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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
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第86話 府中動乱②

 8月6日 府中駅

「おいおいおいおい、こりゃどうなってんだよ」

 神坂は少しばかり後悔していた。

 昨日自分らが彩プロダクションを見学していた間にここでこんなことが起こっていたのか。

 タイミングが悪い、本当にただそれだけなのだがドクターに接触出来るチャンスを逃したのは後々大きく響きそうだと感じていた。


 決して神坂が調べた内容に超能力に関するものは当たり前だが書かれていない。

 しかし…

(これだけの大事なのにネットニュースは何も報じてなかったぞ。テレビならあいつらゴミ虫だから適当な報道しかしないが…、ネットニュースも何もないのは不自然だろ。ツイスターの個人単位の断片的な情報しか残されていない)

 スポンサーとかお偉いさんの圧力なんか関係ねーぜ!と言いそうな連中までもが沈黙を貫いている。

 明らかにおかしい。

(国家絡みの騒動?それか……ドクターがそれだけの権力を有しているのか?)

 いや、それはない。

(国に関わる人間ならあんな回りくどいことはしないし黒い棒を使って能力者を量産出来るはず。ドクターらは弱い立場。つまり、国に関わっているのはドクターの敵側ってことになる。面倒だ。ドクターの敵が俺らの味方になるはずがない。敵はドクターだけじゃないってことか)


 考察したいところだが情報がバラバラすぎる。まずは散りばめられたソースを整理、分析しなければならない。

(バッテリー持つだろうか?)

 通信によるバッテリーの減りを気にしながら、神坂は昨日府中で起こった騒動について調べ始めた。


 ♢♢♢


 8月5日

 東京競馬場近く


「どうすんだ零兄」

 決断しなければならない。

 神岐から逃げることに注力するかドクターと合流することに注力するか。

(どれを選ぶのが正解なんだ…)

 優先しなければならないのはドクターの合流、そして萩原時雨の府中からの脱出だ。

 ドクターの所在が分からない以上は時雨を逃す事だけを考えれば良い。はずなのだが。

 自分の決断で弟達に危害が加わるかもしれないという恐怖が、決断を鈍らせていた。

 時間をかければかけるほど神岐の認識誘導(ミスリード)で取り返しがつかなくなるのだが、それでも一歩踏み出すのは怖かった。

「………」

 弟達もそれは感じている。今まで兄に頼りきりになっていた。今はドクターがいるが半年前までホームレスに近い生活をしていた時は零が毎日毎日働いて何とか食い繋いでいた。周りに助けてもらいながらではあったが零はそこに依存するようなことはせず、受けた恩を返すために働いていた。


 だから、次は俺達が踏ん張る番なのかもしれない……


「零兄」

 鬼束市丸は覚悟を決める。

「是政駅に向かってくれ。俺達が囮になる」

「市丸…、お前。だけど、もしも…」

 歯切れが悪い。自分の優柔不断さのせいで弟達にそんな役回りを立候補させる形になってしまった。

「大丈夫だよ零兄。1対1なら無理でも俺達は三つ子だ。血縁のコンビネーションを持ってすれば神岐の超能力(アビル)を掻い潜れるよきっと」

 丹愛は神岐の恐ろしさを十分に知っている。姿を見て声を聞くだけで催眠がかかるのだ。まず勝てない。

「俺の氷鬼(ムーブスナッチ)は近付かなきゃいけないから神岐にはほぼ効かないけど、市丸兄や丹愛兄は離れてても攻撃が出来る。近遠の二段構えでどっちかが神岐にやられてももう片方で攻撃をすれば勝機はある」

