第58話 鬼束の捜索⑤
昼飯を食べ神坂達一行は、鬼束の情報を探るために神坂の在籍校である幌谷中学校を訪れていた。
「校門まではあるけど中に入ったことはなかったな」
「あぁ、あの時か」
1学期の終業式の日、遊びたい気持ちが抑えきれずに俺に会いに来たんだったな。よくよく考えるとその行動がなかったら実録にやられてたって考えると月城の真っ直ぐさには救われたことになるな。
「枝野よりは綺麗な校舎だな」
臼木も自身が通う枝野中学校のそれと比較する。
「うちは吹奏楽が強いからさ、テレビ局の取材やインタビューが定期的に来るんだよ。そん時にみすぼらしい校舎を見せるのはイメージ的にも良くないからって理由で校舎を新しくしたらしいぜ。つっても外側だけな。中はさほど変わってない。だからギャップがなー、でかい」
外から見ると最新の出来立てと思ってしまうが校内に入ると木が至る所に目立つ。白基調の最新感は見当たらない。強いて新しくなったのはトイレぐらいか。来賓が使う場所だけは綺麗にしたらしい。トイレの綺麗汚いでその場所の価値が決まると誰かが語っていた。それを言った者は飲食の関係者だった。
『トイレは何も生産性がない。だからトイレにお金をかけられる店・会社は良い場所だ』、という考え方だ。神坂はその話を聞いて妙に納得した。確かにドゥンキ・ホティのようなゴチャゴチャとした店はトイレが汚かったような気がする。逆に古くから創業している店は店内はレトロを感じさせるがトイレだけはウォシュレット、温かい便座、レバーじゃなくボタンの水流とポットンや和式ではなかった。それが全ての指標ではないが、ビッグマック指数のような一種の基準にはなっているだろう。トイレも大事だが全教室にエアコンを配備して欲しかった、というのが全校生徒の心の叫びだが。
正面玄関から建物の中に入る。外側は綺麗だったがいざ入ると中は枝野中と大差はないと2人は思った。
「一応来賓だからそこの入館証と記入はしとけな」
入って正面に長机が一つ置いてある。そこにはバインダーと隣には箱があって首からぶら下げるタイプの名札がごちゃーっと置いてあった。
「ふゆー、団体名って何書けば良いんだー?」
「あー、確か学生は通ってる学校を書けばいいはず、あと最後に名札のナンバーを書く欄があるから忘れずにな」
2人は言われた通りに団体名は『枝野中学校』と記入する。正直アポ無しで学校を訪れるのはOBOGくらいで企業は事前に来ることを連絡しているのだからこの記入はあまり意味をなさないような気がする。形式だのというウザったい仕組みがそうさせているのか。
「せっかく寄ったついでだ。終わったら学校を案内してやるよ」
珍しいもんはないけどな、と付け加える。微々たる違いに感心してくれればいいだろう。
3人は職員室と書かれた場所に着いた。
「雪兎君が懇意にしている先生は今日はいるの?」
懇意って……。根井とは別に親しくはないんだけどな。何かと絡むことが多いだけだ。
「平日はいるって言ってたからおそらくは…」
ガラガラガラと職員室の扉を開ける。
「失礼します。2年4組の神坂雪兎です。根井先生はいらっしゃいますか?」
その声に反応して近くの先生が神坂を見る。
「おぉ、神坂ー。どうしたー?」
それを皮切りに次々と神坂に声を掛ける先生が増え出した。害意はなく親しみの声しかしない。
それを後ろで見ていた月城と臼木。
「どうやったら不良生徒がここまでの信頼を集めるんだよ」
俺らとは真逆じゃん、と月城がぼやいていたが臼木もここまで肯定的とは思わなかった。神坂の話が嘘だとは思っていなかったが神坂に柔和な教師は過半数もおらず、教育委員会がプッシュするからしぶしぶ受け入れているものだと思っていた。
しかしこれはどうだ?みんながこちらを、正確には神坂の方を見ている。神坂が死角になって自分達は見えていないのも影響しているのか。とにかく神坂を悪く見ている教師は誰一人いなかった。
「どうした神坂、わざわざ夏休みに学校なんて」
少し離れた席から男が立ち上がり神坂の元へと歩み寄る。
男の名前は根井幸耶。幌谷中学校の生徒指導兼体育教師であり、神坂雪兎に関する全てを任されている言わば対神坂のネゴシエーターだ。
「ちょっと込み入った話でして…。人目の付かない場所で話したいのですが…」
