間達はとてもまともな思考回路を持っているとは思えない。

 車の特攻にしたって思いつく脳がないはず。車の特攻に関しては、それを指示した人間がいる。

 おそらく、その人物こそが転移能力者の仲間の1人だろう。

「仲間が近くにいるはずだ。仮面の集団がいなくなった以上そいつしかいないはず」

「っても性別も人数も分かんないんだぞ。どうやって探すんだ?」

 辺りを見渡す。

 突然人が消えて驚いている人、そんなことお構いなしに歩いている人。黒煙を避けてこっちの道に来た車両、歩行者。見えているだけでも何十人、何十台もある。

「……今連絡を取ろうとしている人物か?」

「そう。突然消えたんだ。何かあったと思って連絡を取るに違いない。今スマホを持っている奴、イヤホンをしている奴を中心に探せ。探しながら府中に戻る。甲州街道を越えたらまた耳栓を付けるぞ」

「「了解」」



「………」

(まずいわね。何としてでも真澄に連絡を取りたいのに)

 羽原ののは連絡手段を封じられて身動きが取れなかった。

 このまま当初の指示通りに府中駅に戻る。もしくは東京競馬場まで行って舟木真澄と合流する。しかし、神岐の監視の目を掻い潜るのは不可能。このままボーッと突っ立っている事しか出来ないが、追跡対象の3人組が府中に戻ろうとしている。

 彼女達が探している業ことドクターと繋がりがあることは明白だ。追わない手はない。

(追いかけたいけど、それが神岐への反抗と捉えられたら最悪。かと言ってむざむざ逃すことはしたくない。ちっ、連絡さえ取れればこんなに悩まなくてもいいのに…!)

 神岐は両方敵に回してもいいと言っていた。それがこれなのだろう。業陣営とのの陣営の動きを封じて神岐にのみ利益を得られるように。

 事実、ののは動けない。あの3人組もやられる事を承知で府中に戻るつもりだ。

(私を監視してる神岐の仲間を見つけ出す。心地良い刺激エレクトリック・エンジェルでこっちに都合良く喋らせることは出来るかしら?それとも甘魅了(ポッピンキャンディ・フィーバー)で…、いや、結局合流しない事には始まらないわね)

 3人が近づいて来る。

 とりあえずののは交差点そばの焼き鳥店に身を隠した。追跡でも後退でもなくただ横に移動しただけ。神岐には見られているが、これくらいは問題ないのか、何も言われない。監視からの報告ラグの可能性もある。余計な行動はせずとりあえずは最悪を回避する方針で行く。

 3人組は道路を挟んで反対の歩道だ。交差点で往来もある。ピンポイントで見つかることはないだろう。

 あの3人組が府中に戻って神岐と接敵したら流石の神岐もその対応に当てられる。その隙にダッシュで府中まで戻れば……賭けだが何もしないよりはマシだ。

(成人女性を2人も運ぶなんて神岐1人には出来ないだろうし足の手段でもそばで率いている操り人形をどうにか出来れば奪還は出来るかもしれない。3人組みたいに耳栓は必須ね。流石に鼓膜を潰す勇気はないわ)

 業を見つけるために彼らを捕まえたいが、今はスルーして神岐にぶつけた方がののにとってリターンがある。

 業を逃しても仲間だけでも助け出す。

(問題は……、あいつらね…。神岐とあいつらがどうなるのか、それだけが気がかり。…そうよね。私達が生きているんだから、あいつらも生きているに決まってるわよね。それに………)


 ♢♢♢


「んぉーーー、混んでる混んでる」

 男は目の前の景色に対してそう表現した。

 車が往生していて、そして謎の黒煙。

 目の前の甲州街道は渋滞していた。クラクションの音、「早く進め」と怒号を飛ばすおっさん運転手。

 渋滞と言えど人1人なら向こう側まで渡れそうだ。だがその前に確認しておきたいことがある。

 男は車の隙間を器用にスルスルと通り抜ける。黒煙の周囲には誰も近付いていなかった。誰かが警察や消防を呼んでいるかもしれない。早めに調べるに越したことはない。

 綺麗にサークル状に誰も立ち入っていない領域に何事もなく入り込んでいく。

 黒煙がモクモクと出ているから火が出ているかと思ったが近付けば近付くほど分かる。

 地面から火は見えず、煙の根本は一点へ集中していた。

(掌サイズ…、炎上していない)

 ただ燃焼もなく煙が出ているだけ。それなのにこの煙の量はおかしい。

(あの体積に煙を詰め込んでいる。さらに一度に煙が全部出ないように加工でもしてるのか?)

