表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
60/145

第60話 鬼束の捜索⑦

 8月4日土曜日

 神坂は昨夜のうちに鬼束達がいたであろう繁華街のリストを作成。3人用に仕分けて月城と臼木のラインに送った。月城は東京23区の北側、臼木は南側、神坂は23区外の東京の街、町田や八王子などを分担することにした。23区は面積としては小さいが人口は900万人近く住んでいて繁華街の数も馬鹿にならないので2人に任せることにした。神坂はそれ以外の広くに分布された所を自らかって出た。だがこれは23区外に行ってみたいという神坂の個人的願望が強く出ていた。名彫に会ってから足立区以外の場所にも足を伸ばすようになったがそれでも23区や横浜、千葉、大宮などの主要都市だけだった。東京西部などは遠足で高尾山に行ったぐらいで1人で出掛けたことはなかったのだ。

(観光目的じゃないが、それでも楽しみではあるんだよなぁ。八王子に関してはついでに附属高校に行ってみるか。ワンチャン俺の評判を使って深く踏み込めたらいいな)

 最近は白ウサギの名前で助かることが多いので前ほどの嫌悪感がなくなっていた。

(けど大丈夫かな。あいつら)

 月城と臼木のことである。

(2つに分けても1箇所あたりの人口密度がえげつないから探すのに一苦労しそうだよな。しかもホームレスがいるような場所って治安悪いから、いやあいつらなら蹴散らせると思うけどヤクザや半グレに絡まれたらヤバいよな。忠告はしたけど臼木は向こうから挑まれるかもしれないからな。あまり深い所に入らないでくれよ!)

 この神坂の不安。実は杞憂であった。臼木月城と言えどそういう深い所は探し当てることは難しいし見つけても踏み入れるに足りえるものを持っていなかった。だが神坂達には思わぬ協力者がいる。彼らなら深い所に堂々と入ることが出来る。


 玉梓組である。

 夜吉の命令で陰ながら神坂達のサポートをすることになった房総はまずチーム編成をした。

 敵組織との争いもあるのでなるべく交戦側には強い戦力を残しておきたい。強い人は大抵人相もヤクザそのものなので聞き込みには適していない。しかし神坂達が踏み入れられない裏の部分には力のある奴の方が舐められずに事を運べる。

 そこで房総は裏側担当に4名。表側、つまり街中での聞き込み要員に10数名ほどの下っ端を使うことにした。神坂達の下僕扱いされている物見八蔵も聞き込み要員である。物見は若い衆からは頭ひとつ抜けた実力を持っているが彼は顔立ちが整っているため一般向けに接した方が情報を聞き出しやすいという判断だ。

 物見としては抗争の方に参加したかったが神坂達の支援と言われれば組員の中で一番接点が多い物見は自然と聞き込み陣営に入れられてしまった。


 23区組は協力者の力もあって広いネットワークで捜索が可能になった。神坂達はその事を知らない。それに気付くのは鬼束達の足取りを聞かされた時である。


 ♢♢♢


 神岐義晴は文京区にある都営三田線の白山駅に来ていた。

(ここが白山駅か…。初めて来たな。文京区ってそもそも何があるんだっけ?)

 気になってスマホの地図アプリ文京区と調べる。ざっくり見てみると日本最高学府の東帝大学がある区、ということだけだった。

(パッとしない区だなここは。まあ俺の住んでる目黒区も中目黒ぐらいしか思いつくもんはないけど)

 自虐もそこそこに以前スマホのメモ機能で残しておいた住所をもう一度確認する。

(文京区白山4丁目〇〇-〇〇。徒歩10分ってとこかな。けどまずは腹ごしらえだ。この近辺の定食屋でも探すかな)

 神岐は定食屋巡りが趣味である。特に唐揚げが大好きで必ず唐揚げ定食を頼むくらいだ。

 本来の目的を忘れたわけではないが溢れる食欲は抑えきれない。空腹を満たすよりは鎮痛に近いと言えるだろう。



「へいらっしゃい!」

 店主の力強い声、接客は良さそうだ。どれほど美味しい料理を提供してくれても愛想だったり接し方が悪いと料理も何故か美味しいと感じなくなってしまう。料理に愛情が入ると格段に美味しくなるって通説があるように、真心のある人間が作ると美味いと感じるのだろうか。それとも居心地の良い環境が料理の嗜好性を変えてしまっているのか。

 そう考えるとコーヒーショップのスターバックルがやたらドリンクが高いのはあの風情あるオシャンティな場所で飲食という付加価値によるものなのだろうか?トドール派の俺には無縁だな。ちなみにトドール派になった理由はミラノサンドが美味かったからだな。チェーンなのにびっくりするほど美味い。


 神岐はメニューにあった唐揚げ定食をオーダーした。唐揚げ定食がない定食屋など定食屋を名乗る資格がないと通ぶって語っている。生放送でだ。たまにリスナーから紹介されたお店に足を運んだりしているが、地元の店を紹介したというだけで本当に味でオススメをするリスナーは少ない。大学生という身分のため東京神奈川千葉埼玉より外側には出れない、そのため紹介されても遠いために行けないという店が多数存在する。前者のタイプが大半だとしても砂粒の隠れた名店を逃してしまっているのではないかという不安は常に()ぎっている。

