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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第1章 神原奈津緒
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第9話 超能力者来襲①

 はぁー。今日から学校かー。

 月曜日マジで絶滅させようぜー。

 学校だりーよー。

 近場で考えてこの学校にしたけど徒歩30分は苦行だと思うんだよねー。

 バスを使えば15分くらいで行けるけど時間通りに来ないバスはどうも好きになれない。

 自転車で通ってもいいけど何か学校に申請出さないといけないしなー。

 はぁ、帰ろっかなー。

 既に校門をくぐって下駄箱で上履きを履き替えながら神原はめんどくさそうな表情をしている。

 けど帰るとなるとまた30分歩かなきゃいけないしなー。

 もう学校に住もうかなマジで。

 そんな社畜ならぬ学畜のようなことを考えつつ教室のドアを開けた。


 ガラガラガラ

 クラスメイトの1人が俺の方を見た。

 あっ、神原君、と呟くとそれを聞いたクラスメイトの面々が一斉に俺を見だした。

 えっ?何でこんな注目されてるの?あれ?俺なんかしたっけ?

「ねえねえ神原君」

 ニコニコしながらクラスメイトの女子が話しかけてきた。

「えっ何?」

 物静かな性格のトップカーストとしてチヤホヤされるようになってからはぶっきらぼうな一面を出しても気味悪がられることがなくなった。

 これはかなり学園生活のアドバンテージになったな

 いや、むしろディスか。

 これやると前までは人が離れていって楽だったがそれやっても会話が続くようになったからな。

 神原はそういうやつだからってね。

「聞いたんだけどさー、祥菜と付き合うようになったって本当?」

 俺誰かに喋ったっけ?

 俺と麦島と祥菜ぐらいしか知らないはずなんだけどな。

「そうだけどなんで知ってるの?」

 俺がそうだと答えた瞬間、女子は歓声を上げ男子は悔しそうな表情をした。

 1人は席でアウアウしてる。

「祥菜が言ったのか?」

 現在アウアウしている祥菜の方を見つつ聞いてみる。

「部活であまりにもニヤニヤしてて気持ち悪かったから理由聞いたのよ。そしたら勿体ぶりながらも教えてくれたのよ」

 おーい、祥菜さーん。別に秘密にしようとか言わなかったけどダダ漏れはどうなんですかねー。

 こっちを見てきた祥菜と目が合うと手をバタバタさせながら机に突っ伏してしまった。

「そうか、同じテニス部だったのか。すまんな」

 俺は何に謝ってるんだよ。

「ううん、それよりおめでとう。2人お似合いだよ」

「ありがとう。にしてもこの反応は何なの?」

 クラスの連中を見渡しながら聞いてみる。

「気付かなかったの?まぁあんだけ露骨なアピールしてても気付かなかったらしいからね。祥菜って結構モテてるんだよ。クラスでも狙ってる人多かったしね。クラスの中でも派閥が大きいからね。そんな祥菜を射止めた神原君は凄いんだよーコノコノー」

 脇腹を小突いてくる。

 大きな声で派閥とか言わないで!ギスギスし出しちゃうから。

「痛い痛い。じゃあ何も反応しない女子は反祥菜派閥っこと?」

「反ってよりはむしろ君を狙ってた子達だよ」

 それを聞いてガタガタと反祥菜派閥の方々が立ち上がって詰め寄ってきた。

「ちょっと変なこと言わないでくれる!勘違いも甚だしいんだけど!」

 給食の時間に俺の近くで食べてた女子が割ってきた。なるほど、あれはそういう意味だったのか。

「えーでも祥菜に聞こえる声で神原君を狙おうとか色々言ってたじゃん」

 やめてー。俺のことで争わないで!教室に亀裂が入った気がする…。

「うるっさいわね!ねぇ神原君〜、私にしなーい。ほら、おっぱい大きいよ〜。伊武さんのペチャパイより楽しませてあげられると思うよ〜」

 うわぁ、絶対祥菜に聞こえるように言ってるよこの人。

 てかもうやめて、他のクラスの人まで廊下で覗いてるじゃん!てか誰か止めろよ!

