第40話 エアホッケー 前編
映画を見終わった神坂達は近くのマックンドナルドに入り感想がてらに昼食を取っていた。
「なぁ、またふゆのねえちゃんと話せないのか?」
「お前な、ねえちゃんは学校に仕事に忙しいんだ。4月の時だってイレギュラーみたいなもんだ。俺の家にいれば会えると思うが親がいるかもだからそれも叶わん。そんな見た目の悪い奴らと話してたら活動に悪影響を及ぼすとか言われるのがオチだっての」
「そうだぞ月城。そう簡単に会えると思うな。雪兎君、お姉さんからサインを貰えないか?」
おーい、臼木くーん。
「お前だって要求してるじゃねーか!」
おっ、ナイスツッコミ。どうも臼木はねえちゃん絡みだといつもの寡黙さが抜けて年相応になるな。口調こそいつも通りだが。
「俺にもくれ!妹に自慢してやる」
おーい、月城くーん。君達類友かな?…類友だな。
「会いたいならお前らも声優を目指せ。そしたら共演できるぞ」
神坂は冗談交じりに言ったつもりだったが。
「「………」」
思いのほか真剣に2人が考え出して目の前のポテトに手がつかなくなるほどになってしまい『はぁ~』っと溜息をつく。
(臼木は元々だったがまさか月城まで滝波夏帆にハマるとは思わなかった。今では臼木の家のコンポで一緒にラジオを聴いてるとか笑えないな。まぁ喧嘩というイメージが薄れて枝野中でも話す人が増えた(主に男子)って言ってたから良い傾向だと思うけども。また月城のアホが喋らないかが心配だ。しかし、映画もだったが満席かぁ。映画の出来がいいのか出演者で客寄せしてるのか…、後者っぽいな。だが内容も良かった。タレントありきの映画はコケるってのが相場なんだけどな。原作もないアニメーション映画によくここまでのヒットを生み出せたもんだ。ヒロインのねえちゃんはテレビ出演はほとんどないのに。主人公役の、何だっけ?轟宏司が番宣を頑張ったんだろうな。テレビだけじゃなくユーツーブの公式生放送とかも出てたし)
「ふゆ、俺決めたぞ」
あぁ、愛すべき馬鹿だ。一応乗っておくか。
「何がだ」
「俺は、声優になるぞ!」
単純明快過ぎて逆に恐ろしいな。純粋は時として悪だなこりゃ。
仕方ない。応援してやるか。
「おぅ、頑張れよ」
はい終了。月城もよーし、やってやるぞーと息巻いてる。
臼木はどうするのかと言葉には出さないが顔を向ける。
「俺は声を出すのはな。だがマネージャーとかだったら行けるかもしれん。ボディーガードにもなるしな」
「おぅ、臼木、お前もか」
某古代人の台詞を引用するが学のない2人には言葉通りに捉えられるのだろうな。
そして10年後の月城と臼木はと言うと、………ここで言うことではないな。現時点では分かりようのない未来の話だ。ここで語るのはよそう。
♢♢♢
あれからマックンドナルドで談笑をした3人は洋服屋を見て回ったり、最近話題のタピオカを並んで飲んでみたりした。周りが女性ばかりで疎外感が凄かった。しかも並んでるのが白髪金髪巨漢だからより目立ってしまった。女子高生に声をかけられたりしたのでどうやら俺が幌谷の白ウサギだってバレているようだ。あそこまで黄色い声援的なことをされるとむず痒い。タピオカを買った後も追いかけてきたので能力を使ってどうにか逃げおおせた。
♢♢♢
「ふゆ、あのデカブツに勝つぞ!」
「あのな、2対1で勝ってお前はそれでいいのか?」
「うるせぇ、喧嘩でもテレビゲームでも負けてんだ。ここは是が非でも白星を得たいんだよ」
「でもテストの点数は高いじゃん」
「あんなんはマグレだよ。もう一度同じテストをやっても半分も取れん。ここで落とすわけにはいかないんだよ」
「いやでもお前これ……
エアホッケーじゃん」
3人はゲームセンターに来ていた。
レースゲームやシューティングゲームをやっていたのだが月城が臼木にエアホッケーで宣戦布告をしたのだ。
が、臼木に完敗した月城は神坂を巻き込んで2対1を仕掛けたのだった。
「臼木はそれでいいのかよ」
神坂は臼木に問いかける。神坂としてはシューティングゲームで軽く疲れており休息を取りたいのだ。これでエアホッケーで集中してしまうとヘロヘロになってしまうため臼木には断ってほしかった。
「構わない。けど雪兎君、能力を使うのはダメだ。それをされたら絶対に勝てないからな」
目論見失敗。さらに能力使用も禁止されてしまった。ゲーム開始してすぐに呼吸を止めようと思っていたが対策を施されたせいでそれも叶わなくなった。
「あぁ、だが月城に使うのは構わないよな。身体能力を考えれば俺が加わったところでお前が勝つだろ?お前に妨害目的では使わないが月城にはサポート目的で能力をかける。それでいいか?」
俺は所詮文化部程度の身体能力だしな。結局は月城と臼木の勝負になるから俺が月城をサポートして実力差を埋めればいい。臼木相手に人を投入したところで変わらないからな。
「あぁ、いいぞ。だが雪兎君のアシストがあってもそいつはやれんのかね」
「何だと!言ったかんな!ふゆ、絶対に勝つぞ」
「臼木ぃ、煽るなよ。こいつは馬鹿なんだからよー」
月城が100円玉を機械に投入する。
するとフィールド全体からエアーが吹き出し戦場が整えられる。