 移動手段がネックなのだ。運転免許は大学1年生の夏休みの時に短期集中コースを受講して持っている。竹満と一緒に受けた。竹満はそれから車に嵌り出して中型の免許もその後取得した。個人でレッカーするのに必要な牽引免許も竹満は持っている。運転手をかって出るのも車好き、運転好きが理由である。


「お待たせしましたー、唐揚げ定食です」

 コトリと木のお盆と木製の机が心地よい音を奏でる。最近ユーツーブやニッコリ動画で流行っているASMRというやつか。詳しくは知らないが耳が気持ち良くなる音って俺は思ってる。耳舐めの動画を再生してみたがなるほど、悪くない。変な性癖の扉を開いてしまいそうだったので途中でブラウザバックしてしまった。

「ありがとうございます」

 お礼を忘れない。これはコーヒーショップの神岐を見れば分かるだろう。

(ASMRって男がやってもバレないよな。囁きとか甘え声は無理だけど咀嚼音とか舐める系なら男でもイケる気がする。試しにやってみるか?認識誘導(ミスリード)で感度を上げたら野郎の部屋から雄の匂いがプンプンしそうだからやめとこう)


 唐揚げ定食に目を向ける神岐。ご飯に味噌汁、漬物に千切りのサラダ、そしてメインの唐揚げ。シンプルだがそれが良い。

 おしぼりで手を拭いて割り箸の束から一膳取り出す。この割り箸を割るという工程が神岐が嫌いではない。生まれてから何百回は割っている、けど綺麗に半分に割れたのは何回ぐらいだろうか。上手く割れたら今日は良いことがあるかも…、なんて朝の占いで一喜一憂する女の子みたいなことをお店の中で毎回やっている。願掛けやルーティーンのようなものなのでそれで本当に動向の良し悪しが決まるとは思っていない。

 お盆の隅っこにカットされたレモンが置いてある。味変に使うものだ。神岐は唐揚げにはレモンをかけない派ではない。むしろ好んでかける。以前マヨネーズをかけて唐揚げマヨ丼を作ってみたがあまりの強烈な味にそれ以降作られることはなかった。不味いのではなく中毒性が高すぎるからだ。カロリーの暴力、あれは中々にむごい。次の日の朝に口元にニキビが出来てしまったので神岐はもう二度としないと誓ったのだ。それぐらいには神岐は調味の類いをかけることに抵抗はない。そしてなにより神岐が驚いたのは、机に辛子の小さいパックが置いてあったことだ。スーパーのパック寿司に付いている醤油だれ。1人前ほどの量。そのパックが小さい壺の中にギュウギュウに詰められていた。

(そういえば店の前の看板にトンカツがなんとかって書いてあったからそれでか、トンカツに辛子は美味いよな。次来る機会があればトンカツ定食を食べることにしよう)

 看板に載っていたということは人気メニューや定番メニューなのだろう。たくさん注文されるから一々厨房で添えるよりテーブルに置いていた方が楽ということか。小さいセルフだがこういう小さいことが従業員が気持ち良く働けるようにしているのだろう。

(せっかくだ。普通、レモン、辛子の三角食いでもするかな)

 神岐はパパパっと漬物を平らげると唐揚げに箸を伸ばした。


 ♢♢♢


「あー、美味かったなー」

 唐揚げの味は見事なものだった。大きくカットしているせいか噛んだ時の肉汁や肉厚感が堪らなかった。フライドチキンよりの衣になっていて外はパリッとしていて中はジューシーだった。

(辛子とレモンとも相性が良かったな。何が違うんだろう。部位?タレ?揚げ方?)

 今まで食べた中で最高とは言えないがそれでもトップ10に入るくらいの美味しさだった。また来よう。

 念のために店員に催眠をかけて『鬼束という三つ子を知らないか?』と尋ねたがアルバイトで5年以上働いていないのか『分かりません』と言われてしまった。店長クラスを呼び出しても良かったがランチタイムで忙しい中多分厨房だと思うけど調理担当を現場から遠ざけるのは申し訳なかったのでそれ以上の追求はしなかった。

(まずは家に行って近所の人に聞いてみるのが一番だな。三つ子なんて目立たない方がおかしいしな)


 住所の位置情報だと目の前の住居を指している。

 ボロくはないが新しいとも言えない普通のアパート。築20年と言ったところか。ここで兄弟4人で住むのはちょっと狭いように見える。

(俺に住所が漏れてなおもここに住んでいるわけはないが一応念のために)

