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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
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第65話 はじめてのデート③

 インド料理店でナンとカレーを堪能した2人は川崎駅にいた。

 電車の中でトラブル、問題ではない方の。

 そっちのトラブルによって2人はデート初っ端のようなぎこちなさになっていた。


(か、か、壁ドンされちゃったーーーーーーーーーーーーーー!!!あんな至近距離に奈津緒君の顔がァァァァァァァァ。ほんの数センチ近付いていれば…………………)


(いやぁぁぁぁぁ、危なかったなぁ。電車が混んでたせいで押されて祥菜を圧迫されるところだった。ギリギリ手を伸ばして祥菜のスペースを確保出来たけど、あれは俗に言う『壁ドン』ってやつになるんだよな。あんな至近距離に祥菜の顔がァァァァァァァァ。あとほんの数センチ近付いてたら………。風情もあったもんじゃないな。満員電車でファーストキスなんて。だが付き合いたてであのイベントは刺激が強いっての!)


 とかなんとか羨ま……ではなくアクシデントにより、お互いの顔を直視出来ずにいた。

 駅に着いたはいいが、まだ時間はある。

「…じゃあ先にチケットを取っとくか。ギリギリだと2席続けで取れるか分からんし」

「そうだね。あっ、ちゃんと学生手帳持ってきた?」

「持って来たよ。この前あんなに確認されたからな」


 実は以前映画館に来た時に神原は学生手帳を持ってくるのを忘れてしまったのだ。最初から映画館に行くと聞いていれば用意していたのだが映画を見るのが川崎に着いてからだったのでそれはしょうがないのだが…

 学生割引はあるなしで500円も料金が変わる。バイトをしていない学生にとって500円は数千円規模の損失だ。

 スタッフに忘れた旨を伝えたが学生だと証明するのに時間が掛かった。生年月日や学生手帳を持っていた祥菜と麦島と同じ学校の同級生だと伝えたのだが、それだけでは信じて貰えなかった。

 聞くとどうやらそういう手口を使って値段をちょろまかした輩がいたようで例え事実であっても明確な証拠がなければ適用されないのだと言われた。

 だが以前祥菜に撮らされたツーショットの写真を祥菜が持っていて、その写真の俺が制服を着ていたのでなんとか学生だと証明することが出来た。その手続きで5分以上かかっていたのでそれ以降外に出かける時は必ず学生手帳を携帯するようになってしまった。


「あんだけ揉めたんだから学生手帳なしでも学生だって覚えててくれそうだけどな」

「もう、危うく始まるところだったんだよ」

「まあまあ、今回はちゃんと持ってきてるから何も問題なんて起きないよ」

 ケラケラと笑う神原。伊武としてはせっかくのデートでトラブルなど起こしたくないので大真面目である。ラフなのは緊張しなくて済むが自然体過ぎると何やら特別感が薄れていってしまうものだ。

(特別感………)



「なあ祥菜。これにするのか?」

 神原は映画館に掲示されているポスターを指差す。

「ダメかな?」

「いや、ダメじゃないけど。前回が恋愛ストーリーものだったからさ。女の子ってそういうの好きだろ。ならこっちの映画の方がキュンキュンしそうじゃないのか」

 神原は若手女優が主演を務める映画のポスターを指さす。

「キュンキュンて…、そりゃラブストーリーは大好きだけどさ。こういうのはお互いが満足してみれるものじゃないとね。さっきも配慮が足りなかったしさ」

 神原からとても似合わない単語にちょっとゾワリとしたが、カレー店でのことを反省しているため2人が見れるものとしてコメディ映画を選んだ。

(本当は恋愛映画を見るつもりだったのは言わないでおこう。またやらかしちゃうところだった)

 それに……

(奈津緒君の笑ったところが見たいからね)

「祥菜がいいならそれで良いけど。じゃあチケット買ってくるから、ここで待ってて」

「えっ、うん。じゃあお金———」

 祥菜が鞄に手を入れる前に神原はさっさとチケット購入の列に並んだ。

 一歩遅れた祥菜が追いつこうとしたがその一瞬で5人くらいが間に入ってしまって神原に追いつけなかった。無理に割り込むのも並んでる人に迷惑だしお金は後から渡せば問題ないかと思って列には並ばずに待つことにした。



