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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第3章 神坂雪兎
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第46話 神坂雪兎vs氷鬼②

 ようやく気分が落ち着いた神坂が砂埃を払って立ち上がる。壁を支えにしているあたりがまだ万全ではない証拠だが…。

「お前は次に視界を取り戻そうとするだろう。だからそのチャンスを奪う」

 鬼束はポケットの中から煙玉を取り出し、それを神坂目掛けて投げた。目の見えていない神坂にはこれを避けることは出来ない。そのまま神坂の胸部にダイレクトに当たりそこから大量の煙が噴出した。


「クソが!見えないところからコソコソと!」

「それだけ警戒してるってことさ。君の能力の全容が掴めない以上こちらも慎重になるのさ。何重のトラップもそのためさ。発動条件を抑え込む。能力のない君なんてモヤシだからな」

 モヤシとは言ってくれる。否定材料がないのが悲しいがな。

「ふっ、ここまでするなんて随分とビビってらっしゃるようだな」

「見えすいた挑発だな。目の見えないお前に何が出来る。持ち合わせもないだろう?」

「へっ、それもこれも全部煙玉ありきだろうが!俺の目で捉えられないほどの高速移動をするってわけでもなさそうだしな。お前の姿が見えさえすれば俺は能力でお前を封じれるんだよ」

「だろうな。さっきも言ったが俺の能力は遠距離型の能力には酷く弱い。触れることが条件だし人間にしか使えないからな。だからこそ俺の勝ち筋は能力を潰して近距離戦闘に持っていくしかない。ゴーグルで目がやられてない俺と見えていないお前とでは最早能力なしでも結果は明白だがな」

「だからこそそこさえ突破すれば勝機はあるのさ。氷鬼にかからなければ最低でも動ける。目が見えなくても他の語感を研ぎ澄ませれば…目に頼りきりだから期待は出来んがな」

「そうか、なら……」


 ポンッ

「期待は出来ないな」

 実録の手が再び神坂の肩に置かれる。歩み寄ってくる足音に全く気付かなかった。

(チッ、やっぱ聴力だけじゃどこにいるか分からないか。また動きを止められた。気配でも分かんねーしなぁ。しゃーない、また規則性を見極めるとするかな)

 そして鬼束による殴られ蹴られが始まった。


 ♢♢♢


 神坂と鬼束が図書館を出ていったからすぐ…

「さて……」

 スッと本棚の陰から臼木が顔を出す。

 実は臼木はトイレに行くと言っていながらトイレには向かわず神坂達から見えない場所を彼らの同行を見ていたのだ。

(おにつかみろく…、やはり超能力者だったか。雪華さんを人質に取られたら俺らに協力は仰げないよな。雪兎君自身も望んでないし。尾行は危険か…だが雪兎君だけでどうにか出来るのか…、いや、信じよう。それより俺はどこかにいる月城を探すんだ)

 臼木はどこかにいる月城を探しにその場を動いた。




 鬼束と月城が本を取りに行っている間のこと…


「まぁ待て、もしかしたらもあるからだ。月城が簡単にやられる玉じゃないのはやり合ってるお前が一番分かるだろ。判別法はむしろこのあとだ」

「判別法?」

「こっちのペースに乗せて話をする。さっき頼んだ時に俺じゃなく月城が行っても問題がなかったってことは月城やお前を殺すなりしてから奴主導で会話を運びたかったってことだろ?だったらそれに乗らずこちら側に流れを作る。足のこととかを持ち出してな」

「事が運ばないから再び引き戻そうと向こうから喋り出す…と、本当に関係なかったらどうするんだよ?」

「いいか、この図書館にはエレベーターがない。階段でしか上がれない場所に足に障害のある奴が来るわけあるかよ。正直な話あんな身なりしてる奴が図書館を使うとも思えないしな。何度か来てるならそれこそ司書に頼むかエレベーターがある図書館に行ってるだろ普通。だからアイツは敵で確定だ。図書館でおっ始めてもいいって事はそれが周りにバレない手段を用いるってことだから超能力で確定だ」

