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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第3章 神坂雪兎
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第41話 エアホッケー 後編

神坂・月城vs臼木のエアホッケー対決

現在2-3で臼木がリード

さあ神坂達は臼木の攻撃を防ぎつつ得点を得ることができるのか!!!

 最後に点を取ったのは臼木なのでパックは神坂達のポケットにある。

 神坂達からの攻撃でスタートだ。

 神坂達はシュートチェイン、と言うと某サッカーゲームになってしまうのでそのまま使用は出来ないが、要はパックの軌道を変えることで臼木から2点を奪った。しかしもう臼木も慣れたであろう。3回も同じ攻撃は通じない。

(ジリ貧ってやつか、さあ次はどうやって攻めようか)

 頭ポンコツの月城では戦略とかは終わっているので神坂が考えなくてはならない。

 しかし自身の応用が効かない不便な能力をどう活用すればいいのか、良いアイデアは全く出なかった。

(まだ、序盤だ。試合を見ながら策を考えるとするかな)


 ♢♢♢


「ふゆ、ヤバイって!?どうすんだよ」

 ユサユサと神坂を揺らしながら詰め寄る月城。

「なあ月城、こういう言葉があるの知ってるか?『人間諦めが肝心』だってよ。さあ、もうここを出ようか。どうせお前らがいるんだ。ちょっと試してみたいことがあってだな」

「終わってないからね。絶望的な点差になってるけどまだ終わってないからなオイ」


 スコアボードに表示されてるのは2-8

 あれからチェインシュートは効かず、向こうの攻撃も防ぐことが出来ずに6連続得点を許してしまった。

 改めて臼木が規格外ってのを知ったね。

 SASUKEとかに出たら案外良い線行くと思うなこれ

 …じゃなくて。さてさて、結構空いたな。点差が開いても驕る様子もないしこのままだと普通に負けるな。

 月城は焦ってプレイが安直になって防げる物も防げなくなってる。

 そろそろなんとかしないといけない。

(攻撃はどうにか出来たとしてもやっぱ臼木の攻撃を防がないと話にならないな。俺は役に立ってるようで役に立ってないからな。パックは見えてるのに体が追いつかない。月城は動きはいいけど俺ほどの動体視力がないから捉え切れてない。月城がもっと動体視力、反射神経が高かったらいいのになぁ〜、———いや、待てよ)

 神坂の能力は相手の力を自分のレベルと同等にする能力。神坂は身体能力が常人よりも下回っていたために能力を使うと相手が弱くなると考えていた。

 しかし、この能力は平等にする能力。

 相手が神坂よりも下だとしたら。それが平等になるのだから…

(おいおいおいおい、何だよ。俺の能力割と使えんじゃんか。そうか、弱体化だけじゃないのか。いや、だが推察の域だ。次は俺達からか、試してみよう。上手くいけば勝てるかもしれない)


「くっ、ふゆ、何とかならないのか!」

 6点差は絶望的だ。月城が焦るのも無理はない。

 だがふと思う。これエアホッケーだよな。

 強大な敵と対峙しているわけではなくただの友達同士の遊びのはず。それがどうしてこうも互いに譲れない負けたら死の戦いっぽくなってしまうのか疑問だ。

 まぁ、勝とうと策を練っているあたり俺もその煽りを受けているんだけどな。

「策がある。普通通りでいろ」

 能力の設定。アバウトにしてはいけない。過剰に平等化される。限定的に、はっきりと、狭めて。


「オラァ!」

 投げやり気味に月城が放つ。俺も追い討ちで打って軌道を変える。しかし臼木は対処できるだろう。これは攻撃の方法ではない。強いて言うなら…



(8-2、勝ったな。だが油断は出来ない。5失点したら雪兎君は能力を使えるようになる。バリエーションのある能力だから何が起こるか分からない。気を引き締めないと)

 臼木は決して驕ったりはしない。

 相手は成長を続ける男と自分に打ち勝った男なのだ

 神坂の力は理解している。本人は使い勝手が悪いと言っているが臼木をオーバーワークで潰すなどまともな手段ではない。能力依存と言われればそうとも言えなくもないが神坂は相手とは殴り合っている。肺活量だけ鍛えて窒息で勝つことも出来るのに神坂は正々堂々と正面から戦う。その中で能力に頼るのだ。能力だけしか取り柄がない男だったら月城も、そして自分自身もここまで神坂を慕うことはなかっただろうと今まで神坂と共に過ごしてきた中で感じる。