月城が神坂の手を引いて駆け足でポジションに着く。
臼木はゆっくりと王者の風格でポジションに着く。肘掛けの椅子に座らせたら様になっていただろう
四隅にあるマレットを手に取り、パックを1枚フィールドに置く。
「先行後攻は?」
「じゃんけんでいいだろ」
「「さーいしょーはグー、じゃーんけーんポン!」」
月城はグー、臼木は…グー。
どうやら習性というものは簡単には抜け切らないらしい。
結局月城が勝ったので月城・神坂ペアからのスタートだ。
「行くぞ臼木ぃ!」
ゴールめがけて真っ直ぐ打つ。
腕っ節のいい月城のショットはブレることなくストレートに進んでいく。
しかし臼木のマレットがその進撃を阻む。
「甘いな、月城。もっと壁を使わないと。来る方向が分かってから置くだけで防げるぞ」
「壁に当てたら威力が落ちちまうだろうが!勢いを落とさずに直線で決める。これが俺のやり方だ」
なるほど、直情バカもここまで行くと清々しい。
だがそんなチンケなプライドを掲げていたら臼木に勝つなんてことは決して訪れないだろう。
「雪兎君はさっき飲み物を買いに行ってたから見てないだろうけど概ねこれの連続だったよ」
「あぁ、こりゃ月城は勝てんわな。おい月城、臨機応変に対応しろ。そのやり方では絶対に勝てない」
「け、けどよ…」
どうやらこのやり方で勝ちたいらしい。
はぁ、頭でっかちはこれだから困る。
こういう時は放っておくに限る。見捨てはしないけどな。
試練を与えて変化を自らの手でやらせるか試練を超えて活路を見出すかだ。
「月城、5点取れ。そうしたら協力してやる。それまでは俺は超能力を使っての援護はしない。マレットで攻防はするが俺の身体能力に期待しないほうがいい」
11点先取1ゲーム。つまり約半分点を取る。先程の試合で月城は2点しか取れなかったのは飲み物を持ってきたときのスコアボードで見ていた。
それの2.5倍だ。俺はせいぜい0.3人分くらいの補助しか出来ないからな。がんばれ。
「分かった。でも絶対協力してくれよ!」
「分かってるよ。ほら、臼木がパックを保持して待っててくれんだから、早くやんぞ。すまんな、気を利かせてもらって」
「気にするな。ここで話ぶった切って点を稼ぐほど落ちぶれちゃいない。じゃあ行くぞ」
マレットでパックを押さえつけていた臼木だがマレットからパックを離したことでパックがふわふわとその場で微細に動く。
「俺は通説通りに壁を使った縦横無尽に展開する。お前の動体視力では追い切れなかっただろ?点を取るのもだが点を与えないこともこのゲームでは大事だ」
「へん、りょうは知らんだろうがふゆは結構動体視力があるんだぞ。俺の正面からのパンチを躱したからな」
動体視力があるのは認めるがおそらく月城が望むようには進まないと思うぞ。何故なら……
臼木がパックをなるべく静止させてマレットを自身の腹まで寄せる。さながら助走である。
月城はマレットを忙しなく動かしてポケット全体をバリアする。中々に速い。残像こそ出ないが打ち込んでも点は取れない、はず…
それが出来てしまうってことはやっぱりそういうことなのだろう。
神坂は体を台の横に移動させてマレットを動かしている。ポケット周りを守るのではなくポケットに至る道中で動きを止める役だ。月城の邪魔をせずにさらに近距離カウンターを狙う。
「よし、行くぞ!」
臼木がフワッとパックを離し、リーチが届くギリギリまで泳がす。
体勢を変えて1番のインパクトが打てる角度を微調整して、そして、打った。
パックはパーーンッ!!!と甲高い音を立てて月城陣営に入ってくる。神坂も道中でブロックしようとしたが間に合わなかった。
パックは目で捉えることができたが見てからブロックしようにも神坂の身体能力では間に合わないのだ。自分でこうなることを予測していたが我ながら情けない。
壁に当たりながらジグザグに進むパックを月城には白い蛇のようにしか見えず、まんま蛇のように、噛み付かれてしまった。
0-1
想像以上である。
月城は悔しがることもなくポケットからパックを取り出してセットする。
ここで悔しがっていても意味はない。
最善の方法で失敗したのだ。これ以上の方法が思いつかない以上は現状維持しかない。
そして方法を模索するのならそれは攻撃方法で考えるべきだ。
(超能力の介入だけが禁止されてるんだから問題ないよな)
どうやら神坂には1つ案があるようだ。
「月城、考えがある。お前はきっと納得しないだろうがそれはお前の実力不足だ。甘んじて受け入れろ」
「俺は真っ直ぐにしか打たんぞ」
「別にそれでいい。あとは俺がやる。俺が言いたいのはそれに対して文句を言うなってことだ」
月城自身もこのやり方でさっき負けていることは理解している。そこから勝ちを得るために神坂のとペアを組んでいるのだ。ならばここで神坂の案を否定することは自身の目的を放棄することと同じだ。おそらく納得は出来ないのだろう。しかし月城は文句を言うことはしなかった。分かった、お前に任せると言い、パックをスライドさせて臼木と同じように助走を付ける。
(ふゆが何をするつもりかは分からんけど、俺はそのまま突き進むだけだ!)