「では2枚で3000円になります」

 神原は千円札を3枚財布から抜き取って受付の女性に渡す。

「3000円ちょうどからお預かりします。こちらがチケットになります。学生料金での購入なので係りの者にチケットを提示する時に学生証をお見せください」

「分かりました」

 神原はチケットを受け取って受付を後にした。

(颯爽と並んだはいいが後から祥菜にお金渡されたら拒めないよな。カッコよく『ここは俺が奢るよ』ってやりたかったのにな。祥菜も1500円くらい気にしなくていいのに。けど奢ってもらって当然とか思ってる高飛車女よりは20倍くらいマシだけどさ)

 受け取ったチケットを見つめる。見つめる先は話し合って決めたタイトルではない。

(移動が楽なように通路の側にしたけど一応相談したほうが良かったかな?人の行き来が気になるって言われたら接してない方の席で我慢してもらおう)

 思いの外並んでて購入に時間がかかってしまったが神原は2名分のチケットを購入出来た。随分と流行っているようで神原が席を決めるときには8割方は座席が埋まっていた。その中で2連続で空いてる席は後部ど真ん中か最前席、そして中部通路脇の3箇所しかなかった。

 後ろは出入りが面倒だから、最前は首が凝るからという消去法でその席に決まったのだ。

(さあ、祥菜をこれ以上待たせちゃいかんな。早く戻らんと)

 無くさないようにチケットをポーチの中にしまって先程祥菜と別れた場所に戻る。

 しかし…


「…いねーじゃん。お手洗いか?」

 女性は自分の口からお手洗いに行くとかは言いにくい、だからしれっと男側から促すのがデートで失敗しないコツだ!と雑誌に書いてあったことを一言一句余さずに思い出す。

(祥菜も乙女だからなー。自分からは言いづらいよなー)

 女性の時間は長い。だが一応買ったということは伝えておかないとと思い、SNSでメッセージを送った。



「あの、すいません。」

 メッセージを送ってしばらくして声をかけられた。祥菜からの返信はない。既読すら付いていない。列に並んでから10分は経っている。トイレにしては些か長すぎる。

「はい、何か?」

 だからか、話しかけてきた虹色のネイルをした女性。何かを知っていると直感が告げていた。


「赤いハイヒールの女性のお連れの方ですよね?」

 赤いハイヒール…今日の祥菜は確か赤のハイヒールを履いていた。大人っぽさを感じたから覚えてる。

 確認作業をしたということは関係者にしか言えない内容…警戒を強める。

(祥菜に、何かが起こったんだ!)

「祥菜は今どこにいる。あんたは何か知ってるのか」

「そ、それが…入れ墨の入った集団にナンパされてて。それで逃げ出したんです」

 ギッ、拳を握りしめる。

(くそっ、油断した。ドクターの差し金か。いや、そこはどうだっていい。ナンパだろうがドクターだろうが、祥菜に危険が及んでいるということに変わりはないな。彼氏として情けない。奢るとか変な見栄を張らずに一緒に並んでりゃよかった。映画までの時間は…1時間40分か…祥菜のことだ。野郎から逃げるとしてもこの施設の外には出ないだろう。遠くに行きすぎると俺が助けられないからな。祥菜ならそう考えるはずだ。女子トイレに篭ってくれればいいがまだ連絡がないってことは移動中か)


「どっちへ行った。集団の特徴は?」

 怒りの感情を抑え込む。自己暗示(マイナスコントロール)を制御するために感情の抑制は余裕だ。

「あのエスカレーターを降りて行きました。人数は4人です。半袖の男には入れ墨がありました。他は……ピアス、ピアスが付いてました」

 女性が示したのは自分と祥菜も映画館の階に来る時に使ったエスカレーターだ。

(てことはこの階にはいないか。ピアスと入れ墨、4人組。情報は少ないがないよりマシか)

「ありがとうございます。あの、今時間ありますか?」

「えっ、……はぁ、ありますけど…」

「少し頼みたいことがあるんですが、いいですか?」


 ♢♢♢


 祥菜と同じ立場になろう。集団の男に追いかけられたならどう逃げる。俺がいるから、俺が分かるようにする。けど逃げながら自分の痕跡は残せない。だが、ナンパ野郎の痕跡は残せるはず。

