表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
83/157

第83話 命を懸けた捜索

 8月4日

「みんな、よく集まってくれたね。礼を言うよ」

 開口一番は感謝だった。

「先生、先生と親分の連名とあっちゃあお断り即斬ですよ」

 だから馳せ参じた。いや、用事を全てほっぽり出すくらいには最速で馳せ参じさせられた。

 この呼出を断ろうものなら明日には標本市場に売り出されててもおかしくないからだ。

 玉梓組お抱えの医者、房総は分かっていて敢えて礼をと言っているのだ。冗談のスケールがデカすぎるので本当にやめて欲しいと玉梓組の構成員は心の中で訴えかけた。

「詳細を伝えていなかったね。単刀直入に言うと、この男を見つけ出して欲しい」

 房総は実録の写真を集まった構成員に配る。

「この写真、目を瞑っていますが…男ですね。こいつを?」

「そうだ。まずは経緯を話そう」


 房総は実録捜索に至った経緯を話した。

 神坂達のことは既に全員が知っている。その神坂達が探している人物が写真の男であること。事務所前の空き地で起こった白煙と臼木無双はこの男が引き金になっていること。

 本人達は自分達の力だけで探すつもりでいるが影ながらサポートすることにしたこと、などなど。


 それを聞いた構成員達の反応は微妙だった。

「先生、今俺達は獅岸組との抗争中でただでさえ人手が足りてません。なのにこれだけの人物をこの男の捜索に回すのは得策とは思えませんが。何より我々がそこまでする義理はないでしょう」

「物見は多少関わりがあるからここにいるのも分かりますが、何故我々が?」

 組員達が不満に思うのも無理はない。強さでなら彼等の方が格上なのは理解しているが先程も誰かが言った通りそこまでする理由がない。

「おい物見、お前だけでもいけるだろ?獅岸組にやられちゃ俺達のお先は真っ暗になるかもしんねえのによぉ!」

 物見よりも在籍している現幹部、深谷に凄まれるが物見は怯えもせずに淡々と返す。

「深谷さん。白ウサギに協力するのはただ白ウサギのためではありませんよ。夜香嬢案件です」

 房総、物見以外の全員の動きが止まる。

「夜香嬢様?何でここで嬢様が出てくるんだよ?」

「夜香嬢が遊びに行きたいと言っていまして、今は抗争中で夜香嬢に危険が及ぶかもしれない。だからボディーガードとして白ウサギ達が担うことになったけど白ウサギ達はその男の捜索で手が離せないんです。つまりこの任務を断ろうものなら………」

 夜香激怒→娘大好きな夜吉が激怒→全員が標本市場に出荷

 ゾワっと全員が恐怖する。

 一度警護の隙を突かれて夜香に危害が及んだ時、何人もの人間がケジメを付けることになったか。危害を加えたモノがその後どうなったか?

 知っているからこそ自分達がそうなることを予感した。

「というわけです。引き受けてくれますね?」

 暴走はあくまで選択権を委ねている。が、答えは1通りしか存在しない。

「「「「「この命にかえても!!」」」」」

 素直に従う気はなかった、いくら血の気が多かろうともこんなことで人生の幕を下ろしたくはない。

「早く見つかればその分だけ獅岸組の方に戻れます。リミットは2週間。見つけられなかった場合については言うまでもありません。私もまだ頭と胴体を切り離したくはありません。白ウサギ君達もその覚悟を持って現在捜索中です」

 時間制限を設けられた。だがこの業界、人探しはそれほど難しくはない。しかしそれでも2週間という時間があるということは、それだけこの任務の難易度が高くなることを意味している。

「ではそれぞれの役割を詰めていこう」


 こうして、鬼束捜索に思わぬ勢力が力を貸してくれることになった


 ♢♢♢


 8月6日

「ここが立川駅。一昨日も通ったっちゃ通ったから初見感はないな」

 神坂雪兎は現在東京都にある立川駅に来ていた。

 謎の赤いアーチオブジェがものすごく気になる。

 昨日は姉の所属する事務所に遊びに行っていたため鬼束探しは出来なかった。

(昨日のは貴重な経験だったな。遊んでいる暇は正直ないが、昨日の学びが今の鬼束探しに活きるかもしれない)

 社長との雑談や声優の仕事を体験したりマネージャー達の訓練にも混ざることが出来た。

 昨日一日でも十分な経験値を得ることが出来た。月城に至っては憧れていた声優の仕事が出来たのだ。テンションの上がり方が段違いだった。

 社長も月城の声に大層興味を持ったようで、エキストラのような軽めの仕事なら依頼してくれるようになった。

 臼木や神坂にも武術を学ぶという名目で事務所への出入りが認められるようになった。

(まあそのための条件も課せられたが、いずれはそうしなきゃならなかったからあんまり苦ではないな。身の振り方もそろそろ考えなきゃならんしな)