 この技術を持っている人間は自分の知る限り1人しかいない。

 一応スマホで黒い玉を撮影してそのまま誰かに電話を掛ける。


 プルルルル、プルルルル

 ガチャ


「業のやつ見つけた!」

「……雪走、ちゃんと説明しろ」

「ええとええと、業の圧縮が使われた玉があってそれが黒煙を出しててつまり業がここにいるかもしれないって情報は正しかった牧村はどう?元気?」

「………黒煙は業が引き起こした可能性がある。業は府中にいる可能性が高い。俺の状況はどうなっているか?大丈夫か?、でいいか?」

「そうそうそうそう、俺が言ったまんまじゃーん。ちゃんと聞けよー」

(説明がざっくりし過ぎて咀嚼しねーと理解出来ないんだよ!)

「悪い悪い。俺の方も黒煙が出ている場所に来てる。こっちも業の仕業で間違いないだろう。俺が最初に黒煙を見つけた時はそっち側に黒煙はなかったから業はお前の方にいる可能性がある。気を付けろよ」

「おっけーおっけー。何やかんやするよ」

「あと府中にcomcomが「じゃあね」プツッ ………」

 一緒にいたらいたらであのテンションについていけずに疲れ果ててしまう。かと言って別行動を取ればろくにコミュニケーションも取れない。嫌いではないし超能力(アビル)で人一倍頑張ってくれて必要な人材だ。ただただ色々と面倒な男なのだ。

「……まあ雪走の方にcomcomはいないから問題ないか」

 牧村と呼ばれた男は進路を南に変える。

 神岐に出会わない為と平原達に少しでも近づくためだ。

(北西に業がいるならそっちは雪走に任せよう。comcomを避けて向こうに行くのは難しい。それに業が分かりやすく煙玉なんて使うはずがない。罠か囮か、それとも業の仲間か…。超常の扉(アビリティーパス)を作ったんだ。超能力者(ホルダー)の仲間が数人控えていてもおかしくない。囮なら業は真反対、南東方向にいると考えるのが自然か…。っていう俺達の思考を逆読みしてるかもしれないから罠であっても誰かは向かわせないといけない。それに能力発動に周りに味方がいるのは邪魔だからな)

「……神岐は真っ直ぐ平原達に向かう。ならここいらで使ってもいいかもな…」

 牧村は上を見上げた。

 最近はずっと晴れている。これほどの異常気象は激烈灼熱(サンドリヨン)以外考えられない。

 何をもって激烈灼熱(サンドリヨン)を使っているか分からないが、その目的がこちらの障害になり得るのなら、早々に始末しなければならない。向こうの狙いも業を探して超常の扉(アビリティーパス)を奪うことに決まっているのだから。


「…頭上注意(メテオライト・サテライト)


 ♢♢♢


 プルルルル、プルルルル

「出ないわねのの」

 舟木真澄は羽原ののへ電話をかけているのだが、通話中になっていてこちらの電話に出ない。

「千羽ちゃん、神岐とまだやり取りしているのでは?私達は命令されて早抜けしただけですし。それよりも、この大所帯どうするんですか?」

 九重那由多がそう言うのも無理はない。

 飴奴隷(キャンディソルジャー)を増やしに増やしまくった。東京競馬場からは飴玉の供給が追いつかなくなるほどのペースで中毒にしていっていた。しかし、神岐から東京競馬場から撤退しろと言われ、その通りにした。それはつまり作った人以下の生き物のガイドもしなくてはならないということだ。

