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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
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第64話 はじめてのデート②

 道を間違えた祥菜を何とかコントロールして、駅へと向かった。

 時刻は11時。少し早いが昼食を取ろうということになった。2人の行き先は駅の反対側にあるインド料理店『インディアンパレス』、直訳するとインド宮殿である。

(そういえば皇居は英語だとPalaceって書くらしいな。江戸城の名残的にCastleって思いがちだがな。天皇陛下だけKingではなくEmperorって書くのに影響してるんかねぇ)

 などと考えているうちにお店に着いてしまった。その間無言だったが手を繋いで相手の温もりを感じることが出来たので気まずいとかはなかった。


 カランカラン

 来店を店員に知らせるレトロな音。心地良い。これがシンバルの音だったらびっくりして食欲も風情もあったもんじゃない。

 この店は最近オープンしたインド料理店で祥菜と今度一緒に行こうねと約束していた場所だ。

 11時だというのにそこそこにお客さんがいる。今日が土曜日だからだろうか。まだオープンブーストが効いているのだろうか。


「イラッシャイマセ」

 鼻と口の隙間に海苔でも貼り付けたのかと言いたくなるようなどっしりとした黒髭を携えた色黒の男性が話しかけて来た。

 インド料理店なので彼はインド人なのだろう。

「何名様デスカ?」

「2名です」

「空イテル席ニドウゾ」

 そう言って店員は厨房の方へと戻っていった。冷蔵庫を開けているので客に出すお水を取り出しているみたいだ。

 当然のように上座に祥菜に座らせて自分も対面で席に着く。そして立てかけてあったメニューを広げた。

「どれにしようか。うわ、見て見て豆カレーがあるよ。もうどっちが主役か分からないね」

 祥菜が言っているのはメニューにあった豆カレーだ。器にこれでもかと豆が乗っていてカレーに豆が乗っているのか豆の塊にカレーが乗っているのか分からなくなっている。

「ここまで盛られてるとそれだけでお腹いっぱいになるな。俺達は初めてなんだから定番どころをまず食べてそれが美味しかったら次来た時にでも食べようや」

「そうだね。じゃあ私このポークカレーにするー」

「じゃあ俺はキーマカレーにしようかな。ランチセットはナンかご飯か選べてサラダとドリンクが一杯つくのか。俺らはナンで確定としてドリンクはどうする?」

「うーん。暑いから炭酸でーってやりたいけど合うか微妙だからね。烏龍茶にしとくよ」

「じゃあ俺も烏龍茶にするか。あと辛さが10段階で選べるみたいだけど祥菜はどれにする?」

 この店ではカレーの辛さをお客が注文時に10段階で選ぶことが出来る。辛みが一切ないのが1で赤々しくなっていて髑髏マークが付いているのが10だ。

(さて、無難にキーマカレーにしたはいいが、ここはどの辛さを選ぶべきか。下手に2〜3で甘い選択をして『奈津緒君、それは2つの意味で甘えだよ』とか言われるのは何としても避けたい。だが7〜9らへんを選んでもし完食出来なかったら『奈津緒君、残すなんてお店の人に申し訳ないと思わないの』とか言われるのも嫌だ。ここは4〜5辺りの中辛ゾーンで攻めるべきか)

「そうだねー、せっかく来たんだから挑戦してみたいよね。10に」

 祥菜の指の先には髑髏がいた。

(待て待て待て。10!?えっ、祥菜って辛いの平気なタイプなのか?そりゃナン好きならカレーも好きには違いないけどさ。おぉっと、これは4〜5は選び辛いな)

「マジか祥菜!食いきれんのか。髑髏だぞ。死んじゃうぞ!」

 死ぬなんてことはありえないが祥菜にプレッシャーをかける神原。

「大丈夫。こう見えて私辛いの平気なんだ」

「へ、へえ…そうなんだ」

 こう言われたら止めたらとは言えない。

 神原は辛い物が苦手なわけではない。得意とは言えないが人並みに辛い物は食べることが出来る。麦島と2人で来ていたら神原だって10を選んでいたのかもしれない。しかし一緒に食べる相手は恋人なのだ。ここで辛い物を口に含んでむせたり最悪戻しちゃったりした場合は自分の評価はダダ下がりだろう。恋人の前でみっともない姿は見せたくないのだ。

(選択肢は2つ。大して辛くないことを願って10で行くか、祥菜に他を選ばせるか)


「オ冷ヤニナリマス。ゴ注文オ決マリでしたら呼ビ出シボタンヲ押シテクダサイ」

「あ、もう注文いいですか?」

「ハイドウゾ」

 祥菜が店員を呼び止める。

 えっ?と神原が伊武の方を見やる。どうやら伊武の中では神原も辛さ10を頼むことが決まっているらしい。

 店員が注文用紙を準備している。『ゴ注文オ願イシマス』と言うまでざっと2秒。この2秒で策を考えなければならない。

 課題ばかりで頭を酷使していたので体は抵抗をしていない。考えることを当然のものとしている。

 頭の回転を速めろ!

