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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
96/158

第96話 府中動乱⑫

 晴見町二丁目交差点

 羽原ののは焦っていた。

 神岐義晴に仲間を捕らえられ、能力を教えざるをえなかった。

 神岐には逃げの一択、つまり戦わない相手に能力を知られるのは正直そこまでマイナスではない。

 ののが焦っているのはそれを他の能力者、特に神原奈津緒に知られるのは避けたかった。

(神岐の能力はおおよその予想通り、戦わないのが安全。業君は既に私達の能力を知っているのにわざわざ聞いたと言う事はやはり業君と神岐はまだ繋がっていない。昔の関係者、業君の仲間、神岐。これらを除外するとこっちが把握してるだけで残るのは神原奈津緒のみ。奴の精神、覚悟の強さがこっちを凌駕する可能性を秘めている以上こっちの手札を見せたくはない。神原は恋人を駄愚螺棄(ダグラス)に連れ去られそうになった時と八散に治療された時しか私達と関わっていない。八散に治療された時は気を失ってたらしいし、川崎の件も一時の邂逅(ワンナイトラブ)()()()()()()()()()()()からこっちの情報は漏れていない。現状は)

 今はこちらの存在すら知らない。だがもし、神岐と神原が繋がってのの達の情報を知ったら?それよりも、恋人の誘拐を依頼したのがののだと知ってしまったら?

(復讐、やり返すでしょうね。駄愚螺棄(ダグラス)を返り討ちにしてる以上私達も攻撃対象になるのは必定)

 2人の接触を阻止しなければならない。

(真澄によれば2人が接触したことはないらしいけど知ってはいるのかしら?)



(((!!!)))

 自分達を追っていた仮面の人間達が突然震え出した。

 地震かと思ったが今立っている地面は揺れていない。彼らだけが揺れている。

(能力か?だが何故今?こっちが踵を返したからか?)

 進路を府中に戻した矢先のためそう想像してしまったが、どうも違う。

 彼等自身も自分の手や全身が揺れていることに驚いている印象だ。

(能力には違いないが奴等ではない。そもそも超常の扉(アビリティーパス)はドクターしか持ってない。こんなモブに超能力(アビル)を与えるとは思えない)

(となると、仮面の集団を動かしている奴の能力。何をしてくる)

 ゴゴゴゴゴ

 振動が小刻みになっていく。臨界点のようなものに達しようとしている。

 鬼束達は臨界点の瞬間まで見続けていた。

 超えたか、と思った瞬間、彼らは突如として目の前から消えていなくなった。

 驚いた3人だが、同時に周囲を警戒する。咄嗟に瞬間移動能力を警戒してのことだ。

(あんな異形の集団がまともに電車で来れるはずがない。時雨ちゃんのような瞬間移動に近い能力を敵側が持っているに違いない)

(駅に集まっていたから自由に移動させられるわけではないのか。マーキングした場所、または能力者のそばにしか転移できない縛りがあるかもな。時雨ちゃんも一度行ったことのある場所しか移動出来ないし)

(けど仮面の人間が驚いているようだったから彼らにとってイレギュラーの移動だった?)

 周囲を警戒するが仮面の人間が奇襲してくる気配はない。彼らはこの近辺にはもういないようだ。

(イレギュラーということは俺達が引き返したこととは別の要因……。可能性があるとするならば…)

(転移能力者によって急に移動させられた?)

(能力者側で何かあったと見て良いか)

 何があったのかは分からない。駅前に屯っていたのだから能力者は府中駅にいる。これから戻ろうとしている場所に。

 しかし、府中までの行く手を阻む者がいなくなったのは鬼束達にとっては僥倖であった。このまま来た道を戻って府中まで戻れば良い。目指すは府中の南側。兄や時雨の安否を確認しておきたい。

 そして、神岐義晴についても把握しておきたい。

「………」

 市丸は少しばかり逡巡した後、耳栓を外した。兄が向かった府中南部、そして転移能力者がいるであろう府中駅、このどちらかに神岐義晴はいる。ならば、今ここで耳栓をしておく必要はない。そう判断してのことだった。

