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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
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第66話 はじめてのデート④

 アシストをすると言っても方法はいくつかある。だが祥菜が実現可能なものは限られる。

 刺青の男に腕を掴まれて身動きが取れない。まずはこの腕を振り解かなければならない。


(力づくで引っ張っても力の差は歴然。なら向こうが離してくれなきゃ…)

 ベタに『あ、あそこにUFOが!?』を思い付いたがここは屋内だしそれが通じるのは幼い子供だけだ。

(あっ、そういえば奈津緒君が前に————)




「神原、今日はマジで助かったぜ。ありがとな」

 クラスメイトの鯖東イツキが神原に声をかける。

「お前のせいで変に注目を集めたじゃねーかよったく」


 神原としてはやりたくなかったドッジボールで自己暗示(マイナスコントロール)を使ったせいで気分が悪くなり給食を味わって食べる事が出来なかった。

 加えて変なケバい女が数人俺の席に群がったせいでイライラしながら食べていた。静かな人を好む神原としては彼女達は邪魔でしかなかった。


 そして今は昼休み。ようやくのんびり1人の空間でいられると思ったら今日の試合でトリを飾った鯖東に話しかけられた。

 鯖東のことは嫌いではないし中庭の件以来友好的な関係であるが今は放っておいて欲しかった。


「お前もノリノリだったじゃんかよ」

 否定は出来ない。

 能力なしなら絶対に勝てなかったであろう5組に勝利し、学年一の巨漢の(ひつぎ)呑破(どんぱ)を2回も外野送りにしたのだ。ヒットした時は顔には出さなかったが心の中ではガッツポーズをしてしまった。

「で、何だよ。勝ちアピールするなら隣のクラスで新城?にやればいいじゃん」

「新城はもう十分だろ。みんなの前でボロ泣きしたんだから。元々サッカー部でも立場がなくなってたし。5組もスポーツ推薦者がいない6組に負けたんだから相当悔しい思いしてるだろうぜ」

 あの時は泣いてる新城にしか目がいかなかったが他の5組の連中は悔しがってたのか。そりゃあトイレ掃除する奴に棺やられたんじゃ圧倒的敗北だもんな。

「まぁその話は置いといて、方助がお前に話があるってよ」

「茅愛が?それならわざわざお前を中継にしなくてもいいだろ」

「まあまあ」

 何だ。何か含みがある言い方だ。まあいいか。間に誰か入れるってことは大事な話っぽいしな。


 近くで控えていた茅愛方助を呼び寄せる。

「神原に頼みたいことがあってさ」

「うん」

「夏休み入ってからでいいんだけどよ。ウチのボクシングジムに来てくれないか?」

「ボクシングジム?なんだ、勧誘か?」

 茅愛方助は部活動には所属していないが校外のボクシングジムに定期的に顔を出している、と鯖東が前に言ってたことを思い出す。


 茅愛は中学時代はボクシングの大会で優勝するぐらいの実力者だったらしい。なのに一般入試で入っているところを見るに中学時代は素行が悪くて推薦で入れなかったと神原は見た。


「勧誘じゃなくてね。ジムのオーナーにお前のことを話したら実力が見たいんだとさ。俺が数的有利で負けたのが信じられないらしい」

 数的有利と言うのは、先月中庭で鯖東達がちょっかいをかけた時のことを指す。喧嘩慣れしてる茅愛と野球部で体も出来上がっている松草が2人がかりで神原に一発も当てることが出来ず、逆にボコボコにされ血塗れにされたあの出来事だ。