(辛さ10にした時の欠点。それは食べ切れるかどうか分からないということ。だが祥菜は大丈夫と言っている。だから完食の是非で説き伏せるのは難しい。食べきれなかった時のペナルティーも存在しないので『食べきれませんでした、チャンチャン』でそれで終了だ。祥菜は自分がむせたりリバースすることを考えいないからやはり相当の自信かあるということだろう。ならば別の切り口からのアプローチがいる。食事行為以外での欠点。食べた後の問題点。下痢…は可能性としてあるがお腹下すから食べない方がいいよなんてレディの前で言えるはずがない。もっとソフトに言わなければ。女性として恥ずかしいこと……。強い…香り……)


「ゴ注文オ願イシマス」

 注文用紙の準備を終えた店員がボールペンを持って訊ねる。

「キーマカレーのランチセットとポークカレーのランチセットをください」

「ナンカライスカオ選ビイタダケマス」

「両方ナンで」

「カレーノ辛サ10段階カラオ選ビイタダケマス」

「両方とも10d「祥菜」

 神原が途中で遮る。

「えっ、何どうしたの?」

「考えたんだけどさ。俺はこれから映画見るわけじゃん。閉鎖空間の中でカレーの強い臭いがしちゃってたら周りの人に迷惑がかかると思うんだ。辛味に使われる香辛料は香りが強烈だから尚更ね。だからここは中辛ぐらいの方がいいんじゃないか?臭いが付くのは女の子的にもアレだろ?」

 神原に言われて伊武もハッと気付く。

(そうだ。頭から抜けてた。私達は映画を見るのが目的なんだもんね。確かに臭いが残るのは女の子的にノー。服に着くぐらいはいいけど、口臭がキツくなったら奈津緒君に嫌な顔をされちゃう。さっき奈津緒君が止めてたのはそのことを思ってか。ダイレクトに言わなかったのは私が女の子だからデリカシーのない奴って思われないように。私を気遣って……)

 その考えは間違っていないがそもそもは神原が食い切れる自信がないからなのである。祥菜としては一緒に同じシチュエーション(激辛カレーを食べる)にいたいからであり神原が食べ切れるかは範囲ではなかった。

「そうだね。あまり辛くない方がいいね。すいません。辛さは2つとも5番でお願いします」

「ドリンクハナニニナサイマスカ?」

「両方烏龍茶で」

「カシコマリマシタ。シバラクオ待チクダサイ」

 店員は頭を下げて厨房へと戻っていった。『キーマ、ポーク5番。ナン2』と料理人に言っているのが小さい声だが聞こえて来た。

 ふぅ、と神原は一息つく。出されたお冷を少し口に含む。キンキンに冷えていて外の熱気を浴びていた神原には至極の飲み物になっていた。

「ありがとね。私そこまで考えが至らなかったよ」

 祥菜が先程の件のことを言ってきた。

「いや、俺もスパッと言えてりゃ良かったんだけど。悪いな。なんか押し付けちゃった感じで」

「ううん、元々私が10前提で進めちゃってたのがいけなかったんだし」

「10はまた今度にしよう。夕飯時みたいなその後に何も予定がない時にまた来ようや」

「うん。そうだね。ふふ、なんだかあの時も同じ感じだね」

「あの時?」

「ほら、麦島君と3人でラゾーナに行った時。駅前に新しいお店が出来たって話したら今度行こうって話したじゃん。その時とおんなじだなって」

 それはまだ2人が付き合い前の日のこと。どうしても気持ちを伝えたい祥菜に対して、柿山が授けた作戦、『将を射んと欲すればまず馬を射よ大作戦』のために麦島に神原への告白の仲立ちを頼んだあの日である。

「あぁ、あの時な。祥菜が顔を赤くしたやつな」

「も、もう。言わないでよ!」

 と怒った感じで言ってはいるが顔はあの時と同じように赤くなっていた。

 あの日の約束が1ヶ月で叶っている。素敵なことだ。


 そして待つこと15分

 ナンとカレーが2人の元に届いた。

 ナンハオカワリ自由デスと言われてちょっぴり神原のテンションが上がったのを見て『やっぱり男の子は食べるんだなぁ』と何やら今後を見据えているような観察する目付きで彼氏を見る。