 丹愛、実録も市丸の動きを見て、同じ遺伝子特有の同じ思考回路により同じ結論に至り、耳栓を外した。


「うぉ!雑踏がクリアに聞こえる!雑踏なのに」

「ずっと耳栓してたから聴覚が鈍るかも思ったが、そうでもないんだな」

「2人とも、そこはいいんだよ。外した理由は分かってるな」

「神岐がいないから今はする理由がないってのと、府中への戻り方の方針、戻った後の方針を決めるんだろ?」

「ジェスチャーだと細かい話は出来ないからな」

 神岐はいないこの時間で指針を決めなくてはならない。府中に戻ったら耳栓は絶対に外せなくなる。


「ワイヤレスイヤホン?…いえ、違う」

 三つ子が耳から何かを外した。インカムではない。3人並んで外した。

 外す事情があったのか、着ける理由がなくなったのか。だが、ののは理解した。

(彼等は業君の仲間であり神岐の敵。あれはイヤホンではなく耳栓で神岐の認識誘導(ミスリード)で操られないための処置)

 探し人の仲間であることが分かったのは僥倖。しかし、捕まえようにもののが帯同していた飴奴隷(キャンディソルジャー)は全て消されてしまった。のの1人では固定化能力にすら敵わない。

(スマホを常に耳に当てなくちゃいけないから動きも制限される。ずっとスマホを持ちながら彼等を追っかけてたら怪しまれてしまう。ちっ、神岐の奴。私達と業君を近付けさせないつもりなのかしら?)

 いえ、待つのよ羽原のの、と自分を諌める。

(まだ3陣営で互いに睨みを効かせあっているわけではないわ。偶然か必然か間接的に彼等のサポートをしているから、彼等が業君攻略ルートのキーパーソンである可能性は高い。だから神岐は彼らを私達に渡したくない。彼らを操って居場所を聞き出す気かしら?いや、そもそも彼らは何故戻ろうとするのかしら?)

 耳栓を付けているから神岐への対処は明白。神岐に対しては距離を取るしかない。しかし、彼らは戻ろうとしている。

 神岐と戦ってでも戻らなくてはならない理由が出来たと考えられる。

(業君からの連絡?いえ、それを彼らは知る術がない。…テレパス系の超能力者(ホルダー)が仲間にいてそいつから聞かされた?テレパスは耳を使わず頭の中に直接情報を流し込むから耳を塞いでいてもやり取りが出来る。耳栓を外したからテレパス能力者と交信は出来るけど介さなければ直接やりとりしなきゃいけないから耳栓を外した。いや、テレパス系の能力者が神岐に捕まったから助けに向かった。彼等以外に仲間がいる!!)

 テレパス系能力者はいないのだが、仲間がいる点は合っている。その仲間は府中にいる。真澄と那由多に連絡を取りたいが、神岐に連絡を禁じられている。自滅覚悟で連絡するのもありだがそれでは神岐は反故にされたと決めて紗穂や八散が帰って来なくなる。ヒーラーの八散と飴奴隷(キャンディソルジャー)の運搬に便利な物体転移能力の紗穂を失うわけにはいかない。()()のためにも。

『……ガヤガヤ』

 神岐のスマホのミュートが解除されて神岐の周囲の音が聞こえてくる。

 まだ府中駅にいるようだ。紗穂と八散から情報を聞き出しているのかもしれない。

「……ののさん」

「…何かしら?」

「ちゃんとスマホを耳に当てたまんまなんだな。守ってくれて嬉しいです」

(見てるくせに…)「それで何か用かしら?まさかもう府中から脱出したわけじゃないでしょう?」

「あぁ、ちょいと色々準備がありましてね。確認ですが、貴方達に男の仲間はいますか?」

(……)

 これも先程と同じく情報の擦り合わせをするつもりなのだろう。お嬢様のことではないなら喋っても構わないし染節と神岐には接点がない。

「えぇ、1人いるわ。それがどうしたの?」

「そうか、そいつは今府中にいるのか?」

「?いいえ、来ていないわよ」

「……………」

 神岐が黙りこくった。

 男がいないことに何か考え込むような何かがあったのだろうか?

