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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
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第57話 鬼束の捜索④

「それじゃあ、白ウサギ君は後ろの2人と共に警護として夜香(よるか)の外出に同行すると、そう言いたいのかい」

 40代らしいが若い。30代前半と言われても納得してしまう容姿をした男、玉梓夜吉は神坂に尋ねる。

「夜香さんのフラストレーションは高まっています。どこかで爆発して家出でもされて抗争相手に拐われでもしたら最悪かと。ならば適度に気持ちのガス抜きが必要かと思います」

 神坂も言葉を返す。ビビってはいけない。ビビる相手の話に耳を傾ける奴、それも力がモノを言う世界の人間に臆してたらそれで見切りを付けられる。

 交渉の場、ハッタリや誇張の応酬。如何に出し抜き、利を手に入れるか。宥め、騙し、説得する。

 簡単なことではない。ビジネスグレードで言えば営業職。相手を知り、持ち上げて、その気にさせる提案をする、売り込みをする。コンサルタントも近いだろうか。

 社会は交渉の連続だ。


「…一理あるな。君らの話は先生や若い衆から細かく聞いた。この前の時は正直盛ってると思ってたよ。だが今の君の態度、そして後ろ2人の君への信頼を見れば本当なのだろうな」

 そりゃそうだな。こんな線の細い男が巨漢で東京最強と言われていた臼木を倒せるわけないもんな。

「いいだろう。夜香の警護を君達3人に任せようじゃないか。ただし、もし夜香に何かあったら、お前ら、普通に死ねると思うなよ」

 子を思う気持ちは絶大だ。血の繋がりってのは一生もんだからな。ドスの効いた強い言葉だった。失敗即死亡。やっぱり崖っぷちを楽しんでる節があるな、俺。

「この命に替えて、娘さんをお守りいたします」

 神坂が立て膝をつくように座って頭を下げる。後ろの2人もそれに倣って同じ行動を取る。

 先生はほっとしたように胸を撫で下ろす。その隣にいた玉梓夜香は『やったー』と自身の外出が認められて喜んでいる。その様子を見た夜吉は認めて良かったと安心する。最近はそのことで親子の仲が険悪になっていた。神坂の言う通りガス抜きは必要だと夜香を見て改めて感じた。

「夜香さん、出かけるってのはいつの予定なんですか。申し訳ないですがただいま人探しをしていまして」

「そうなんですねぇ。大丈夫ですよぉ。8月中であればいつでもOKですぅ」

「じゃあ2週間後はどうだ?それまでに獅岸(しきし)組の連中をなるだけねじ伏せとくよ」

「ありがとうございます。こちらもそれまでに終わらせておきます」

 リミットは2週間。短くはないが長くもない。この間に見つけることが出来るのか。課題を終わらせておいて良かったとつくづく思う。月城達も終わってるから人手は3人。1人だと行動に限界があるが3人いればより広範囲で捜索が出来る。


「では私達はこれで失礼します。先生、写真ありがとうございました」

 もう一度頭を下げる。

「こちらこそお嬢の件ありがとう。頑張りたまえ」

 そうして神坂達は玉梓組の事務所を後にした。



「先生。白ウサギ達は誰を探してるんだ?」

 夜吉が先生に尋ねる。取引の話は先に医者、名前は房総(ぼうそう)浩二(こうじ)、彼から大まかに聞いている。写真の提供と引き換えに夜香の警護を引き受けると。釣り合ってないと夜吉は率直に思った。向こうが損をしているというよりはこちらが全く損をしていないというところか。娘に下心で近付いてはいない。それは以前会った時に分かった。

 娘可愛さなどなくても夜香は自慢の娘だ。欠点は暴力団の血縁者というところだけで才女と呼んで相応しい素養も品格も備わっていた。連れの金髪や巨漢の男も見惚れてしまっていた。なのに白ウサギは全く反応を見せなかった。まるで普段から最上級の者に見慣れてしまっていて見劣りするとでも言いたげな。