「んな面倒くさいことやるかよ。お前と正式な場でやるんだろ?嫌だよ。俺やるメリット全くないじゃん」

 神原は拒否したのだが茅愛は縋ることもしなければ諦めて踵を返すこともしなかった。

 鯖東も宥めたり交渉に入ったりしてこなかった。する必要がないと判断したのか。


「メリットならある」

 茅愛はずっと手に持っていたA4サイズの紙を神原に渡す。

 中身はチラシ、轟々しいフォントで暑苦しいタイトル。

「エキシビジョンマッチ?おいおい、大衆の前なんて余計にお断りだぞ」

「下、読んでくれ。優勝者特典のところ」

 茅愛に言われてチラシの下側に目を通す。

 エキシビジョンマッチだが優勝者等に賞金が出るらしい。



 優勝賞金・・・5万円

 準優勝・・・3万円

 3位・・・1万円

 大会参加賞・・・5千円



 神原は食い入るように見た。

 5万円ではなく5千円の方を。

「出るだけで金が貰えるのか!?」

「ただし階級分けされてないからヘヴィー級の人に当たるかもだけどね。だからそれでも参加した勇敢さを称えて参加賞を上げてるんだけど。その代わり参加人数に限りはあるけどな。どうだ?出るだけで貰えるなら決して損ではないだろ?」

 茅愛はジムの関係者。いわゆる招待枠。

 限りがあるだろうから正規の手段だと倍率競争になる。

 損ではない。だが金が貰えるから人前で戦えってのは躊躇いがある。

「ちなみに麦島君はOKだってさ」

「はあ?あいつ出るのかよ」

「そうだよ〜」

 いつの間にかいた麦島迅疾。いつものようにニコニコしている。

「やろうよ〜なっちゃん〜。もし俺とマッチングしても勝ちを譲るからさ〜」

「なっちゃんって言うな!ってもなぁー、茅愛はもちろん参加するんだろ?」

「ジムの人間は強制参加だ。賞金は貰えないけど賞金はジムのお金から出てるから俺らジムの人間としては外部に流れるお金を最小限に抑えるって目的で戦うことになる。元手が減ればファイトマネーは貰えないからこっちも本気でやるぞ」

 よく出来てる仕組みだ。素人ばかりのお遊戯会ではなく経験者も織り交ぜての真剣勝負。

 だからこそ5000円の価値が高まる。

 9万円の流出もアマチュアなら死活問題だ。

「なら2勝は確定か」

「おい!以前は負けたがホームだったらそうも行かないぞ。あれからちゃんとジムに通って体を鍛えてるからな」

「だったら今ここでやるか?鍛えてるんだろ?」

「………」

(ここで乗ってこないってことはボクサーとして私闘を禁じる精神が働いているか勝てないと思ってるかだな。後者だったら立場がないからフォローしとくか。けどもしもに備えて揺さぶりはかけとくか)


「ふっ、冗談だよ。けどそうだなぁ。もし俺が5万円手に入れたらお前らとパッーと遊びで使っちゃおうかなぁー」

「マジか神原!じゃあ焼肉行こうぜ!俺ら4人に松草も入れてさ。ドッジボール組でやるか?」

「あぁ、いいなそれ。お疲れ様会でもやるか。8人なら準優勝の3万円でもコースメニューなら足りるだろ。麦島、肉だぞ。俄然やる気が出てきたな」

「うん〜。神原と俺でワンツー決めたら8万円だから蛇蛇(じゃじゃ)苑で1人1万円コースでもいいかもねぇ〜」


 麦島、鯖東は既に勝った後の話をしている。しかも神原、もしくは麦島が勝ったことを想定している。鯖東は神原の恐ろしさを目の当たりにしているから知っているが麦島は何故か神原の勝ちを疑っていない。

 それが茅愛としては面白くない。

(神原に負けたことに言い訳はない。自身の驕りが招いた結果だから甘んじて受け入れた。飲み込んだ。だが今回はボクシングルール。リングによってフィールドも限られた中で経験者の俺が、いやそれだけではない。俺よりも強いプロにも引けを取らない先輩達をも差し置いて勝てるわけもない。外部からプロが来た年だってある。俺だって1勝出来れば御の字なのに優勝だと?)