飴奴隷(キャンディソルジャー)を全員叩き潰した人間がいる。ドクターの仲間じゃないし俺の知り合いでもない。同士討ちなんて可笑しいと思ったが、もしかしたらあんたらの関係者じゃないかと思ってな」

「………いえ、私達はさっき言った1人以外は全員女性よ。府中にいないのも間違いないわ。千羽ちゃんと一緒の所にいるから」

「なるほど、千羽さんは府中駅にいなかったから本当なんだろうな」

(飴奴隷(キャンディソルジャー)に立ち向かった一般人?業君の知り合い?私達の知っている人物………。!?えっ、嘘、まさか!?)

「知らないならいいです。引き続きそのままでいてください」

「えぇ、勿論よ」

 神岐が再びミュートになった。

(まさか、まさか………!?)


 ♢♢♢


「………飴奴隷(キャンディソルジャー)。木偶だな」

 そう呟いた彼の周囲には飴奴隷(キャンディソルジャー)が這いつくばっていた。

 強打による激痛は、この世のものとは思えない程だろう。限界点を超えて、気を失ってしまった。激痛によるショック死している奴もいる。

 飴奴隷(キャンディソルジャー)は失われた思考能力の残滓で、逃げるべきと判断した。しかし、逃げて任務に失敗し飴が貰えない時の絶望の方が苦しい。死よりも苦しい。

 完全な中毒になっても死への恐怖はある。しかし、飴への渇望はその恐怖をいとも容易く飲み込んでしまう。

 激痛よりも死んだ方がマシ。飴がもらえないなら死んだ方がマシ。どっちを選んでも死ぬしかない。

 人ではなくなったゴミ屑の末路としてはよく出来ている。

 ブーンブーンブーン

 男のスマートフォンが振動している。

 男はポケットからスマホを取り出すと通話をONにした。


「もしもし」

『そっちの状況はどうだ?』

「あぁ、飴奴隷(キャンディソルジャー)に襲われちまったよ。全く、人助けなんて性に合わんな」

『ふん、困ってる人を助けずにはいられない奴の発言とは思えないな。ツンデレちゃんか?』

「やめろ、歯が浮く」

 良い奴であることは間違いないがこの男は良い奴と言われるのを嫌う。面倒な男なのだ。

『ははは。んで、ドジっ子業は見つかったのか?』

「いや、まだだ。飴奴隷(キャンディソルジャー)にビビって逃げたのかもしれないぜ」

『あいつはおっちょこちょいだったが、裏切りを行うくらいには覚悟がある。超能力者(ホルダー)に限らず覚悟ガンギマリの奴が何やるかなんて、俺達は十二分に知ってるはずだ』

 覚悟の強さは精神力の高さ。精神力は肉体、そして頭脳に影響する。超能力(アビル)の成長には不可欠な要素だ。

「…だな。んで、どうする?いるのは確実なんだよな?だったら徹底的に探すが、府中には俺以外に誰か来てるのか?」

雪走(ゆばしり)も来てるはずだが……まだ合流してないのか?』

 てっきりペアで行動しているものと思っていたが違うようだ。

「俺の超能力(アビル)は広範囲攻撃だから近くにいない方がいいだろ?」

『……てことは使うのか?』

 男の超能力(アビル)は危険だ。かつては使用禁止を命じられていたほどだ。今ここで使おうものなら府中は間違いなく壊滅的被害を受けるだろう。

「…まだだ。comcomが近くにいるらしい。今の俺は奴のお友達のボディガードってジョブだ」

『!!!』

(comcom、業によって能力者にされた1人か…)