「美味そうだな」

 爛々としている。ナンの表面に塗られているバターがナンを輝かせてより食欲を唆ってくる。

 キーマカレーもカレー特有の濃い匂いがこれまた食欲を煽る。

「そうだね」

 伊武のポークカレーも豚肉がゴロゴロと入っていてこれまた美味しそうに見える。

「あ、写真撮ろうっと」

 伊武がバッグからスマートフォンを取り出す。

「あれか。ラピフォトか?」

「うん。美味しそうだし出来たばかりのお店だからねぇ。映えると思うんだ」


 ラピフォトとは正式名称は『ラピッドフォトグラム』。素早く写真を投稿出来るという意味で若い女性を中心に流行しているアプリケーションである。ただ、写真を撮る際のマナーが悪いユーザーもいるためアプリの評価には賛否の声がある。


「写真はいいが俺は写すなよ」

「大丈夫、顔は写さないから。私も自撮りとか投稿してないし」

 個人情報が載らないならいいか、と納得する。



「美味かったな」

「うん。今度は別のメニューを頼んでみようね」

 食べた感想としては大満足の一言だった。カレーの味付けがスパイスが効いてとても美味しく、他の具材もカレーに馴染んでいた。それがナンとの相性抜群でナンがどんどん口に運ばれていた。神原は当然のことだが伊武さえもナンのお代わりを注文するほどだった。

 付け合わせのサラダは無難なものではあったがそれは決してマイナスポイントではなくカレーの旨さの前ではそんなものは些細なモノと化していた。

「次は映画館だね。けど微妙な時間帯だね」

 現在の時刻は12時。映画の放映開始時刻は14時だ。館舟駅から川崎駅までは10分程度。今から真っ直ぐ向かっても1時間半はどこかで時間を潰さなければならない。

「ここにいたってやることもないし。ラゾーナでぶらぶらウィンドウショッピングでもすればいいだろ。館舟駅は商店街くらいしかないんだし」

「けどここらへん一帯を再開発するらしいよ。名前も駅の名前も館舟から変わるみたいだよ」

「たしか武蔵小杉だったっけか?南北を繋ぐ路線も建設中だから楽しみと言えば楽しみだな。横浜、渋谷、新宿、池袋へ一本で通れるようになるらしい。東京や千葉を通る新路線も館舟を通るって話だし。2020年の東京オリンピックまでには開通するらしいぞ。この街もどうなるんだろうな」


 館舟駅はJR南武線しか通っていない路線である。府中本町から貨物線が伸びていていずれは旅客化される見通しだがまだ正式に決まっていない。館舟から東京方面に行くためには川崎、武蔵溝ノ口、登戸で乗り換えなければならない。同じ県の横浜でさえ川崎を通らなければならない。『困ったら川崎』という川崎市民の言葉があるが、これは川崎に行けばなんでも揃っているという意味だけでなく川崎を経由しなければどこにも行けないというちょっとした自虐が入っているのである。

 経済学者の見込みでは館舟の開発が進めばアクセス向上もあり人口増加や商業施設の増加が期待されている。それは実際に正しく、既に2つのショッピングモールと大型複合ビル、そして3つの高層マンションの工事が始まっておりこれらも東京オリンピックが開催される2020年までにオープンするようだ。オリンピックの影響はここだけでなく、20分ほど歩いた先にある館舟陸上競技場では野球のグラウンドの工事も進んでいる。五輪特需とでも言うべきか。館舟、未来の武蔵小杉は非常に熱いスポットとして注目されているのだ。


「なら私達は当たりだね。館舟駅の近くに持ち家があるなんて」

「そうだな。これからは『館舟駅の近くに住んでる』って言っても『どこにあるの?千葉?』とか言われずに済むかもな」

「世田谷マダムみたいにムサコマダムとか言われちゃうのかな?」

「はは、それは分からんが一目は置かれるだろうな」

 2人はそんな未来の話に興じていると、館舟駅の改札に着いた。

「それじゃあ行くか」

「うん!」


 2人は昼食を取り終え、川崎駅を目指す。

神原奈津緒

能力名:自己暗示(マイナスコントロール)

能力詳細:自分に都合の悪い暗示をかける


伊武祥菜

能力なし



館舟が架空の地名でもどかしかったので未来の武蔵小杉という設定にしました。元々地図上で武蔵小杉をモデルにしてたので問題ないと思います。そのせいで東急東横線や総武線、東急目黒線、相鉄線、湘南新宿ライン、埼京線、成田エクスプレスがまだ作られていない、もしくは武蔵小杉まで開通していない設定になってしまいました。その関係で西大井、新川崎、羽沢横浜国大はこの世界ではまだ存在していません。そこらへんが地元の方は申し訳ありません。


次回もデート回です。

ようやく映画を見れますね。そこでトラブルに巻き込まれるので楽しみにね。

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