 この数を別の場所に移動させるだけで相当の時間がかかる。学校の全校集会が予定通りに始まらないのと同じだ。

 それに、この大人数は時間だけでなく周りから見て丸分かりというのもよろしくない。

「私たちがここにいるのが一目で分かるわね」

「もしかしたらそれが神岐の狙いかもしれないですね。移動しなければ紗穂ちゃんと八散が殺されちゃうし移動したらしたで今度は私達が狙われてしまう。厄介ですね。逃げ一択とお嬢様が仰ったのも頷けます」

 感心している那由多だが状況は非常に危ういところ。

「神岐の…認識誘導(ミスリード)で操られた人間が南と西から、神岐自身が府中駅にいるから北から来ます。となると私達は東にしか行くしかないですが…」

「…………」

 舟木真澄も思案している。

(私達は実質リタイヤになるのかしら。ここにいるのが作り立ての人間だけなのがよかった。完全な中毒状態ならじっとしているなんて10分も持たないだろうし。勝手に動いて神岐にあらぬ解釈をさせてしまうところだった。那由多の言う通り東に行くしかないわね)

「とりあえず移動しましょう。今この瞬間も見られているし、那由多は千羽に連絡してみて。千羽と連絡が取れたらののは神岐と話してる事になるからこっちから掛けても意味ないわ。お嬢様の指示を仰げない=増援を呼べないのだから私達でどうにかするしかないわ」

「でも電話を掛ける行為が反抗行為になりませんか?」

「……そうね。となると神岐の目的は私達を孤立させて各個撃破することかしら?」

 敢えて電話出来る隙を残している。と同時に監視していることも伝えて来た。

「……曲者ね。腹立つほどに…」

 本当に腹が立つ。掌で踊らされている。これでは目的を達成できない。

「…ま、まずは行動しましょう。神岐の指示には従わないといけないですけどこっちには飴奴隷(キャンディソルジャー)がいます。神岐の認識誘導(ミスリード)には劣っても物量で出来ることもあるかもしれません」

 那由多の言う通り。神岐も鬼束も平原達も飴奴隷(キャンディソルジャー)の量を警戒している。全方位攻撃も出来る物量となまじ中毒しきっていない状態であれば人間らしさが残る。

 それは喜怒哀楽があることを意味しており、ただの人間にしか見えない。

(心を削るわけか。そういう意味では身内を飴奴隷(キャンディソルジャー)にして襲わせるっていう最高の鬱ストーリーも作れるけど……、認識誘導(ミスリード)には無理かもだけどののが気に入ってる神原奈津緒とかなら効くんじゃないかしら?)


 ♢♢♢


「何、あれ?観光客の団体…ではないわね」

 戸瀬奏音は東京競馬場の正門を見ていた。

「気を付けてください。あれ全てが奴らです」

「嘘でしょ!?正門を埋め尽くしちゃってるじゃない!」

 戸瀬奏音、平原暁美、そして護衛の男は競馬場通りから東京競馬場の正門を見ていた。

 神岐とは東京競馬場で合流する手筈になっている。そのため競馬場の中に入りたいのだが謎の集団が屯していてとても良い治安とは言えない状態になっていた。

「遠目だからかあれだけど、あそこの連中は仮面を付けてないわよ」

「仮面付きは凶暴だけど少数。仮面なしは仮面付きよりは力はないが数が圧倒的に多い、という感じです。あそこの連中もいずれは仮面付きと同等になります」

「…最高に最悪ね」

「…あれが私を襲ってきた人達の仲間なんですね」

「気を付けてください。あまり顔を出さないで。あそこにいるのが全てではありません。府中にどれだけ分布しているかは神岐様も完璧には把握出来ていません」

「…でも正門に出て来たってことはどこかに移動するのかしら?」

「神岐様が東京競馬場から出るように交渉されました。彼らがいなくなったら競馬場の中に入りましょう。中も惨劇ですが立っている人間は全て味方ですのでご安心ください」

 立っている人間。それはつまり、立っていない人間が中にいると言うことになる。

(死んでる人がいる……)