「それで超能力者だったとしてどうするんだよ?」

「のらりくらりだな。拒絶してもいいが俺に会おうとして来た目的が知りたい。話し合いぐらいはするつもりだ。戦いになったらその時だ。お前らは上手い事立ち回っててくれ」

「俺達も戦う」


 だが神坂は『だめだ』とNoを提示した。

「危険だ。月城とタイマンでも勝ち目がある奴らだ。お前が月城より上だとしても危険だ。ここからは超能力者のテリトリーだ。お前らが俺を守ってくれてるのは嬉しいが俺だってお前らを危険に晒したくはないんだよ。あいつが戻ってきたら理由を付けて奴と2人きりにさせろ」

「でも、雪兎君っ」

「アイツが1人で戻ってきた時は月城がやられた時だ。お前は月城を助けろ。敵が一人とも限らない」

 冷静に、努めて冷静に神坂は考え判断している。臼木も内心は足手纏いになるかもしれないと分かっている。だが理屈ではなく、気持ち的なところで納得が出来なかった。

「けどもし、俺に何かがあったのなら…」

 神坂が言いたくはない、と言った風に苦々しく口を開く。

「そん時はお前の感情を優先しろ。自己責任だ」

「雪兎君…」

 そう臼木がつぶやくように言うと辺りからカーペットを引きずるような音が聞こえだした。


「戻ってきたぞ、とりあえず月城は任せた」

「…分かった。雪兎君もな」




 先に言っておくと月城は比較的すぐに見つかった。

「おい月城!大丈夫か!」

 月城は地面にうつ伏せで倒れていた。臼木がユサユサと体を揺らしたが反応はない。

(まさか、死んでるんじゃ―――――)

 そう思って月城の首筋に手を当てる。保健体育の授業で脈の測り方を習っていたので生死判断でもたつく事はなかった。

 そして脈を測るとドクッ、ドクッと脈を打つ反応があった。

(とりあえず生きてはいる。確か倒れてる人は頭に衝撃を与えない方がいいんだよな。脳卒中?忘れたけどそれになっていると危険だって聞いた。幸い人気のない時間帯でよかった。まずは月城を移動させないとな)


 臼木は月城の体を安全に運んだ。月城を背負うぐらい造作もないことだったが悪目立ちしてしまうので3人で勉強していた机に運んで授業中に突っ伏して寝るような体勢に調節した。これなら横からの強い衝撃がない限りは倒れる心配がないからだ。


 臼木は受付にいた司書さんに連れが体調不良で休んでいるのでポキャリスエットや冷たい物を買ってくるので寝ているように見えるがそのままにしておいて欲しいと頼んだ。

 司書さんは風邪薬はありますよと言ったのでその場を離れる口実が失われてしまいそうになったが、携帯を持ってない外の風に当たりに行った白い髪の連れにも事情を説明する必要があると言い納得を得た。

 このまま図書館を出て外を探しに行きたいが神坂の言う通り他にも仲間がいた場合動けない月城を1人にしてしまうのはリスキーだと思ったので図書館内をグルグル回って仲間がいないかを確認するローラー作戦を行うことにした。チラッと月城の顔を見た時に顎の辺りにアザがあったのを見て即座にどういう殴られ方をしたのか、同時にこの手の方法で昏倒した場合にどのくらいで意識を覚ますのかも理解していた。おそらく数時間、夜には目を覚ましているだろう。図書館の閉館時間までにギリギリ起きると言ったところだろうか。月城を安全な環境下に置き次第神坂の援護をしよう臼木は計画を立てた。歩き回りながらも今どこかの空き地で戦っているだろう。


(俺らが来たら雪華さんに迷惑がかかる以上3対1でボコボコにするのはダメだな。おにつかって奴が気付かないように立ち回る必要がある。月城をあの短時間で顎をしっかり捉えた攻撃が出来るやつだ。あの狭い空間で戦った。いや、だが月城の声は一切聞こえなかった。相手の能力は何だ?雪兎君のような相手の力を変える能力じゃなさそうだな。comcomのようなタイプの体を強化する能力者か?だが声がない説明にはならない。急所を見つける能力、一撃で仕留める能力、もしくは相手を拘束する能力や、感覚を麻痺させる能力。前2つだと俺でも月城の二の舞になりそうだ。後ろ2つも危ない。盾にされたり操られたりしたら雪兎君の邪魔になる。雪兎君の能力で相手の動きを封じられれば問題ないだろうけど俺らがここにいることを知れる情報網がある奴等だ。何かしらの対策を講じていないとも限らない。やっぱり援護は必要だ。一回きりの不意をついた攻撃手段。敵に隙を作れれば雪兎君なら…)


