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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
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第78話 彩プロダクション①

 デカストップ。それはコンビニエンスストア。大手3社ほどの人気は薄いがメニューによっては熱心なリピーターを集めている。

 以上

 デカストップのことをつらつらと言うつもりはなく、そこの敷地内で屯している柄の悪そうな男が3人。



「あっつい!おい臼木。影になれ」

 腕を目に当てて日差しを遮りながら臼木に命令する。

「雪兎君、日傘は持って来なかったのか?」

「日焼け止めは塗ってるぞ」

「……、ならいいか」

「…そうだな」

「よくねーよ!陽射しがダイレクトアタックじゃねーか!」

 月城泰二がツッコミに回るほどの緩い空気。緩いというか暑さで何もかもが面倒になっているような自棄にも似た状態だ。

「元気だな月城、ならお前が影になってくれよ。くそ、白色ってのは光を反射するんじゃないのかよ。ジリジリ体が火照ってきたぞ」

「さぁ、白と言っても肌色だからね。真っ白には敵わないでしょ」

「それか黒色の服を着てるからじゃないか?」

 神坂の格好は体の白さとは対照的に黒ベースに整えられていた。ここに来るまでに何人もの人にチラ見されるくらいにはカッコよく決まっていた。

「つーか姉ちゃんおせーな。先に家出たはずなのによ」

「一緒に来なかったのか?」

「なんかズターバックルの新作が飲みたいんだとよ。列が出来てるだろうからって先に出て行ったんだよ。俺は飲み物よりもチーズケーキが上手いと思うんだけどな」

「あー、男からしたら生クリームとかチョコとかはしつこいかもね」

「今度食いにでも行くか?」

 まさか臼木からの提案。

「臼木って甘いのいけるのか?」

「知らねーのかふゆ。こいつファミレスでパフェとか食うんだぜ。似合わねーだろ」

 その時のことを思い出してクスクスと笑う月城。

「別に良いだろ。家だと食わないものを外で食べるんだろうが」

 そりゃそうだけどよーとブーたれる月城。言わんとしていることは分かる。巨漢の角刈りがパフェを食べるのは想像が付かない。そういえば極道もんが女子力高い漫画があったような気がするな。

「ごめんごめん。お待たせ〜」

 神坂の姉。声優の神坂雪華が小走りでやって来た。右手にはズターバックルで買ったであろう飲み物が握られている。

「遅いよ姉ちゃん」

「「お、おはようございます」」

 未だこいつらは姉ちゃんと会う時は緊張してる。テレビの人間が自分に挨拶してるんだから仕方ないか。

「うん、おはよう月城君、臼木君。もうしょうがないじゃん。女の子は新作って言葉に敏感なの。朝なのに凄い並んでたよ」

 チューとストローで飲み物を吸い上げる。

「…それ何味?」

「プリンアラモードフラペチーノ生クリーム増しナッツ乗せ」

「呪文?」

「注文」

(こういうテンポの良さは姉弟(きょうだい)だなー)

 月城は雪華とは絶対に出来ないコミュニケーションを取っている雪兎を羨ましく思う。

「なんか色々混ざって品が無くなってないか?」

「そんなことないよ。そりゃ定番になれるほどではないと思うけど一回限りって考えればそれなりに美味しいと思うよ。飲んでみる?」

「プリンアラモードってのを食ったことないから興味ある。頂戴」

「はい」

 雪華にプリンアラモードフラペチーノ生クリーム増しナッツ乗せを渡されて神坂は一口飲んでみる。

 甘い。生クリームが普通の1.5倍あるせいで甘ったるくてしょうがない。だがナッツのサクサク感はたまらないな。プリンアラモードって言うくらいだからプリンが主体なんだろうが、そうなるとカラメルも入ってる感じか。

「……甘いな。甘過ぎて確かに一回限りでいいな」

「一回だけなら美味しいでしょ!新作は試作品みたいなもんだからね。10個作って1個良いのが出来ればいいんじゃないかな?」

「…なんだそのギャンブルは。数打ちゃ当たるってか」

 賭け事にスリリングを感じている神坂は少しその経営戦略に興味を抱いた。

「声優もそうだよ。100人養成所に入れて1人原石を見つけるの。養成所でお金を巻き上げて原石に投資するってよく社長が言ってたよ」

「なんだその社長。中々に腹黒いじゃんか。おい月城。声優なんて茨の道だから諦めた方が良いんじゃないか?」

 神坂は月城に話を振ったが返答はない。

「ん?どうした固まって。臼木も」

「どうしたの?」

 この姉弟は何かあったのかと首を傾げる。これまた姉弟だなとボンヤリ思ったが肝心なのはそこではない。

 何気ないやり取りだったが普通では考えられないことが起こっていた。滝波夏帆のファンの何十万人が渇望する、夢を見るほどのイベント。『間接キス』がごく自然な流れで行われていたのだ。

