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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第4章 消えたヒロイン
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第52話 未だ訪れない夏休み

 7月27日

 東京都港区にある私立京海大学。その講義室の一つに神岐(かみき)義晴(よしはる)はいた。

『試験開始!』

 講義を担当している准教授が声を上げる。

 今は試験中、前期の期末試験が今日から1週間かけて行われるのだ。

 コンディションは、ある程度は…。数日前に鬼束丹愛と超能力対決をした際の傷の痕跡は残っている。怪我が完治していない。それでも数日テスト勉強のために自室とゼミ室の往復だったので完治とはいかずとも回復は出来た。

(はぁ、テストだるぃなぁ。3年になるとより専門的な講義が多いからテスト対策が嫌に面倒いんだよな〜。これが1週間続く……)

 …集中しよう。コンセントレート。英語はただでさえ何書いてるか分からないんだからボーとしてると何も読めなくなる。


 日本人なんだから英語を無理に話す必要はないと思う。グローバル社会、国際競争力のために英語があるのとないのでは大きな違いがあることは分かっているがそこまでして広い世界に繰り出す必要はないのではないか?

 そもそも英語が世界スタンダードになっていることに疑問を持つべきだ。

 第二次世界大戦の戦勝国、世界の経済の中心。基軸通貨がドル。広大な土地と人口、テクノロジー。

 根拠を挙げるなら両手では収まらない。

 じゃあ逆に日本が世界一になれるものはあるのか?

 アニメ、漫画、四季と美しい自然。

 ……………

 ほらな?

 片手で収まっちまった。そんなもんなんだよ日本ってのは。そんな国でも戦前は五大国なんぞと呼ばれていた。昔の国際連盟でも高い地位を築いていた。隣国を併合し太平洋諸島を委任統治していた。大国だった清やロシアとも戦争をして勝ったのだ。

 それが今は先進国の中の後進国だ。不甲斐ない、情けない、恥ずかしい。政治家はクソ、若者は自国の誇りが欠如。少子高齢化、不平等社会。

 あー、汚いところだと両の手じゃ足りないな。

 俺の能力で、『認識誘導(ミスリード)』でどうにか出来ないだろうか?

 昔、動画投稿を始めたてで人助けシリーズをやってた時に物凄く感じた。こんなしょぼいことで悩んだり、争ったりして、


 なんてみっともない…と。


 もっと、大きく出たって良いじゃないか。右翼だなんだと言われるからTwitterで言ったりはしないが、日本が再び世界の中の強国になる必要がある。と考えている。

 今の五大国、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国。この国々を蹴散らして日本が世界の舵を取るべきなんだ。

 復権思想。地に落とされた日本が再び空高くから世界を見下ろしてやる。んでもって日本を世界の中心に位置付けるんだ。


 そして俺にはそれを実現出来るだけの力を持っている。

 これならドクターって奴の話を聞くべきだったか?としっかり話を聞いていればよかったなと思い返す。

 会う手段は…、ある。

 鬼束丹愛の住所。今もそこに住んでいる可能性は0だろう。だが何かしらの痕跡はあるはずだ。まずはそこに行ってみるか。

(こんな忌々しいテストなんざ認識誘導で答えを教えてもらうとか、単位を秀にするとかいくらでも出来るけど、そういうことをしていると必ず弱点として敵に突かれる。だから可能な限りは自分の力でやるべきなんだ。

 …ちょっと猫の手が欲しくなった時ぐらいに使うけどな。俺の思想の実現とか、ドクターのこととかエトセトラ…)

 この間問題には手を付けていない。それこそボーとしていた。だが気持ちの切り替えをバチッと行うことで集中力を引き戻した。

 神岐の奔放とした性格が気持ちの切り替えを容易にした。そういう掴み所のなさが神岐の良さであり、神岐の悪さだ。


 ♢♢♢


 チャンネル登録者は470万人で落ち着いている。まだまだ成長性は高いが長らく動画を更新していないのでこのぐらいだろうと神岐は予想した。

 日本第5位の登録者数にまで上り詰めた。1000人超えるだけで上位1%のユーツーバー界だ。世界的に見ると全然足りないだろうが日本という狭い中だと十分か。だがあれだけ世間を騒がせながら5位というのも面白い。上には上がいるということか…。