神坂が後ろに目線を送る。根井が神坂の背後を見ると、教師の間では知らない者はいないかつての東京最強である臼木涼祢がいた。確かにこれほどのビッグネームを職員室に招き入れたら面倒なことになる。そもそもまだ気付かれていないのが不思議だ。昼の14時で職員室でパソコンをカタカタしているか部活動で指導している教師だけなので今職員室を出入りする者がいないことが理由だろう。敢えてこの時間にしたのかと根井は疑問に思う。
「分かった。なら先にここに行っといてくれ」
根井は扉の隣にある鍵置き場から体育準備室と書かれた鍵をフックから外し、神坂に渡す。
この鍵置き場には各教室の鍵だけでなく移動教室先の鍵などが一括で置いてある。クラスで最初に教室に着いた生徒が職員室まで鍵を取りに行って教室を開錠するという決まりだ。
「分かりました」
神坂は鍵を受け取ると『行くぞ』と後ろにいた2人に指示して移動する。
「誰かいたんですか?」と臼木達の姿が見えていなかった他の教師に同じ4組の生徒ですと言ってこれ以上の干渉を防ぐ。ネゴシエーターとして一任されているため神坂と根井の関係性に疑問を持つ者はいない。神坂は特別だからなと納得しているので引き下がってくれた。
周りに誰もいないのを確認してから根井は体育準備室のドアを開ける。中にはバスケットボールでパス回しをしている3人がいた。
「遅かったじゃん先生」
職員室だったら『遅かったですね先生』と言っていただろう。言葉遣いを咎める者がいないから普段LINEで話すようなラフな話し方になっている。根井も言葉遣いにとやかく言わない。初対面でタメ口を聞いておいて今更…と思っている。ただ、神坂にマナーや礼儀を教える時は言葉遣いに注意してるし教わっている間は神坂も線引きのために敬語で話す。タメ口の奴に教えたくもないし教わっても身に入らないからだ。
「あの場で職員室を抜け出すのはむずいんだよ。コンビニとか理由を付けて抜け出したんだ。それで、その連れの連中はどうしたんだ?」
「あー、まずは紹介しないとな。デカいのは知ってるだろうけど金髪の方は知らないでしょう?」
ほら、と挨拶するように促す。
「枝野中の臼木涼祢です。初めまして」
「同じく枝野中の月城泰二だ。よろしく」
夜香の時は注意したが先生には特に何も言わなかった。何より神坂があの口調だから月城だけ言うのも変だと臼木は思った。
「生徒指導の根井幸耶だ。お前らが臼木と月城か。月城の顔を見るのは初めてだな」
「ふゆに聞いたのか?」
「ネットで噂になってるぞ。新旧の東京最強に唯一肩を並べる男だってな。立場上神坂のアンテナを張ってないといけなくてな。お前らの話はよく耳にするよ」
あぁ、医者が言ってた…と月城は心の中で思った。口に出さなかったのは医者がヤブ医者でそこを突かれると面倒になると直感したからだ。
「良い友達が出来たな、神坂」
神坂の頭をワシャワシャと弄る神坂。止めろよと腕を払い除けるが嫌がっているようには見えない。なんだかんだで最初から協力的な根井にはある程度の気を許していたのだ。生徒と教師がSNSを交換していることからもそれは伺える。
「で、わざわざ夏休みに誰にも聞かれないように俺を呼んだってことは、なんだ、お前の言う巻き込まれ問題か?」
初対面時に神坂がp.s.程度に言っていた『巻き込まれた場合は不問にする』ことを指している。
「巻き込まれと言えば巻き込まれだけど、先生に電話で確認を取ってもらいたいんだよ」
神坂は房総から貰った実録の写真を根井に見せる。
「なるほどな、それでこの写真の男を探していると。災難だったな。東京最強の肩書きも面倒だな」
「もう慣れたよ。それで、電話で聞くことって出来るんすか?」
「出来るだろうな。うちの生徒と問題を起こした、警察に相談しようと思うが出来れば穏便に済ませたい。彼の居場所に心当たりがあれば教えて欲しい。とでも言えばいいだろう」
「脅しみてーだな」
根井の文言を聞いて月城が呟く。
「こっちも切羽詰まってるんだ。これぐらいしなきゃ進展しない」
臼木が説明する。
「まぁそうだよな、仕掛けたのは向こうだしな」
「じゃあその方向でお願いしてもいいですか?」
「あぁ、今から職員室に戻って電話してみる。10〜15分ぐらい経ったらまたここに来るからその間好きにしてていいぞ。ただ、あまり人目に触れる場所、部活中の場所とかは行くなよ。お前はともかく臼木の顔と名前は学生の間じゃ周知なんだから」
