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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第1章 神原奈津緒
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第4話 親しい変化

あいつら中々俺のタイミングを分かってるじゃないか、と神原奈津緒は感心する。

 唐突に謝罪されてから1週間が経過した。

 謝罪の理由は全く見当もつかないし聞いてもはぐらかされて答えは得られなかった。

 だが、謝罪の後からそいつらと喋るようになった。

 鯖東イツキ、茅愛方助、松草知尋(ちひろ)の3人だ。

 喋るようになったと言ってもいつも話しかけてくるわけではない。休み時間、放課後の部活が始まるまでなどの短い時間に話しかけてくる。

 短いからそこまでストレスを感じない。人付き合いが面倒 (苦手)な自分としては悪くない関係性だ。


 あまりにも短い時間なので、「給食とか昼休みとかの時間に来ればいいのに」と言ったらクラス全員が青い顔をしていた。

 余程嫌なのか、何か奴らなりのルールがあるのか分からないがクラス全員ってのが気になる。

 理由を聞いても「俺らの口から言わせるな朴念仁」と怒られてしまい結局答えは得られなかった。


(あいつらはぐらかしすぎじゃね?)

 と思うくらいには、彼らから欲しいものが得られた試しがなかった。


 奴らに加えて麦島も会話に入ることもあり、5人で雑談めいた話をしたりもする。

 そして先週の一件以来、俺に話しかけてくる人が増えたような気がする。

 先週の件について経緯(いきさつ)を知りたいが鯖東達が口を閉ざしているため俺から話を聞こうということらしい。

(本人が喋りたがらないのに、どうして聞こうとするんかねぇー)


 どうも鯖東達は俺が喧嘩の仲裁をしたというようなことを言っているらしい。

 全く身に覚えがないし茅愛、松草とは謝罪の時にはじめましてなのだ。奴らが喧嘩してるところなんか見たことがない。

 だが知らないと言っても話をよりややこしくするだけなので、奴らの話に乗っかることにした。


 これで落ち着くかと思ったが、予想とは裏腹にむしろ話しかけられることが増えていった。

(うぜぇ…、今まで話しかけて来なかったくせにどういう風の吹き回しだよ…)

 あまり接点のない人…特に異性に話しかけられてもどう応対したらいいか分からない。

(話しかけられるせいで休みの時間に寝れねーし…。なんか知らないけど伊武さんがずっと不機嫌だし……)

 自分のそばの席なばっかりに迷惑をかけてしまって申し訳ないとすら思う。


 そう思って謝ったのだが……


「大丈夫!」


 と、頬を膨らませながら言われてしまった。

 怒っているのか怒っていないのか判断が付かない。未だ伊武さんとはギクシャクしている。


 下手に鯖東らに乗っかったせいで面倒なことしか起こってない…………




 ♢♢♢




「…はぁ、居心地わりぃ。俺はもっと静かに過ごしたいんだけどな」

「普通は賑やかな生活の方を望むんだけどね〜。殺人鬼となっちゃんくらいだよ〜」


 1週間経過したので最初期より落ち着いてきたが、それでも神原がストレスを感じるくらいには一定数の人間が話しかけてくる。

 鯖東達はタイミングを見計らっているから苦ではないが、それ以外は神原の性格を知らないので普段の友達付き合いくらいの感覚で話しかけてくるのだ。


「不倫が心の殺人っていうのなら、俺の平穏を邪魔するのも同義だと思うぞ。あとなっちゃん言うな!」


 ようやく放課後になって神原は真っ直ぐ家に帰っていたが、麦島がついてきて2人で帰宅することになった。


「でもこうして2人で喋るのも久しぶりじゃないかな〜。最近の神原、逃げるように帰ってたじゃん〜」

「そりゃ逃げるだろ。答えを持ってねーのに答えを求められるんだぞ。マジで鯖東の奴余計なこと言いやがって…」

(たぶんなっちゃんが何かしたけどなっちゃんは覚えてないんだろうな〜。過去の恩をずっと(こす)り続けてくるのも鬱陶しいけど〜、恩を忘れられるのも辛いんだよな〜)