『会ってどうするつもりだ?奴の能力はまだ判明してないんだぞ!』

 おそらく精神系の能力、暗示や催眠の類の能力、能力にハマってしまえば抗えない。

「映像で能力が発動するほどの簡単な発動条件であってもはっきりさせる必要がある。おそらく視覚と聴覚だろうがな。リスクを回避してコソコソと後ろから攻略出来る相手とも思えん。最悪はcomcomのお友達を利用してこちら側に引き込むことも出来る。『どこまでもお供する(イエスマンイズデッド)』でも『不定期劇場(フィクサー)』でも使えば良いだろう。こちら側が操作することも出来るはずだ。能力を自分自身に掛けられるならさっさとお友達と合流出来るはずだか…………何だ?」

『?どうした?』

「揺れてる…」

『…地震か?デカそうか?』

(地震…、いや違う。地面ではなくこいつらが揺れている!?)

 揺れていたのは飴奴隷(キャンディソルジャー)の方だった。自力での蘇生や遠隔操作を疑ったが、死んでいる人間も同様に揺れていた。人を操作するのと物を操作するのとでは違う能力に分類されることが多い。不可逆になる。

 人間を操作出来る能力者は人間ではない物も操作出来ることが多いが、物体を操作することに重きを置いている能力者が人間を操作出来るケースは少ない。

 それは能力発現に際しての願望や周囲の環境による物なのか、超能力(アビル)の超えられない壁である『万能』になれない呪いの一種なのかはわからない。

(人が揺れている。死体もろとも。この揺れる動作……間違いない)

日帰り旅行インスティンクトファーだ」

『……あの()()()()()()の能力か。日帰り旅行インスティンクトファーは確か発動には空間指定が必須だった気がするが、能力が成長してどこからでもどこへでも運べるようになったのか?』

 理論上、制約を加えればそういう能力を得ることは可能だ。

「このタイミングで移動させる訳がない。空間指定なら俺も揺れてなきゃおかしい。となると、不測の事態で解除したのか?あるいは、業かcomcomに能力を解除させられたかだな。お友達の話だとcomcomは府中駅に向かってからお友達と合流するつもりだったらしい。わざわざ府中駅に寄り道する理由があるのか?そして飴奴隷(キャンディソルジャー)の移動…」

 一瞬で男の周りにいた飴奴隷(キャンディソルジャー)が全員跡形もなく消えていなくなった。

「つまり、久留間は府中駅にいた。そしてcomcomは能力で日帰り旅行インスティンクトファーを解除させた」

『…………』

(府中駅からここまでは遠くない。俺の存在はcomcomに知られているだろう。さっき合流した女とその連れは明らかに俺を警戒していた。友達に近付く悪い虫とかの次元ではない警戒度。飴奴隷(キャンディソルジャー)に襲われて逃げ切ったと見ていいだろう。そしてcomcomに事情を聞いた。方向的に小国魂神社から来てるはず。俺の存在を最初から認知してるってことは女を捕まえようとしていた駅員が飴奴隷(キャンディソルジャー)の仕業ではないことも知っている。平原暁美だったか、あの女が友達に絆されて俺から離れるのも…、月董(げっとう)の言う通りcomcomと戦うのはまだ尚早か。離されるなら人質にも使い辛い。先にcomcomに会ってしまったら意味ないしな)


「……分かったよ。状況が変わった。まだ戦わない。だが、comcomを避けながら業を探すのは大変だぞ。雪走はどう動かすつもりだ?」

 飴奴隷(キャンディソルジャー)がいないのならおそらく府中は神岐の独壇場だ。業を探すのは至難だ。そもそも業自身も神岐を警戒して既に府中にいない可能性すらある。

『雪走は………、放置でいんじゃね?』

「…いいんかそれで?」

『だってほら、雪走だし』

「まぁ、雪走だけども 」

『あいつ、無尽蔵だから何とかなるだろ。最低限comcomがいるかもしれないぐらいは連携しとけば後は勝手にやるだろな。お前から見て雪走はどこに行くと思う?』

「雪走だったら……、煙が上がってるところかな」

『馬鹿だから?』

「いや、違う違う」

(若干そういうところはあるけども)