 祥菜がトイレに籠らないのは停滞するとナンパ野郎もトイレから動かなくて人目に付かなくなるから。

 だからなるべく移動しながら逃げて周囲の目に入れ墨の男達の痕跡を残す。

 だが聞き込みなんざしてたらその間に祥菜が捕まる危険性がある。外に連れ出されたら俺には追う手段はない。

 神原はエスカレーターを下りて一つ下の階に降りていた。祥菜の通った後を追跡する算段だ。


(祥菜の境遇をトレースしろ。追われてる、焦ってる、逃げている。捕まるわけにはいかないが自身で撃退する手段はない。追っているのは柄の悪い連中であり周囲の人は我関せずで助けてくれない。集団的心理が働いていの1番に行動する人はいない。施設のインフォメーションや警備の人間に助けを乞う…、警備員はどこにいるか分からないしインフォメーションの人がちゃんと対処するか分からない。被害は受けてないしな。警察に通報しても時間がかかる)

 頭で想像すればするだけ祥菜がいかに危ないかを知ることになって思考がまとまらない。

(最悪のケースを想定してしまって頭がぐちゃぐちゃだ。クソ!時間がないってのに)

 焦りは、思考を鈍らせる。

 クールダウンは立ち止まる行為だが冷静になるには大事だ。だが神原は分かってはいてもそれが出来ない。恋人の危機。慌てない方がおかしい。さらに神原は今走りながら考えている。息が上がり頭が余計に働かなくなっている。


(俺は超能力者だ。普通の人間とは違う。超能力を駆使して祥菜を助け出す。だが、どうやって?自己暗示(マイナスコントロール)は俺に都合の悪い暗示をかける能力。そんなくそのような能力でどうしろってんだ。ん?都合の悪い………)

 神原にある考えが浮かんだ。


(いや、でもそんなことって可能なのか?だが都合の悪いことではある。肉体的な変化でしか使ったことがない。それしか出来ないもんだと思ってたが。この能力、まだ使い道はあるのか…)

 試してみよう。闇雲に走り回っても何も解決はしない。なら自己暗示の力を信じるしかない。失敗を恐れてはいけない。

 都合の悪いことを、都合の悪いことだと体の中に刷り込んで能力に適応させる。


「やってやるよ」

 神原は久しぶりに、自己暗示を発動させる。

 副作用で映画が見れなくなるかもしれないが、入れ墨男のせいでデートはもう破綻してる。映画代はそいつらから徴収すればもう一度映画デート出来るからお釣りは来る。


(……………………………………………………………………………………………………………………………………………)

 発動したな、と知覚した瞬間、全身から冷や汗がサウナに入ったのかと突っ込みたくなるくらい流れた———


 ♢♢♢


 祥菜は神原がチケットを購入してくるのを待っていた。

(奈津緒君まだかなー。休日で列も凄いから10分くらいはかかるかな。私達が見る時間まで2時間弱あるからその間何しようかなー。喫茶店は—さっき食べたばっかだし、男の人って買い物の待ち時間が嫌いって聞いたから洋服選びも出来ないしなー)

 遊園地のような体験型、水族館のような鑑賞型の施設は川崎にはない。イベントはラジョーニャやロゼリアに行けば何かしらあるだろう。2時間弱の時間を潰すならむしろ小規模のイベントの方が丁度いいはずだ。だがどちらも神原と楽しむには何か違うような気がした。

 会話が成り立たないなどではない。神原は寡黙だが喋る時は喋る。オンとオフの差が激しいのだ。性格も同様に、極端なのである。だからどっちの状態であっても問題のない場所を意識的に選ぶようにしている。

 映画館は喋れない。食事は喋るがメインは料理を食べること。主だった目的があると人は落ち着いていようが荒れていようがやることは同じだ。ウィンドウショッピングなどのだらだらとした時間の過ごし方を、伊武は神原と過ごしたくないのだ。

(でもいずれはそういったところも行きたいな。お家デートとかまったりした時間を2人で過ごしたいな。今日のデートは私が映画を見たいからってのがあるから、次は奈津緒君の行きたい所に行ってみよう。でも、奈津緒君って何か趣味あるのかな?麦島君とゲームしたりしてるけど、私あんまりそういうの得意じゃないしなぁ)

 2人が話すのはお互いが知っている内容、共通の話題である。祥菜から神原に趣味のことを話したりすることはあるが逆は一度もない。ナンが好きぐらいしか彼についての情報は持っていない。

 不自然なまでに何か一つにどっぷり浸かっていることがないのだ。

(洋服だって私のためだし、何だろう。奈津緒君は今までどうやって暮らしてきたんだろう?生活が苦しくてそんな余裕がないのかな?)