月城は同じようにポケットめがけて発射した。
(変わらないは美点だがそれは同時につけ込まれやすいんだぞ)
月城のパックは臼木のポケットに真っ直ぐ進んでいく。
臼木はパックの来る方法に合わせてマレットを置く。これでもう終わりだ。そう臼木は確信していた
だが臼木は忘れている。この戦いは2対1の戦いであることを。
カーン!
ガコン!
パックに当たる音がした後にパックが何処かに落ちた音が響いた。
スコアボードは1-1と表示されている。
「雪兎君…、やってくれたな」
臼木は何が起きたのかすぐに気付いた。
「俺の存在を忘れてんじゃねーよ。超能力を使わなくたって創意工夫で手助けぐらいは出来んだよ」
「ふ、ふゆ…、今のは」
月城は勢いよく打ったため打った後のパックの軌道を見ていなかった。
なので月城にはいつの間にか点が入ってる状態なのだ。
「お前が放ったパックに追い討ちで打ち込んで軌道を変えたんだよ。2回打つことになるからより加速して壁に当たっても威力が落ちないって寸法だ。臼木も正面しか警戒してなかったしな。だが今回は不意をつけたから出来たことだ。正面も側面も警戒されたら結局は同じだ。まぁ注意力は正面と2つの側面で3箇所に分かれるから勝機がないわけでもないがな」
「お、おう、なんかよく分かんねーけど俺は変わらず打てばいいんだな」
「お前はやり方を変えなくていい。あとは俺がやる。能力なしでも出来ることはある。俺もお前に華を持たせたいからな。俺の協力は最低限でいいだろう?」
「あぁ、だが約束は忘れるなよ」
「分かってるよ」
俺も能力依存から脱却したいからな。力はなくても頭の回転とかで機転をきかせて勝機を掴むぐらいはせんとずっと2人におんぶに抱っこは締まりが悪いからな。これは俺のための戦いになるな。
くそっ、サポートと言っときながら俺もまずまずだ
5点を取る。目安半分で言ってはみたがこうして対峙すると如何にそれが難しいかがよく分かる。
ここからが頭を使う時間だ。如何にこの能力で月城を支えるかだ。
「俺のは出来なくても月城のは反応出来るか」
「動体視力はあっても体がついていかないんだよ残念なことにな。月城が発展途上で良かったよ」
「いつ使うんだ?」
「敵に言うわけないだろ。もちろん味方もだがな。俺依存で甘えられても困る。というよりは俺自身もどうすればいいか決めあぐねているってのが正しいけどな」
「まだ1-1だ。お互いあと10点、良い勝負にしよう」
パックをセットしていつでも準備万端の臼木。
「月城、見えなくてもパックは必ずポケットに来るんだ。気を抜くなよ」
「もう遅れはとらん!」
「行くぞ!」
先程と同じモーションで、臼木はパックを放った。
(見えはするが体が間に合わねえ。能力を使って何とかしたいけどそもそも月城のほうが俺より全般で優れてるから同じにしてメリットがあるものがないな)
だが今回は月城が何とかマレットに当ててポケットinコースは回避出来た。既に1試合散々見ているので目が慣れたのだろう。しかしまだギリギリ。次も止められるとは限らない。そして何より点は守ったもののパックは臼木側へと戻ってしまった。
守り、そしてパックを自陣に留める。今のままでは出来ないだろう。
(くそ、自身の力を相手と平等にする力だったらもっと良い使い方があるってのに何で固定対象が俺なんだよ。もう俺が鍛えるしかねーじゃねぇか。けどそれは敵の弱体化を弱めることになるし、焦ったいなもう!)
臼木の追撃、やはり止められずスコアは1-2。
そしてこちらからのスタート、同様の作戦を仕掛けやはり防がれてしまうがパックを自陣に留めることは出来なかったようで神坂がこぼれ球を押し込んで2-2。
そして続く臼木の攻撃をやはり止められず2-3。
3人の戦いは続く。
まさかのエアホッケー対決
神原編のドッジボールを思い出します
神岐編では何も勝負事をしていないので何かしたいと考えてますが神岐は大学でも友達があまり多くないので強引な合コンぐらいしか作れなかったんですよね
追々考えていきます
そろそろ鬼束兄弟との対決もあるので早く終わらせたいですね




