第6話 ドッジボール対決②
内野の残り選手
5組
新城友善
久保井達史
枕崎奏多
菜花七彦
矢継早飛鳥
橋下勝太
6組
鯖東イツキ
茅愛方助
道駅悠太
行灯航平
松毬拾
外野残り選手
5組
万都敏嗣
棺呑破
6組
松草知尋
麦島迅疾
トイレ掃除
神原奈津緒
ドッジボール対決中編
※この回に神原奈津緒は登場しません
さて、神原が相打ちで棺を外野に追い出したんだ。
あいつの言った棺は大丈夫ってのがどういうことか分からないが…。
とにかくこっちは負けてるんだ。
何としてでも相手にボールを当てないとな。
ボールは現在6組の外野にある。
「麦島君、ボールをくれ」
「松草君〜、腕の腫れは平気なの〜?」
腕の腫れを見て心配する麦島。
「利き腕じゃないから平気だよ。ちょっと痛むけど…」
ボールを受け取る松草。
先程の枕崎への投球は申し分ないものだった。
棺という障壁がない今、枕崎を当てるのは簡単だろう。
松草はボールを投げた。
「くそっ!」
さっきは邪魔されたが今回は枕崎に見事命中。
枕崎 OUT
枕崎が当たり5組の内野の数は5人。
これで同点まで追いついた。
ボールは5組内野にある。
♢♢♢
「棺がこんなに早くやられるとは思わなかったな」
「枕崎君は仕方ないとしてあの棺を外野送りにしたんだからな。あの男子凄いねぇ」
「喋ってるところ悪いが多分次狙われるのお前だぞ菜花」
「えっ、そうなの新城?」
「おいおい、そんなこと言うなよ久保井。真実は知らない方がいい時もあるんだから」
「やっぱ狙われてるんだ俺!どうしよう?」
テニス部の菜花七彦がテンパっている。
「だがやはり流石は鯖東だな。さっきの大立ち回りも打ち合わせなしで彼の意図に気付き棺に当ててたしな」
「それを思い付いた彼もやっぱり中々やるよな。その彼今外野にいないようだけど?」
「トイレに行くとかなんとか言ってたぞ」
「じ、自由なやつだな…」
「とにかく、これからのことだが、投げるのはラグビー部の2人に任せようと思うが、大丈夫か久保井?矢継早?」
「任せろ!」
「マジかーテンション上がってきたー」
「向こうからのボールだが冒険はしないでいい 捕れると確信した時だけだ」
「「「「オウッ!」」」」
新城の指示は申し分ない。
適材適所、ボールをあまり捕らない堅の姿勢だ。
避けると相手にボールが渡るが野球部の松草は怪我でパワーダウンだ、問題ない。
もう1人の野球部、道駅の実力は分からないがやはり野球部は警戒しておくに越したことはない。
5組の狙うターゲットは道駅に決まった。
一方こちらは6組。
「やっぱ神原やりやがったなw」
「方法は最悪だけどな」
神原のことを知っている茅愛と俺が神原について喋っている。
他の3人は神原が大人しい奴だと思っていたのか未だに信じられないといった様子だ。
フォロー入れとくか…。
「気にするな あれは棺をOUTにするためのパフォーマンスだよ」
半分本当で半分嘘だな。
アイツはおそらく演技じゃなくて素で性格が荒いはずだ。普段は大人しくしてるが…
今回アイツをドッジボールに参加させたのは俺だ。
少しでもアイツのイメージダウンを避けなくちゃな。3人も納得したようだ。
「そんでこれからどうする?もうさっきのような手は使えないだろ?やっぱりテニス部の奴狙いか?」
「そうだな、とりあえず菜花狙いでいこう。道駅、頼めるか?」
「…分かった」
道駅悠太
無口な奴だ。
クラスが同じ野球部の松草と喋っているのを見たことがない。
本当に大丈夫なのだろうか?