「…そうだ、お前も前に同じようなことを言ってたよな?あれは何だったんだ?」


 麦島もかつて()()()()()()()がある。しかし神原はそのことを覚えていなかった。

 自分のやりたいことを邪魔されたからぶっ潰した。あの時はそうだった。

 鯖東達が謝罪をしたということは、同じに違いない。



「……あれだよ〜、俺が筆記用具忘れた時にシャーペンを貸してくれたろ〜?」

「……そうだっけ?」

「そうだよ〜、なっちゃんって結構忘れっぽいよね〜」

「シャーペンをね……。そうなのか…」

 全く覚えていなかったが本人がそう言っているのだ。筆記用具を貸したのだろう。

 にしては随分と話しかけてくるようになったなーとも思う。

 売店で買わなくて済んだと言っても何万円分にもならない。恩を感じすぎているとも感じる。


(…………忘れっぽいか。俺の力の副作用的なやつなのかもな)




「そう言えば神原、伊武さんとはちゃんと話せてる?」

「伊武さん?まぁー話せてる……のか?最近はあんまし喋れてないかもなぁ。なんかタイミングが合わなくてな。でも元々昼飯の時くらいしか話してないぞ?」

(その昼飯の時間だよ〜!。クラス内ならフリーアドレスで食べれるのに!同性の友達とじゃなくてなっちゃんと2人きりで食べてることの意味を知れ〜!)


 鈍感というか無関心というか……

 元々感情が顔や態度に出るタイプではないが、人への興味がないかのような冷たさを感じる。

 今の自分への接し方からして嫌々やっている訳ではないと麦島も分かっていたが、どうも神原という男は一線引いて生活しているように見えた。

 パーソナルスペースが極端に狭いのか。何か意図してそうやっているのか……


 伊武が神原にほの字なのは麦島も知っている。伊武とは友達であり神原に恩を感じている身としては2人には是非ともくっついて欲しい。

(なっちゃんも伊武さんのことは意識してると思うんだよな〜。恋愛的な好きには至ってないだろうけど〜、あの2人だけの空間に居心地の良さを感じてるはず〜)


(……確かに伊武さんと話していない気がするな…。向こうが不機嫌てのもあるけど、タイミングがないな…。はぁ…やっぱ日常が送れてねーな)


 神原にとって伊武との食事は日常にまでなっていた。

 どちらかが提案した訳ではない。ごく自然と、席が上下で隣だからというだけの特別でも何でもない理由。共通の趣味で盛り上がる訳でもなく、0に近い雑談をするだけ。


 そんななんて事のない一幕………それが何日も繰り返されて日常と化していた。

 麦島と下校するのは日常ではない。大抵は麦島が誘ってからだし毎日一緒に帰っている訳でもない。

 伊武との時間は神原の歯車の中に組み込まれていた。

 その歯車が回っていないことを、神原は1週間経ってようやく理解した。



「……あんま話せてねーかもな」

「(ようやく気付いたのかこの朴念仁…)もっと伊武さんと話したら〜?友達なんだから別に昼飯の時だけじゃなくてもいいんじゃないの〜?」

「友達ね……。友達って何話すんだ?今の高校生はどっから話のネタ拾ってくんだ?」

「うーん〜、テレビとかSNSとか〜?それこそユーツーブで流行ってるのとかも話のネタになると思うよ〜」

「……どれも分かんねーな。お前が教えてくれたcomcomとかか?」

「そうそう〜、〇〇って知ってる?とか〜、最近こういうことがあってさ〜とか。何気ないことでもいいんだよ〜。それで伊武さんが興味を示す示さないを繰り返し見ることでどういう話をするか考えたらいいんじゃないかな〜」

(とにかく話させるようにしないと、2人の距離が全然縮まんないよなぁ〜。一緒に遊びに行けたら良いけど〜、なっちゃん絶対誘わないし伊武さんも誘えないだろうしな〜)