 実録は現在の戦力を見て冷静に判断する。

 この中で神岐に対抗出来るのは市丸の色鬼(カラースナッチ)と丹愛の高鬼(タワースナッチ)だけだ。

 他の3人は近付かなきゃならないか攻撃に転じるのが難しい能力、勝ちの目は2人しかいない。

「別行動を取っても俺達には連絡手段がない。公衆電話を探す暇はないぞ」

「零兄、俺達は三つ子だよ。他の2人がどう考えるかなんて分かるよ。零兄やドクターとは連絡が取れなくなるけどね」

「だから時雨ちゃん、時雨ちゃんに頼みがあるんだ」

 時雨はずっと借りてきた猫のように縮こまって大人しくしている。

 トラウマの元凶が追ってきているのだ。そうなるのは仕方ない。

「確か前に俺達がホームレス生活してた場所教えたよね?覚えてる?」

 それはドクターと鬼束達が協力関係を結んだ時に発生したイザコザ。その現場。6人が初めて対面した場所。

「一度行った場所はマーキングされてるなら、そこに毎日15時に飛んでくれないか。俺達はそこを目指す。毎日15時に瞬間移動(テレポート)で飛んでいなかったらすぐに戻ってもらって構わない。もし俺達が辿り着いていたら回収してくれ」

 あの場所は人目につかない。ホームレスが生活するくらいだからだ。瞬間移動しても早々既にそこにいた人と鉢合わせることはない。

「「「零兄」」」

 市丸、丹愛、実録の声が重なる。

「「「時雨ちゃんを頼んだ」」」

 時雨の回答は待たなかった。時雨ならやってくれるであろうという期待。そして、鬼束零なら必ず時雨を府中から逃してくれるという信頼。

(決断が出来なかった俺を、お前達は信頼するってのか!?)

 悔しさと嬉しさと、複雑な感情が混ざり合う。ぐちゃぐちゃになった感情は、迷いの感情も取り込んで、希釈して限りなく薄い存在へと下がってしまった。


 弟達は守る。何としてでも。

「任せろ。お前達も必ずあの場所に辿り着けよ!」

 零はバッグの中からある物を取り出す。

「零兄、それは?」

「ドクターの万能グッズだ。何かあった時ようにって事前に渡された物だ。逃げに徹するから使うつもりはなかったがお前達が囮になるならお前達が少なくても持っておけ。おそらく役に立つ」

 零は3人にそれぞれ渡す。

 市丸達はこれが何の用途で使う物なのかよく分かっていなかった。

「これは、実録に渡してた煙玉?」

 実録に渡されていたのは催涙ガスが入った煙玉であった。しかし今回のは真っ黒な球である。少なくても実録のとは違うようだ。

「神岐の能力とも相性が良いはずだ。奴の能力が見られることを条件とするなら奴を見えなくすればいい。実録のように相手にぶつけてもいいし他の場所で炸裂させて煙の方へ誘導するも良し。市丸と丹愛の能力で細かい操作も出来るしな」

 全部が真っ黒いのも、放り投げるぐらいの軽さであることも市丸、丹愛には扱いやすい物になっている。

「戦うのはどうしようもない時だ。近くで見てしまうと即詰みだから声が聞こえないくらい遠距離で市丸、丹愛をメインに迎撃しろ。神岐を見ずに点ではなく面で攻撃しろ。実録の使い所には注意しろ。逃げるなら歩行者を固定して人間バリケードを作りながら向こうのスピード力を奪っていけ。さっき言った二段構えは奥の手で使え」

 年長者として的確に適切に指示を出していく。神岐の超能力が説明を受けたもので全容ではないだろう。今持っているソースで認識誘導(ミスリード)を攻略、というより牽制する。

「神岐以外に人がいるなら即逃走しろ。周囲の人間を操られたら数の暴力で押し潰される。逃げるなら是政駅の反対になるべく遠くにだ。ここからなら北西方向だな。お前達が引き付けている間に時雨ちゃんを逃がす」

「分かった。時雨ちゃん、頑張れよ」

「ドクターにもっと強い武器を作ってくれって頼んどいてね」

「またみんなで、今度はドクターも一緒に料理でもやろう」

 三つ子達はそれぞれの言葉をかけると府中駅方向に走って行った。


「行こう。時雨ちゃん」

 零は時雨の手を取って早歩きで進んでいく。

「………大丈夫なの?」

 ようやく落ち着いたのかひどく小さい声であったが久しぶりに声を発した。

「大丈夫ではないだろう。神岐が弟達を殺す性格とは思えないが、認識誘導(ミスリード)で洗いざらい吐かされるだろうな。だが隠れ鬼(インビジブルスナッチ)で市丸と丹愛はマーキングした。時雨ちゃんと俺がいれば2人は回収出来る。実録は隠れ鬼が作用してないがバラバラに連れて行くのも不自然だろう。実録も見つけられる」

