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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第3章 神坂雪兎
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第45話 神坂雪兎vs氷鬼①

第3章は争うシーンが多いので他2人に比べて新鮮さがないかもね

けど対超能力者だと話は変わるかもよ

 図書館の裏側にある殺風景な場所。

 この広さならコインパーキングでも作ればそれなりに儲かりそうだ。駅から離れてて目立った商業施設がないここでわざわざ止める必要はないけど。

 しばらく歩いたおかげで大分血の気が引いたな。冷静さを失うのは何事においてもマイナスだ。


 男は先導して歩いていたが目的地に着くとポケットをゴソゴソと弄って何かをしていた。

 見たところ何かを付けているようだ。


「すまないな。じゃあ始めようか」

「…そのサングラスは何だよ」

「戦闘服だと思ってくれていい。とある剣士が手拭いを頭にかけるようなものだ」

 あぁ、と納得してしまった。例えが分かりやすいな。漫画の例えは子供も飲み込みが早い。合わせてくれてるのか?

「にしては随分とデカいな。スポーツ眼鏡っていうんだっけそれ」

「普通は視力の矯正に使われる物だがサングラス用に特注したんだ。骨格を象ったオーダーメイド品だ。フィット感は半端ないよ」

 確かにテレビで見たスキューバダイビングとかでダイバーが装着しているのに似ているな。

「臼木はちょうどいいタイミングで掃けてくれたな。が、トイレから戻ったら月城や君を探しに来るな。ここにいるのがバレるのも時間の問題だな」

「短期決戦ってか。体力がない俺としてもそれはありがたいが。てかもう始まってんのかこれ?」

「あぁ、いいとも」

 随分と余裕だな。監視能力で俺の超能力を見てるならこの状況が既に詰んでいるってことを知っているはずだが。

「君の能力、相手を弱くする能力の発動条件はおそらく相手を見ることだろう。つまり発動の瞬間は相手を視認するわけだ」

「だったら今いつでも能力を使えるってことも分かってんだよな」

「勿論、見てるからね。今すぐに仕掛けてれば良かったものを、君は千載一遇のチャンスを逃したんだ」

 実録はポケットの中から小さな球を取り出した。卓球の球ぐらいの手に収まる大きさだ。

「俺の能力を披露しよう」


 実録は球を思い切り地面に叩き付けた。

 ボールはバウンドせず、叩き付けられた衝撃で中から大量の煙が立ち込めた。

 神坂も突然の煙に驚いたがそれが自分の能力への対策だと気付き一歩引いて全体を眺める。

(煙玉か、目的は目眩しか。対策はちゃんと行ってるみたいだな。シンプルだが超有効)

 最初から能力を使っていれば良かったと確かにそう思う。けど開始のゴングがあると思ってそれは躊躇われた。タイマン勝負と言ったぐらいだから正々堂々の勝負かと思い先手を仕込むを控えた。さらにカウンターの能力を警戒してのことだったが一般人とはいえ決して弱くはない月城を倒すってことは一撃必殺系の能力の可能性もある。どっちの性質も持っていたのなら能力を使わない選択肢はあながち間違ってたとも言えないな。でも…


(臼木や月城は俺に喧嘩で勝てないことが分かってるから去年の冬のアレ以来あいつらとちゃんと戦ってないんだよなぁ。あいつらのせいで挑戦者も来ないし。ゲームやエアホッケーみたいな暴力の外側の勝負ならしょっちゅうやってるけど。だからイマイチ俺の能力がどんなもんかが分からなかったが、良い敵が現れたな。しかもこっちの手の内を知っていてそれの対策を行っている。相手にとって不足はない。自衛のためではなく、攻撃のためにこの能力を使うとしよう)


 神坂は一歩下がって煙全体を見る。煙は中央から風のあおりを受けながらも360度に拡散されていく。さながら白い塔のようだ。限りなく規則的に広がっているから動きの変化が分かりやすい。不自然な動きをするということは何かが動いている証拠だ。動いた場所に奴はいる。




