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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
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第74話 仏果大学

 八王子体育大学附属高校を後にした神坂(こうさか)雪兎(ふゆと)は、次の目的地である中野へ向かわず、まずは八王子市でチェックをした場所を先に向かうことにした。

 河川敷はホームレスがいる場所に最も向いているが、だとしたらもっと都心にいるはずだろうからと。実際に都心から離れれば離れるだけホームレスの溜まり場の情報は少なかった。

(河川は23区の北側が多いからな。月城1人で回りきれるかどうか。南側は川の数は少ないけど多摩川があるからなぁ。やっぱ23区外にはいないかな。3〜4日は巡る予定だったがこれはもうちょっと減らしても良いかもな)

 どうせ最後に経過報告を行うのだ。その時に聞き込みをしてみての意見を聞けば良いか。


 八王子市内のスポットは全て回り尽くした。面積としては大きいがやはり都心部ではないためか有力な情報はなにも得られなかった。

(明日は事務所に行くから明後日か。巻きで行けば調布や府中、立川は行けるな。多摩川沿いならもしかしたら…)

 現在いる八高線小宮駅から中野までは一度八王子に戻ってから中央線で一本だ。

 河川を最後にしたせいで中野までが少し遠くなってしまっていた。

(中野区は月城の管轄。中央線から行けるスポットは俺が今日中に行けるだけ行って残りは月城に任せよう。丸の内線と西武新宿線で移動の手間はかかるがまあいいだろう。それよりも、喉が渇いた……)

 今の時刻は13時半。八王子市の探索が思ったより時間がかかってしまった。

 朝ご飯しか食べておらず今の今までずっと歩き続けている。途中ではバスケもしているので体力がミジンコの神坂にはハードなスケジュールであった。

 リュックに入れたペットボトルは殆どが空っぽだ。

(ここから中野までは——1時間もかかるのか。てことは向こうの駅に着いて大学に行く頃には15時ってとこか。…これは身体がもたないな。とりあえず腹を満たそう)

 幸いにも次向かう八王子駅には改札の中に飲食店が入っていた。改札を出ずに飯が食える。一度出て余計な運賃を払いたくない神坂にとっては都合が良かった。

(自販機で3本くらい水を買っとこう。くそっ、俺が足を引っ張るわけには行かないんだがなぁ、昨日はあまり寝ないでリストを作ってたのが無茶だったか…)

 リュックの水も全部飲んでしまった。

 駅はすぐそこだ。

 オアシスは、目の前にある。


 ♢♢♢


「ここが、仏果大学か。思えばキャンパスみたいなとこに来たのは生まれて初めてかもな」

 1時間半後。神坂は中野駅から歩いて5分のところにある私立仏果大学に来ていた。

 大学という場所が初めての神坂。圧倒されていた。幌谷中学校は非常に土地が狭い。グラウンドなど全校生徒を収容すれば9割は埋まる。体育大会などはすし詰めの中行われる。

 だがここはどうだ?正門から建物までで幌谷中学校が2つはすっぽり収まりそうな広さがある。

 調べてみたらFラン大学などと馬鹿にする書き方をされていたがこれを見る限りはとても馬鹿にして良いものではないと思う。

 綺麗なところだ。いまいちFランの意味が分からないが、頭の良さがABC評価でFという意味なのだろうか?

 キャンパス内に人は少ない。夏休みなのだろうか。大学生の休みの事情が分からない。休みが長いとはよく聞くがヨーロッパのバカンス並みに1ヶ月以上の自由な時間があるのだろうか。

(来たはいいが…、4年前だから同級生はみんな卒業しちまってるよな。1ヶ月も通ってない昔の生徒を覚えてる人がいるかどうか…。職員室みたいなのが大学にもあるんだろうか)

 高校の次に行く場所ぐらいの知識しかない。京海大学や東帝(とうてい)大学などの有名大学の名前ぐらいしか知らない。


 人が少ないせいか奇異の目で見られることも少なかった。それでも大学生には見えない白髪の子供は目立つ目立つ。キャンパスの地図が書いてある看板に来たが施設の数が多過ぎて何が何やら。どうやら学部ごとに担当している管轄が違うようだ。零が通っていた学部も分からないためそれらを全て巡らなければならない。法学、経済学、経営学、文学、工学、農学、医学、情報科学、教育学、看護学、心理学………