「確かに祥菜より胸は大きいし、大きい子は好きだけどさー」

 祥菜が立ち上がりこちらに向かっている。表情がもう直視出来ない顔をしている。

 待って浮気じゃないから最後まで聞いて!

 そして神原は続ける。


「大きい子は好きだけど、君はそれだけじゃん」

「はっ?」

 そのおっぱいちゃんが意味が分からないという表情をしている。

 祥菜やクラスメイトも俺の言わんとしていることが分からないようだ。

「だからそれだけじゃんって言ってんの」

「それだけって大きいのは不満なの?」

「なぁ、君は将来引越しをする時何を基準に選ぶ?」

 神原が教室に入って質問してきた女の子に尋ねる。

「え?引越しする時?そうね…、日当たりとか風呂トイレ別、大学に近いところとか大通りに面してないところ。あとコンビニが近くにあるところかな」

「そうだよな」

「何が言いたいのよ?」

 痺れを切らしたおっぱいちゃんが聞いてくる。

「家一つ選ぶのにも沢山の要因が合わさって決まってるんだよ。大学に近いだけで選んで日当たりが悪く部屋干ししか出来ないみたいな失敗をしちゃうかもしれないからな。多角的に物事を見て人は決定をするんだよ」

 つまり…と神原は続ける。

「胸が大きいくらいで俺は女を選んだりしないんだよ。性格やルックス、一緒にいてどう感じるか?考え方が近いとかそういう色んな視点から見て判断するんだよ。おっぱいしかないお前とおっぱいないけど他に色んなものを持ってる祥菜だったらどっちを選ぶかなんて明白だろ?第一お前しつこい。給食の時とかガツガツ来すぎ。俺大人しめの子が好きなの」

 質問をくれた女の子がキョトンとしてる。おっぱいちゃんは顔を真っ赤にしている。

 男子達も何故か俺に羨望の眼差しを向けている。

「な、何よ偉そうに!最近チヤホヤされるようになったからって調子乗るんじゃないわよ!この根暗が!」

 激昂を他所に祥菜がこちらに到着した。

「おはよう祥」ドンッ 「菜ぁ」

 思いっきり祥菜に足を踏まれた。

「何すんだよ」

「胸が小さくて悪かったわね!」

 踏んだ足をグリグリさせてくる。

「痛い、痛いって祥菜、ごめんごめん。これからだと思うよ」

「それ励ましてるつもりなのかな!」

「ちょっとこれ以上踏むな踏むなぁ」

 俺の足を踏みながら祥菜はおっぱいちゃんに視線を向ける。

「私このおっぱい星人と付き合ってるの。だから私の彼にチョッカイ出すのやめてくれないかな」

 マジトーンで祥菜が告げる。

「ヒッ!」

 これにはおっぱいちゃんもビビってしまい教室から逃げるように出ていってしまった。

「ちょっと美代子!」

 続いて何人かが教室から出て行く。

 おそらく反祥菜派閥の連中だろう。


「あのー、祥菜さん。そろそろ足を退けてくれませんかねー」

「ふん!」

 ようやく祥菜が足を退けてくれた、痛いよー。

「奈津緒君」

「何でしょうか?」

 思わず敬語になってしまう。

「おっぱい星人」

 おぉー絶妙に抉ってきますこと。

「それは否定しないが、だったら祥菜と付き合ってないだろうが」

「じゃあここで同じこと言ってよ」

 同じことってアレですかね。

 待って、あの時は2人きりだったから言ったけど今どんだけギャラリーいると思ってんの。

 恥ずかしいんだけど。

「私のこと好きじゃないの?」

 この状況は言うしかないよな。



「………大好きだよ」

「うん、私も!」

 教室ですよ祥菜さん。

 あの時みたいに抱きつかないで!