「神原」

 お金の使い道で2人と話していた神原が茅愛の方を見る。

「俺は絶対にお前に負けない。いや、日吉格闘ジムがお前を叩き潰す。覚悟しとけ」

 宣戦布告。一高校生に対してジム全体が勝負を仕掛けたとも取れる言い方。

 神原を強さを分かった上で、かつての自分がした驕りを叩きのめすための戦い。

「ああ、いいぜ。俺と麦島がお前達から金を巻き上げてやるよ!」

 神原も断らない。受けて立つと交戦的だ。負けず嫌いだからか。頼まれたら断れないタイプか。あーだこーだ言ってたが金が絡んだ時点で神原は断るつもりはなかった。

 バイトの出来ない (出来ないことはないがほぼ出来ない)館舟生としては収入を確保出来る機会は限りなく少ない。賞金も少しは使わないで母子家庭で頑張ってる母親に少し楽をさせようと言う考えがあってのことだ。1万円でも食事代を差し引いて残った数千円分を母親に何かプレゼントでもすれば喜ぶこと間違いなしだろう。

 神原の母親はサッパリした性格ではあるが我が子から子からのプレゼントで無感動になる親はいないだろう。




 詳しい日程や必要事項を話した茅愛は仲介してくれた鯖東に礼を言ってその場を離れた。

「けど神原、勝てんのか。いや、お前は強いけどさ。相手プロに匹敵する人とかいるんだぜ?」

「どうなるかは分からんけどな。少なくてもこちら側の人数が増えれば賞金獲得率は上がるだろ?準決以上まで俺ら2人が残れば賞金は確定だからな。1万円と俺ら2人の参加賞で2万円だ」

「飯はいいとして、そもそも神原は武道の心得はあるのか?」

「ねーよ。でも漫画とかドラマの戦闘シーンを簡単なのなら見様見真似では出来るぞ。よく足を踏んで体勢を崩したところを殴ったりとか?要は体勢を崩せばいいんだよ。人間が立てるのは足あってこそだから足元から崩せば倒れるしかない。倒れちまえば身動きも取れなくなるからあとは恰好の的だな」

 そういえば、鯖東は以前のことを思い出す。

 あれも確かに神原は2人の攻撃を避け続けて疲弊させた後に足を引っ掛けて転ばしてから殴っていた。

 対大人数なら1人転ばせればその浮いた時間で他の敵に集中出来るから実用的だ。

「まあ、仮に負けたとしても1人1000円ぐらいの飯は食えるだろ?ラジョーナとかどっか商業施設の上階にあるいい雰囲気の店ぐらいは食えるだろ?」

「じゃあ俺ラーメンがいい〜。男だけで行くならそういう場所に行こうよ〜」

「あー、焼肉もいいけどラーメンもいいな」

 またまた勝った後の飯トークを始める2人。

(勝っても負けても神原は損をしないってか。麦島と飯の話しかしないのは負けたとしても1万円貰えるから食事くらいは出来ると。麦島が負けた時のことを口に出さないのはそういうことか。いや、麦島は本気で神原の勝ちを信じてるっぽいな。どうも奴は神原に盲信的なところがあるからな)


 鯖東は麦島ほど盲目的には神原の勝ちを信じてはいなかったがもしかしたら、という程度には小さな期待をしていた。

 優勝は出来なくても3位に入ることは出来るんじゃないかと。



 そして、このボクシング大会の話を聞いていたのは神原、麦島、鯖東、茅愛の4人だけではなかった。

 もう1人、話を聞いていた者がいた。


 ♢♢♢


(奈津緒君が前に言ってた。足を踏んで体勢を崩すって。そういえば私、実践してた。あの時は意識してなかったけどあれは確かに足を踏んでた)

 それは進藤美代子 (神原曰くおっぱいちゃん)に神原が誘惑されていた時。

 怒りに任せての行動ではあったが伊武は神原の足を思い切り踏みつけていた。

 神原も悶絶していたことからそれは有効打であると確信した。


「おいおい、いつまで黙りこくってるんだよ。抵抗は止めて早くこっちに来いよ」

 刺青の男が伊武を掴んでいる手を自身のところに引き込む。


 力で敵うはずもない伊武はその力に引っ張られたが伊武は引き込まれた勢いで刺青男の近くまで近づき、


 その男の足を思い切り踏みつけた。



 ♢♢♢


 神原と刺青の男とでは絶対的な違いが存在する。

 自分から踏んだか引っ張られた勢いで踏んだか?