「んーーーまあ、そうだな…。とにかく不機嫌を直してもらわんことには会話にならん。そっから会話を展開していくことにするよ」

「(何で不機嫌なの?ってダイレクトに聞きそうだけど……それくらいしないと進展ないか〜)そうだね〜、応援してるよ〜(伊武さんを)」


 そんな会話をしながら2人は帰路に着くのだった———





 ♢♢♢





 そんなやり取りからさらに時が経ち、ようやく質問攻めが収まって日常が帰って来たと思い始めた頃———









 体育の時間が来た。

 館舟高校の体育は2クラス合同で行われる。神原が在籍している1年6組は1年5組と一緒に授業をする。

 今日は体育担当の教師が出張で不在のため、体育館内にいるならば自由に好きなことをやっても良いということになっていた。

 自由と言っても男子と女子で一緒にプレーするのは危険が伴うため、授業時間の前半を女子が、後半を男子が使うということになった。


 そして前半の女子達は、バレーボールをすることにした。5組と6組に分かれてのクラス対抗戦だ。



(……中々に良い勝負をしてんな)


 5組6組両方に2名ずつバレーボール部員がいるため、ワンサイドゲームになっていない。

 部員はスパイクとジャンプサーブを禁止しているため、バレーボール初心者を狙い撃ちすれば楽に点が取れるというものでもないようだ。




 ピピー

 審判役をしていた男子生徒が笛を鳴らした。試合終了だ。


 スコアボードを見ると9-11で6組が2点差で勝利していた。

 試合に出場していた6組の女子同士でハイタッチを交わしている。



()()()君、試合見ててくれた?」

 試合後の伊武祥菜が神原の元へ来た。


「良い試合だったよ。お疲れさん、()()

「えへへへ〜///」



 何故2人の呼び方が変わっているのか?

 数日前に遡る———




 〜〜〜〜〜〜




 麦島から伊武との会話の少なさを指摘された神原は、会話が減少している伊武の不機嫌の解消から取り掛かることにした。



「なぁ、伊武さん。どうして最近不機嫌だよ」

「なっ……」

「ブフッ」


 案の定というか予定調和というか…

 段々と神原奈津緒という男が分かってきた。

 人に興味がなく、デリカシーのかけらもないロクでもない男。おかしすぎて思わず口の中の物を吹き出しそうになってしまった。


 伊武も元凶からダイレクトに聞かれるとは思っておらず口をパクパクとさせている。


「?…伊武さん?」


「だ、…………だ………」




「誰のせいだと思ってるの!?」

 伊武の声にクラス全員がこちらに注目した。

 神原も突然の大声と思わぬ形で見られているため狼狽していた。


(な、何だぁ?急に怒り出したぞ。みんなこっちを見てるし…………麦島の野郎笑ってやがる。女子もなんかクスクス笑ってるし……)

 またもや居心地が悪くなって来る。

 だがここで離席するのはばつが悪い。不機嫌の原因が自分自身だと分かり、彼女を怒らせるようなことを言ってしまったのなら、宥めるしかない。


「お、落ち着いて伊武さん。悪かった。俺が無遠慮にズカズカ踏み込んだからだよな?」

「………」

 伊武は神原から目を逸らした。

 本格的に怒らせてしまったと神原は受け取ったが、その実は違う………




(うぅぅぅぅぅぅ、声を荒げちゃった……)

 まさか本人から言われるとは思っておらず、放心を振り払うために大声を出してしまった。

 神原も突然のことで戸惑っている。

(この鈍感は分からないんだろうなぁ。でも言えないじゃん。神原君とゆっくり話せていないからイライラしてたなんて!)

 神原にそれを求めるのは酷な話だが、直接聞いてきたということは不機嫌を解消したいということではないか?


(もしかして?麦島君が笑ってたのは…つまりそういうことなの?)

 煮え切らない自分を気遣って神原へ発破をかけた。

 笑ったということは神原が不躾に直接言ってくることを予想を立てていたからではないか?



「お、落ち着いて伊武さん。悪かった。俺がズカズカ踏み込んだからだよな?」


 神原がオタオタしながら謝ってきた。理由は当たっているようで当たっていない。

 神原への申し訳なさで思わず顔を逸らしてしまった。


(……でも神原君なら、そうだよね。あんまり人のことを深く知ろうとしないし…。共感力が足りないからそういうことを言っちゃうよね…。もう慣れたけど……)



(……無言は気まずい。どうにか出来ないもんか。不機嫌を治そうとしたのに逆効果じゃねーか!)