 あーもうみんな冷やかしてるよ。

 ヒューヒューうるせーよ。

「ヒューヒュー」

「神原にだったら任せられるぞー」

「浮気したら承知しないからねー」

 男女問わず色んな声が聞こえてくる。

「も、もういいだろ。もうすぐ先生来るぞ」

 抱きしめる祥菜を引き剥がす。

「もうこんな時間だ!私お手洗い行ってくる」

 祥菜がトイレの方に走って行く。

 はぁー疲れた。

 週明け早々修羅場に遭遇するとは何とも不幸だ。


「朝から暑いね」

「お前があんなこと言うからだろ」

「あれは祥菜に頼まれたのよ」

「頼まれた?何をだよ?」

 あの一連の出来事を仕向けたっけか 祥菜が?

「私と付き合ったと知っても神原君を狙ってる人がいるかもしれないから私達が付き合ってることを学校中に知ってもらおうって部活の時に頼まれてね」

 俺ってそんなに狙われてたのかよ。

 あの行為がアピールだったってことか。

 アレで俺が靡くと思ってたのかあいつらは。

 俺のこと下に見過ぎだろ!

「そうか、損な役回りをさせてすまなかったな」

「ううん、私が志願したんだよ。そもそも祥菜の恋愛相談に乗ってたから最後まで聞きたかったし。それに神原君が祥菜をどう思ってるのか聞きたくてね。まぁ相思相愛で砂糖吐きそうだけど」

「それはすまないな、ええと、君名前なんだっけ?」

「ちょっと!クラスメイト、しかも祥菜の友達は覚えときなさいよ!」

「すまん。人の名前を覚えるのは苦手なんだよ」

 顔と名前がどうも一致しない。未だにクラスメイトの3分の1は顔を見て名前を言えるかどうか不安だしな。

「私の名前は柿山凛、祥菜と同じテニス部。覚えておきなさいよね」

「あぁ、よろしく。柿山さん」

 祥菜がトイレから戻ってきた。

 丁度チャイムが鳴り先生が教室に入ってきた。

 授業だるいな。

 精神ゴリゴリ削られたからやる気が出ないな。

 眠い…


 ♢♢♢


 朝の出来事はたちまち騒動を廊下から見ていた連中によって学校中に拡散された。

 神原奈津緒と伊武祥菜カップルの誕生。

 教室で朝からイチャイチャ。

 愛の力で敵を撃退。

 神原奈津緒おっぱい星人説。

 最後の何だよ!

 敵っておっぱいちゃんのことか。こんなのが広まったらクラスに居づらくなるかもな。

 給食の時も掻き込むように食べてそそくさと教室から出ていったし。

 てことは今日は久しぶりの2人きりの食事だ。

 以前みたく2人でまったりしよう…と思ったら…



「何でお前らがいるんだよ」

 2人に目を向ける。

「いや〜、ね〜?アハハハ〜」

 麦島の歯切れが悪い。この時点で何かあると分かってしまう。

「私は祥菜の友達なんだから祥菜の隣で食べてもいいでしょ。それとも2人きりが良かった?」

 柿山がニヤニヤとものすごく悪巧みをしてるかのような顔をしている。

 俺らをからかってるんだな。

 うん、ムカついた。

「そうか、じゃあ俺は向こうで食べることにするよ」

 給食のおぼんを持って移動する準備をする。

 それを見て慌てて柿山が止めに入る。

「あー待って待って!からかってゴメン。謝るから、行かないで。祥菜も泣いちゃうよ」

「そんぐらいで泣かんだろ」

 そう思ってチラッと祥菜の方を見ると

「な、泣いてないよ?」

 声震えてるしズズッと鼻すすってるし泣きかけじゃないですか。

 祥菜って結構メンタルが弱いのか?