 それは感情のコントロールのためだが、一般の人間には超能力は漫画やアニメの世界の話なので想像も付かないし理解も出来ないだろう。

 神原も欲がないことは自覚している。だからこそ動機は他からであれファッションに興味を持ったりしたのだ。



 そうして待つこと数分。まだ神原が戻ってくる気配はない。この長蛇の列だ。店員も忙しなく接客していることだろう。

(これならネットで予約とかすれば良かったかな。今度からはそうしようっと)


「お嬢ーさん」

 ゾロゾロと蠢く人の列をぼんやりと眺めていた伊武は後ろから声をかけられる。

 伊武が振り返ると見るからにガラの悪そうな男が4人、祥菜をじっと見つめていた。

「今、1人?」

「いいえ、彼氏を待ってます」

「ずっと見てたけど、すっぽかされたんじゃないの〜」

 ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべる男達。

(ずっとって、さっきまで奈津緒君と一緒にいたの見てないのかな?)

「今チケットを買いに行ってるんです。もう間も無く来ると思いますよ」

 彼氏がいるからとナンパを流す伊武。だが男達はしぶとかった。

「いいから、俺らと遊ぼうぜぇ。大人の楽しみ方ってのを教えてやるよ」

 半袖の刺青の男が伊武の腕を掴む。ヒッと伊武は恐怖する。

「離してください!」

 振り解こうとするが男の握る力が凄く振り解けない。周りに視線をやるとこちらの様子をチラ見している人がいるが誰もこちらに近づこうともしない。伊武とナンパ男達の周囲数メートルは誰も人がいないという不思議な形になっていた。俯瞰して見たら限りなく円の形をしていたことだろう。

 祥菜は周囲の人間は誰も助けてくれないんだと悟った。

(奈津緒君は…、たぶん聞こえてないと思う。列も進んで行列の中腹ぐらいにいるから周囲の雑音で10メートル以上離れたこっちの声が聞こえるわけがない。奈津緒君は助けてくれない。だったらどうすればいいの…)



 伊武祥菜は普通の女子高生である。超能力者(ホルダー)ではないし成績も中の上でテニス部でも優秀な成績は収めていない。そんな彼女には誰かの手を借りるしか方法はない。

 しかし、頼みの綱である神原もその場にはいない。時間が経てば神原は戻って来る。

 だがその何分かをここで耐え凌ぐメンタルも、交渉力も持ち合わせていない。

 彼女が取れる選択肢は2つ。ここで待つかナンパ男から逃げるか。

 前者は難しい。これ以上は相手を刺激させ過ぎてしまう。1対4、しかも女だ。力尽くでいいようにされてしまう。警察官や警備員がすぐさま駆け付けてくれるとは思えない。この人混み。駆け付けるには時間が掛かるだろう。

 傷害でも暴行でもない。当てはまるなら誘拐だが向こうがヘラヘラ言い訳すれば実害がないと判断した警察は刑事事件とはしないだろう。警察は一般人の揉め事、民事には関わらないと公民の授業で習ったことを伊武は思い出す。

(だったら私が出来るのはこの場から逃げること。けど、私はヒールを履いていて逃げる足は遅いからすぐに捕まっちゃう)








『君を今後危険に遭わせるかもしれない、だから……俺が祥菜を守ってみせる。必ずだ』


(あぁ…、奈津緒君が言ってたのはこの事なんだ…)

 いつの日かのボロボロの彼に抱きしめられながら言われた言葉。

(彼はこうなることを予見していた。そして、私は巻き込まれた。私が奈津緒君の彼女だからじゃない。私が弱いから、奈津緒君の足を引っ張ってるから……)




『俺が祥菜を守ってみせる』

(奈津緒君が必ず助けに来てくれる。表情は少ないし笑う事も滅多にないけど、君は困っている人を見捨てない)



 初めて見た時の彼————————————



(私が出来る事は彼を信じる事。そのためには私も出来ることをしなきゃいけない。彼のように頭は良くないけど、奈津緒君が私を見つけられるようにアシストをする!それが、私が奈津緒君に出来る信頼だから!!!)

神原奈津緒

能力名:自己暗示(マイナスコントロール)

能力詳細:自身に都合の悪い暗示をかける


伊武祥菜

能力なし



久しぶりの自己暗示使用ですね。

デート話も次回で終わりです。鬼束捜索とは関係ないですがここでの出来事が第4章の章タイトルと第5章へと続いていきます

神原がどんな都合の悪い暗示をかけたのか予想してみてください。

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