 違う。

 彼氏か迷惑な面識のない他人?

 違う。

 怒りに身を任せたか明確な敵意か?

 違う。



 違うのは踏んだ物。

 踏み方ではなく踏んだ物。

 靴の違いである。

 神原には上履きで踏んだ。

 底面はゴム製で踏んだとしても痛みはあってもどうってことはない。

 所詮は女の力。

 しかし、刺青の男の場合はどうだろう?

 伊武祥菜が現在履いている物は——



 ハイヒールである。

 ゴム製ではなく革製や木製である。かかとのヒールに至っては細長いヒールが折れないために固く作られている。

 1番はここ、踵である。

 ヒールの表面積の少なさ。これが殺人的な威力を発揮する。


 物体の力が加わる時、加わる面積が少なければ少ないほど圧力の値が高くなる。

 底面全体とヒールのみでは同じ量の力が加わっても威力は桁が違う。




 足で人を踏む行為がある。

 人に屈辱的感情を抱かせる時、頭などを足で踏んで立場を明確にさせる。

 踏んでる者が上で踏まれた者は下。

 これはとある界隈でも同じ現象が伺える。

 ドMなどと言われるキモい男達は女性にヒールで踏まれることを喜ぶ傾向がある。

 同じ踏む行為でも踏まれた者の感じ方は180度違う。

 これは何故か?