 いや、感情の起伏が激しいんだろうか

 女の子なんてそんなもんか。

「行かねーよ。冗談だよ。ほら食べようぜ」

「うん」

「「「「いただきます」」」」

 4人で給食を食べ始める。

 今日の献立は麦ご飯に八宝菜、ほうれん草の胡麻和えだ。

 他の生徒達はカレーがいいとかフルーツポンチがいいとか言ってるがあれは甘ちゃんだな。

 ほうれん草の胡麻和えとかめちゃんこ美味しいじゃないか。

 主張しすぎないあくまで副菜というポジションを守り続けてる。

 こんな素晴らしい料理が他にあるか。

 これを誰かに力説してやりたいところだが理解してくれる奴はおそらくいないだろう。

 祥菜と柿山は談笑しながら食べてる。

 麦島は食事中はあまり喋らないのだろう。

 最低限の会話はするって感じだ。

 黙々と食べてる。

 俺も食事中は静かにしたい方だから黙々と食べてる

 早く食ったらその分寝れるしな。

「ねえねえ、神原君っていつから祥菜のことが好きなの?」

 プフォっと吹き出すような声が聞こえた。

 祥菜…その調子でこれから大丈夫なのか?もう学校中に広まってるから気にしなくていいがそんぐらいでいちいち反応してたら体が持たんぞ。

 無視してもいいところだがここは正直に答えよう。

「お互い名前呼びするようになってから少しずつ意識するようになってそれからだんだん…かな」

「へぇー、決め手は何なの?」

 決め手か、そんなの決まってる。

「一緒にいて楽なところだよ」

 本当は秘密を抱えた俺を受け入れてくれたことだがそれを言うと詮索されそうだったので言うのはやめた。

 俺がそう言うと伊武が嬉しそうにモジモジしだす。

 しかし、祥菜は以前これを言った時いい顔はしなかった。

 いてもいなくても変わらないって意味なの?と今日の休み時間に言われたが気を許せるという意味だと説明するとまた抱きついてきた。

 祥菜さん、ここ学校ですよ。

 また男ども、特に松草の視線が痛いよー。

 おっぱいちゃんも気まずそうにしてるし。


 食べ終わった後は4人で雑談に興じた。

 麦島がなっちゃん呼びを連発してきたが俺の真意に気付いたのだろう。

 俺も注意することはなくなった。

 柿山にもなっちゃん呼びされてこっちもりんちゃんと呼んだら柿山の顔が赤くなった。

 あっ、これ死んだわ。

 祥菜がすごい形相で睨んでくる

「私が側にいながら凛に浮気するのかな〜?」

「違う違う。売り言葉に買い言葉みたいなもんだろ今のは。分かった、普通に凛さんって呼ぶから」

 どうやら祥菜はちょっとアレらしい。

 何ていうんだっけ?嫉妬深い…ヤンデレ?メンヘラ?

 どっちにしても俺は生きていけるだろうか?