「府中で黒煙が上がってる場所が今2箇所ある。その内の一つに俺がいてここに雪走がいないのなら、おそらくもう1箇所に向かってるはずだ。府中駅の北西方向だからcomcomと遭遇することもないだろう。comcomは東京競馬場へ向かうみたいだし」

『なるほど、なら任せよう。増援はいるか?』

「いや、仮に業でもcomcomでもこの混乱の中捕まえるのは難しいな。人が増えれば増えるほどcomcomに捕まって操られるリスクが高まるし、ここは俺と雪走で何とかする。……あーーー、俺が能力を使うから知覧には来てもらった方がいいかもしれん。増援が必要かどうかはこっちが追って連絡する」

『分かった。ただ気を付けろよ牧村。comcom……神岐の能力はおそらく万能に最も近いかもしれないんだからな』

(可能ならば殺さずに生け捕りにしろってか。催眠洗脳の発動条件も回避手段もないってのに無茶言うよホント。神岐が俺達の目的に必要な人材であることには違いないが)

「あぁ分かってるよ、そっちも頼んだ」

 プツッ

 スマホの通話をOFFにする。


「…………見られてるな」

 黒煙の近くにいるからか窺うような視線がある。しかし、見られてると感じた視線にはその色はない。じっくりと見られている。見るではなく観るが正しいくらいに。

(平原達…ではないな。視線の方向は南からじゃない。………北か)

 北には府中駅がある。つまり…

(comcomに見つかったか。だがそれはまだcomcomが府中駅にいることを意味する。まだ戦えないなら俺も東京競馬場まで退がりながら奴の射程に入らないようにする。いや、この際comcomは放置でいいか。最優先は業を見つけ出すこと。今ここで無駄に敵は作らない方がいいか。飴奴隷(キャンディソルジャー)が暴れ、それが消えた。奴ならここからどう動こうとする。あくまで府中にいたらの話だが)

 飴奴隷(キャンディソルジャー)の増殖と消失。舟木真澄と久留間紗穂が来ていることは明白になる。そして消失は久留間紗穂が倒されたことになる。それが出来るのはcomcomくらい。府中にcomcomがいる。

(量で見るか質で見るか。飴奴隷(キャンディソルジャー)が減って動きやすくなったと考えるのか、それとも甘魅了(ポッピンキャンディ・フィーバー)よりも強制力が強いであろうcomcomの超能力(アビル)の出現で撤退するか)

 攻めるか一度退いて立て直すか。どちらもありえる。

(とりあえず俺は能力を使って業を引き摺り出すか。業の性格的に無関係な人間は巻き込みたくないだろうしcomcomを死なせるわけにはいかないし俺の能力を見ればcomcomが敵の手に落ちる可能性も考えて必ず止めに入るはず。俺はcomcomから離れながら能力を使い続ければ良い)

 今厄介なのはcomcomの能力で操られた人間が飴奴隷(キャンディソルジャー)のように襲いかかることだ。

 先に業を捕らえられるわけにはいかないし、操られた人間を無力化しようとすればcomcomに居場所がバレてしまう。

(……厄介な奴だ。狙ってるかはいざ知らずだが。…ここは漁夫るのが1番か)


 ♢♢♢


「仮面の奴らが消えた。転移能力者に何かあったと見て良いだろう。原因は不明。ここまではいいな」

「大丈夫だ。問題はその能力者がいたであろう府中に戻ろうとしてるが、仮にその能力者を倒したのが神岐であった場合、むざむざ姿を現すことになる」

「神岐が府中にいるのなら零兄は捕まっているのは明白、虫の知らせだがおそらく正しい。そして府中駅にいるのなら時雨ちゃんは捕まっていない」

「?何故言い切れる?」

「時雨ちゃんが捕まっているのなら瞬間移動(テレポート)を使うはずだ。時雨ちゃんは府中の人間だ。時雨ちゃんの能力の発動条件の『一度行ったことのある場所』が車や電車での通過でも満たすのなら、もっと早くに俺達は見つかっているはず。神岐の認識誘導(ミスリード)で俺達を探す人間を生み出しているから正直言って俺達の居場所は捕捉されているはず」