「「「はーい」」」
仲良いなお前ら!と言って根井は体育準備室を出て行った。
「なんか見たい場所ってあるか?」
「体育館もグラウンドもダメだからなー、じゃあふゆのクラスに行きたい」
「俺のクラスっつっても何もない普通のだぜ?」
「えぇー、そこしか思いつかねーよ」
何もないなら人もいないか。勉強するなら図書室だよな。
「まあいいんじゃねーの」
時間があって人目に触れても良かったら月城のリクエストに答えてバスケでもやりたかったが…、強制平等を使って撹乱とか面白そうだ。
♢♢♢
「あれ?雪兎君、どうしたの?」
「成瀬、なんでお前ここにいんだよ」
神坂の教室、2年4組に着いた神坂達。誰もいないと思って中に入ると、そこには神坂が唯一と言っていいほど気軽に話せる女子である成瀬舞がいた。彼女は神坂のファンクラブから神坂に悪い虫が付かないようにする露払いの任を受けていてその一環で女子の中で唯一神坂と気軽に話すことが出来る。しかし彼女は神坂に惚れていて立場を利用してより親密になりたいと考えている。
「私ほら、学級委員長だから教室の掃除を任されてるの、今はひと段落したから夏休みの宿題をしてたの」
学級委員は週に1回、教室を掃除するという決まりがある。流石に教室丸ごとを1人では出来ないので机を拭いて、床を軽く掃くぐらいだ。1ヶ月誰も使わなくても汚れは溜まるので誰かがこうして掃除しなければならないのだ。社会奉仕の一環と言ってはいるが要は教師の面倒ごとを押し付けられているだけである。しかし学級委員を志願する人はそんなことを気にせずにテキパキ取り組んでいる。成瀬も同じである。
「委員長特権のやつか、お疲れ様」
特権と言うより枷に近いな。
「ありがと、好きでやってるから苦じゃないよ。結構内申貰えるからね。ところで後ろの2人は?ウチの学校にそんな人いたっけ?」
神坂の後ろにいた2人に気付いた成瀬。人目に触れるなと根井に言われはしたが成瀬ぐらいだったら大丈夫だろうと思い2人を紹介することにした。
「成瀬、この金髪は月城泰二、このデカイのは臼木涼祢。俺の友達だ。そんでこの子は成瀬舞。俺のクラスの学級委員長をしてる」
「「はじめまして」」
「は、初めまして。……ん?臼木って…、あの臼木涼祢?高校生半殺しの?」
「あぁ、そういや臼木ってそんな名前で呼ばれてたっけな」
「……昔の話だ」
臼木は呟くように言う。臼木はこの異名をあまり好まない。背景が背景だからだ。
「それで、何で雪兎君達はここに?そもそも、何で学校に?勉強?」
「いや、宿題はもう終わった。ちょっと先生に用があったから来ただけだ。すぐに帰るよ」
え"?っという長い声が成瀬から漏れた。「もう終わるとか早過ぎ…」と小さく言ってしまうが神坂に聞こえることはなかった。
「あぁ、そうなんだ。何か分かんないけど頑張ってね」
「お、おう」
何を?とは思ったが成瀬もよく分かっていなかったので聞かなかった。会話を終わらせる定型表現と捉えた。
成瀬も掃除が終わったから帰り支度をする。
成瀬の後ろ姿を眺めてると、あることを思い出した。
「あっ、おい成瀬。デートの件だけどいつにする?」
ズガン!!と何かがぶつかった音が鳴る。
「っつーーー」と成瀬がその場で屈む。腰が思い切り机にぶつかってしまったようだ。
机が10数センチ斜めにズレている。
「おい、成瀬大丈夫か。不注意なんて珍しい」
「だ、誰のせいで……」という声は聞こえていない。月城と臼木は『あー』と何かを察したようだ。
「デ、デートって…覚えててくれたの?」
「そりゃ約束したからな。約束は守るぞ俺は。というより連絡するって言ってから全然音沙汰ないからこっちが心配したよ」
「え、あ、いや、ちょっと(心の)準備が…」
「準備って…ショートメールってそんな手間かかるっけ?」
成瀬の言う準備というのはいつもは周りの目があって親密に話せない神坂とようやく誰にも見られることなく話せるようになったがいざ話すとなると何を話したらいいか分からなくてずっとメッセージを送れなかったのだ。この2週間近く悩むとは、乙女だなぁ。
「せっかく会えたんだ。丁度いいや。3週間後にどっか行こうや。これからちょっとゴタゴタして会えないから3週間経っちゃうけど、それでも平気か?」