「日本一の登録者になって日本復権の足がかりにしてもいいなぁ〜」

 夕飯を食べていた神岐は思わず声に出してしまう。と言っても一人暮らしなので誰も聞いてはいない。自身の思想は親友の竹満にも言ってない。あまり人に言いふらす考え方でもないだろう。認識誘導で動画を見ている470万人に『日本を大好きになれ』と催眠をかけても所詮その程度なのだ。


 認識誘導の欠点。それは一度に多数に能力をかける際に同一の命令しか出せないことだ。

 AにBの命令、CにDの命令を出す時に、一回の会話で『AはBをしろ。CはDをしろ』と催眠をかけることが出来ない。これは認識誘導の催眠が発動条件を満たした者にかかるからだ。意味が分かりにくいと思うので加えて説明するが、発動条件を満たした者というカテゴリーから細分化が出来ないのだ。個人を指すことは勿論、催眠者を2つに分類とかも出来ない。その者という1つでしか成り立たない。

 人ごとに別の命令をする時はその人の数だけ別々に能力発動を行わなければならない。

 そしてそれは動画では実現不可能、なので実際に会わなければならない。

 万能で超能力の中でもチートじみた認識誘導ではあるが、欠点は存在する。

(それでも対面して区切れば別々の命令を下せるわけだから万能であることに変わりはないけどね)


 あー、早くテスト終われー。

 暇過ぎる。テスト、レポート以外にも動画のこと、テレビ局のプレゼンのこと、ドクターのこと。やることが多すぎる。これがあと6日も続くのか…。今すぐ鬼束の家に行きたいがテストを蔑ろにも出来ない。

(退屈しないのは良いことだけど忙しすぎるのも考えものだな)

 神岐は夕飯の唐揚げを口に入れながら自身の働きすぎさに溜息を吐く。

 今日は金曜日か…。明日明後日は休みか。レポートをしようと思ったが息抜きをしたいな。また銭湯を貸し切るか、カラオケ、うーん。

 普通に配信するかな。この前買ったゲームの続きでも配信すればいいよな。6時間ぶっ続けとかでもいいな。配信モンスターになってやる。


 こうして神岐は土日を配信に費やした。

 2日間の総配信時間、驚異の18時間。最後の方は声の出し過ぎでカスカスになっていた。

 去年喉を痛めるまで声を出し過ぎて風邪を引いたという失敗があったがそれでもゲームが佳境で引くに引けなくなった結果18時間も使ってしまった。

 レポート?そんなものはやってない。以前から少しずつ進めていたので白紙ではないがそれでも徹夜しなければ締め切りに間に合わない。

(あー、明日は普通に筆記試験あるのになぁ。まあなんとかなるか!寝よう)

 諦めたわけではない。ただ頑張ることは放棄した。

 しかしなんだかんだで締め切りにも間に合いテストでも眠ったりせずに単位を取ってしまうのだから何とも言えない。締め切りに間に合わず、単位を落とす。どちらかだけでもいい。それなら叱りようがあるが成し遂げてしまうからタチが悪い。