「なるほど、府中に転移能力者がいると分かっているのなら俺達の場所も知っていると…。分かってて追って来ないのはいつでもやれるからってか…」

「とすると、……俺達が戻ろうとしているのも分かってるということか!」

「おそらくはな。ならますます追って来ないのも頷ける。俺達が勝手に来るんだから」

「だが何で神岐は転移能力者から始末したんだ?仮面の集団如きに神岐がやられるとは思えないし神岐だって操り人形は増やせるんだからぶつければ問題ないだろうに」

「……俺達、てよりドクターを見つけるよりも優先しなきゃいけないことが出来たから…?」

「優先?優先って何があるんだよ。時雨ちゃんの捕獲よりもか?」

「知らねーよ。零兄を捕まえてるから俺達を見逃すつもりはないみたいだけど、立ち回りによっては何とかなるかもしれない」

「……神岐より先に時雨ちゃんを回収すること」

「そう。零兄も助けたいけどまずは時雨ちゃんだ。彼女を助けるのが最優先だ」

「けど時雨ちゃんがどこにいるかなんて分かるのか?」

「分からない。…零兄が捕まって時雨ちゃんが捕まっていないのなら別行動を取ったことになる。囮にでもなったんだろうな。おそらくそれは上手く行った。けど神岐は積極的に時雨ちゃんを捕まえようとせず転移能力者から対処した」

「俺達と同じでいつでも捕まえられる状態にあるってこと。つまり時雨ちゃんはそう遠くにいない」

「府中市街地の中ではない。囮作戦が上手くいったと見ると府中からは出られてる、けど依然として危険な状態にある。可能性としてはどういうシチュエーションがある?」

 丹愛と実録が考える。市丸も答えを知っているわけではない。考える。

(府中から出られてる、と考えると神岐の認識誘導(ミスリード)で操られた人は時雨ちゃんまでは追いつけているのか?否!零兄はそんな柔ではない。おそらく全力を賭して時間を稼いだはずだ)

(零兄が時雨ちゃんを逃すならどこに逃がす?俺たちの真反対。南、神奈川方面に逃すに違いない。南に行けば南武線と京王相模原線があるはず。時間を稼ぐなら一本道の橋が1番やりやすい)

(神奈川から3方向に行ける、だが時雨ちゃんの精神状態を考えると1人で歩きで逃げ続けるのは難しいだろう。……電車だ。時間通りに来る電車なら一本先に行くだけで追い付けなくなる)

(バスだと渋滞に巻き込まれたら動けなくなる。電車に渋滞はない。事故が発生しない限りは必ず動く)

(裏を返せば事故が起きれば電車は止まる。電車の中は密室だ。出られなくなる。神岐の狙いは電車の中に閉じ込めること)

(電車が止まれば後からでも捕まえられる。認識誘導(ミスリード)で操っている人間なら足で電車に追い付くことも可能。零兄が捕まったのなら止める奴はいない)


「「「神岐は電車の中に時雨ちゃんを閉じ込めた!!!」」」

 それならば時雨に自力での脱出は難しい。方法は分からないが認識誘導(ミスリード)を使って電車を止めるなど容易だろう。

「どうする?何とかしてあっちに行かなきゃならないが…」

 そのためには府中市街地を通らなければならない。

「神岐がどうしても邪魔だ。こっちの動きが読まれてる以上、合流したところを一網打尽することもありえる」

「だが絶対に時雨ちゃんは助けなきゃいけない」

「くそっ、ドクターはまだなのか!?」

「…そもそも…何でドクターは零兄にしかスマホを与えなかったんだろう」

「それはドクターに会った後に考えれば良いだろ。…….まぁ俺達はドクターに連絡を取る手段はないし連絡するなと言われてる。ここで連絡するのは命令違反だ」

「その命令はこちら側に何も起こっていないことが前提だろ!今は非常事態だ。零兄がいなければ神原達の動向は掴めないし時雨ちゃんの瞬間移動(テレポート)なしでこの先戦えるのか!?」