 ヘリコプターはもうすぐ来るはずだ。

 中に入って競馬場中央の広い空間に着く頃には来る時間だろう。

「移動を始めました。ここでもうしばらく待ちましょう」

「分かったわ。暁美、あんたも分かった?」

「はい、…あの、あのお方は敵なんですよね?」

 暁美はいまだに信じられなかった。親友と思い人が敵だと言っているのだから敵で間違いないのだろう。しかし、駅員に捕まりそうになった自分を助けてくれた。…まあ無賃まがいをしたのは暁美なのだから後でちゃんと説明しないといけないが…。

「神岐様の話では正門の連中とは別の組織ではないかと。仮面の集団を片付けてこちらに向かっているようです。先程奴が受け持った仮面の人間は全員倒されたようです」

「!…強さは一級品ね。こっちに来るみたいだけど私達はここであそこの連中がいなくなるのを待ってて大丈夫なの?」

「男は府中駅にいる神岐様の元へ向かわなかった。このことから男は神岐様とはまだ戦いたくないようです。私達に再度近付くことはないでしょう。かと言って無害化したわけではないので注意は必要です。神岐様と戦うリスクを負ってでも牙を剥くことは十分に考えられます」

(人質にするために近付くかも…ってのは言わない方がいいか。余計な心配を与えて動きが鈍ると神岐様のオーダーを果たせない。ヘリコプターで脱出させるまでは必要以上のことは教えない方が良さそうだ)

 全員がいなくなるのはもうしばらくかかりそうだ。

 それまでは全方位を警戒しようと護衛の男は心に決めた。


 ♢♢♢


 神岐は府中駅まで乗って来た車に再度戻っていた。

 車には操ってた運転手と飴奴隷(キャンディソルジャー)の1人である及川慎介。神岐が連れて来た久留間紗穂と能登八散の計5名がいた。

(運転手はもう不要だけどこの車はこの人のだから勝手に使うとまずいよなぁ。飴奴隷(キャンディソルジャー)もこいつが知ってることよりもこの2人の方が知ってるよなぁ)

 及川は不要だ。

「及川、お前もう行っていいぞ(甘魅了(ポッピンキャンディ・フィーバー)の味と刺激を感じるな。3分後に飴玉を食べて以降の全てを忘れろ)」

 協力してくれたせめてもの御礼。

 飴玉で従わされていたのなら解放してあげた方が良いに決まっている。

 後は自己責任だ。

(実はこの環境を気に入っていて解放した俺を憎むって展開もあり得そうだな)

 余計なお世話で好きを潰されるなんてよくある話だ。

 好きでコンパニオンをやっているのに性的搾取だと声だけデカい外野が騒ぎ立てるせいでコンパニオンの仕事がなくなってしまう。

 外野じゃないと言えないこともあるだろうが外野だけの声で判断しないでほしい。

(こいつはそもそも記憶をなくすんだからそんな逆恨みもないだろうけども…)

 これで残りは4人。4人乗りの車だし丁度いい。

「久留間さんと能登さんは後部座席に乗ってください」

 2人の自由意志は奪っている。神岐の命令を素直に聞くだけの存在だ。

 2人が車に乗ったのを確認して神岐も車に乗る。


「黒煙のそばに現れた2人…。駅前の奴は俺に気付いているな」

 神岐は催眠人間から送られた写真を確認する。

 羽原ののの話では彼女らの仲間ではないということだが、無関係とも思えなかった。

 男が府中にいると言った時妙に反応が悪かった。

(疑惑も段階だからか。となると心当たりがあると見ていいだろう。駅前の男はcomcomと口に出していたから神岐義晴がcomcomということを知っていることになる。街道の奴も仲間だと思うが決定的な証拠がない。たまたま黒煙に近付いただけかもしれん。電話も同じタイミングの別の人間ということもある)