 大学というのはこんなにも数が多いのか。

(10個以上も回れねぇよ。しかも調べたらキャンパスは中野の他に池上にもあるのかよ。こりゃ骨が折れるな。大学院もあるみたいだしな。年齢的に可能性があるのは大学院(それ)か。予想以上に時間がかかるな。池上の方は臼木に任せよう。俺はこの広大な敷地から鬼束の知り合いを探すとするかな)

 疲労が溜まっているが休んでいる暇はない。神坂は体に鞭を打って鬼束を探す。


 大学のセキュリティーはそれほど厳しくなかった。夏休みで生徒の数は少ないがそれでも人は見受けられた。グラウンドを見てみるとサークル活動だろうか。フリスビーのような物を投げ合って何やら競い合っている。大学発祥のスポーツだろうか。八体大でも色んなスポーツを見てきたがこちらもまた興味深い。サークル棟というサークルのアウトレットモールみたいな施設もあった。部室を広くした感じに見えたが文化系のサークルも多く入っていた。

(大学って色々あんだな。面白そう。学業をしながらこうしてサークルとかするなんてバイタリティーはとんでもないな。若者エナジーってか。是非とも俺にもいくつか分けて欲しいもんだ)


 教務と呼ばれる職員室みたいなところに行ってみたがやはりか、学生でもない人間には情報は開示しないようだ。となると、鬼束の同級生を探すしか方法がない。

(4年前に大学1年生だから今だと大学院1年生もしくは新卒社会人か。大学入ってすぐに大学を辞めた人間のことを覚えてる人はいるだろうか)

「へーい。僕、どうしたのこんなところで」

 教務室の前でこれからのことを考えていると大学生と思しき男性が声を掛けてきた。

「すみません。今人を探していまして」

「ふぅん。ここの学生なん?」

「いえ、4年前に中退してます。当時の知り合いがいないか探してまして」

「4年てことはもう卒業してるじゃん!院生の知り合いを探してるっつーこと?」

 なんだこの男、どうもノリが軽い。月城が大学生になったらこんなチャラくなるのだろうな。

「えぇまあ」

「よーし!お兄さんに任せなさい!」

 拳を胸元にトントンと当てる。えっへんと鼻高にしているのがよく分かる。

「院生に知り合いがいるんですか?」

「1個上だから何人かは知ってるよ。あっ、俺は大学4年ね。就活が終わったからその報告に来た感じよ」

 大学4年か。一個上の先輩と親交があってもおかしくはないな。なにより、コミュ力高そうだしなこの人。

「俺は(すべから)尚樹(なおき)。お前は?」

「神坂雪兎です」

「神坂………。おぉ、よろしくな」

 須と握手を交わす。

(目上の人間以外にはいちいち幌谷中ってことは言わないほうが良さそうだな。名前は割れてるから幌谷の神坂って言うと気付く奴が多過ぎる。この須って人も俺の正体に気付いたとは思うがリアクションされて頂のようにベタベタされるのも面倒だし聞かれない限りはこちらからは何も言わなくて良いだろう)

「じゃあ待ってな。今先輩に連絡取るから」

 須はポチポチとスマホを操作する。

 神坂は近くのベンチに腰掛けた。

(あー、くそ。電車で座れなかったから大した休憩にならなかったな。背中がベタついて気持ち悪い。脱水症状は避けても単純に疲労で倒れそうだ)

 あまり眠らなかったことが神坂の体調を崩していた。バスケをしたのが致命的だった。家に帰れるかも分からない。

(院生に知り合いがいなかったらもう帰ろう。せっかくの事務所見学を白紙にしたくないしな)