 おかしい。神坂はそう感じた。

(変化がない。つまり鬼束は動いていないということか。だったら煙玉は何のために使ったんだ?俺の視界を奪って攻撃をするんじゃないのか!?くそっ、どうする。相手が動かないのならこっちから行くか。いや、向こうはそれを待っているのかもしれない。俺と同じく煙の動きで相手の動きを捕捉する。何が短期戦だよこの野郎。時間を有する心理戦じゃねーか。動くか、待つか。月城を短時間で終わらせる能力だ。何が来るんだ)

 しばらく続く膠着状態。煙は依然としてモクモクと勢力を拡大している。あの大きさに似合わず高圧縮で煙が仕込まれていたらしい。ドクターとやらの発明技術の高さが窺える。

(奴としても長期戦は望まないはずなのに何で何もしてこないんだ。煙を上げたことでむしろここの場所を教えているようなもんじゃないのか…、や、まさか、煙は目眩しじゃなくて煙自体が能力発動に必要なのか!煙の性質を変える能力。煙と同化する能力。煙を操作する能力。気体を液体や固体に変える能力。考え出したらキリがない)

 血の気が引いたおかげか冷静に目の前のことを分析することが出来ていた。だが所詮は世間知らずの14歳、神岐ほどの頭は持ち合わせていない。


 ひたすらモクモクと立ち込めるだけの煙であったが煙の中央が不自然な動きをしだした。

(たまらず動き出したか?出たところを捉える。煙で視認が出来ないから殴るしか出来ないけどな)

 神坂は煙に警戒しながらも煙を吸わない程度に近付く。

 そして煙から大きな黒い塊が飛び出した。正面ではなく真横にだ。神坂はその瞬間を逃さず黒い塊目指して真っ直ぐ向かい、そして拳を振るった。

「よっしゃ…、あ?」

 神坂は手応えを感じていなかった。月城や臼木とやり合ったから殴った時の感覚は覚えている。人間という大きく、そして重い物を殴るのだ。拳側にも重さや衝撃が伝わることは理解している。多少の痛みも伴うことも。だが今のはその感覚がない。ファサッというたなびく音と殴った気配がしないという違和感だけが残った。殴った物は勢いのまま飛んでいく。


「有利ってのは思考判断を鈍らせる」

 誰かが話しかけると同時に肩に手を置かれたのを感じた。昔上野で変態に連れて行かれそうになった時の気持ち悪さはなかったが誰かが分からない分不安感が募った。

 神坂はその気味の悪さから距離を置こうとその場を離れようとしたが…

(は?う、動けねぇ!)

 神坂はその場から動くことが出来なくなっていた。足は地面にへばりついたように動かず腕を動かすことも、首すらも、腰も動かなくなっていた。

(声は……、ダメだ動かねぇ、目玉も動かせないか)

「無駄だ。どこも動かせないだろう?聴覚と触覚ぐらいしか機能していない。呼吸とか拍動とかの生体維持機能は問題ないから安心しろ」

 安心しろって、動けない状態で安心もクソもあるかよ。

「君が殴ったのは俺が羽織っていたパーカーだ。読み合いでは俺の方ってところか。功を焦ったか?成績優秀と言えど所詮は中学2年生。最強で居られるのはお前の中学校での話だ、分かったか幌谷の白ウサギくん?」

 背後を見ることは出来ない神坂には言葉だけでしか知る術がない。だからか、言葉の重みがより重く伝わる。

(驕りが全くなかったとは言わねえよ。不自由な生活から自由を獲得して今の地位にいる。元来持っていた頭の良さとこの超能力があれば、また不自由なあの頃に戻らなくて済むんじゃないかって思ったりもしたさ。けどな、俺は俺の弱さを知っている。弱さを認めることで俺はまた一段階成長出来たんだ。月城と、臼木と出会ったことで。俺にない物を持っている彼奴らに会えたことでな!)

「あぁ、元々は俺の能力の披露だったな。見えないところ申し訳ないが語らせてもらおう。俺の能力は氷鬼(ムーブスナッチ)。触れた対象の動きを止めることが出来る。時止めのアダルトビデオみたいなことが出来る。おっと、子供の君にはまだ早かったかな。まあとりあえず…」


 鬼束は神坂の背中に蹴りを喰らわす。

(ガッ!いってーな!)