「い、伊武さん。俺が出来ることなら何でもするからさ?機嫌を直してくれないか?」

 どうにか伊武と会話するためには彼女の言う通りにした方が良さそうだ。

(友達作りってむずかしいな。よくもまあ鯖東はいっぱい友達を作ったもんだよホント……)



(何でも………か………)

 ここで付き合ってというほど盲目的にはなっていない。

 あの神原がここまで言うことはそうそうない。付き合いは短いが伊武にもそれは分かる。

 どうにかしてもっと距離を縮めたいとは常々思っていたが、今がその絶好の機会ではないか?



(……と言ってもポンって出てこないよ……。週末一緒に出かけましょう………も攻め過ぎな感じがするし1回で消えてしまうような特典は勿体無いよね…)

 丁度良くてOKをもらえるお願い、そう簡単に思い付いていたらもっと距離は縮まっている………




 〜〜〜


「なっちゃん〜」

「なっちゃん言うな!」


 〜〜〜




 何回も見たあの掛け合いが祥菜の頭に流れて来た。

 神原は嫌がっているようだが、なっちゃん呼びをしてから2人の距離は縮まったと、()()()()()()()祥菜には感じ取れた———




「———じゃあさ、これからは私のことを名前で呼んでよ」

「な、名前?」

 焼きそばパン買ってこいクラスの命令を想定した神原だったが、そのお願いは焼きそばパンに遠く及ばない簡単なものだった。


「名前って…、俺いつも呼んでるじゃん」

「それは苗字!私がお願いしてるのはファーストネーム!」

「……そんな簡単なことで良いのか?」

(((簡単だと思うなら呼んでやれ(あげな)よ………)))


 神原以外のクラス全員の心の声が揃った。

 2人を快く思わない人さえもそう突っ込んでしまうくらい、神原のクソボケは極まっていた。


「さ、祥菜さん?」

「さん付けいらない!」


「……祥菜」

「はい、……えへへ…」

((((可愛い…))))

 またもや神原以外がハモった。神原は『ファーストネームで呼ばれる方が嬉しい人もいるんだなー』なんてことを考えている。

 頬を緩ませて可愛い姿を見せているというのにそれに照れを感じていない。



「私だけ下の名前で呼ばれるのは不公平だから、これからは奈津緒君って呼ぶことにするね」

「いや、俺は良いよ。祥菜呼びで十分だろ」

 名前呼びをすることで機嫌を直したんだから名前呼びさせる必要性はない。


「……なっちゃんの方がいいの?」

「なわけないだろ」

(どこの麦島だよ…)

 ここで断ってもなっちゃん呼びをされそうだ。なっちゃんと呼ばれるよりは……


「…はぁ、分かったよ」

 諦めよう。これでなっちゃん呼びが他の連中に普及されるくらいならファーストネームの方がマシだ。


「ありがとっ、奈津緒君!」




 〜〜〜〜〜〜





(確かに、下の名前で呼ばれるのは悪くなかったな)


 それ以来、2人は互いに下の名前で呼び合うようになった。

 白昼のクラスでやり取りしたもんだから皆がこのことを知っている。


 男子は何故か悔しそうにこちらを見て、女子は祥菜に何かを言って頰を紅潮させるのを楽しんでいる。祥菜本人は怒っているようだが全く怒っているようには見えていない。



『まだ諦めてないからな』

 松草からそんなことを言われたが、何のことか全く分からない。



(体育の時間か……)

 何週間か前に()()に因縁をふっかけられてから筋トレをするようになった。腹筋だとかランニングだとかだ。

 この前は確か能力を使って切り抜けたが、副作用によってその後の授業に悪影響を出した。


 神原は能力を使わなくても戦えるようにする必要性を感じていた。


(いつかドクターに一発お見舞いしてやるためにも、体づくりをしておいて損はない。ドクターがまた俺に何かをしてくるかもしれないなら……それ相応の準備が必要だ)