 府中駅前の男は決定的な言葉を発したためすぐに神岐に連携されたがもう1人は神岐が認識誘導(ミスリード)での仕込みに引っ掛からなかった。『黒煙に近付いた奴が現れたら報告しろ』という命令をしていれば良かったのだが、この点が認識誘導(ミスリード)の融通の効かないところだ。

(是政駅の連中には汎用的な命令を仕込んでたけどそれ以前は単なる探索要員でしか作ってなかったからな。次からは最初から幅広くしとくか)

「おい、この写真の男を知っているか?」

 神岐は催眠人間から送られた写真を2人に見せる。街道の男の写真はまだ送られていないので駅前の男だけだ。

「………牧村、………桃秀(とうしゅう)…」

 能登八散がボソリと答えた。

「…知っているのか?」

「…研究所で一緒だった。…10年前に死んだはず…」

(10年前…、俺がドクターによって超能力者(ホルダー)にされた時か。10年前に何かあったと見て良いだろう…)

「10年前のこととか色々聞きたいがまあ良い。こいつは超能力者(ホルダー)か?」

「…はい」

「能力は?」

「……牧村の超能力(アビル)頭上注意(メテオライト・サテライト)。隕石を落とす。あんなふうに…」

 能登はそう言って空に向かって腕を伸ばす。

 伸ばした指の先は…


「……いやいやいや。いやいやいや」

 いや、絶対にありえないだろう。

(激烈灼熱(サンドリヨン)の能力を聞いた時も正直引いたし甘魅了(ポッピンキャンディ・フィーバー)が飴玉を作り出して人間を中毒状態にしたのも…。けどこれは、人間の範疇を超えすぎだろ…)

 神岐が空を見ると、東京競馬場の方の空から飛行機なんかよりも大きい物体が降り注いでいた。

 通常隕石の落下などは宇宙センターとかが捕捉してアラートを出している。

 しかし、スマホにも街の警報器にもそのような発信はない。

 人類の科学の叡智とも言える天才の集団でも敵わない。

 しかも1個ではなく数個だ。

(シミュレーションでよくある世界崩壊クラスの隕石ではないと思う。大きすぎて空を覆っているわけではない。遠すぎて判断できないが府中市街よりも小さいだろう。だがそれが何個もとなると被害は甚大だな)

 隕石の落下では落下地点は地面が抉れる。周囲には衝撃波と土砂や隕石の破片、粉塵が恐ろしい速度で襲いかかって来る。隕石が高熱を帯びていれば熱波も来るだろう。

 そうなれば少しでも落下地点から離れることが賢明だ。

(落下地点は東京競馬場方向。謎の男もいる。そんな自爆行為をするはずがない。つまりあの隕石で死ぬなんてことはない。隕石のルールが分からないから死なないなんて決めつけても命取りにはなるが少なくても逃げる事はいらないと思う)

 大事なのは何故ここで隕石を降らせたかだ。

 不破千羽も言っていたが行動から目的を逆算することで突破口が見えて来る。

(女達と男達は共通してドクターを見つけ出すことだろう。女達は甘魅了(ポッピンキャンディ・フィーバー)でドクターを探したが俺が阻止した。そしたら次は頭上注意(メテオライト・サテライト)か。タイミングよすぎて共闘してんじゃないかと思っちまう。けど羽原、久留間、能登は死んでいると思っていた。偶然か。いや、男達は女達を知っていた?飴奴隷(キャンディソルジャー)で見つけたところを横取りしようとしたが失敗したから自分達が動いたとすればタイミングの良さも頷ける)

 女と男は別々の組織、しかし情報戦では男の方が上。女達とドクターであれば両方敵にしても良さそうだがさらに追加となると怪しくなる。男側に至っては規模も分かっていない。おそらく女達やドクターよりも組織としての規模の超能力者(ホルダー)も多くいるに違いない。

 認識誘導(ミスリード)をメタれる超能力者(ホルダー)がいても不思議ではない。

(しかし隕石によって暁美達と合流し辛くなった。隕石は大きすぎないし速度も速いって訳ではない。隕石をかわすってのが言葉として成立するかは分からないが車とかを使えば躱せる)

 神岐はスマホを取り出して平原達の護衛に電話を掛ける。




 そして隕石が東京競馬場付近に墜落した。


 ♢♢♢


「あの隕石は……、頭上注意(メテオライト・サテライト)!?」

 ののが南の空に隕石を見つける。同じく隕石を目撃した一般市民が全力で北に向かって走り始める。

(身を隠している焼き鳥屋で流れているテレビには緊急速報は流れていない)

 自然の隕石ではない。

(男ってのは牧村か…。ホントに生きていたなんて…。となると、あいつも生きているのか?)