 防御が取れない状態での蹴り、力を込めて我慢なども出来ないためダイレクトに、普通以上の威力になる。

「君の友達の月城はこれで1発でKOしたよ。触覚は機能しているから痛覚はある。どうだ?痛いだろ。これで君をゆっくりと嬲る。一撃ではやらない。俺達は君の能力をもっと知る必要がある。あとでとんでもない能力者だって分かって兄貴達に早とちりしたなんてどやされたくないからな。兄弟も君の能力には興味があるんだ。まぁ1番は神原なんだけどな。とりあえず君を虫の息にする。殺さないだけマシだろ?」

(なるほど、大方急所か脳をやられたか。神原ってのは俺と同じ境遇の2人の内のどちらか、か。にしても動きを止める能力か。呼吸まで止められてたら確かにヤバかったな。カウンターでも一撃系でもない分こっちも能力を存分に使えるな。煙は俺の思考を曇らせるためか。煙が今も蠢いているから視覚はあくまで見る方向を固定するのであってビジョンを固定しているわけではないのか。思考判断も出来る。つまり動けなくても視界に奴が入れば俺の能力は使える)


「そろそろ限界か」

 鬼束はそう呟く。

「また煙に身を投じよう。短期戦だ。喋る気になったらすぐに言わないと言おうと思う頃には死んじゃってるかもよ?」

 神坂はそれを耳にすると背中に大きな衝撃が加わり視界見て前方へと大きく体が飛び出した。

「おわっ!」

 突然の衝撃で受け身が取れず頭から地面に倒れてしまった。頭を支点にして体が一回転して背中が思い切り地面に叩き付けるようになってしまい『カハッ!』という声と共に一瞬呼吸が止まった。がすぐに呼吸が出来る様にはなった。首には軽い痛みがあるが神経を傷付けたなどはなかった。

「ちっ!静止中に加えられた力は解除後に一気に押し寄せてくるのか。蹴り二発でこれか。痛みと別になってるだけマシってところか」

 後ろを振り返るとまた煙がモクモクと広がっている。追加分を足したか。

 足元を見ると先程鬼束が使ったパーカーが落ちている。

 何かに使えるかもしれない。出し抜かれたのは初めてだ。やり返さなきゃ気が済まねぇからな。

 神坂はパーカーを拾いギャルがやるように袖を紐がわりにして腰に結んだ。


 煙はあくまで阻害する物でしか使ってないようだ。ならばどうする?向こうが同じトラップを仕掛けてくる可能性もある。自分で言うのもなんだがまた騙されないとも限らない。今度はこちらから仕掛けるか。あのゴーグルにサーモグラフィー機能があるようには見えないしな。あるのなら手っ取り早く空き地全体を煙で覆ってから能力を使ってもいいはずだからな。煙玉が尽きるのを待ってもいいかもしれないが頭の回転で向こうが上手な以上は同じ戦法を取っている内に片を付けたい。ならば…


 神坂は煙の中に飛び込む。触れられたら動きを止められる。だがずっと避け回っていても何も分からない。痛いのはシャクだが攻撃を受けてその氷鬼(ムーブスナッチ)とやらの能力の全容を掴み弱点を見つけることこそが勝利の鍵だと考えた神坂はリスクを承知で煙に入っていった。しかし鬼束は神坂の上を行くもの。何重にもトラップを仕掛けている。


「あ"っ!目がっっ、痛ぇぇぇー、何だこれ!グァァァァァー!!!」

 煙に飛び込んだ神坂だが入ってすぐに目が激痛に襲われる。目を開けられる状態ではいられなくなり充血し涙がせり上がり視界が見えなくなる。

「くそっ、催涙ガスか!ゴーグルはそのためか!」

「こうも引っかかってくれると少しばかり嬉しいねぇ」

 神坂の目の前に鬼束が現れる。ゴーグルのおかげで煙の中でもはっきりと神坂を見つけることが出来、問題なく行動出来ている。

「君の能力への対抗策と思わせておきながら実は煙を使った能力者と思わせてから能力を開示して煙はやはり目眩しだと思わせてからの真実は君の視力を奪うための催涙ガスだったって、俺なりのシナリオは完璧にハマってくれたな。掌の上で転がすってのは気持ちいいもんだな」