 月城は練馬、臼木は五反田で捜索を行なっている。

 未だ鬼束のおの字も見当たらないが、夜香との約束を果たすためにも早急に見つけなければならない。

(もう今日にでもさっさと見つけられればいいんだが、流石にそれは欲張り過ぎか)

 今日は立川駅周辺と府中駅周辺を捜索する予定になっている。八王子を探索してみて都心から離れ過ぎてると生活が難しいと判断してのことだ。少しずつ都心に近付きながら川沿いや繁華街などのホームレスが生活していそうなところを探索していく。


 立川駅では目ぼしい成果は挙げられなかった。

 西の渋谷と言われるだけあって街は発展していた。むしろ若者色が強いせいかその手の人間には住みにくい印象すら感じた。

 最寄りの多摩川や昭和記念公園にも寄ってみたが整備が整っているのかホームレスは1人も見た当たらなかった。

(ホームレスって線は外れてるのか?それとも俺が想像してないだけでホームレスが他に生活出来る場所があるのか〜?)

 3日目から早くも自身の決めた方針に迷いが生じている。

 リミットまで2週間。それまでに見つけ出さなければそれを放置して玉梓夜香の護衛に就かなければならない。

(仮に護衛中に見つけるってのが1番精神的にクる。護衛中だから追いかけることも出来ずみすみす見逃してしまう)

 手分けしたいところだが3人で護衛をすると言った手前それは通らないだろう。

(人手が足りん)

 中学生3人では限界がある。金銭面はどうにかなっても子供じゃ入れない場所などの物理的障壁にはなす術がない。

 玉梓組に頼むべきだったかとちょっとだけ考えがよぎったが、超能力のことを知られる危険があるし下手に弱みや借りを作るのは得策とは言えない。向こうも中学生と関係を持っていると知られたくないはず。何より玉梓組は獅岸組とかいう組織と争っているからそちらもこっちに人手を回す余裕はない。こちらに手を貸すもっともらしい理由がない。

(あとは、………)

 自分の他に超能力者にされたと思われる2人。鬼束零の話じゃ実録の兄弟2人も俺と同様に戦いを仕掛けて負けたらしい。

 その2人が俺と同じように動いてくれることを祈る…

(顔も知らない誰か、いや1人はcomcomの可能性があるんだ。何とかコンタクトを取って協力出来ればいいが…負けたというだけで敵対しているかが不明だから迂闊にアポイントも取れない)

 もう1人は年齢も性別も分からない。せめて鬼束の顔写真でも共有出来れば、もしかしたら向こうは鬼束に辿り着いているかも知れない。

(……警察ってのはこんな途方もないことをいつもしてるんだな。いつも迷惑ばかり掛けてるのが申し訳なくなってきたな)

 補導を避けるために強制平等(イコール)で視界を奪ったり足の動きを封じたりとかなり迷惑を掛けてきた。今更ながら申し訳なさを感じてきた。

(社長の条件である週の半分以上の登校。ちゃんとやるか〜。あれ?週の半分て平日のみの話か?それとも土日含めた半分か?やべ、そこら辺ちゃんと確認するの忘れてた)

 これが意図的な物であるのなら相当な策士だ。

 策士だろうと学校に行っていないこちらに非があるから抵抗も出来ない。

 舌戦とも言うべきか。己に足りないものを自覚した神坂であった。


 ♢♢♢


 8月5日

「くそが!!」

 ビルとビルの間にあるバケツを蹴っ飛ばす。

 ガランガランと土や砂のようなものがあったのが粉上のものが空を舞う。

「……兄貴、止めましょうよ。俺達がどうあがいても覆りませんて…」

「分かってんだよんなことは。ただ、あのガキどもに良いように使われてるのが腹立つだけだ」

「例え使われていようと先生と親分が命令したから従う以外の選択肢がないですよねぇ」

「だから怒りのぶつけどころがわかんねーんだよ!」

 兄貴こと玉梓組幹部の深谷と玉梓組の一構成員である物見八蔵は上野駅に来ていた。

 目的は鬼束実録の捜索。組長の娘である玉梓夜香の護衛を担う神坂達が探している男である。

 経緯も聞いたし組員が協力する理由も聞かされている。物見としては組の中で一番彼等に接する機会があり人となりも多少は知っているため力を貸すのに悪感情はない。

 が、臼木に直接叩きのめされた深谷などは未だ良い感情を持っていない。敵対心剥き出しで悪態をついている。

 そう思ってしまうのも無理はないが、いつまでも引きずりすぎだろうと物見は頭では思っているが口には出さない。より面倒なことになるに決まっているからだ。

(まあ、先生も兄貴の性格を見て上野にしたんだろうけどな)