屈んだ成瀬を心配してそばまで駆け寄っていた神坂。自身も屈むことになり2人の距離はかなり近くなっていた。
(ギャーーーーーーーーーーー!!近い近い近い近い。どうしよすぐそばに雪兎君がーーーーー、あーーーーー)
テンパってしまって返事なんて出来そうにない。顔は赤くなり漫画のようなグルグルの目をしてしまっている。
「だ、らいりょーぶらよ(だいじょうぶだよ)。やよしみにひへるね(たのしみにしてるね)」
「そうか、行き先はどうする?」
日程を決めるだけでもショート寸前の成瀬、ここからさらに時間がかかる行き先を決めるなんてことは体が耐えられるわけもなく、
「ふ、雪兎君の申すがままにぃーーーー」
と言って駆け足で教室を出て行った。
ちなみに成瀬が机に思い切りぶつかってしまったのは神坂が自分と遊びに行くのをデートと認識してたことが嬉しくて意識がトリップしてしまったからである。
「どうしたんだ一体?」
無自覚少年は自分が原因だとはつゆも思っていない。
月城は『幌谷の白ウサギはイケメン不良成績優秀だけでなく女たらし属性もあるのか』とアホなことを考えていた。
臼木は『玉梓組の娘さんとのお出かけをデートと言われたからクラスの女子とのお出かけもデートだと思うよな。無意識に2人を手に掛けるとは…』と冷静に思っていた。
♢♢♢
そこからは何もなく、教室は本当にただの教室でしかも成瀬が掃除したばかりだったので汚すのは憚れたため体育準備室に戻ることにした。途中でグラウンドが見える場所に行って狭いグラウンドの中頑張っている野球部と陸上部を眺めて戻った。
戻ると既に根井が待っていた。まだ10分ちょいしか経ってないがどうやらスムーズに進んだようだ。
「お待たせしました」
「あぁ、なんかあっさりだったぞ。もっと駆け引きみたいなことをするかと思ったが。だがあまり貴重な意見は聞けなかったよ。何しろ行方不明だそうだ」
「それって、卒業したからってことでしょ?」
「いや、本当に分からないらしいんだ。聞いた話ではその鬼束が高校に進学してすぐにご両親が事故で亡くなったらしい」
おいおい、一気に話がややこしくなって来たな。
「ご両親が亡くなってからすぐに学校を辞めてそこからの消息が分からないらしい。ってか鬼束実録は三つ子だったんだな」
「あぁ、俺も最初は驚いたよ。元々住んでた家とかは聞いてないですか?」
「引っ越してるらしい。今は違う家庭がその家には住んでる」
学校関係者も知らないのか。いよいよ手詰まりか…
「高校については聞いてますか?」
「八王子市にある八王子体育大学附属高校のスポーツ特進科に進んだらしい。3人ともな」
八王子…地味に遠いな。くそ、ここで全て分かると思ったが、進学してすぐに辞めたなら仲の良い友人とかもいなそうだな。第一、5年も前のことだから覚えてる人がいるかどうか…
「どうする?高校の方にも聞いてみるか?」
「……いや、大丈夫です。おそらく知らないだろうから」
「そうか、なら俺はもう職員室に戻るな。また何か必要があったら学校に連絡してくれ。ラインでもこの際構わんから」
そう言って根井は体育準備室を後にした。
「ふゆ、どうする?大人の手を借りても知ってる人がいないんじゃどうしようもないぜ」
「あぁ、くそ、雲を掴むようとはこのことだな。消息不明じゃ聞き込みの範囲も絞れない」
とりあえず出るぞ、と言って学校の外へ出る。出るまでの間に考える。
(学校を辞めてどこに行く。両親がいないんなら零とか言う実録達の兄貴に頼るしかない。だが引っ越したとなると零の消息も分からない。見た感じ20代前半っぽかったからその5年前は大学生か高校生、どっちも親の援助が必要な年頃だ。しかも4人兄弟だ。収入源がなくなったら今まで通りに住むことは出来ないだろう。親戚を頼ろうにもいきなり4人もの食い扶持を得るのは厳しい。じゃあどこへ行くんだ?日雇いで凌ぐか。日雇いってやったことないが家がなくても出来るのか?いや、そもそもどこで生活する。家無し……、ホームレス生活か。高校生になってホームレスは笑えないな)
学校の外へ出た。
神坂は出るまでに考えたことを2人に伝える。
「ホームレスか、可能性はあるな。だが家無しの所在を探すったってどうする?範囲はむしろ都内とは限らなくなるぞ」