(2人は強い。けどここ、このエアホッケー勝負に関しては身体能力で俺の勝ちだ。ハンデを貰ったような物だがそれでも勝ちは勝ち。負け惜しみを言う奴らでもない。これで、雪兎君に勝てる)

 臼木は従いこそしているが神坂をライバル視している。

 いずれは能力ありでも勝とうと日々月城と互いを高めあっている。月城はそうは思ってなく真っ直ぐに舎弟らしくしているが。


「策がある。普通通りでいろ」

 神坂が焦る月城に言っている。どうやら何か仕掛けるようだ。だが軌道を変える方法は驚いたがもう順応出来た。

「オラァ」と月城がパックを飛ばす。

 神坂もそこから追い討ちをかけて軌道を変える。

(確かに普通通り。さっきまでと全く同じだ。月城に変化はない。神坂はあくまで相手を変えるだけで自身は変わらない。パックに細工は出来ない)


 臼木はパックを止め、打ち返す。

 だが神坂の策はここからだ。

 パックは壁に当たってゴールを目指す。

(くそっ、やっぱ見えてても追いつけねぇ!)

 神坂も何とか食らいつこうとするがパックは神坂を通り過ぎて月城の方へ向かう。


(これで9-2)

 パカーン、ガシャン!!!

 パックがポケットに入った音だ。

 神坂は呆けた顔をしている。諦めたか。


「あと2点だ。雪兎君、君の策も無駄だったみたいだね」

「あ、あぁ、まさか上手くいくとは思わなかった」

「何を言って「お、おおぉ、やったー」、は?」

「見えてないみたいだな。ホレ」

 神坂がフィールドの上、立体的にアーチ状のスコアボードを指差す。

 指を差されてその先を見ると…


「な、何で、何をした」

 そこには8-3とデカデカと表示されていた。

「ふ、ふゆ。俺、打ち返せたよ。何かパックの動きが見えるようになったんだ!これがふゆの策なのか?」

「大成功だ。これで勝負は分からんぞ。こっちも6連続得点取るか?」

「まさか俺の身体能力を下げたのか?能力を使うのは月城だけのはずだが?」

「いーや、俺はお前に何もしていない。月城にしか能力を使っていない」

「雪兎君は文化部程度の身体能力のはずだ。平等にする能力を使っても月城は弱くなるしかない。月城より秀でてるところなんて…、見えるようになった。なるほど、そういうことか!」

「ふゆ、何をしたんだ?」

 臼木は気付いたようだが月城は能力を受けたため第三者視点に立てず理解出来ないようだ。

「俺の能力は自分の能力値になるように相手の力量を変える能力だ。俺自身が細身だから能力を使う相手は俺よりも身体能力が高いことが多かったから敵は弱くなることが多かった。だが俺の能力は弱くするんじゃなくて等しくする。つまり俺が相手より優れていれば相手は俺の能力を受けて強くなるってことだ。まあ弱体化同様に体に何かしらの影響があるだろうがな。お前らも経験したオーバーワークだ」

 去年の冬に筋肉痛、肉離れで動けなくなったことを指している。

「なるほど。確かに弱く出来るなら逆も然りだな。それで月城の目を強化したわけか」

「正確には視力と反射神経な。どうやら俺は目だけは良いらしい。月城が不足していたのは目だからな。見えさえすればパックに対応出来ると読んだが予想以上だ。よくやった月城」

「お、おう。要はやっとパックを返せるってことだろ。でもあれ?5点取るまで超能力を使わないって言ってなかったか?」

 あ、しまった。言われるまで忘れてた。勝とうとするあまり頭から飛んでた。

「どうせこのまま負けてたんだ。お前と能力なしの俺が束になっても臼木には勝てないってことだ。勝負は負けだ。だが試合には負けない。臼木には使わない。破っちまったが俺が解禁することで接戦になった方が楽しいだろ?」

「そうだな。ワンサイドゲームはつまらん。実際俺も飽きを感じてたからな」

「な?月城、もっと強くならんとな。勿論俺もだが」

「そうだな。でもそれならふゆもやった方がいいだろ?体は鍛えられなくても技術とかは学べるんじゃないか?身体能力を同じにするんだから勝負を左右するのは精神力やテクニックだろ?」