「それと棺の球は絶対に捕るなよ おそらく誰も捕れない。神原曰く棺は問題ないそうだ」
「問題ないって、1人だけ内野に戻れるルール忘れてるんじゃないのか?アイツに戻られたら誰も当てられないぜ?」
「だが戻るにしてもすぐには戻らないだろうな 残り1〜2人ぐらいになった時になるかもな」
「分かった」
「神原はしばらく戻ってこない。あいつが戻ってくるまでに耐えられるかが正念場だ」
「…何故そんなに神原に期待してるんだ?」
道駅が口を開いた。
「そうだよ。棺をOUTにしたのだって結局は鯖東君じゃん。アイツにそこまでの力があるとは思えないんだけど」
行灯も思ってたことを鯖東に告げる。
「そもそも何で君達は彼と仲良くしてるんだ?喧嘩の仲裁をしてくれたからって言ってるけどそれだけでつるんだりするか?理由は分からないけど本当は喧嘩の仲裁は鯖東がやったけど神原がやったことにしてるんじゃないか?」
松毬は前の件のことすら疑いにかかってる。
割とスムーズに話を進めてたんだけどな。
女子はギャップ萌えと言うのだろうか?そういうので少し盲目的になってたから深く追求してこなかったけどけど男子はそうはいかないか…。
「そうだな。茅愛、説明してくれるか?」
「説明ってあの時のこと言うのかよ!別に本当のこと言わなくったって神原が戻ってくれば終わる話だろ?それに釘を刺されてるだろ俺達!ヤダぜ俺は、またあんな目に遭いたくねーよ!」
「言わないと彼らは納得してくれないだろ。それにこれはチームの士気に関わる問題だ」
アイツはあんな行動をするくらいに本気で勝ちに行ってるんだ。
これで負けたらアイツの努力が水の泡だ。
「ちっ、後でアイツを怒られても知らないぞ。また1週間学校に来れないとかもう嫌だからな。おいお前ら聞け!」
茅愛が中庭でのことを3人に話した。
「…驚いたな」
「嘘だろ…」
「神原が2人を病院送りにするまで殴ったって…冗談だろ!?」
「今のは全て本当の話だ。このことは絶対誰にも他言するなよ。もしバレたら今度はお前らが病院送りになるぞ!」
「「「………」」」
3人は沈黙してる。ちょっと脅しが強過ぎたか?
5組は気合を入れてるのか円陣を組んで何か話している。作戦会議か?
「…分かった。けどまだ神原のことを信じたわけじゃない。アイツが戻ってくるまでは何とかする?それでいいな2人とも?」
コクリと2人は頷く。
「…この試合勝てなかったらお前らの話は嘘と判断する。他言はしないが俺達はアイツを認めない」
「あぁ、それでいいよ。そのためには俺らが1人でも内野にいなきゃいけないがな」
「イッチャン、それ責任重大だぜ!燃えてきたなーお前ら?」
「…そうだな 結局俺らが頑張らないといけないらしいしな」
「絶対に当たらないぞー!」
「そうだな」
3人とも半信半疑だが納得してくれたようだ。
ようやく6組が1つにまとまった。
さぁ、続きをやろうか。
♢♢♢
6組も5組と同じ1人狙いの捕球は最小限の戦術を取っている。
普通にやれば泥仕合確実。
ただ一つ違うとすれば……。
ボールは5組の久保井が持っている。
標的の道駅はラインギリギリまで下がっている。
ここから投げても簡単に避けられるだろう。
久保井が冷静に状況を判断している。
それに内野で攻めあぐねても外野にはアイツがいるからな。
「よこせーーー!!!」
もはや怒鳴り声だ。
まだ怒りが収まらないのだろう。
「借りを返せ棺ぃ!」
久保井が棺へパスをする。
受け取った棺がそのままノータイムでボールを投げる。
棺の標的は行灯のようだ。
「わっ、危ねっ!」
行灯がギリギリで躱す。
ボールはそのまま5組内野にまで飛んでいく。
(やっぱり棺は手を追えない。神原は何を考えているんだ?)
鯖東は神原の意図が汲み取れず、棺の球を避けるしかないこの状況を良く思っていなかった。
しかし、次の瞬間神原の言わんとしていたことに気付く。
「ガッ!」
バチっと明らかに人に当たる音がしてボールがあらぬ方向に飛んでいった。
矢継早が棺の球を捕ろうとしたが球がブレているため捕ることが出来なかったようだ。
そのままボールは矢継早の腕を弾き6組の外野の横サイドに転がっていった。
「ラッキー、運が良いぜ」
松草が溢れ球を拾い6組ボールとなった。
(なるほど、野球部の松草でもラグビー部でも無理ってことは棺の球は15人の誰も捕ることが出来ないのか。
もし、棺が内野にいたら例え誰も取れなくても体育館の壁に当たれば威力が下がり5組外野はボールを拾うことが出来る。
けど外野からのボールなら俺らが避ければボールは5組内野に行く。誰も捕れないからボールは6組外野まで行くって寸法か。
アイツめ、ここまで読んであんな体を張った立ち回りをしたってのか。すげぇなやっぱアイツ)
何が凄いってあの球を喰らって怪我してないのが1番不思議だ。松草は腕が腫れたってのに。
距離が離れているだけでは説明がつかない。
一体何をしたんだ…?