 死んでいるからこそ業を捕獲して現物と設計方法を聞き出す必要があった。

 だがもし、奴が生きているのなら……。超常の扉(アビリティーパス)を1個手に入れれば全ての歯車が回り出す。

(府中にはいないだろうけども。こればかりはお嬢様に方針転換を進言しても良さそうね)

 あれが頭上注意(メテオライト・サテライト)の隕石であれば直撃でもなければ死ぬことはない。

(万能になれない呪いなのかしらね?隕石は衝突こそすれば直撃箇所とその周囲を破壊するけどそれ以上の災害までは発展しない。砂埃と隕石の破片は拡散されるけどここまで離れていればまず大丈夫)


 神の領域には決して届かない。

 これが超能力(アビル)の限界。

 神の領域に到達する研究は行われてきた。

 しかし、どれだけの実験を繰り返してもストレス等の刺激で超能力(アビル)が成長することが分かっただけで次元を超えるまでには至らなかった。


(牧村が隕石を落としたってことは…、業君と戦っている?もしかして先に見つけたのかしら?)

 隕石落下というとんでも事件。次々と北に向かって走り出す集団が形成されていた。車道も構わずに人が走り続けた。車で突破しようと人の波に突っ込んでカオスな事態になっていた。

(いえ、向こうは…那由多達に任せましょう。まずはこっち。神岐の息が掛かった人間を見つけ出す。こんな事態に逃げようとしない奴を探せば良い)

 ののが周囲を見渡す。

 この人の波だ。車道越しでは見つけられない。となると、ののと同じ側にいるはず。その中で逃げずにじっと動いている奴。探されていることに気付いて身を隠していてもその隙に逃げられることを恐れて必ず顔を出す。

 風景の微妙な変化から監視人を探し出す。

「………コンビニの中ね」

 それは向かいにあるコンビニの中からだった。

 誰かが物凄い勢いでコンビニの中に入って行ってすぐに走り出した。それから数十秒後にコンビニの制服を着たアルバイトと思わしき大学生くらいの青年とコンビニの中にいたであろうと客がコンビニから飛び出して同じく北に向かって走り出した。

 おそらく隕石が降っていることを知らせてくれたのだろう。

 しかし、コンビニの中にはまだ人らしき人間がいる。窓のそばだから雑誌コーナーだろうか?

 こんな非常事態に立ち読みなんてのは人生を諦めたやつ、もしくは動けない人間。

(前者であってもコンビニにいる分には監視人の目が届かないことになる。コンビニに近付いて奴が不自然な動きを取ったり神岐からSTOPが来ればそれ自体が証明になる)

 羽原がコンビニをじっと見て監視人を観察しているのが向こうにも伝わったのか、窓側の監視人が動き出した。大通りと言うほどではないが道路を挟んでいるため何をしているかは判断できない。

(神岐への連絡かしら?となるとやはり後者かしら?私に見られていることで居心地が悪くなっているとも考えられる。神岐とは全く無関係ならそれはそれで大歓迎。ここは行くしかない)

 南北の道路はインドの電車のようになっているがそれに反して東西の道路はガラガラだった。

 隕石から離れたいのに同じ距離の違う場所に行く奴はいない。

(一本脇に行ってから北に向かった方が人がいなくて行きやすくなる…なんて考えには至らないか。こんな未曾有のパニックに冷静に判断できる奴なんて余程のことね)