 それはヒールには痛みが伴うからだ。

 ドMは痛みがある攻撃されると喜ぶ。

 それはつまりヒールで踏まれることは男達の性癖を満たすことが可能なほどの痛みを生むことが出来るということだ。

 刺青の男の性癖は知らない。

 だが、例え踏まれることに喜びを感じようと感じまいと、


 痛いということに変わりはないのである。


 ♢♢♢


「い"っっっだぉっっ!!!」

 鈍い何かが地面の方から鳴った。

 潰されるような鈍い。

 神原の足を踏んだ時はゴム製故にドムッとダンッの二つの音が鳴った。

 だが今回の音は一つだ。

 靴の先端が地面を叩いたカツンという音だけ。

 肝心のヒールは音を出さなかった。


 ただ、男の足に刺さっているだけだ。

 男は突然の痛みで思わず伊武を掴んでいる手を離す。

 しゃがみこんで自身の足を手で抑える。

 これがサンダルなどの肌が露出する履き物をしていたら流血は免れないだろう。最悪骨折もあったかもしれない。

 伊武はこの隙を逃さず自身が映画館に来る時に登ってきたエスカレーターに走り出す。

 この場にいては捕まってしまう。相手は4人いる。1人の足を負傷させたといっても残りの3人をどうにか躱さないと愛しの人は助けに来ない。


「待て!女!」

 周りにいた男の1人が追おうとするが仲間の男の容体を心配して足が止まった。

「ッ…何してる!?俺に構わずさっさとあの女を捕まえねぇか!!!早くしろ!」

 は、はい!と3人のうち2人が伊武を追いかける。既に伊武はエスカレーターを下っていた。

 追わなかった1人が刺青男に肩を回す。

「兄貴、とりあえず座れる場所に行きましょう。足は治り方が悪いと今後の歩行に影響が出ますから」

 痛みでそれどころではない男はその助言を素直に受け入れる。

 2人既に向かっている。女1人すぐに捕まえられると考えた。

 騒ぎで周囲に人はいなかった。だから1番近くのベンチは誰も座ってなく男を座らせることが出来た。


「靴脱がせますね」

 救護の男は刺青の男の履いているスニーカーを脱がす。

「あぁ、悪い」

 男は座れたことで少し精神的に余裕が生まれていた。痛みはまだジンジンと左足から伝わっている。

 男はスニーカーを脱がせて靴下を脱がせる。

 男の足は青痣があったが出血はしていなかった。

 スニーカーと靴下が緩衝の役割を果たして肉に刺さるという悲劇は免れることが出来た。

「血は、出てねーみたいだな」

「骨は大丈夫ですか?」

 男は足首や足の指を曲げ伸ばしする。動かしたことによる痛みはなかった。

「折れてはないみたいだ。痛みはあるが我慢すれば走れるだろうな。チッ、にしてもあの女ァ!」

 まさか反撃されるとは思っていなかった男にとって女にいっぱい食わされるのもだがそれによって負傷することが何よりも屈辱的だった。

「俺はもういい。それより急いで追うぞ」

「まだ安静に——」

「あの女の彼氏ってのがホントにいるならなるべく遭遇しねえ方がいいだろ。俺らの存在を周りの誰かが喋るかもしれねぇからな」

 男は脱いだ靴下を履き直す。布が擦れた時にチクリとしたがその痛みが余計に女への苛立ちを増長させた。

「分かりました。では行きましょう」

 靴を履き出す刺青の男。

「電話で状況を聞きますね」

 男はスマホを取り出して仲間に連絡を取る。

 傷口を圧迫しないように緩めに靴紐を結び直して準備を終える。

「チッ!めんどくせぇ。こんなことなら———」


 ♢♢♢


 祥菜は映画館のある5階から一気に2階までエスカレーターで駆け降りる。

 ヒールだから走りづらい。転けたりしたらそれだけで時間のロスだ。バランスを崩さず速度も緩めてはならないため走るだけで並々ならぬ集中力がいる。

(1番ダメなのは逃げ道がないところに追い込まれること。相手は4人いたから常に5個以上のルートがある場所で逃げなきゃいけない。だからトイレやエレベーター、エスカレーターも危険ね。外に出れないから逃げれる場所は限られる。トイレはダメだけど女性しか入れないお店、下着のお店とかは逃げる場所としてはありかも。男性は近付けないし無理を通そうとすれば騒ぎを大きくさせることになる)


 伊武は後ろを振り返って追っ手を確認する。

 5階からエスカレーターで降りる寸前で振り返った時伊武を追いかけていたのは2人だけだった。

 残りの2人の動向は分からない。一本道で挟み撃ちをされると逃げ場はない。

(追いかけてる2人は既に2階に降りて私を探してる。けどバレてないみたい。けどずっと同じ階にいたらいずれはバレちゃう。階を上がるなら階段だけど……)

 階段こそ挟み撃ちされたら詰みだ。

 エスカレーターは2箇所、エレベーターは2箇所、階段は1箇所なので相手の人数以上の通り道は存在するが逃げた先にいる場合も考えられるので誰もいないからとエスカレーターで3階に向かった先で待ち伏せしていたらそれでも終了。

 そういう意味では2階に逃げたのは正解だったかもしれない。女性の商品を取り扱うお店が多く男性が入りづらいお店が多い。

 ほとんど運の要素だが少なくても1階に降りるよりかは上と下でルートが増えるのは相手に余分な考えを与えることになるから2階で正解だった。

(スマホで居場所を奈津緒君に伝えられたら良いけどそんな余裕ないし。どうしよう。潜伏しようにも周囲の人の反応でバレちゃう。逆も然りだけどそれでも追う追われるが続いちゃうと体力的に私の方が限界が来ちゃう)