(う、羨ましい……。ブッ殺してぇ)

 殺意がドバドバ沸いてくる。

 姉弟だからそういうシチュエーションもないとは言わない。月城から見ても雪華はブラコンだし雪兎も口では邪険にしているがしれっと姉への気遣いを怠っていないツンツンシスコンだから。

 月城が腹が立っているのは間接キスというスーパードリームに対して慌てたり焦ったりが全くないことだ。つまりこれは日常的に行われているということだ。またはそれが可笑しいと思ってないズレた倫理観にモヤモヤするのか。

 臼木も光景を見て固まってしまっている。

(ファンだってあの頃から言ってたからなー。衝撃は俺の比じゃないわな)

 指摘しようかと思ったが言わないことにした。言ってしまったらこの均衡が崩れてしまいそうだからだ。


 神坂雪華、滝波夏帆は超絶可愛いし男として恋人にしたいと思うが友達の姉という事実が思考にブレーキをかける。そういう気持ちを抱くことが悪いことのように思えてくる。

 職業柄彼氏はいないと以前聞いたが好きな人がいないとは聞いていない。芸能界の一線で活躍している人だ。イケメンやステータスが高い人間はゴロゴロいる。隣に立つことは不可能。そもそもスタートラインにすら立てていない。参加資格すらない。

(だから横ではなく後ろで見てる。守護者(ガーディアン)として2人を守れるようになる)

 臼木はそう決意した。月城もそう思っているに違いない。



「…なんでもない」

「?なんだよったく。おい姉ちゃん。早く事務所行こうぜ。溶ける」

「確かにこの暑さだと飲み物が温くなっちゃうからねぇ」

「…あー、そうだな」

(あっ、ふゆ今体が溶けるって意味だったのに飲み物だと違う解釈されたけど一々言い直すのも恥ずかしいから訂正しないでおこうって顔してる)

 一瞬思案しほんの少しだけ口を開いたがすぐに噤んだ。神坂雪兎は純粋なのか表情や仕草から何を思っているのか想像しやすい。それは姉や友達である彼等だから分かることだが。


 ♢♢♢


 デカストップから彩プロダクションの事務所兼スタジオはそれほど離れていなかった。駅からは少し歩くが所属タレントは送迎があるので駅からの距離で困るのは事務スタッフやマネージャーくらいだ。今回は雪華は買い物がしたかったので送迎は断っている。

「頑丈だ…」

 堅物の臼木がポロッと口を溢すほどに堅牢という言葉が適切だった。

「初めてきたけどホントにちゃんとしてるんだな」

 親に連れて行ってもらえなかった雪兎は初めての事務所、姉と両親の会話からセキュリティーがしっかりしているとは耳に挟んでいたが予想以上だった。

「そっか。ふゆ君は来たことなかったね。これからは来放題だよぉ。タレントの出演作品は全部見られるから飽きないよー」

「へぇ、想像以上に充実してるんだな」

 他を知らないので何とも言えないが福利厚生の面は問題ないらしい。

「それじゃあ中に入ろうか」

 雪華は鞄からストラップ付きのカードを取り出す。入館証か。タレントなら社員証だろうか。

「お疲れ様です」

 出入口に立っている2人の警備員に社員証を見せる。

「お疲れ様です。滝波さん。後ろの御三方はどなたでしょうか?事務所の新人にしては彼等はあまりに幼い印象ですが…」

「弟とそのお友達です。今日は見学で来たんです。社長からも許可は出てるはずですよ」

 来たか?

 いいや。何も。

 と警備員同士でヒソヒソと会話している。

 どうやら情報が上手く伝わっていないようだ。

「姉ちゃん。いいから早く行こうよ。どうせ姉弟(きょうだい)だってことはすぐに分かるんだし。暑くて敵わんよ。ここで確認なんてことされたら」

 雪兎と雪華は瞳の色が違うので似てないかと思うかもしれないが日本人離れした白と銀の髪はハーフ、クォーターと思わせるには十分で、さらに同じ苗字により兄弟ではないかと思われて来た。

 だがこの警備員達は兄弟だろうことは信じているが確証がないので通すわけにはいかないようだ。徹底した仕事ぶりと言うべきか頭でっかちと言うべきか。

(そういえば、ここの事務所は体術が優れてる人が多いって姉ちゃんが言ってたな)