 目の下にクマが浮かんでいるのが唯一か…。

 奈良星や江東には心配されてしまった。

 どうやって家に帰ったのか覚えていない。テストが終わって気付いたら家のベッドにいた。

 あの女の子みたいに瞬間移動かと考えたが机の家に唐揚げのパックがあるので帰りに寄ったのだろう。

 しかし全く覚えていない。切り取られたようにスッポリ抜けている。

 泥酔じゃなんだからと自身と無謀を責める。


 こうして1週間の期末テストは終了した。

 不可を一つも出すことなく、好成績で前期日程は終了した。


 ♢♢♢


 7月27日

 ここはドクター達が潜伏しているアジト、…だった場所だ。


「いつも通り仮面を被って不気味な連中だな」

 今はビルが半壊していて中が外に剥き出しになっている。

「そして、ひさしぶりだな。能登」

 仮面の集団の後ろ、戦の大将のように指揮するために下がっているのは、神原奈津緒を治療した女だった。

「10年ぶりくらいかしらね(なり)君。もう若さがないわね。ワイルドって言うのかしら?」

「そっちこそ若さからかけ離れてるな。今はもうアラフォーか」

「女性に年齢のことを聞くのは今の時代はセクハラよ業君。罰として『超常の扉(アビリティーパス)』を渡して死になさい」

 能登は業君と呼ばれたドクターの腰を指差す。

「生憎だがまだこれを渡すわけには行かない。だが欲しがるってことは、そっちはまだ作れてないみたいだな。末端だった俺にも10年かけて作れたってのに」

 挑発してみたが能登の反応は変わらない。

「あら、なら同期だった私にも作れる道理なのかしら」

「能登、お前は研究者というよりは美季お嬢様の執事だったろうが。お嬢様が機嫌を損ねないように最大限フォローするのがお前の仕事だろ?」

 10年前、研究所をヒーヒー言いながら走り回っていた能登の姿を思い出す。

「えぇそうね。けど優先して能力を貰ったのも事実。治癒活性(フィールフェルト)なんて良い能力もいただいたしね」

「回復能力か、それで奈津緒君を治したわけか…。どういうつもりだ。何故彼を知っている?何故治した?」

 ゴゴゴゴと地面が揺れる。ここは4階だから下層で何か地崩れでもしたか。

「答えて欲しければ私を捕まえてご覧なさいよ。他の研究員から報告は受けてるわ。あなたを捕まえようとするとアクシデントが起こって取り逃すってね。それをもう半年。どういう能力なのかしら?運操作?末端だったあなたが随分と成長したのね」

 仮面の集団がドクターを取り囲むように陣形を変える。

「教える義理はないな。お嬢様一筋だったお前がこうして組織に組してるってことは、お嬢様は生きてるってことで間違いなさそうだな」

 ええそうよ、と能登は笑う。

「お嬢様は随分とあなたを恨んでるそうよ。今すぐにでも復讐したいそうだけど、能力がはっきりしてないあなたと対面するのは少々危険という結論になってね。お嬢様の能力はこちら側の最終兵器(リーサルウェポン)だから」

 ドクターはお嬢様と呼ばれる人の能力を知っているし実際に体感した。銃で撃たれたぐらいと侮ってはいけない。彼女の能力は自在と言うところが何よりも厄介なのだ。さすがは()()()()()()()と言ったところか。

「まぁいいわ。出し惜しみなんてさせない。この軍勢相手にあなたの謎の能力でどこまでいけるかしら」

 囲んでいた仮面の軍勢に殺気が帯びる。やる気だ。

「この男を倒した者には自由を与えるわ。死ぬ気でやりなさい」

 報酬を与えるだけで人のパフォーマンスは格段に上がる。それが嘘であったとしてもだ。

 ボロボロの人間には存在するかも分からない糸であっても縋ってしまうのだ。

「ウォォォォォォォォォォォォ!!!!」

 30人に近い仮面の軍勢が一斉にドクターに襲い掛かる。

 自由ってことは拘束されているのか。薬か能力かは分からないが、交渉の出来る奴は1人もいないな。奈津緒君に目星を付けた理由も分からない。以前は数人規模だったが明らかに増員されたみたいだ。殺せと命令しているがメインの狙いは俺の命よりもこっちの『超常の扉(アビリティーパス)』か。残り回数は先日麦島君に使ってあと4回。スペアを作るには環境が整ってないし時間がなさすぎる。

 下手に交戦するよりも逃げた方が得策だ。俺の位置をどう捕捉してるのかも知りたい。零君達と別行動を取っていて良かった。これも能力の賜物か?警戒しといて正解だった。なんだっていい。今やられるわけにはいかない!俺の復讐をこんなところで終わらせるわけにはいかない。

 しばらく身を隠すことにしよう。奈津緒君達に試練を課しながら隠密行動は骨が折れそうだな)




 最初からクライマックスばりのドクターサイド。

 神原達に敗れてから一体何があったのか?

 それは追々語るとしよう。

神岐サイドって超能力者の知り合いが1人もいないから会話がそもそも成り立たないんだよな。

親衛隊とかテレビ局とか面白い人達はいっぱいいるけどテスト期間中だから連絡を取れないというね

だからドクターサイドを入れてみました。

神原を治療した女が再び登場しました。

ここからどういう展開になるのか楽しみですね

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