 焼き鳥屋の店内はまだ隕石のことを知らないのか穏やかだ。ここで店内の人間が隕石のことを知って北に逃げようとした際に、女のののに対して手助けのつもりで一緒に逃げようと手を差し伸べて来る可能性がある。

(小さな親切余計なお世話ね)

 信号など機能していないがもうすぐ横断歩道は青になる。

(青になったら渡りましょう。変に走り出したら気取られる。あくまで自然にちょいと場所移動しますぐらいのペースでコンビニまで移動する)


 ♢♢♢


「んぉぅーーーん、牧村の奴使いやがった」

 牧村と一緒に府中に向かえと指示された時はもしかしたらと思ったが、まさか本当に隕石能力を使うとは思わなかった。

 南の空に巨大な質量の物体が落下をしている。

 隕石に気付いた民衆が我先にと北に向かって走り始めた。

 黒煙によって渋滞を引き起こしている甲州街道では車を乗り捨てて北に逃げる人、強引に歩道に侵入して渋滞を突破しようとする人も見受けられる。車の隙間を人々が通り抜けてとても車は動かせそうにない。

 それでも黒煙に近付こうとする人はいないため雪走が民衆に揉みくちゃにされるようなことはなかった。

(さてさて、牧村が頭上注意(メテオライト・サテライト)を使ったんなら、業の炙り出しを行ってるってとこか?俺がこっちにいるから出来ることだな。ここまで離れてれば俺は死なないし俺は俺でこっちの黒煙を使った奴を探せばいいって感じか)

 業は東京競馬場方向と北府中駅方向のどちらかにいる。

(鬼ごっこの時間かなぁ?まぁそれはそれで楽しいけどさー。耐久勝負なら誰にも負けへんぞーーー)

 牧村が隕石を落として炙り出しを行っている。

 目的としては付近に潜伏している業を外に引き摺り出すこと。もう一つは業に牧村を止めるように仕向けること。

(つまり俺は業を探しつつ隕石の方に向かおうとする奴を捕まえればいいのね。オッケーオッケー。ネズミ1匹逃さへんぞー)


 ♢♢♢


 何故かこちらに向かって走り始める人間が増えてきた。神岐や仮面の集団を疑ったがこちらに目もくれず北へ北へ走っている。

 人の波に正面衝突してしまうため思わず側面に避難してしまった。

 なんだなんだと思ったがその理由はすぐに分かった。


「お、おいおい!?」

「な!?あれは……」

「隕石!?」

 鬼束達は正に南に向かっている。隕石を見つけるのは自然。

「ドクターの超能力(アビル)の可能性は?」

「ドクターは目的のために無関係な人間は巻き込まない性格のはずだ。俺達にはギブアンドテイクなのがそうだ」

「神岐でもないし…、別の超能力者(ホルダー)超能力(アビル)か」

「ドクターとその能力者か、神岐とその能力者かは分からないな」

「神岐以外にも隕石の雨を通り抜ける必要があるのか…」

「だがもしこれが神岐が戦っているのなら、神岐を回避して時雨ちゃんを助けに行ける」

 神岐の操っている人間は残っているがこちら側が操られる心配はなくなった。あくまで神岐だったらの話だが。

「スマホいじってる奴を探すのは継続か?」

「逆に見つけやすくなったろ」

「隕石が降ってきてるのに逃げない奴か」

「スマホやイヤホンは隕石で増え過ぎて確認してたらキリがない。逃げない奴。これが敵だ。もしくは馬鹿」

「大分分かりやすくなったな」

「神岐が隕石にかかりきりなら手早く戻った方が良さそうだ」

「最悪全力で駆け抜けて慌てて動き出した奴をクロ認定してもいいかもしれない」

「それもありだが神岐に最も有効な視覚外からの広範囲攻撃だ。神岐には相当苦しい相手になるはず。短期決着はないだろう」


 ♢♢♢


「急いで動きなさい!早く!」

(まずいわね。なまじ中毒症状が浅いから急に冷水をぶっかけられるみたいに目が覚めている奴がいるわね)