 一度月城を実験台にして護身術を見せてもらったことがある。体格で圧倒的に優っていた月城を地面に叩き付けた技術は中々のものだった。

(合気のような体術にも精通してるって話だし、ここはこの事務所のレベルを調べるのにも丁度いいか)

「月城、臼木」

 神坂雪兎は心躍るテンションで2人に伝えた。

「実験だ。ここの力のレベルを見るぞ」


 神坂にとっては力量を測ることは実験という感覚だ。世間知らずで無知な神坂は試すという行為が好きだった。子供ながらの好奇心と行動力か、昔の劣等からのコンプレックスか。経験者にバスケを挑んだり一か八かのギャンブルをしたり。強制平等(イコール)ありきではあるがそれでも何か目新しいこと、ハラハラすることをせずにはいられない性分なのだ。

 さらに今回は噂話だけの謎の都市伝説。興味を惹かない訳がない。

「「了解」」

 2人も神坂のそういうところを何回も見ているから躊躇いはない。わざと危険なところに足を運んだり、いや。巻き込まれたりしたせいで慣れてしまっていた。

 神坂の発言から敵対行動を察した警備員2人がすぐさま警棒を構える。

「滝波さん、離れてください」

「えちょ、ホントに弟なのに〜」

「姉ちゃん。俺の力見たがってたろ?ここの人間と俺ら3人。どっちが強いのか気にならんか?」

 うっ、と雪華は躊躇した。

(ふゆくんの超能力、確かに気になるかも。それに高校生半殺しで有名な臼木君の戦いぶりを間近で見れるなんて滅多なことじゃないよね)

「分かった。じゃあ事務所の腕利きを呼んでくるね」

 そう言うと雪華はスマホでどこかに電話を掛け出した。

 ワンコール経たずにすぐに応答があった。

「滝波夏帆です。今事務所の入り口で若い男性3人に襲われてます!警備員さんでは歯が立ちません。すぐに来てください。キャーーーー!!!」

 プッと電話を切る。

 流石は声優と言ったところか。間近で演技を見たのは初めてだ。家では騒音を気にして練習とかはしたことなかったからだ。

「姉ちゃん。ちょっとオーバーすぎない?警察呼ばれたら俺らヤバいんだけど…」

「大丈夫!ドッキリ企画って言えばいいでしょ!ここの監視カメラ音声も録音出来るし画質もいいからテレビでも使えると思うよ」

 幌谷の白ウサギが弟にいるってバレたら面倒になるに決まっているがテレビなら一般人はモザイク処理するはずだからそこから繋がりがバレることはないか。

「ならいいか……って、もう終わったか」

 姉弟で話している間に月城と臼木が警備員を気絶させ終わっていた。

「早!凄いね。数十秒で大人を仕留めちゃった」

「前やった足立連合よりは強かったな」

「大人だし警棒も持ってたからな…」

 臼木は自分が戦った玉梓組の構成員の話をしようと思ったが雪華がいるのと録音出来る監視カメラがあると聞こえたので暴力団の名前は出さないようにした。

「じゃあ中入るか。中が慌ただしいしな」

「私人質になろっか?」

「やめてくれ。誤解が解けた後も恨みを買いそうだから」

「即興芝居か!おもしろそうだな。ふゆ、やろうぜ!」

「月城に場数を与えてやってくれ」

「月城、下手すれば出禁レベルだぞ!臼木!テメェ強いやつと戦いたいだけだろ!」

 学校に迷惑をかけたくない神坂とやけに乗り気な3人。多数決では神坂に勝ち目はない。

(くそ、やっぱこいつら連れてこなきゃ良かった。まぁいい。鬼束実録の件で何も出来なかったって嘆いてたから宿題からの解放も兼ねて思い思いにさせてやるか)

「姉ちゃん。中にも監視カメラはあるのか?」

「あるよ。あっ、もしかしてふゆくんと私の関係のこと気にしてる?大丈夫だよ。ウチはそういうプライバシーには五月蝿いから」

 滝波夏帆がそう言うのなら問題ないな。

「じゃあ行くぞ」

 神坂は入り口の前に立つ。自動扉が開いたら、戦闘開始だ。

神坂雪兎

能力名:強制平等(イコール)

能力詳細:相手の力を自分と同等にする


月城泰二

能力なし


臼木涼祢

能力なし


神坂雪華

能力なし



始まりました事務所見学

次回は月城と臼木の戦いを中心にやろうかな

凄腕のボディーガード達がぞろぞろと出てきます

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