 何とかするかもしれない。臼木には神坂を信じることしか出来ることがなかった。


 ♢♢♢


 あれから2.3回と氷鬼で動きを止められて身動きが取れない中で攻撃を受け続けてきた。

 流石に痛みで感覚が麻痺しかけてきた。

 貧弱だけどよくもまあ10分以上も耐えられてるよな。

 だが何回もやられたおかげでデータは取れた。


(範囲は30〜50秒、不規則性があるから固定の維持には特殊な条件がある。攻撃回数ではない。呼吸でも喋った文字数でもない。攻撃がゆったりしてるのはもしかして拍動を上げないようにか?心拍数、血圧。だが奴は限界が来ることを分かっていた。つまり奴にはそれを知る術があるってことか。都合よくタイマーがあるわけじゃねーだろうし、そう考えると心拍数とかはなしか。じゃあ奴の条件は一体なんなんだ?)

 未だ神坂は氷鬼の固定時間の法則性を掴めないでいた。


「あー、煙玉も大分減ってきたな」

 神坂は立ち上がることすら難しくなっておりその場で芋虫のように蹲っていた。

「能力なしじゃこんなもんか。ならもういいかな」

 そう言うと実録はポケットからナイフを取り出した。

「見えてるか?アイスピックみたいに細長く加工してある。桐って言ったほうがいいかもな。兄弟全員にそれぞれの能力に合ったナイフが渡されている。零兄はシンプルなもの、市丸兄は全部が銀色に加工されていて丹愛兄は能力で操った際の威力を上げるために少しだけど重く作ってる。俺のは必殺仕事人を意識して作ってもらった。知ってるか?時代劇だけどよ、針を心臓に突き刺すんだ。動きを封じてな。俺の能力で再現可能だろ?」

 知って当然という風に話しやがるが時代劇なんて普通見ないっつの。歴史の教科書でしか昔のことなんか知らねーよ。俺は現代のことすら知らないことが多いんだぞ!…自分で言ってて悲しいな畜生。


 ナイフをクルクルと回しながら近づいて来る実録。

 見えはしないが近づいて来る足音と先ほどの会話で何をされるとか見当が付いた神坂は頭を回転させる。

(煙玉、煙玉さえなければ…、どうにかあのポケットから奪えないものか。だが、それをしている間に能力で固定されたら敵わない。しかも見えない中でポケットを弄って全部の煙玉を一度に使い切るなんてことが出来るのか)

 一歩、一歩と実録との距離が縮まる。

 実録もクルクルと回すのをやめ、ナイフを握りしめる。

(いや、違う!そうじゃないんだ。能力が使えるようになる手段は一つじゃない。そうか、くそっ、見落としてたぜ。俺と奴の差は煙玉を持っていることなんかじゃない。煙玉の中でも移動や攻撃が出来るってことだ!これなら目が見えなくても何とかなるかもしれない。チャンスは一瞬、遅れたら心臓をナイフで一突きでさよなら。早すぎたら固定されて同じくさよなら。俺が一ミリも動けないと思ってるこの状況が最初で最後のチャンスだ!)



 ザザッと砂利の音が上がる。実録は立ち止まる。眼前にはピクリとも動かない神坂雪兎。

 神坂は打撲のアザが至る所に付いていて出血もしている。顔も腫れていてイケメンと言われる面影は見当たらない。全然動かないので既に死んでいるのかとも疑ってしまう。

(能力者は能力なしでは無力だ。無能力者同然のお前が能力者に勝てる道理はない。兄貴達はどうやってるだろうか?丹愛兄は神岐の顔を見ることなく高鬼で倒してるだろうか?市丸兄は何の能力かまったくわからない神原相手にどこまでやれているだろうか?

 まあ戦果報告はアジトに戻ってから聞くことにするかな。

 さよならだ神坂雪兎。何もすることなく死ぬお前のことは雑魚だったと伝えておくよ。死ね!!!)