 昼休みの時間だ。

 やはり朝のことが衝撃的だったのだろう。

 俺に話しかけてくる人がめっちゃ増えてきた。

 一々相手するのも面倒だったので人があまり来ない中庭の隅のベンチで休憩していた。

 途中生活指導の鋼音にも声をかけられ弄られた。

 何で知ってるのかを聞いたらどうやら先生達の間でも祥菜は評判が良かったらしい。

 本当にモテモテなんだな祥菜って。

 鋼音に話しかけられたぐらいでそれっきり中庭に人が来ることはなかった。

 久方ぶりの1人の時間だ。

 昼寝しよう…。


 ♢♢♢


 それから3週間ほど経った。特に代わり映えはしない。期末テストがあって体育祭の組み分けが行われたぐらいだ。7月に入って夏本番、暑いったらありゃしない。

 3週間前に昼寝した時みたく、のんびり昼休みを過ごそう。


 神原の中では代わり映えはしなかったが時事では大きな動きがあった。1番はcomcomだ。

 どうやらcomcomの動画のせいでプロ野球界に激震が走っているらしい。

 それもそうだ。素人の俺や麦島が130キロ台を出せるんだ。

 実際にプロ野球選手がcomcomの動画を見て投球したら170キロを出したらしい。

 インフレも甚だしいことになった。

 170キロの球なんて誰も打つことは出来ない。

 野球連盟の会長も会見を開き、球威の出にくいボールを今後の試合では使用することを発表した。

 空気抵抗が大きいボールにする事で急速を10%下げられるらしい。

 1動画投稿者がプロ野球界を変えたのだ。

 これにはネット民も相当盛り上がっている。

 該当動画を削除させるのかと思ったが反社会的でも暴力的でもない、ただのタメになる知識を披露したぐらいの動画を削除させたらそれこそ問題になるからな。

 けどこのルール変更はcomcomの動画を見てない人にはかなり不利になるだろう。

 よってプロ野球選手は今後必ずcomcomの動画を見なくてはならない。

 広告収入がホクホクだろう。

 ニュースでも取り上げられてcomcomの知名度は動画界隈を超えて全国に知られることになった。

 テレビにも音声だけではあるが出演も果たし着実に日本トップの地位を確立している。チャンネル登録者も400万人を超えたみたいだ。

 あとは都内で行方不明者の数が増えてるぐらいか

 物騒だな。


 ♢♢♢


 キーンコーンカーンコーン


 放課後だ。

 祥菜は部活があるため一緒に帰ることはない。

 俺が終わるまで待てばいいのだが祥菜が気を遣って待たなくていいよと言ってくれた。

 なので終わって真っ直ぐ家に帰ることにしている。

 と言っても麦島とだが…。

「なっちゃーん〜、帰ろう〜」

「あぁ、いいぞ」

 2人で校門を出る。

「そういえばニュース見たか?もう3週間なのにまだ報道してるぞ。comcom凄いな」

 俺が話題を振る

「見たよ〜。凄いよね〜。ルールを変えるなんてね〜」

「ファンとしては嬉しい限りか?」

「知名度も上がったし嬉しいっちゃ嬉しいけど〜、何せ方法がね〜。スポーツ界からはあまり良い印象は持たれてないんじゃないのかな〜?」

 2人でcomcomについて話した。

 そういえば朝教室に入った時、野球のことを話している奴等がいたけどもしかしてcomcomのことを言ってたのだろうか?


「今日は何かすんのか?」

 俺がどうせ用があるんだろうと思い聞いてみる。

「お前を試しにきた」

「何だよ試すって、また何か検証するのかw?」

「……」

 何故か麦島が先の言葉を話さない。

「どうした?」

 たまらず尋ねる。

「…俺〜、今何も言ってないよ〜」

「はっ?でも試しにきたって…」

 2人で顔を見合わせていると…。

「神原奈津緒だな?」

 後ろから声が聞こえた。

 振り返って見てみると八重歯が特徴的な男が立っていた。

「いや?違うけど?」。

 咄嗟に嘘をつくが…

「嘘をつかなくていいよ。怪しい者じゃないさ」

「人に名前を尋ねる時は自分からって母ちゃんに習わなかったのか?」

 神原が煽ると八重歯の男がイラついたような表情をする。

「俺には母親はいない。だからそんなことは習ってないが名乗るとしよう。俺の名前は鬼束市丸。お前と同じ超能力者だよ」

 神原の顔が強張る。

 超能力者〜?と麦島が首を傾げているが神原はそっちを見ていない。

 目の前の男にのみ意識を向けていた。

(こいつ…超能力者か…)

 初めて見る超能力者に戸惑う神原。

「白衣の男の差し金か?」

 そう尋ねると鬼束と名乗る男は驚いた表情をした。

「お前、ドクターを知ってるのか?」

(決まりだな。こいつは白衣の男を知っている。そいつからの依頼なんだろう)

「俺に何の用だ?」

「君に協力してほしい」

「試すとか言ってたが?」

 そう尋ねると…

「俺達は強い超能力者を探してる。君達はドクターから直接能力を貰ったんだろう?君達のことは監視させてもらったが君の能力だけは分析出来なかった。だから君の能力を見せてもらいたい」

「貰ったというより勝手に与えられたが正しいけどな、覚えてないけど。能力は大したことはないよ」

「謙遜するな。ドッジボールであの大男を倒したのも確認済みだ。中庭で2人を殴り倒したのも調べはついている。大方肉体強化系の能力だろうが確実性がない」

 なるほど、確かに端から見たら肉体強化の能力に見えるのか。実際は違うんだけどな。

「監視って言ってたがそれがあんたの能力か?」

 監視能力…千里眼か、なら逃げるのは無意味だな。ここで対処するしかないな。

「監視…とはちょっと違うけどな、あとそれは兄貴の能力だ。俺は別の能力だ」

 千里眼の能力も存在するのか。こいつがどんな能力か分からない以上迂闊には近付けないな。

 幸い俺の能力も誤解してるみたいだし、隙をついて攻撃出来る機会を伺おう。

(にしてもやっぱり白衣の男は俺を探していたか。監視されてたってことは最初から居場所は分かってたってことか。10年もよく泳がせてたな)