「落ち着けここで言い争うな。ドクターを信じろ。これはある種試練だ」

「「試練?」」

「ドクターが俺達を使って神原達の力を促したように、これは俺達の成長に必要な試練なんだ。俺に頼らずにやってみろ、ってメッセージすら感じられる。でなきゃ連絡手段を切ることをするわけがない。俺達からドクターの情報が漏れる危険性だってあるのに。貴重な超常の扉(アビリティーパス)を俺達に使っている以上見捨てるなんてことは絶対にしない。俺達は神原達に負けた。ドクターの立場的にそんな俺達がこの先を戦っていけると思うか?」

「「………」」

 色鬼(カラースナッチ)高鬼(タワースナッチ)氷鬼(ムーブスナッチ)

 神岐が来てから超能力(アビル)を使ったのは氷鬼(ムーブスナッチ)のみだ。色鬼(カラースナッチ)高鬼(タワースナッチ)は発動条件が特殊で使い所が悪い。氷鬼(ムーブスナッチ)がいなければ車の特攻も回避出来なかった。

 はっきり言って、弱い。

 弱いと下に見ていた神原達にしてやられたという結果。

 神原は敗色濃厚ながらも仲間の手助けと強い精神力によって勝利した。

 神岐は超能力でゲームメイキングを行い、策に嵌めて見事勝利した。

 神坂は敗色濃厚の中から微かなヒントと仲間の手助けにより形勢逆転して勝利した。

 神岐は例外として神原と神坂は負けが見えていた。神原に関しては殆ど負けていた。だが彼等は勝った。

 それは簡単だ。鬼束達は弱かった。ただそれだけの事。

 市丸は思う。

(神原だったらどうしただろうか。あいつは弱いけど強い。弱いのは超能力(アビル)でありしかもそれも客観視した時で麦島と共に俺の色鬼(カラースナッチ)を攻略したのだから。あいつなら、超能力(アビル)を駆使して何とかするんだろう。未だにどんな能力かが分からないからこそ何かするんじゃないかという期待がある。それこそ最強とも言える神岐の認識誘導(ミスリード)にも一矢報いるような、そんな気が…)

 丹愛は思う。

(神岐が仕掛けて来てるのに神岐側で考えるのもおかしな話だけど、あいつなら近くの市民を操ってまず相手の出方を窺うだろう。囮として引きつけてその隙に神奈川まで行くことも出来るし直接敵を叩くことも出来る。操られている人間達を操り返すことも出来るかもしれない。少なくても神岐が負けるところは想像出来ない)

 実録は思う。

(神坂なら、弱くする力を使って操られている人間を弱体化することが出来るだろう。弱くする…はまだ推測の域だが本当の能力がまだあるのだとしたら、それを使ってどうにかするんだろう。頭の回転も早いし策を練ることも出来るはず。神岐に勝てずとも、神奈川まで逃げ切る事は出来るかもしれない)

 では、自分達ならどうだろうか?

 市丸は思う。

(色鬼(カラースナッチ)は色を宣言してその色を占める割合が多い物体を1つ、1分間操る能力。はっきり言って制約が多くて1番使いづらい。神原の強さにあてられたのか、使い続けて慣れたのか。ちゃんと測っていないが操作可能時間が延びているような気がする。けどそれでも1分ちょっとで同じ色を続けて操れないし1個しか操れないし……。自分で試練とは言ったが、確かにこういう極限でもない限り強くなれない気がする)

 けど……

(単色のモノって結構少ないんだよな。あの商店街もシャッターが白かったから使えたけど普通単色なんて街の景観を崩すしそんなデザインぽんぽんないだろうし…。煙玉が単色だから操作可能だけど残り1個だ。手持ちもない。操作出来るものを見つけて器用に使わないといけない…。試練だなこりゃ…)