 邪な思いはない、なのに警護という危険しか付き纏わない仕事を引き受けた。ただの写真一枚のために。そうさせてしまう動機について、夜吉は非常に興味を持っていた。

「鬼束実録という男です。緊急の用で探しているみたいです」

 房総は自身のスマートフォンからデータ化しているカルテを見せる。そのまま見せると文字列で1番見せたいところが分からなくなってしまうから拡大表示して顔がはっきり写るように夜吉に見せた。

「こいつをね……」

 夜吉はこの男がそこまで価値のある男には見えなかった。

「だがあの空き地で白ウサギと戦っていたのはこいつなんだろ?」

「はい、最終的には白ウサギが勝ちましたが相当追い詰められてましたよ。しばらく目を覚ましませんでしたから」

 あの席でも包帯を巻いていた神坂を思い返す。

「先生、弱い集を何人か回す。だからこの男の捜索を手伝ってやってくれねーか」

「組長、しかし白ウサギ君の許可を取る必要が…」

「構うもんか。手伝うという目的だからそう思うんだ。俺らなりの解釈をしよう。この男を見つけないと娘の護衛に人員を回さないから、手伝うではなくあくまで娘のガス抜きのためだって理由だ。彼らも俺らみたいな半端者と密接に関わりたくはないさ。だから彼らに伝えちゃダメだ。頼ませてもダメだしこちらから提案してもダメだ。勝手にやった。それが落とし所だろうよ」

 中学生が何度も暴力団の事務所に出入りしているなどという情報が漏れればその少年達はあらぬ誤解を招くことになるだろう。それが喧嘩最強と言われる男ならなお尾ひれが付く。彼らもそこは避けたいと考えているはずだ。

「だからこそ暴力団組織の血縁者と行動を共にするというリスクを背負ってでも成し遂げたいことがある、この男を探すことには。そしてその行動に敬意を評して伝えるべくもなく捜索すると…。そういう事ですね?」

 そうだ、という答えは帰って来なかった。回りくどい、気難しい女性を相手にしている気分だ。

「夜香、そういうことだ。2週間後に必ず外に出してやる。それまでに宿題でもやってなさい」

 肯定の返事はせず、命令を下す。

「……ガス抜きガス抜きって、女性に対して失礼ではないですかぁ、お父様」

 夜香は不満げありそうに父親を睨み付ける。どうやら彼女の目的の代替語がお気に召さないようだ。

「息抜きをイタズラに言っただけだ。それに最初にそう言ったのは白ウサギだ。文句は彼に言いたまえ」

「まあいいですぅ。これを反故にしたら私は白ウサギさんにヘルプコールを出して玉梓組を店じまいさせてしまうところでしたからぁ」

 これは冗談などではない。血は争えないのか。極道の女という者はどうもこうも強くなってしまう。暴力が?違う。精神的にだ。任侠者の映画やドラマを見ると分かりやすい。作品によっては女性にフォーカスを当てたものもある。力ある者を支える者は強くなくてはならない。ならないというよりそうしないとやっていけない。必須科目である。

 そしてその娘である夜香。中学1年生ながらも必須科目を着々と履修している。清らかな性格に育ったが嘘は付かないという真っ直ぐさも備わった。つまり先程の発言はマジのマジである。この約束をなしにしたら玉梓組は滅びるということだ。