 もしもの時のために筋トレをしていて良かった。

 神原の身体には平均以上の筋肉が付いており体格もがっしりしていた。

 期間が短かったためまだ発展途上だがいずれはアスリート選手張りの体格になるだろう。

「せっかくのお誘いありがたいが生憎俺は暇じゃないんだ。悪いな。行くぞ麦島」

「えっ〜、う、うん〜」

 2人はその場を去っていく。

 それを見て市丸は溜息をついた。

「はぁー、交渉失敗か。なら力ずくで能力を見せてもらおうかな」

 そう言うと市丸はポケットから黒い玉を取り出した。

 そしてその玉を神原に向けて投げた。

 背中を見せて歩いていたため黒い玉に気付かなかった神原は背中からモロに当たってしまった。

「ガハッ」

 メキメキと肉にめり込む音が立つ。

「ドクターから大したことのない能力だったら殺しても構わないと言われている。戦え神原奈津緒!死にたくなかったからな!」

 痛えじゃねーかクソが!骨折は…うん、大丈夫だ。ただ痛いな。少し肉が抉れてるかもな。これは戦闘不可避っぽいな。

「麦島、逃げろ。あいつは俺が目当てだからお前は大丈夫だ」

 麦島は超能力者ではない。これは俺の問題だ。無関係の麦島を巻き込むわけにはいかない。

 しかし…

「何言ってるのさ〜、なっちゃんが逃げないなら俺も逃げない〜!」

「ふざけるな!今の見ただろ。あんな小さい物で人間を攻撃できるんだぞ!俺にもどんな力か分からないがあれが超能力だ!能力のないお前は足手まといだ!」

「嫌だ!俺も残る!なっちゃんを1人置いていったりはしない!」

 いつもの間延びした口調がなくなっていた。

 それだけ本気で言っているということだ。

「良い友達だな、だが神原奈津緒の言う通り能力のないお前がいたって死ぬだけだぞ?」

 麦島は体をビクッとさせたが倒れている神原を見て言う。

「超能力なんて信じられないけど~、もしあなたの言うことが正しいのならなっちゃんはその…肉体強化?の能力だよね〜?てことは攻撃手段は肉弾になる〜。近接戦になるんだから1人より2人いた方があなたには不利になると思うけど〜」

 市丸は何も言わない。図星だったから黙っているのではない。このぽっちゃり体型の男を見くびっていたからだ。

「驚いたな、超能力を肯定して尚ここに残るか。確かに2人に攻撃されたら、意識の分散、撹乱、囮、連携攻撃、バリエーションの幅が広がるな。俺の能力の隙を突けるかもしれないな。けどお前に付いてこれるのか?腕っ節が良いだけで超能力者を倒せるほど超能力はチープじゃないぞ!」

「なっちゃんならお前なんか一瞬だよ〜」

「おい!結局は俺任せかよ。鯖東と言い俺に期待しすぎだ」

 うつ伏せの状態でツッコミを入れる神原。

「ただ…まぁありがとよ。お前も色々聞きたいことがあるだろうがまずはそいつだ。けど危なくなったらすぐ逃げろよ。間違いなく殺す気で来るぞ!」

「分かってる〜、頑張るぞ〜」

 こんな状況でもゆるい雰囲気を崩さないなこいつは、だが心強い。

 俺の能力は発動までに時間がかかるから麦島が時間稼ぎをしてくれたら十分だ。

 俺の問題に巻き込みたくなかったが仕方がない。

 こいつを倒して白衣の男のことを問いただしてやる。

鬼束市丸

能力名:不明

能力詳細:不明


神原奈津緒

能力名:不明

能力詳細:肉体強化?


麦島迅疾

能力なし


さあやってきました戦いです

果たして神原の超能力は何なのか?

想像しながら読み進めてください

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