「私は……」

「気にしなくて良い。時雨ちゃんは何も悪くない。全てが片付いたら、平穏な毎日が帰って来るよ。ほら、行こう。俺達が逃げ続けることが市丸達を助けることに繋がっていくから」

 時雨はコクリと頷くと駆け足でパタパタと走り出した。

 競馬場通りの外周を回って是政駅を目指して行く。

「そうだ。時雨ちゃん、駅に着いたらだが………」




「不思議ね」

 ののは辺りを見渡しながら呟く。

「何が?」

 その独り言に対して真澄はどうしたものかと尋ねる。

「ほら、私達って結構見られる顔じゃない」

 物凄い天狗な発言だがそう捉える者はいない。

「そりゃ()()()()()()として雇われてたんだからルックスには自信があるけど、それがどうしたのよ?」

「いや、ここに来てからあんまり見られてないなって思って」

「……確かに、言われてみればそうね」

 真澄も辺りをキョロキョロと見渡すが、こちらを見るものはいるにはいる。しかしその数は普段よりも圧倒的に少ない。

「地域性の問題じゃないの?容姿に無頓着とか美人が多い街だとか」

「でもここも東京ですよ」

 ここまで無言だった那由多が口を開く。

「一応ね。23区の中と外は別の県よ最早、埼玉は国が違うと考えなさい」

「埼玉県民が聞いたらブチギレますよそれ」

「いいのいいの。私埼玉出身だから、身内からのディスは許容されるわ」

 なんか埼玉を弄んだ映画が公開されるみたいだし、と埼玉出身ののはあまり地元に愛着がないのか、平気で話し続ける。

「ダサイタマさんは今どうでもいいのよ。それより紗穂と八散はまだ来ないの?」

「そうよそうよ。遅刻じゃない!こんな大事な時に何やってるのよあの子達!」

 ののと真澄の矛先が2人と同い年の那由多に向かう。

「えいや、ちょっと遅れるとしか聞いてないですね」

 何も知らない那由多にはこれ以上の回答は出来そうにない。


「すみません、遅れました」

 府中駅の改札から2人の女性がのの達の方に徒歩でやって来た。

「紗穂ちゃん、八散!遅いよぉ」

「ごめんごめん、八散が業君に似てる人がいたって暴走しちゃって宥めるのに時間がかかっちゃった」

「似てるも何も、真澄の飴奴隷(キャンディソルジャー)が業君を見つけたから私達が来たんでしょ?」

「はい、そうですね。ちょっと気が動転してしまいました」

 八散は先日ドクターに攻撃を仕掛けて返り討ちにあってから少々情緒が不安定になっていた。

(情緒不安定なのは危ない。けどその過度なストレスが超能力(アビル)の成長を促進させる。火事場の馬鹿力ように…。治癒活性(フィールフェルト)が強化されて体の欠損も再生出来れば最高なんだけど…)

「まぁいいじゃん。ほらほら、紗穂ちゃんもいることだし。いよいよ始めるんでしょ?」

「えぇまあ、すぐにでも出来ますけど…」

 紗穂、と呼ばれた女性は少し前に体を進めた。

 駅前の広場は人の往来があるが何やら喧騒が少ないように感じる。理由は知らないが今は好都合だ。開けた、人のいない空間が超能力の発動には必要だからだ。


 場所は確保した。超能力を発動する。

日帰り旅行インスティンクトファー

 空間が、揺れている。地震ではない。久留間紗穂の目の前の空間だけが揺れている。微細な、だが明らかに揺れていると目視で確認出来る。揺れで空間の区切りがはっきりと分かる。

飴工房(キャンディ・ドロップ)から空間内の人間をこの場に召喚」


「相変わらず便利な能力ね」

 真澄は能力の様子を眺めながら呟く。

「というか、全員『日帰り旅行インスティンクトファー』でここに来ればよかったんじゃないの?帰り道も用意されてるわけだし?」

「それは紗穂ちゃんもお嬢様に言ったみたいなんですが、日帰り旅行インスティンクトファーを使うのは飴奴隷(キャンディソルジャー)だけだとのことで……」

 那由多が能力使用中の紗穂に代わっておずおずと説明する。

「あー、またお嬢様のワガママ?お嬢様もアラサーなんだからこう…大人になって欲しいものね」

「でもお嬢様は適当な事は指示なさらないはずです。神原の監視も無意味なモノではありませんでしたし。未だ神原の超能力は全容が掴めていませんから監視としての価値はあります。業君も……」