「神坂。1人キャンパスにいるから会いに行くぞ」

 どうやらアポは取れたようだ。

 須は神坂のリュックを自身で背負った。

「いや、あの……」

「気にするな。少しは楽になるだろう。ちゃんと水分補給してるか?」

 なんで、俺が体調悪いことに気付いたんだこいつ…

「…飲んでますよ。リュックにも何本かミネラルウォーター入れてますし」

「ミネラルウォーター?おいおい、エアリアスとかピョキャリスイートとかアサルティーライチとかのスポーツ飲料系を飲まんと。塩分不足になるぞ。あー、もう。子供は体調管理が雑だなぁ」

 須はリュックを降ろしてどこかへ走っていった。

 1分後にピョキャリスイートを持って戻ってきた。

「ん」

「ありがとうございます」

 神坂は差し出されたピョキャリを手に取って口に含んだ。

「プハッ。いつもより美味い」

 疲れた後に飲むコケコーラのような。爽やかになる。火照った体に冷たーい水が入って体を溶かしていくようだ。

「美味いか。美味いってことはそれだけお前の体がそれを欲してるってことだ」

 須は腰を下ろしてベンチに座っている神坂と目線の高さを合わせる。

「いいか神坂。我慢することは大人になったら絶対にしなきゃいけない。俺だって就活では圧迫面接とか理不尽な思いをした。でもそこで怒っても意味はない。てか自分の首を絞めることになる。我慢は大事だ。けどな…、子供は我慢したらいけない。苦しい時には立ち止まってもいい。その代わり元気な時は全力で騒げ。謙虚だとか寡黙だとかは大人になったらカッコいいが子供は無理したらいけない。神坂にとって人探しは大事なことかもしれないがな、無理をして人探しが出来なくなることの方がヤバいことだと思わんか?」

「………」

 兄ちゃん、姉ちゃん、根井以外に説教をされたことがなかった。俺はそれだけ無理をしてたのか。顔に出てたか。異常な発汗で悟ったか。元気で軽快な陽キャだと思ってたが真っ当なんだな。いや、だから陽キャなのかもな。

「まぁ、なんだ。少しずつでいいんだ。走りながらだと細かいところまで見えないだろ?ペースを落としてもいいんだ。その分走ってる時には見えなかったものが鮮明に見えるようになるんだぞ」

「…はい」

「うっし、それ飲み終わったら会いに行くぞ。俺はそれまでに他の先輩にも話を聞いてみるからさ」

 なんだこの空気は。俺の体調管理が甘々だったのは認めるとしても、なぜ出会って10分も経ってない大学生に説かれなきゃならんのだ。

 自然と腹が立ってきた。須にではなく、そうさせてしまった自分の弱さにだ。

(明日になればいい。あと数時間の辛抱だ)

 少しずつピョキャリを体に流していく。真夏日のオアシスが電気に繋がれて人々を助けてくれている。なんともまあ快適な世界だ。

 全員の体調を俺と同じにして大混乱を引き起こしてやろうかと馬鹿なことを考えられるくらいには落ち着いてきた。

 須はまだ電話を続けている。待たせても申し訳ないから電話が途切れたタイミングで行くことにしよう。


 ♢♢♢


「…もしもし」

 電話も便利になったと思う。

 一対一が今までの電話だったがアプリによっては大人数でも会話が出来る。ビデオ電話も出来るんだから良い時代だ。一昔前はガラケーなんてのが携帯の主流だったがスマートフォンの登場で飛躍的に技術が発展してきた。子供がキッズ携帯ではなくちゃんとした個人の携帯を持てるようになったのは価値観が変わったからだろうか。

「元気ないなふゆ。無理が祟ったか?」

「ギリギリセーフな。親切にピョキャリをくれた人とかいたからな」

「無理しないでくれよ雪兎君。君に何かあったら俺らの立場がなくなってしまうから」

「しゃーないだろ別行動なんだから。それで、今日一日巡ってみてどうだった?何か手掛かりになりそうなものは見つかったか?」


「俺は特に何も。ただ、協力してくれる人がいたりして人伝いで探してくれるってさ」

 豊島区を中心とした月城。職安所の吉良との出来事を2人に話す。

 月城はその後も聞き込みやホームレスの場所をリストに従って探し回ったが鬼束に繋がる証言は得られなかった。

「俺は、ライターが記事を書いてくれるってよ」

 臼木は原宿での出来事を2人に話す。

 原宿での後代々木上原に向かったがそこではあまり大したものは得られなかった。

「あと、リストにない場所にもホームレスがいたからリストだけに頼り切るのもよくないなと思った」

「それは同意見だな。全部をネットに載せてくれる暇人もいないしな。ディープな場所や地域の人だけでしか共有されてない場所は俺らが自らの足で探し当てなきゃならんからな」