「棺!もっと威力を落としてくれ。これじゃ俺らも捕れなくなっちまう」
「ふざけんな!手加減なんてするわけねーだろうが!」
矢継早と棺が言い争ってる。
おそらく手加減して棺が投げたら道駅ならキャッチ出来るかもしれない。
本気で投げても手加減しても6組ボールになるのか
確かに棺は問題なさそうだな。
これならまだ俺達にもチャンスはある!
松草の球は5組が避けたことで6組内野に行く。
それを道駅がキャッチした。
問題は道駅だ。
ちゃんと投げれるのかどうか。
「……」
道駅が無言のまま菜花目掛けて投げる。
「なーんだ、どんな球投げるかと思ったけどさっきの野球部ほどじゃないじゃん」
くそっ、野球部だからって安易に道駅に任せた俺が馬鹿だった。
球は松草のそれよりも遅いものだった。
だが…
バンッ! トーントーン
ボールがバウンドする音が響く。
「へぇ?えっ、何で?」
菜花が狼狽してる。
菜花 OUT
5組の内野組も何が起きたのか分からない様子だ。
それは6組の連中も同じだ。
ただ、松草だけが『オッシャー!』と声を上げている。
「ね、ねぇ〜、道駅君は何をしたの〜?」
麦島が松草に質問をする。
「アイツはな、変化球のキレが半端ないんだよ。手首や肘が他の人よりも柔らかいかららしいけどさ。けどその反面肩が弱いから速球は投げられないけどな。野球部の1年の中で最もレギュラーに近いのが道駅だよ。紅白戦では道駅のあるチームが必ず勝つぐらいだ。打ちづらいんだよアイツの球は」
麦島は『ほへぇ〜』と理解しているのか分からない間抜けな声で返事をする。
「道駅、何をしたんだ?」
鯖東が道駅に問いかける。
「…回転を加えて捕りにくくした…」
「凄いじゃないか!これなら5組にも勝てるぞ!」
「…そうかな///」
道駅が照れている。
普段褒められたりしないのだろう。
「この調子であと1〜2人は倒そう!」
♢♢♢
あれから数分後
5組の残りは新城、久保井、矢継早の3人。
6組は鯖東と茅愛の2人だけだ。
アイツら道駅の球を全く捕ろうとしなくなった。おかげで思うように試合を運べなかった。
避けるという選択肢はドッジボールにおいて重要だ。
相手に多く投げさせて疲れさせるということも出来るからだ。
しかし、そんなことは基本起こらない。
大抵その過程で当たってしまうからだ。
それが長く続いているということは彼らの身体能力が高いことを意味しているのだろう。
「どうした鯖東?かかってこないのかw」
5組の新城友善か鯖東を挑発する。
この試合、まだ鯖東は一投も投げてない。
自分の球威では誰も打ち取れないと分かっているからだ。
内野からの投球は茅愛に頼っている。
だが全部避けられたらジリ貧だ。
棺の方も下半身目掛けて投げることで5組内野に行く頃にはバウンドしてボールを捕りやすくなるように工夫してある。
「そういうお前こそラグビー部に任せっきりじゃねーか。司令塔気取りが楽しいか?」
「ふん、だが有利なのはこっちだ。俺らは棺を戻せば確実に勝てる。お前らは誰を戻しても棺の球は捕れないだろう?」
そう、俺らが勝つにはもう一度棺をOUTにしなければならない。
もうあのやり方は通用しないだろう。
棺も怒りで意識が研ぎ澄まされている。
「さあどうだろうな?神原なら何とかしてくれるかもなw」
「彼か…、けど彼はトイレに行ってるんだろう?彼が戻ってくる前に終わらせてやるよ。お前はまた負けるんだよ」
♢♢♢
中庭での喧嘩の後に遡る。
鯖東は中庭の件で1週間ぶりに学校に行き放課後部活に行った……。
館舟高校のサッカー部の実力は高くない。そのため上手い選手は1年生でもレギュラーになれるのだ。
俺と新城は1年の中で1.2を争う選手だった。
けど1週間休んだせいで俺が行った時には新城がレギュラーに選ばれていた。