 ギリィと歯軋りする様子が音が聞こえずとも分かる。勝手に業君の話に持ってって勝手にキレられたら世話ない。

 真澄はそうは思っててもそれが能力の成長を促進させることを知っているのでのの同様諌める事はせず流れに任せるようだ。


「そういえばズターバックルに新作が出たの知ってる?」

「本当に唐突ねのの。そういえばって何でも話題転換出来るから強力よね。それで、新作?」

「うん、プリンアラモードフラペチーノ。でも生クリームとナッツを乗せたプリンアラモードフラペチーノ生クリーム増しナッツ乗せが若い子に人気みたいね」

「…呪文?」

「呪文よ。詠唱の方が適してるかも。帰りにみんなで飲まない?日帰り旅行インスティンクトファー使えないなら電車で帰るんだし寄り道しても問題ないでしょ?」

「私飲んでみたいです!」

 那由多、賛成

「ズターバックルなんていつぶりだろう。久しぶりに飲んでみたいかも…」

 八散、キレが鳴りを潜め賛成

「緊張感がないわね…。まあお疲れ様の意を込めて甘い物を取るのも悪くないか。お嬢様にはチーズケーキを買って帰れば問題ないよね」

 真澄、お嬢様への言い訳をしっかり考えて賛成

「いよーし、ちゃっちゃと業君ぶっ殺して超常の扉を回収しますかねー。おい紗穂ちゃん。まだなのかい?」

「テンション高いですよののさん。終わりましたよ」

 揺れていた空間は静まり返っている。

 ただし変化が一つ。

 そこに人集りが出来ている。


 が、唐突に現れた人間達がまともなわけがない。

「あー、あー、あぅ…」

「ろろろろろろろろろろろろろろろ」

「飴ー、飴をくれぇ、あぁぁぁぁぁ、苦しいよぉー、飴が食べたいよー」

 とてもまともなコミュニケーションが取れない人達だ。何より全員が同じ仮面を被っているのが不気味でしょうがない。

「いひぃ!」

 那由多は思わずののの後ろに隠れる。

「那由多、良い加減慣れなさいよ。調教はちゃんとしてるんだから襲って来たりはしないわよ」

 ののは後ろに隠れた那由多の肩をがっしり掴んで自分の前に引き摺り出す。ちゃんと目の前の廃人達を見せる。

「ひぃー、理屈では分かっても体は拒否るんですぅぅ。趣味悪い仮面、呻き声、人外。トリプルは無理です!真澄さん、紗穂ちゃん、早くやっちゃってください!」

 ヒャァァァァとまたののの後ろに隠れる。次は無理矢理前に出されないように背後から抱き締めて体を後ろに張り付かせる。

「全くこの子は…」

 ののも呆れているが無理に振り解こうとはしなかった。

「じゃあ真澄さん、お願いします」

 紗穂の仕事は終わった。

「オッケー。じゃあ私の出番ってわけね」


 紗穂が一歩下がり、真澄が一歩前に出る。

 目の前の廃人達は呻き声を上げながらも暴れ出したりはせずにその場に止まっている。勝手に動いてはいけないことを体で教えられている。忠実や下僕。一家に一台は奴隷が欲しいが会話がほぼ出来ないのでペットのような扱いになる。

甘魅了(ポッピンキャンディ・フィーバー)