 なるほど、そういう考え方はなかったな。俺がこいつらに勝てたのも向こうの自滅だったしな。それを克服出来る奴と相対した時に太刀打ち出来るようにならないといかんしな。月城にしてはいいことを言うな。

「そうだな。夏休みにでも体が細くても出来る武道とか学ぶとするかな。合気道とか」

 帰ったら道場を探してみるか。授業料は……申し訳ないがねえちゃんに頼むか。


 8-3、一矢報いたが依然臼木が優勢だ。

 こっちが得点したので臼木からスタートだ。

「やっとまともな打ち合いになるな」

 臼木はどこか嬉しそうだ。

「2対1がやっと活きてくるな」

 月城も可能性が見えてきて目が冴えている。

「行くぞ、ハッ!」

 臼木がパックを放つ壁に当てながら進む。

 神坂も見えはするが止めることが出来ず、自陣ゴールへと進んでいく。しかし動体視力を強化された月城は動きを捉え、さらにそれに動きが付いてこれた

 パックを弾いて失点を防ぐ。

「うっ、さっきみたいな感じには行かないか〜」

「ビギナーズラックだろ?最初だけなんか上手くいくってやつ。あんな華麗にそう何度も行くわけねえだろ。もう慣れたか?止めずとも相手陣地に行っちゃっても失点よりはマシだ」

 月城が弾いたのを何とか神坂が止めて臼木側に行くのは何とか凌いだ。月城に戻して放ち、軌道修正し、臼木が止めて打ち返し、今度は打ち返せず9-3


「……」

「あぁ、くそ!」

「跳ね返せずマレットのサイドに当たって入ったか、跳ね返そうとせず進行方向を塞ぐようにするだけでいいよ」

 神坂が失点しないアドバイスを与えている中臼木はモヤっとした気分になっている。

 神坂についてだ。だがここで神坂に聞いたところではぐらかされる、正直に言ってもそれを行動に移さないことは分かっていたので臼木は訊ねることもしなかった。しないのならしない考えがあるのだと、そう考えて神坂の出方を見ていた。


 9-3

 スタートは月城サイドから、俺も返す。いくらかラリーが続いて、そして俺が決める。これがそれから2回続けられた。


 ♢♢♢


「いやぁ、俺がいても大して変わらなかったな。逆に俺なしでどうやって臼木から2点取ったんだよ」

「えっ?いや〜、打った時にマレットがすっぽ抜けて臼木がマレットを止める方を優先して1点と打ち損じが壁打ちになってマグレで1点だよ」

「全部偶然だな。まともな点は俺が加わってからかよ。それでよく2対1とか言えたな」

「うるせーな、それだけ勝ちたかったんだよ。けど力を借りたとは言え臼木からちゃんと点を取れたのは気持ち良かったよ」

「そっか」

 神坂と月城が先を歩いて、少し後ろを臼木が続く。

 3人はあれからゲームセンターを出て神坂がやりたいことがあると言うのでそれに必要な道具を手に入れるために月城の家に向かっていた。

 2人は勝負の振り返りをしながら喋っている。

 臼木は会話に入ることはせず後ろで考え事をしていた。

(おそらくは、いや、おそらくではなく確信出来る。雪兎君はまだ全力を出していない。手を抜いてるんじゃなく能力の使用を制限しているという意味でだ。そうしたのは月城の手で勝たせるためだろう。介入しすぎたら能力依存になるからだ。それを聞いたところで何も変わらない)


 臼木の予想は当たっている。神坂は意図的に能力の制限を行なっている。しかし、動体視力を制限していたのではない。動体視力の平等化は選択肢に入っていなかったのだ。それを偶然思い付き、制限の範囲外、つまり過干渉にならないと判断してから月城に使っていたのだ。目については以前警察から逃げるために平等化したことがある。その時は動体視力ではなく視界を同じにしていたのだ。視界を平等にして相手の現在地、見ている方向などを狂わせて撒いていたのだ。エアホッケーにおいてパックの動きは1番目を向けられる。もし平等化した場合、月城は前、神坂は横で構えていたので視界がズレてしまうのだ。そうなったらまともにパックを打つことすら出来なくなる。そう思って神坂は目の平等化を行わなかったのだ。