 2人も同意を示した。

「俺は鬼束達の母校を2箇所めぐったが、やっぱすぐに中退してるから知ってる人はいなかったな」

「学校からは得られなかったかー。初日だからこんなもんか?」

「いきなり正解に行き着くほどのミラクル属性は持ってないからな。明日は俺は予定があるから休みな。お前らは続きをしても良いし休んでも良いぞ」

「そういえばふゆ明日何する予定なんだ?時間無いのにそれよりも重要なことでもあるのか?」

「生憎先約が入ってるんだよ。姉ちゃんが事務所を案内してくれるからさ」

「へぇー………。って。事務所?案内?」

「おい雪兎君、詳しく聞かせてくれないかな」

「えっ、どうしたのお前ら。随分食い気味だな」

 まさかの反応に戸惑う神坂。

「だって、声優の事務所だろ!?雪華さんの所属してるのって(いろどり)プロダクションじゃん。いいなぁ、俺も連れてってくれよぉ」

「お前ら声優とか興味あるのか」

 アニメ好きや姉のファンであることは知ってたがまさか演じる方に興味があったとは思わなかった。月城は声は良い方だし今は養成所もあるから目指してることは別におかしいことでは無いか。

「まあ少しな。りょうはどうだよ?アニメ好きなら声優さんがどんなことしてるかとか気になるだろ?」

「雪兎君、後生の頼みだ。俺らも行けるように雪華さんに口添えしてくれないか」

「俺からも頼むよ」

「えぇ……。まぁ姉ちゃんに聞いてみるから。一旦電話切るぞ」

 そう言って神坂は電話を切った。そしてそのまま姉に電話をかけ始めた。



「もしもし、ふゆ君?どうしたの電話なんて」

「いや、明日のことで相談があるんだけどさ。事務所に行くって話したらあいつらが俺らも行きたいって言っててさ」

「えっ、そうなの!?へぇあの2人も興味あるんだね。いいよ。元々ふゆ君の社会見聞を開くためだったからむしろ興味のある人は大歓迎だよ!月城君は良い声してたから声優とか向いてると思うし」

 どうやら姉弟で同じ見解だったようだ。案内人から後押しが貰えたなら問題ないだろう。

「大人数だからあの2人は現地集合でいいか?」

「現地集合……、あー。現地じゃない方がいいかも」

「なんで?」

「ウチの事務所警備が厳重だからさ。臼木君達の見た目だったらあらぬ誤解を招いちゃいそうだから。近くにデカストップがあるからそこで一旦合流するように伝えてくれるかな?」

「分かった。何か必要なものとかってあるか?服装とか色々」

「んー。身分が分かるものがあれば良いと思うよ。学生証とかマイナンバーとか。服装は学生服だと浮いちゃうから外行きの服がいいかな」

「分かった。伝えとく。ありがとね」

「うーんん。いいよいいよ。明日は楽しみにしててね」

 楽しみにしてる、と言って電話を切った。そしてまたすぐに2人に電話して許可が降りたことを説明した。


 明日は事務所見学だ。一体どのような場所なのか。遠足前の気分で落ち着かない。緊迫した状況下にいるが1日くらいはそういう日があってもいいだろうと納得した。

神坂雪兎

能力名:強制平等(イコール)

能力詳細:相手の自分のレベルまで調整する


月城泰二

能力なし


臼木涼祢

能力なし



神坂サイドの8月4日の捜索はおしまいです

残りは神原サイドのみです

神原と豊橋警部補が再び出逢います

神岐サイドも気になるし音沙汰のないドクターサイド、そして謎の勢力

超能力(アビル)を中心とした騒乱が少しずつ始まろうとしています

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