 真澄の両の手から小さな飴玉が出現する。子供受けするようなデザイン性のある、色とりどりの飴玉。駄菓子屋で10円で売られているような、何の変哲のないただの飴玉。

 しかし、真澄が彼らに近づくたびに彼らの心は乱舞していた。性の対象ではなく、恵みを与えてくれる、食事を提供してくれるお母さんを見ているような…

 真澄は手から出た大量の飴玉を1人1つずつ配っていく。貰った廃人達はすぐには手を付けない。

 所謂『待て』の状態だ。


 全員に行き渡った。しかし真澄はまだ何も言わない。

 廃人達は鼻息を荒くし唾液は絶えず地面に垂れ、中には飴玉を貰っただけで失禁する者もいる。それだけ謎の飴玉を渇望してても自分の前に置かれた飴玉にはまだ手を付けない。

「……………よし」

 そう言うと廃人達は貰った飴玉を器用に仮面を少しだけずらして口に含んだ。

 小さいのにまるで特大のおにぎりのようにかぶり付く。口に入れ、咀嚼し、飲み込む。

 ポテチを食べた後に指についた塩を舐めとるがごとく、飴玉に触っていた手のひらを余す事なく唾液でデロデロになるまで舐め回していた。

 そんなとても地上波に乗せられない光景を、那由多を除いた女達は眺めていた。特に飴玉を生み出した張本人は大層機嫌が良かった。

「みんな趣味悪いですよー。()()()()みたいな事を…」

 那由多はののの後ろから動かない。見たくない。見られていた時を思い出すから。

「その分私達のために働いてくれるんだから。ここに業君がいることもcomcomが神岐義晴であることも彼等が東京中に配備されてるからでしょ?誘拐もスムーズに進められてるし、気持ちは分からなくはないけども。ビジネスパートナーぐらいの感覚で割り切りなさい」

 割り切れと。簡単に言う。

(でもこの人外がいなきゃ府中に業君がいることも分からなかったことを踏まえると…、そう思わざるを得ないか…)


 ゴミ虫共は食事を終えた。その表情は恍惚としている。呻き声唸り声が甘い吐息のようにしっとりとしている。殺伐とした空間が休日の公園のような長閑さを感じされられるものだった。

「傾注」

 真澄のその一言で仮面の集団の意識は統一された。

「私達は業君の超常の扉(アビリティーパス)を奪還する。そのためにお前達は業君の捜索と府中で暴虐の限りを尽くしなさい。業君の捕獲、超常の扉(アビリティーパス)の奪取、その他の超能力者(ホルダー)を殺した者には特大のキャンディを上げるわ。幸せ過ぎて死んじゃうくらいのとびきり甘いやつね」

 飴奴隷(キャンディソルジャー)達はソワソワと体も心も踊り狂い出しそうになっていた。

 あれだけの甘美な飴を特大で食べられるなんて。飴のためなら何だって出来そうだと。そう思わせるくらいほどのご褒美だ。

「ついでに、若い男女、中高生の子供達を捕まえてきなさい。あくまで二の次ね。飴の褒美はないけど皆んなはやってくれるよね?」


(ホントに飴と鞭だわね)

 ののは真澄が飴奴隷(キャンディソルジャー)に指示を与えているのを見ながら考えていた。

(いっぺんに指示与えて頭スポンジ野郎共が全う出来るとは思えないけど、かなり真澄の飴に依存してるみたいだし、暴虐の限りってことはここで使い捨てるつもりなのかしら?府中市民の皆さんご愁傷様。隣国のことなんて構ってられないの私)

「行きなさい」

 言葉だけで言えばそこまで厳しい言葉ではない。だが飴中毒にされてるという前提だと脅しでしかない。

 母親がご飯をダシに子供にあれこれ命令を出すような。

 飴ジャンキー達は喜びの声を上げながら府中駅から8方向に散らばっていった。

「真澄さん、今のも数はいましたけど街一つって考えると足りない気がするんですが…」

 八散は真面目な疑問を真澄に問いかける。

「ん?あぁ、大丈夫大丈夫。そんなのそこらに歩いてる市民に飴食べさせれば飴奴隷(キャンディソルジャー)は出来るわ。数で押しつぶす。私が呼ばれたのはこのためでしょうね。ののや那由多は同時並行で誘拐しなさいって事でしょ?後は証拠隠滅。あなたと紗穂は後方支援よ。連絡の橋渡しをしてて頂戴」

「了解です。八散。行くわよ」

「分かったわ」

 八散と紗穂は再度駅舎の中に入っていく。2人は戦いには不向きな能力だから、特に…


「今回八散はいるの?回復役は大事だけど出番があるようには思えないわ」

「仕方ないわ、お嬢様の指示なんだから。それに彼女の状態は危なっかしいから、業君がいる場所に連れて行かなかったらそれこそ後が面倒だわ。良くも悪くも今は成長期っぽいし」