(もし雪兎君が月城に華を持たせることをせずに勝ちに執着していたら本気でヤバかったかもな。まだ俺は雪兎君には遠く及ばないな)



(まぁ、臼木からしたら不完全燃焼もいいとこだな)

 神坂は月城と話しながらも後ろで考え込んでいる臼木をチラッと一瞥する。

(俺自身が月城にはサポート目的で能力を使うって宣言したからな。あれぐらいが限度だろう。勝ちには行ったがやはり俺の基礎スペックじゃ限界があるみたいだな。合気道を真剣に考えないとな。けど習い事って…、めんどくさいなぁ。しかもそういうのに通ったことが一度もないからどう調べたら良いかもわからんし)

 世間知らずというか単に知らないだけなのだが神坂は小学校時代の経験から自分が知らないということに対してコンプレックスを抱くようになっていた。

 小学校高学年で切符の買い方すら知らなかったのだ。無理もない。勉強しか取り柄がなかった神坂少年はそれから遊びを覚え、図書館などで知識教養を学んでいた。スマホも当時持ってなく検索ツールが紙媒体しかなかったためか性やグロテスクな情報を知ることなく純粋に蓄えていった。中学に上がりスマホを買い与えられてそのような過激な情報も簡単に得られるようになったがネットの危険性などは十分理解していたので知識として吸収しただけでそれで人格形成に悪影響を及ぼすことはなかった。いや、もう既に壊れていたのかもしれない。


(もしあの試合で月城に気を使うことなく勝ちに行ってたら……)

 神坂は頭の中でシミュレーションする。


(…いや、それでも臼木に勝てたかは分からんな。ずっとデュースで試合がつかなくなるぐらいだろう。月城も自身の欠点に気付き、俺も自分の弱さに気付けたんだ。よく言う敗北から学べることもあるってやつかな)

 自分の今後の方向性を掴み神坂はご満悦だ。月城とのお喋りも気持ちが入って盛り上がる。しかし己の壁も理解することになりそれを超えている臼木や月城には軽く嫉妬している。



(結局、ふゆにおんぶに抱っこだったな)

 考え事をしている臼木をチラッと見ている神坂を横目で見る月城。

 今回の勝負、月城は何も出来ていなかった。

 頭でっかちで打ち方を変えず、得点も自力で取ったものは一つもなく全てにおいて神坂の力に頼り切っていた。

 月城はガキ大将だった経験から他人に言われて考え方を変えるのに激しい抵抗がある。

 もちろん本人もそれではいけないと思っているからこそ神坂に勉強を教わったり臼木と一緒に滝波夏帆のファンをしていたりと人に言われて何かをするということを始めていた。

 それでも打ち方などの小さいところでプライドが出てくる。

(ふゆと出会って半年、色んな経験をしてきた。りょうとの喧嘩だって毎週1回はやるようにしている。けど、未だに俺はりょうに勝てていない。体が細いふゆにも勝てていない。能力抜きにしても人間的にふゆにもりょうにも劣ってる。俺には、貫いているものがない。ふゆみたいな強さが欲しい。それを見つけなければ一生2人は超えられない。自分を知り、悪いところを取り除く必要があるな。そのためにも、俺はこの2人のそばで自分を見つけなくちゃいけないんだ!)


 そして何故かやたら満足顔の神坂と再び談笑を始める。

 今回のエアホッケー対決は、それぞれが自身の弱さを見つける良い機会となった。

 これが成長の糧になっていることは間違いないだろう。

 臼木は遙か高みにいる神坂への畏怖。

 月城は自分のつまらない弱さと弱さを乗り越えた神坂や臼木への憧れ。

 そして神坂は自分にない強さを持っている月城、臼木への嫉妬。


 これらを乗り越える頃には、3人は人間として逞しくなっているだろう。

 その様子を、見届けたい。



「てか俺の家に寄って何するんだよ。ゲームか?」

「そうだぞ雪兎君、今から何をするんだ」

「あぁ、言ってなかったな」









「野球だよ」

というわけでエアホッケー対決が終わりました

2ヵ月以上も待たせてしまってすいません

神坂達が勝つエンドの予定でしたが神坂の底を見せないという状況を作りたかったので敢えて負けさせました

次回は久しぶりにcomcomこと神岐義晴が動画の中ですが登場します

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