 そう言った鬼束は神坂の顔面を殴る。

「ガッ………………(くそっ、またか!)」

 殴った瞬間に氷鬼で神坂の動きを止める。目が見えなくなった神坂にはもう聴覚と触覚しか周りを知る術はない。

「これで正面から堂々と攻撃出来る。オラっ!」

 鬼束は神坂の鳩尾を殴る。神坂は痛みは感じるがそれを堪えて集中する。引き続き殴る蹴るの応酬が来るが痛みに耐え、解除に一気に押し寄せて来る物にビビりながらも決して集中を切らさない。


「チッ!もうちょっと打ち込みたかったのにな!」

 最後神坂の顎にアッパーを食らわせた。そして神坂は後ろに物凄い勢いで吹き飛ばされた。

「おぉわっ!」

 インパクトの痛みは既に貰っているのでこの瞬間に押し寄せるのは衝撃だけだが何発も食らったのだ。その力は決して優しい物ではない。鳩尾を殴られた分の昼飯が逆流して来る気持ち悪さや胃酸のツンと来る臭い。体に残る殴られたジンジンと痛む箇所、そして最後のアッパーの脳を揺さぶられまともな思考判断が出来なくなりグワングワンする頭。

 数メートル後方に飛ばされ受け身も満足に出来ずに地面に倒れた。

「オォウェェェー」

 ビチャビチャと神坂は吐瀉物を吐き出す。昼飯の残骸が出て来て、さらにその臭いでさらにもらいそうになるがなんとかその場から体を転がして離れる。

 咳き込みながらも口周りを拭う。口に残る気持ち悪い物を唾と合わせてペッと外に飛ばす。

「どうだ?これが氷鬼。遠距離型の市丸兄や丹愛兄、奇襲型の零兄には負けるが能力を封じて近距離に持ち込めば俺の独壇場だ」

 鬼束が喋るが神坂は未だ頭が正常ではなく耳を傾ける余裕はない。立ち上がることすらままならない。が、思考だけは行うことが出来た。


(40秒。さっきは測り損ねたがおそらく30秒程度はかかってたはずだ。決まった時間を止められるわけではないか。舌打ちをしてたってことはずっと止めることが出来ない。いや、長い時間止めるには不規則な法則があるのかもしれない。そして、何故か奴は連続攻撃をしなかった。攻撃してから次の攻撃までに少しのタイムラグがあった。攻撃回数?いや、30秒で2発と40秒で6〜7発では数が比例しない。どうにかして伸ばしたいが伸ばすことが出来ない何か。そこが分かれば突破口はあるかもしれん)

 神坂は攻撃を受けながら止まっている時間を数えていた。思考は出来るのが幸いした。そして、敵の能力の持続時間を測っていたのだ。

 解除の瞬間に衝撃が来て吹っ飛ばされるから解除即攻撃は出来ない。ならば停止時間を短く出来れば、もしくは奴が意図しない瞬間に解除出来れば衝撃を抑えて攻撃に転じることが出来るかもしれない。

 けどまずは催涙ガスをなんとかしないとな。まだ涙で視界がボヤけてる。奴の煙玉さえ封じれば俺の目が治って能力を使える。能力…、奴の氷鬼みたく何か俺だけの名前が欲しいな。いや、そんなのは後回しだ。まずは煙玉、そして氷鬼の攻略だ!

神坂雪兎

能力名:不明

能力詳細:目に映った相手を自分と同じ状態にする


鬼束実録

能力名:氷鬼(ムーブスナッチ)

能力詳細:触れた物の動きを止めることが出来る。持続時間は固定ではない


まだまだ戦いは続いて行きますよ!

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