「あ、真澄もそう思ったんだ!治癒活性(フィールフェルト)の成長!」

超能力(アビル)は成長する。超能力の種類みたく深層心理や環境に左右される。心底恐ろしいわね。あのまま研究が続いて業君が裏切らなかったらどういう未来になっていたのかしら?」

 それは10年前からずっと考えていた。彼のやった事は最低な裏切りであると同時に救いでもあった。それでも雇い主に害を及ぼすのであれば恩人であろうとも敵だ。

「日本は変わっていたでしょうね。世界の勢力図なんて変わり過ぎて1.1版じゃなくて2.0版に大幅改修されてたかも……。その未来に私達は入れなかったでしょうけどね…」

「……」

 その場に残っている那由多も神妙な面持ちで2人の話を聞いていた。

「行きましょう。業君の正義感であれば市民が襲われてれば必ず動くわ。飴奴隷(キャンディソルジャー)を増やして炙り出すわよ」

「はーい」「分かりました」

 3人の女達は府中駅から南、東京競馬場に向けて歩き出した。


 ♢♢♢


 断片的な情報を集めると、府中市で仮面を被った集団が街中で暴れ回ったらしい。だが駅は人がいておかしな様相をしているがそれでも街の機能は変わらない。

(これはちょっと街を見てみらんことには分からんな。百聞は一見にしかず…)

 見たところ府中街道沿いと東京競馬場辺りに触れてるツイートが多く見受けられた。

 その2箇所を重点的に見ながら何があったのかこの目で確かめてみることにした。


 ♢♢♢


 追う者、逃げる者、誘う者、欺く者、試す者、戦う者、戦わない者、抗えない者、落ちる者


 そして、知らない者

 全てを見通してはいない。

 全てを知ろうとするのは烏滸がましい。

 今目の前にあることに全力を注げること。


 スマートフォンが揺れる。

 男はスクリーンに映っている物を確認した。

「そっちかよ…」

 当てが外れたと思いながらも上手く事が運んだことを喜ぶ。だが…

「けど誰だこいつら?」

 神岐義晴は自身の名を喋った女の集団が映った写真を見ながらそう呟いていた。

紗穂(本名不明)

能力名:日帰り旅行インスティンクトファー

能力詳細:空間内の物を移動させる


真澄(本名不明)

能力名:甘魅了(ポッピンキャンディ・フィーバー)

能力詳細:中毒性の強い飴玉を生み出す



久しぶりの新能力

ようやくボカロ曲の名前を入れた超能力(アビル)を出すことが出来ました

曲名に著作権がないことは確認してますが歌詞のフレーズやそれを考察した内容の引用はダメみたいなので敢えて曲の内容には触れずに能力や能力者を設定していますのでおそらく大丈夫


現在の状況としては

神岐サイド 12:15

神岐:府中本町駅、虹色ネイルの女達の情報を入手

平原&戸瀬:神岐を尾行して府中本町駅(変わらず)

催眠にかかった府中市民:府中中に配備中


ドクターサイド 12:10

鬼束三つ子:時雨を逃すため敢えて人の多い中心街を目指す

零&時雨:是政駅を目指している

ドクター:不明


謎の勢力サイド 12:15

八散&紗穂:府中駅で待機

真澄&のの&那由多:飴奴隷を増やしながら東京競馬場方面に向かって進んでいる

飴奴隷:府中中に散らばり出した


時系列が揃ってきました。

距離的にもう鬼束達は逃げれてもおかしくないと突っ込まれそうですが、時雨の精神状態が思わしくなくいつ神岐の刺客が来るか分からないかつ零が優柔不断ということもあってノロノロペースとなっています

催眠人間と飴奴隷(キャンディソルジャー)は催眠人間の方が数が圧倒的に多いです

飴奴隷(キャンディソルジャー)認識誘導(ミスリード)は効くのか?催眠人間は飴奴隷(キャンディソルジャー)になるのか?気になりますねぇ


次回も府中動乱です

神岐と鬼束達が飴奴隷(キャンディソルジャー)が襲い掛かるのかな?

まだ女達のフルネーム、ののと那由多の能力名が判明する時は来るのでしょうか?

ドクターは今どこにおるん?

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