 丹愛は思う。

(高鬼(タワースナッチ)。自分よりも高い位置に移動させた物体を操作する能力。2階で物体に触って自分だけ1階に移動しても操作は出来なかったから直接触って上にぶん投げないといけない。色鬼(カラースナッチ)よりも制約は少ないが持ち上げられるくらいの大きさと質量じゃないと操れない暗黙の縛りがある。逃げながら戦いながら持ち上げられて相手にダメージを与えられるものは少ない。車は持ち上げられないし電柱は引っこ抜くことすら出来ない。その辺の草木では軽過ぎてマトモな攻撃にならない)

 神岐と戦った時もトレーニング用ボールと刺繍針を購入した上で挑んだ。今回は買い物する時間はない。今この街にあるものを使わなくてはならない。

(煙玉は軽くて使えるが残り1個だ。手持ちもない。操作出来るものを見つけて器用に使わないといけない…。試練だなこりゃ…)

 実録は思う。

(氷鬼(ムーブスナッチ)は触れた対象を次に瞬きをするまで固定する能力。はっきり言って1番実践的で零兄は例外として俺達兄弟の中では当たりの部類だと思う。特攻車を氷鬼(ムーブスナッチ)で回避出来た実例があるし色鬼(カラースナッチ)高鬼(タワースナッチ)よりは使い所は多い。けど、固定出来るのは1つのみ。神岐は認識誘導(ミスリード)で複数の人間を操作して襲ってくるだろう。単純に数に弱い。人以外も固定出来るようになればまだ戦略の幅は広がるがそれは出来ないし結局1つじゃその場しのぎにしかならない)

 実録は1番使いやすい能力を持っている。だからこそ、神坂に負けた事を引き摺っている。臼木らの協力があったから正々堂々ではなかったかもしれない。しかしそれを言うなら道具を用いて戦っている時点で正々堂々ではない。神坂の姉を脅しに使ったのだ。決してフェアではなかった。だからこそ最終的には複数になったことは気にしていない。道具を用い、脅しをしてこちらに万全な状態でなお負けたことが、どうしても心にシコリを残してしまっている。

(神坂がこの街にいるわけないが、次あいつに会った時に俺は本来の力を出せるのだろうか。複数に弱い俺が実際複数人と相対した時、果たして俺は勝てるのか?俺は、俺だけで戦えるのか?……。試練だなこりゃ…)


 試練

 ドクターが課した試練。

 この先戦っていけるだけの力を彼らが有しているのかどうかの確認。

 萩原時雨を逃がせないようでは必ずドクターの足を引っ張る存在になる。

 鬼束零は全力を賭して、命懸けで萩原時雨を逃がした。

 次は三つ子達だ。

 超能力(アビル)を使い、頭を使い、肉体を使い、強大な敵に立ち向かっていく。

 勝つ事がゴールではない。

 戦っているのかどうかだ。

 それに相応しい強大な敵が、彼らに近づいていた。


「おっ、黒煙だーーー」

 陽気な男。この場に相応しくない陽気さ。

 こんな時に陽気な奴は、大抵頭がおかしいと相場が決まっている。

現在の状況


神岐義晴

府中駅で情報収集中


平原暁美、戸瀬奏音

護衛の男と共に東京競馬場へ向かう


鬼束市丸、丹愛、実録

府中駅へ向かう


鬼束零

神岐に捕まる


萩原時雨

電車の中に閉じ込められる


羽原のの

府中駅へ向かう


舟木真澄、九重那由多

東京競馬場から撤収中


能登八散、久留間紗穂

神岐に捕まる


牧村

府中駅前の黒煙発生地点で飴奴隷を足止め


雪走

甲州街道の黒煙発生地点に到着




新キャラと新しい超能力をちょいとだけ出しました

ドクターとも謎の女達とも違う別の勢力

味方?敵?

牧村と雪走の超能力は何なのか。


鬼束三つ子と羽原と雪走

神岐と牧村と平原達と舟木達

閉じ込められた萩原

そして未だに姿を見せないドクター

川崎にいる神原

謎の増援 知覧


次の脱落者は誰なのか?

次回も府中動乱です。


新キャラの2人にスポットを当てましょうかね〜

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