どうやら俺が新城から逃げたと思われているらしい。新城がそういう風に流したんだろう。
「あれっ?来たんだ 臆病者君w」
後ろで同じ1年がクスクス笑っている。俺がレギュラー候補であったから同年代からはあまり好かれていなかった。
「ふーん、じゃあこれからその臆病者にボッコボコにされるお前は何なの?負け犬?」
「はっ?何言ってんのお前?お前が俺より上手いわけないだろ?」
「こっちはあの2人と違って入院してないんだよ。その間何をして時間を潰してたと思う?」
鯖東が不敵に笑う。
その後の展開は大したことない。
新城を始めとする1年全員をサッカーでフェアプレーで叩き潰しただけだ。
先輩や監督も何事かと俺に詰め寄ったが一連のことを説明するとさっきのが嘘のように俺を持て囃した。
しかしレギュラーメンバーは既に保護者や大会本部などに通達しているため今更変更は出来ないらしい。俺はベンチメンバーにすら選ばれなかった。これも新城がそうさせたみたいだ。
なので新城がレギュラーなのは変えられないそうだ。
3年生にとっては最後の大会だ。
ベストのメンバーで試合に臨みたかったのだろう。
その時の監督達は本当に悔しそうにしていた。
「新城、試合頑張れよ 俺はのんびり眺めてるからさ」
俺が最大限に煽りを入れる。
「……」
新城は何も答えない。
その後の最後の大会は俺不在で行われた。
ベンチのメンバーは明らかに鯖東よりレベルの低い選手で構成されていた。俺は観客席から声出しをしていた。
元々そんなに強くない高校だ。
結果は1回戦敗退。
特に新城がミスを連発して2失点を記録した。
新城は先輩、OB、監督から相当に叱られたそうだ。
そもそもレギュラーを決める時に監督達は鯖東を推していたが新城が有る事無い事言って自分をレギュラーに仕立て上げたことも問題視された。
そして鯖東も詳しい事情を知らないOBにお前のせいで負けたのだと言われのないことを言われた。
新城は責任を取って退部……、とはならず現在も所属している。
ただ2年生や監督から目を付けられておりレギュラー入りはほぼ不可能だろう。
他の1年生達は全員沈んだ顔で部活に勤しんでいる。それでも続けているのはサッカーが好きな証だろう。だったら小細工せずに来て欲しかった。
鯖東はレギュラーが確定しており2年生達に良くしてもらってる。
1年生達が恨めしそうに鯖東を見ていた。
♢♢♢
「くだらん事をするからレギュラーから外されるんだよ。結果的に負けたのはお前だろ負け犬君w?」
当時のことを思い出しながら新城に告げる。
「うるせえ!お前さえいなきゃ俺は今もレギュラーとして試合に出れてたんだ。お前のせいだ」
「自分の非を認めれない奴は出世出来ないよ。お前に実力がなかっただけだろ?確かに俺はドッジボールだと使い物にならないが優秀な仲間がいる」
鯖東は確信している。
この劣勢を神原ならなんとかしてくれると…
「さっちゃん、神原君はやめた方がいいって」
「そうだよ。さっきの見たでしょ?絶対ヤバイ奴だって」
友達2人が伊武を説得している。
先程の神原の大立ち回りを見てのことだろう。
事情を知ってる6組の内野陣は神原の行動が棺を潰すためのパフォーマンスというのを分かっているが知らない者は神原の本性が現れたと思っているのだろう。
「うん…大丈夫だから」
伊武は沈んだ声で答える。
彼女も本当のことを知らない。
けど彼女は自分の気持ちを明確にした。
(あんな一面があるなんて知らなかったけど、それでも、私は奈津緒君が好き)
この試合が終わったら告白しようと伊武は決めた。
目の前の2人には言えない。
言ったら全力で引き留めようとするからだ。
(私の決断は私が決める。誰にも邪魔されたくない)
自分の決断を心に留め彼女は神原の帰りを待っている。
次回 ドッジボール対決決着!!!