「そうだぜ、ホームレスが居そうな河川敷や高架下なんて都内にどんだけあるか分からんぜ。神奈川や千葉埼玉も含めたらいよいよ3人じゃ足らんよ。2週間以内は厳しいんじゃないのか?」
2週間、予想以上の難題に直面したな。夜香さんとの約束を果たさないのは絶対にあってはならない。死が伴うからってのもあるが約束を破るちいせぇ男にはなりたくないから。
「まずは都内だ。頑張って東京の外に出る必要はないからな」
外に出るだけの機動力もないだろう。わぞわざ遠くに行ったところで身バレなんてものを気にする必要はない。バレてそっち側の路線に乗ったっていい。仕事を探すなら東京の方が求人は圧倒的に多いだろうしな。
「家無しで日雇いが出来るハロワみたいな施設が近くにあるところが怪しいな。繁華街が近い場所も拾い物が役に立つかも。今言った条件だとだいぶ絞れないか?」
「繁華街ってだけで主要駅に絞れそうだな。職安所もってなるともう少し絞れるかも」
「ホームレス相手なら制服とか頭髪とか気にしなくていいかもなー」
「そうだな。聞き込みはしやすいな。じゃあ今言った場所からリストを作って送るわ。今日はもう解散だ」
「えっ?もう15時に近いけど1.2箇所ぐらいなら今日中にでも回れるんじゃねーの?」
まさかの終了宣言に納得のいかない月城。
しかし神坂は普通に言葉を返す。だが少し真剣にだ。
「お前ら、あんまり寝てないんだろ?朝も言ったが顔がヤバいぞ。今日はもうゆっくり休め。ここでリタイアされる方が俺にとっては困る」
「けどよぉ」
食らいつく。疲労がピークに達しているのは自分でも分かっている。口数がなかったのがその証拠だ。臼木は元々無口だから分からないが勉強なんて慣れないことを徹夜して明朝までしていたのだ。これで元気100倍!なんて言われる方が逆に怖い。正直視界がボヤボヤしている。騙し騙しでやってきたが改めて指摘されるともう真っ直ぐ歩くことすら難しいかもしれない。酔っ払いの千鳥足で蛇行歩行をしかねない。
「写真のコピーはすぐ終わるがリストアップに時間がかかるんだよ。効率よく3人分に量を分けなきゃいけないし、明日だ。明日やろう。明後日は俺に予定があるから出来んけど明日と来週以降やっていけば何とかなる。今日はついてきてくれて嬉しかった。ありがとう」
「月城、今日は休むぞ。俺も正直辛い。ここから家に帰るだけでもキツイのにさらに捜索は出来ん。眠いから見落とすかもしれないし、万全の状態で探すことにしよう」
同じ状態で自分よりタフな臼木が無理と言っているのだ。ここで俺は平気だとは言えない。強がりに見えてしまう。月城ももうすぐに横になりたいという欲求が頭の中を多く占め始めていた。
「…分かったよ。明日な。ふゆ、明日の朝までにリストとやらを送ってくれ。出来れば行く順番も載せてくれると助かる。俺だと無駄に回り道しそうだから」
「分かった。じゃあ帰るぞ。くたばんじゃねーぞ!」
「平気だ」「上等だーーー」
こうして3人は帰路に着いた。
彼らの本格的な捜索は明日からだ。
♢♢♢
神原達は電車に乗って南武線尻手駅に到着した。ここから日本3on3バスケ協会までは徒歩10分もかからない。
「着いた〜。川崎〜」
元気もりもり麦島迅疾は食後で気分が高まっていた。
そのノリについていけない神原奈津緒は麦島のテンションをスルーして、地図アプリで目的地までのルートを検索していた。
神坂雪兎
能力名:強制平等
能力詳細:状態をリンクさせる
月城泰二
能力なし
臼木涼祢
能力なし
神原奈津緒
能力名:自己暗示
能力詳細:自身に都合の悪い暗示をかける
麦島迅疾
能力名:不明
能力詳細:不明
8月3日の神坂サイドも動きは終了です
あとは神原サイドだけですね
オフ会動画の投稿もありますね
8月3日だけで滅茶苦茶ゆっくりだから第4章は大長編になること間違いなし
ちなみに現在の3人の進捗
神原
千駄木第二中学校に行ったが手掛かりなし、現在鬼束兄弟がしていた3on3バスケの方面で調べるために尻手にある日本3on3バスケ協会を目指す
神岐
鬼束達が住む家の住所をゲット済み
神坂
鬼束実録の顔写真を入手、根井を使って千駄木第二中学校にコンタクトを取るが居場所の情報はなし
ホームレスの可能性があるためホームレスが居そうな場所を探すところ
進み具合だと神岐>神坂>神原、ってところかな
神原がどこまで近づけるか見ものですね