 夜吉も娘の性格は分かっている。死んだ嫁に似たなぁなどと昔は微笑ましかったがあの散々手を焼かされた嫁に似ているということは危惧せねばならない。

「先生、2週間以内に見つけられなければ全員腹を切るつもりでいろと伝えてくれ」

 焦ってしまう。アチャーと額に手を当てたいが房総がいるので躊躇われた。

 房総も先程の診療所でのことがあるので「御意」とノータイムで答える。


 こうして神坂達の知らないところで玉梓組が捜索に協力してくれることになった。


 ♢♢♢


「さて、顔写真は手に入れた。ここから探すわけだが…」

 神坂は一旦状況を整理する。空き地、診療所と情報を手に入れるための行動は終了した。ここからは手探りになる。

「街に出て……っといっても範囲を絞りたいな。3人じゃ限界があるしな」

「絞るってもなー、方言もなかったし着てた服も大量生産品だったしな。しいて探すなら鬼束って名前の付く三つ子ってところか…」

「珍しそうだけどなー三つ子なんて、見つけやすいと思うけどなー」

 月城の言う通りだな。意外性で知られていても不思議じゃないよな。双子でもチヤホヤされるんだから。

「じゃあネットで調べてみるか?」

 臼木が提案する。

 インターネット、一般市民の情報が乗ってるとは思えない。と言いたいが幌谷の白ウサギが掲示板とかに載ってるからなー。いわくつきの人間なら何かしらの情報が載ってるのかもしれない。

「じゃあちょっと調べてみるか」

 スマホの検索エンジンで鬼束実録とフリック入力で打ち込む。漢字はカルテを見たから問題ない。おほらく先生が実録に診断書取るから名前を教えなさいとでも言って喋らせたのだろう。漢字を得られたのもデカい。知らなかったら鬼塚と調べていたからだ。多少の修正は効くだろうが正確でないと出てこない情報がないとも限らないから助かった。


 結果はすんなり出た。予想していた悪いイメージではなく、良いイメージだった。

「3on3バスケか、普通の5人じゃないんだな」

「3人バスケかー。今度俺らもやってみようぜ!」

「落ち着いたらな。それでめぼしい情報はあるか?」

 サイトをくまなく探す。

「千駄木第二中学校に通ってたことぐらいしかないな。なんせ5年前の記事だからな。追加の記事もないし関東チャンピオンだけど全国大会では負けたみたいだな」

 うーん、もっと有名だったら探しやすかったが関東チャンピオンか、ネームバリューとしてはもう一声欲しかった感はあるな。

「じゃあとりあえずこの中学校に行ってみるのか?」

「行きたいところではあるが……」

 神坂は月城、臼木の両名を見る。そして自分を客観視する。

「話を聞いてくれるとは思えないよなぁ」

 あぁ…と2人からも溢れ出る。

 喧嘩が強いとは言われているが端から見たら学校をサボりがちの不良というレッテルだ。同年代は強さというフィルターがかかって見てくれるが大人は色眼鏡なしで見てくる。不真面目だと断ずるだろう。

 神坂が幌谷中でサボりが認められているのも問題行動を起こさず学校の命令に従っているからなんとか成り立っている。生徒指導の根井の物わかりが良かったのは幸いだろう。そうでなければ認められるわけがない。

「地毛って言って本当だと証明しても訝しい目で見てくるだろうしな。お前の金髪も、臼木は何故か顔が広く知られてるし」

 半年近く前までは東京最強を2年近く保持していたのだ。むしろ上手く隠せている神坂が凄いのだ。

「どうする?物は試しで行くか?」

「いや、俺らが行くのがダメなんだからここは他の人の手を借りよう」

「借りるって、それだと事情を喋らなくちゃいけねーぞ?」

「大丈夫だ。こう見えても俺は教師からの信頼は厚いんだよ。行くぞ」


 目指すは神坂の通っている中学、足立区立幌谷中学校だ。

神坂(こうさか)雪兎(ふゆと)

能力名:強制平等(イコール)

能力詳細:相手を自分と同じ状態にする


月城泰二(たいし)

能力なし


臼木涼祢(りょうねい)

能力なし


神原達と同じ動きをとりつつありますね

神原達は大した情報は得られませんが神坂達には先生という味方がいるからそこから話が分岐しそうですね

三者三様にするの結構むずいっすね。しかも神坂サイドは基本3人行動だからどのセリフを誰が言ってるのかを分かりやすくするのもだしバランスも考えないといかんから大変やわ


次回も神坂サイドです。神原サイドもちょっとやるかも?

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