 アパートの門を入り、丹愛達の部屋まで動く。扉の横にインターホンが付いている。プッシュボタンの真ん中に音符マーク♪が付いていて可愛らしい。

 ピーンポーン

 インターホンを押す。

 ………

 反応はない。もう一度ボタンを押す。


 ピーンポーン

 …………

 反応はない。

 ドアノブに手を回す。手をかけて半分捻る。そして手前に引っ張るがガンッ!と何かに阻まれる。ロックが掛かっているようだ。

(ロックが掛かってなくて中に入ったら人が死んでる——、みたいなことにはならないか。いないみたいだな。ドアの下部にある郵便受けが溜まりつつある。少なくても1週間は帰ってきてないみたいだな。丹愛と戦ったのが10日前だからあの日の前後から戻ってないか)

 ドアノブから手を離す。ストーカーみたいでやりたくないがポストを探ってみることにする。ポストの中身からも大体のことは分かる。例えば大学生ならスーツのチラシ。学生なら学習塾、居住して大分年数が経っていたらリフォーム関係と言う具合に大まかな年齢や職業、生活環境を推測することが出来る。あくまで大まかであり断定することは難しい。


 ガサゴソと手で弄る。ドア付けの落下式のポストなので葉書などの小さい物には手が届かない。DMや封筒、ポストに入るぐらいの荷物ならなんとか届く。入り口が細いので腕をグイッと突っ込むことは出来ない。さながらゲーセンでUFOキャッチャーを逆流して商品を取り出そうとするDQNみたいだ。

 手にいくつか触れているが上手く掴めない。指と指の間に挟めない。もっと屈んだら力も入りやすくなって取りやすいんだろうけどその絵面はポスト穴から部屋の中を覗き込んでいるようにしか見えなくなるからそれは出来ない。

(見られても認識誘導(ミスリード)を使えば問題なしだけども、なーんか使いたくないんよな。これから散々使うんだけども!)

 認識誘導に使用制限というものはない。疲労した時などは能力が掛かりづらいことがあったが能力を使って疲弊したことは一度もなかった。

 悪戦苦闘していた神岐だがようやく指で掴むことが出来た。だが不安定な指同士、気を抜くと擦り抜けてしまうので慎重に、ゆっくりと引き上げる。


「これは……、スポーツのカタログか?」

 なんとかポストから取り出したのはチラシだった。スポーツ用品店のチラシのようだ。スポーツ用品でも買わないとこんなのは家に届かないはず。そういえば鬼束3兄弟はバスケの関東チャンピオンだったな。

(まだバスケをやってるみたいだな。それか健康維持や肉体強化のために趣味の範囲でやっているのか)

 カタログはシェアトップのスポーツ用品店だ。ここから一番近い店舗はどこだっけと思い、神岐は地図アプリで検索する。電車で一番近いのは神保町だった。

(スポーツごとにエリア分けされてるからとりあえずバスケブース担当の店員に聞くか。バスケをしているならプレイしている場所も調べたいな。3on3にこだわってなければ人数が足りないからスポーツ教室とかそういう自由参加の場所に行ってるはず。交流した誰かがいるかもしれない)

 ふぅ、とこれからやることを想像して溜息をつく。能力で何でも出来ると言っても1人で出来ることには限りがある。鬼束探しもだがオフ会を通して同じ境遇の超能力者も探さなくてはならない。鬼束達だけに時間を割くことは出来ないのだ。大学は夏休みだが週に1回はゼミ室に集まらなくてはならない。テレビ夕日で小鉢さんとプレゼンの打ち合わせもやらなきゃいけないし……

 はぁ、ともう一度溜息をつく。

「はいはい、やりますよ。全部やりゃいいんだろったく」

 感情が投げやりになってしまう。キャパオーバーは否めない。時期的にまずはオフ会とプレゼンが優先度が高いか。

(認識誘導で人を使うのも難しいんだよな。細かい命令は効きづらいし。竹満は巻き込みたくないし。あいつは一般人だしな。同じ境遇の超能力者さえ見つければ合同で出来るんだけどな。おそらくだけど彼らも俺と同じように動いてるはずだし。マンパワーが欲しいなホント)

 よしっ、と自分に喝を入れて屈んでいた体勢から立ち上がる。まずは聞き込みだ。アパートの住人から近くの住人まで、神岐に利があるところとして顔さえ合わせればあとは神岐の思い通りになるところである。いくら神岐がイケメンと言っても茶髪の大学生に話しかけられて素直に応じる者は多いとは言えない。警察官という絶大的な信頼がなければ協力を得ることは難しい。だが認識誘導の発動条件は体を見せながら声を聞かせること。対面さえすれば簡単に条件を満たす。フィールドワークは面倒なものだが神岐の真骨頂を発揮する場としては最適なのだ。

(まずは隣の住人からだな)


 神岐は立ち上がって数メートル歩いた先にあるインターホンを押したのだった。

神岐義晴

能力名:認識誘導(ミスリード)

能力詳細:神岐の姿を見たまま声を聴かせると催眠状態にかけられる


基本一人の神岐サイド

せめて一人ぐらい超能力者がいれば会話も出来るしスムーズなんだけどね

竹満はなんか超能力者にしたくないんですよー


次回も神岐サイドです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