 上野駅の隣、銀座線稲荷町駅は獅岸組の事務所の最寄駅なのだ。

 流石に稲荷町駅で捜索すると宣戦布告と取られかねないから隣の駅でコソコソと聞き込みをする。上野はディープな街だ。もしも白ウサギ達の探している鬼束という男がアングラの人間なら、手掛かりは期待出来るかもしれない。

 隣駅だからようは頬を撫でるような掠めた行為。事務所側の空き地で煙が出たのを獅岸組からの攻撃と思ってしまったように、無駄にストレスを与えることになる。

 現在も水面化でバチバチにいがみ合っている2組。

 単純な組織の力を見れば玉梓組が勝っているが、獅岸組は倫理観無視の非道な手段を使ってくる野蛮な組織だ。

 後先考えずその場の意志で物事を決めている。馬鹿だがそういう思考が一番危険だ。

 現に玉梓組の構成員が何人か奇襲を受けており、構成員の家族が危害を加えられた者もいる。

 だからこそ絶対に夜香を守らなくてはならない。

 警護なんて玉梓組の人間でも出来るが護衛にリソースを割いて事務所を正面から制圧されるなんてシナリオも想定出来る。

 だからこそ白ウサギ達が護衛を担ってくれるのはそういう意味でも助かっているのだ。

 ただただ強いから、ではなくそういう事情があることを少し考えれば分かることなのだが、目の前の男はプライドの高さが邪魔をして冷静な思考が出来ていない。

(兄貴、とは思っているが、正直この人は獅岸組の方が空気があってるんじゃないかなー)

 なんて思いながらも口には出さず後ろをついて行く。

(てか、牽制の意味合いがあるけどそれで鬼束の探してるってことが獅岸組に知られるんじゃないのか?)



「物見と深谷を上野周辺の担当にしたらしいな」

 玉梓組の組長室。

 そこに組長である玉梓夜吉と玉梓組お抱えのヤブ医者、房総が対面していた。

「えぇ、物見は結構見込みがありますからね。まだ礼儀の『れ』の字も知らない子供ではありますが、中々に判断力や見通す力があるように見える」

「ふん、脳筋にはそこらへんの目利きは分からんな。人の力=腕っぷしだからな俺の基準は」

「ははは、しかしそれが玉梓組が少数ながらも23区でも指折りの組だと言われる所以でしょうよ。にしても親分も考えましたな。獅岸組にも鬼束の存在を仄めかすことで玉梓組攻略のキーマンと思わせるとは…」

「その鬼束がどうなろうとこっちには損はない。向こうが先に見つけてくれるならそれでいい。どうせ獅岸は潰すんだ。向こうの手に渡っていれば戦利品で鬼束の身柄を奪って白ウサギにくれてやればいい。それで娘がなんの障害もなく街へ繰り出せるなら何も問題はないからな」

「仮に鬼束を捕まえても『こいつがどうなってもいいのか!?』なんて脅しは我々には通用しませんからね」

 玉梓組が少数ながらも力があるのは何も構成員一人一人の戦力だけの話ではない。作戦立案をする夜吉と助言役の房総が彼らにタクトを振るっているからこそだ。

「夜香様のご様子は如何ですか?」

「大人しく部屋で勉強してるよ。2週間後のお出かけが余程楽しみとみえる。どうも白ウサギに熱を上げてるようだ」

 最後の方は何とも苦々しい表情をした。親としては子の恋愛事情を素直には受け入れられないだろう。娘なら尚更。

「夜香嬢も大きくなってるんですね。子供の成長とは早いですね」

「だな。ますますあいつに似てきてやがる。勘の良さもな」


 今は亡き妻に想いを馳せながら、娘の心の成長を素直に喜べずながら、房総と今後の方針について話し合いを進めていく。

 鬼束探しに人を割いているから早く総力ではパワーダウンは否めない。

 少数でも撃破出来るように作戦を変更しなければならない。

「今は辛抱だ。彼等に手を貸せば()()()とやらを手に入れられるかもしれないからな」

 娘の前ではいかにも慈善のように言ってはみたが、この世界、ボランティア精神でやっていけるほど甘くはない。

(さぁ、精々超能力者達を見つけ出してくれ、幌谷の白ウサギ……)

神坂雪兎

能力名:強制平等(イコール)

能力詳細:相手の力を自分と同等にする


物見八蔵

能力なし


深谷重樹

能力なし


玉梓夜吉

能力なし


房総浩二

能力なし


あれれ、何故親分達が超常の扉(アビリティーパス)や超能力を知ってるんだ?

これはこれは、何やら怪しくなって来てるんじゃないか?

さあ、次はあっちサイドです

逆の視点になります

第4章も佳境に入り始めましたよー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