 既に2階に降りた時点で軽く息が上がっていた。これが普段履き慣れたスポーツシューズならここまで疲れることはなかっただろう。

 美しさと機動性は相性最悪だ。



「おい、女は?」

「2階から降りた様子はないな。1階に降りるならそのままターンしてエスカレーターを降りればいいけどあの女は真っ直ぐ走ってったから」

 追っての男2人。2階で祥菜を探す。

「どうする?闇雲に走っても意味ねーぞ」

「分かってる黙ってろ。まず籠城とか俺らが入れない場所に逃げられないようにしよう。トイレとかな」

「あの新入りと稀中(まれなか)から連絡は?」

「まだ来てな…待て。ちょうど連絡が来たぞ」

 追っ手の内の1人、田所のスマホが揺れる。

「はい」

染節(ほめふし)です』

「稀中は?」

『痣が出来ただけで問題なく走れるみたいです。そちらは?』

「あの女は今2階だ。とりあえずトイレとかの籠城されたら厄介な場所から探すつもりだ」

『分かりました。私達もすぐにそこに向かいます。トイレもですが他の階層に移動する手段を封じた方がいいかもしれません』

「あぁ?トイレに籠られた方が厄介だろうが!?」

『それもそうですが、他の階に行かれる方が厄介です。それに移動手段を塞げば女の彼氏も助けに来れないですし彼氏の方を抑えれば女への人質としても使えますしね』

「…なるほどな。お前冴えてるな。それで行こう」

(ずっと敬語だからひ弱かと思ったら頭は切れるみたいだな)

『あと電話はグループ通話にしましょう。これなら4人全員でやり取りが出来ます』

「分かった。じゃあ一旦切るぞ」

 田所は電話を切る。

「で、向こうは何だって?」

 もう1人の追っ手、紀本(きのもと)が尋ねる。

「トイレより他の階への移動手段を奪えだとよ。彼氏を人質にするとさ」

「へぇ、なるほどね。それならあの女も逃げられないな。この階自体に閉じ込めるってか」

「じゃあお前はここのエスカレーターを見張る。お前はもう一つの方を見張ってくれ。あとグループ通話で連絡出来るようにしろだとさ」

「あぁ、分かった」

 紀本はもう1つのエスカレーターを目指して歩く。



 伊武から相手2人の様子は見えない。

 伊武はエスカレーターからは見えないお店の柱の影に隠れていた。

 店員からは商品を見ているように見えるため怪訝の目を向けられることもない。

 潜伏している雑貨屋は女性物のアウトレット商品を取り扱っているようだ。

 リュックやポーチなどの小物から衣類、装飾品まで揃ってる。店内はカップルや女性の1人客など数組見られる。

(ここなら、大丈夫。エレベーターや階段からも離れてるしお店にいる人を盾にすれば私の顔を見られることはない。けど2階にいるのはバレてるだろうから1つの場所に止まるのはダメなのかな?ここは2階で奈津緒君を待つより5階に戻って合流する方が得策なのかな?でもあのタトゥーの人が出張ってるかもしれないし)


 伊武はどちらを選ぶか迷っていた。しかし移動手段は現時点で2箇所塞がれている。伊武はそんなことを知らない。伊武はローラーで店内をぐるぐる見回って探していると考えている。



「って考えると店の中に隠れるしかないってことか。俺達が来ないことをチャンスと思って5階に戻ろうとしても俺達が移動手段はほとんど塞いでいるし俺らが見張ってない場所から移動しようとしてもそこに行くまでで他を見張ってる奴が女を見つけると…。随分と悪どい考え方を持ってんな、新入り」

「ありがとうございます。おそらく女は2階から真っ直ぐ進んで田所さんと紀本さんを撒くでしょう。となると女が降りたエスカレーターから直進してエスカレーターから見られない場所となると……、ここのアウトレットを扱うお店か隣接する女性下着のお店にいるのではないでしょうか?」

 稀中と染節は5階にある店内案内図を見ながら話をしている。

 2階に逃げたという情報から伊武の逃げた場所を推理していた。

「場所が分かってるならそこに行けばいいんじゃねーのか?」

「私達の目的は女を建物を外に連れ出すことです。今そこに行けばそれは簡単でしょうがさっきみたいにひどく注目されてしまいます。ならば彼女が自分の意志で我々に着いてくるようにするしかないでしょう」

「そのために彼氏を人質にするってことか。だが俺らは誰が女の彼氏か分からねーぞ。男1人客からどうやって見つけるんだよ?」

 稀中の質問に対して染節はニヤリと口角を上げる。

「簡単です。向こうから簡単に名乗りあげてくれますよ」

伊武祥菜

能力なし



デートのはずがとんでもないトラブルに巻き込まれましたね

次回でデート回は終了です

果たして神原は伊武と再び会うことは出来るのか!?

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