 遠くの空、ではなく顔を上に向けないと視認できない、そんな場所から莫大な質量が降り注いでいた。

「これって…、頭上注意(メテオライト・サテライト)ですよね。でもあいつらは10年前に業が研究所を爆破させた時に一緒に死んだはずでは…!?」

「……何故はこの際関係ないわ。私達以外の超能力者(ホルダー)がいてそれが頭上注意(メテオライト・サテライト)だった。なら次にやることは隕石の直撃避けるために少しでもここから離れること。かと言って飴奴隷(キャンディソルジャー)を野放しにしたら四方八方に逃げ出しかねない。現にそうなりかけてるし」

 逃げ出そうとする飴玉で鎮静させる。麻酔でも鎮痛でも精神安定剤でもなんでもないのだが、処方を間違えなければこういう使い方も出来るかもしれない。

「1人にあげたらみんなにあげなきゃいけない。着いてこなきゃ飴をあげないぞって脅しよりも隕石の恐怖が上回っちゃっているし、あーくそ、ホントタイミング悪いわ」

「…なら従順な人達は私が東に移動させます。真澄さんは効きが悪くなっている人達に飴玉で再度効きを良くしてください」

「…ごめんね」

「いいですよ。心地良い刺激エレクトリック・エンジェルで麻痺らせて従わせても今度はそれが恐怖の材料になってしまいますし、ほら真澄さん急いで隕石落下まで時間がないんですから急いでください」

 那由多は「飴玉が欲しい人は私に着いてきてください」と声掛けをしてそれに付き従った飴奴隷(キャンディソルジャー)を東に誘導し始めた。

 真澄は声掛けに応じなかった飴奴隷(キャンディソルジャー)甘魅了(ポッピンキャンディ・フィーバー)でより中毒状態を深くさせて強引に従わせ始めた。


 ♢♢♢


 ズガァァァァァァァァァァァァン

 パリーーーーーーーーーーン

 ボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴ

 隕石が地面に衝突してそこから砂埃が物凄い勢いで放射状に広がった。

 直撃した建物が一瞬でスクラップ、瓦礫となり隕石の破片は周囲の建物の壁を削り、ガラスを割った。

 砂埃は街を黄土色にコーティングしていった。

 それが、3個も…

 某テーマパークのネズミマークが完成していた。これではテーマパークも著作権侵害で消せとは言えないくらいに消えない傷跡を府中の街に残してしまっている。

 直撃した場所にいた人間は即死。周囲にいた人間も破片によって軽症から重症。砂埃に巻き込まれて意識不明。破片も当たりどころが悪ければ死んでしまうが、今回は直撃以外での死者は出なかった。

 だが隕石衝突による地面の揺れは、落下地点から最も遠くにいる萩原時雨にも伝わるほどの衝撃だった。

現在の状況

神岐義晴

府中駅から東京競馬場に向かう


平原暁美・戸瀬奏音

護衛の男と共に東京競馬場そばで身を隠している


鬼束市丸・丹愛・実録

敵を探しながら府中市街地に向かっている


羽原のの

神岐の催眠人間がいるであろうコンビニに向かう


舟木真澄・九重那由多

飴奴隷を連れて東京競馬場の東へ移動中


牧村桃秀

隕石を落下させてドクターを探している


雪走

牧村と連携してドクターを探している



超能力が一気にインフレした感が否めないですね

隕石落下能力

冗談で隕石を府中に落として全部終わらせると言いましたがそれをなるだけマイルドにしたのが頭上注意です

牧村が府中にいるのは決まってたことなんですが能力が決まっていなかったので丁度いいので隕石にしました

認識誘導、甘魅了、頭上注意

悪魔みたいな超能力がドクター1人を探すために府中にやって来ました

ドクターモテモテっすね!

肝心のドクターはまだ姿を見せていませんが…


さて、次回も府中動乱です

鬼束兄弟と羽原ののが地理上そろそろ出会いそうです

隕石の余波は結構デカそうですが事務所にいる神坂まで影響するのでしょうか?

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