 実録は大きくナイフを振り上げる。そして、そのナイフを神坂目掛けて振り下ろした―――


 ♢♢♢


(こっちを見る者はいない。奴は単独犯か?…そうだよな。複数で来てるならわざわざあのおにつかって奴が月城とやる必要がないんだ。複数ならそもそも雪兎君に応援を頼むなと脅したりはしないはずだ。最初にあった時も2人以上用意して俺と月城を雪兎君から切り離せばよかったんだ。よって奴は単独犯。これは決まりだ。なら俺がここで立ち止まっている理由はない)


 図書館内を徘徊して仲間がいないことを確認した臼木は神坂の手助けをするために神坂を探し始めた。

(裏手の空き地って言ってたよな。図書館の裏は随分廃れた路地だな。空き地空き地……、あった)

 50メートル先に建物がなく正面に看板が立ててある場所を見つけた。おそらくあそこに神坂はいる。

 早くしないとと思い走って空き地に向かう臼木ではあったが前方10メートル先の雑居ビルからスーツを着た厳つい男達がゾロゾロと出て来た。


「おー、あそこの空き地じゃ煙が上がっとるのは。どこのもんじゃ俺らの目と鼻の先でガス撒き散らしてるのはよォ!」

 男達は足立区を拠点にする暴力団であった。男達は空き地の煙を自分らのシマに茶々を入れる敵勢力だと勘違いして空き地にいるであろう人物を襲撃しようとしていたのだ。

(このまま彼等を行かせたら雪兎君の身が危ない!)



「あん?なんだぁ坊主?」

 男達の前に臼木が立ちはだかる。

「向こうの空き地には行かせない」

「おい、中学生よ。タッパはいいけど俺らが誰か分かってんのか?」

「ヤクザもんだろ?見りゃ分かる。だがここから先には誰にも行かせない。邪魔はさせない」

「おいおい、俺らのナワバリで色々やられて手を引けってのはムシがいいんじゃねーのかガキ!」

「ちょっと待って兄貴!」

 後ろにいたスキンヘッドの男が声を上げる。

「なんだよ物見(ものみ)!」

「そいつの顔、見たことがある。臼木涼祢ですよ」

 見たところ大学生くらいの年齢か。こんな人たちにも知られてるのか…。

「臼木?何だよそいつ」

「4年前、高校生6人を半殺しにした小学生ですよ。去年まで東京最強の男って言われた奴です。大人にすら勝ったことがあるらしいです」

 へぇ、と男がにやりと笑う。

「東京最強か…。おい臼木君とやら、どうやら相当強いようだが、反社勢力とはやり合ったことないだろ?アウトローの力を見せてやるよ。おいお前ら!」

 男が後ろを振り返る。

「最強さんが相手だ。全員で丁重におもてなししてやろうや」

 そう言うと取り巻き達はニヤニヤと笑みを浮かべ、

「いいんすか深谷さん。多勢に無勢で」

「いいんだよ。社会を知らないガキに教育をしてやるのが大人の務めだ。夏休み入って浮かれてるっぽいから緩んだ考え方を引き締め直してやらねーとな!」

「ど、どうやっても知りませんぜ兄貴達。玉潰されるって―――」

「物見、これは男の戦いだ。俺らが因縁付けて絡んだわけじゃない。向こうから俺らに立ち向かってきたんだ。奴は1人で何とか出来ると思ってる。ならこっちも全員で向かうのが筋だ。お前は腕は立つようだがまだ新入りだから俺らの戦い方を見とけ。東京最強の看板を背負って俺らが関東で一番の組に成り上がるんだよ!」

「行くぞお前らァァァァ!!」

 往来の少ない細い道。図書館が面していた通りからだいぶ中に入っているので外に気付かれることはないだろう。

 それが分かっているから彼等は大きな声を出せる。集団で攻めれる。

 臼木は迫り来る暴力団を尻目に空き地の方に目線を向ける。


(今どうなっているのか分からないけど、雪兎君、もうちょっと待っててくれ。こいつらねじ伏せてすぐに駆け付けるから)


「足立連合とやらよりは歯応えがありそうだな!」

 臼木は集団に向かって駆け出し、右腕を振りかぶった。

vs高鬼が長かっただけで元々鬼束兄弟戦は短めの戦闘でしたからね。あまりに短く終わりそうだったので臼木vs暴力団を挟みました

月城君はまだ気絶してますw

次回で決着予定です

…終わるかなぁ?

ドクターサイドもチラッとやりましょうかね

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