 帰宅部だから時間はある。適度な運動は勉強にも活かせる。次こそは麦島にテストで勝つためにも、健康的で戦える体作りは必須だ。



「奈津緒君…?」

 どうやら神原が突然黙りこくったから心配しているようだ。不思議そうに神原を見つめていた。


「あ、あぁ、祥菜が頑張ったなって思っただけだ」

 良い言い訳が出てこなかったので誤魔化すために祥菜の頭に手を置いた。

 苦し紛れで下心とかは一切ない撫でるよりは手摺りに乗せるようなくらいのソフトタッチになった。


「わ、わわわ!……えへへ…」

 突然のことで祥菜は驚いていたが、撫でられていることに気付くと、嬉しさで頬がまた緩み出した———



 ♢♢♢



 女子の番が終わり、次は男子の時間だ。5組と話し合った結果、やる種目はドッジボールに決まった。

 流石に男子全員が出るとフィールドがごちゃつくし試合時間が延びてしまうため、各クラス選抜で8人選出して8対8で試合することになった。


 神原はというと………出場しない。そもそも運動部だけで8人以上いるのだ。選ばれることはない。そもそも神原には()()()()()()がある。

 クラスの男子が『試合に出る8人を決めるぞー』と言った瞬間に見事に体育館の隅っこへフェードアウトを始めた。

 いきなり走り出すと怪しまれるから自然にゆっくりした速度でフェードアウトを試みたが、それは失敗に終わった。



 ガシッ

「どこへ行くんだ神原」

 掴んだのは鯖東イツキだ。


「俺の邪魔をするな。俺は先生からトイレ掃除を任されてるんだ。早く行かないとサボりだと思われちまう」

「ドッジボールをサボってトイレ掃除かよ……普通逆じゃないのか?」

「馬鹿野郎!トイレは毎日使うがドッジボールは毎日しないだろ?つまりトイレ掃除の方が大事ということだ!」

「……お前って、頭良いのに馬鹿っぽいところあるよな……、飲み物の件と言い…」

 本人は至って真面目に言うのだから鯖東は呆れてしまっている。

 その理屈ならば、レアリティー的な観点でドッジボールの方が大事な気がするがそれを言ったらまた理屈をこね出しそうだ。それよりも奴が参加せざるを得ないように外堀を埋めた方が早いと鯖東は判断した。


(というか教師もなんで授業中にトイレ掃除させるスケジュールを組んでるんだ?神原が後回しにしただけか?やっぱこいつアホだな……)



「第一、こういうのはお前らみたいな運動部担当だろ。俺はトイレ掃除担当だから諦めろ」

「…そうでもないさ。ほら、5組の連中を見てみろよ…」

 鯖東が指差した先、体育館の反対側に5組が固まっていた。

 向こうは既に選出を済ませているようだ。


「エキシビジョンマッチみたいなもんさ。ガチじゃないからお前が出ても大丈夫だよ」

「…………どう見てもゴリゴリの運動部しかいないんだが…お前目ぇ付いてんのか?」

「そんな嫌がんなよ神原。女子にカッコいいとこ見せたくないのかよ?」

 茅愛も神原を参加させようと訴えかけてくる。

「一緒にやろうぜ」

 松草も同様……

「無様に当たってもうちらは笑わないよ。ね?祥菜」

 同じクラスの女子……名前は分からない。

「…奈津緒君、頑張って」

 伊武からも暗に出てくれと勧められてしまった。

 せっかく友達になった伊武の期待を裏切るわけにはいかない。


(鯖東の野郎……、囲い込みしやがって……)

 ここで断っても素知らぬ顔は出来るが、以前の面倒さがぶり返されると考えると参加した方がマシだと判断した。ただし、道連れを伴ってだ———



「……はぁ、分かったよ。麦島ァ!お前も出ろ!」

「えぇ〜!俺も出るの〜!なっちゃんだけでいいじゃん〜」

「お前が出るのが条件だ」

(許せ麦島、1人でやるなんてのは我慢ならん。勝手知ったる奴がいた方が楽だからな。それに、ドッジボール勝負ならお前の方が腕力あるし問題ないだろ)

 麦島も帰宅部だが、体格はしっかりしている。身体測定でもパワーに関する項目は神原より数値が上回っていた。


「えぇ〜、……まあなっちゃんがいるなら問題ないか〜。いいよ〜」

「よしっ、これで8人決まったな。んじゃ、始めようぜ!」

 どうやら神原がゴネている間に他のメンバーの選出は済んだようだ。強引に麦島を引き込んだのに揉めなかったと言うことは……


(鯖東、こいつ……最初から俺が麦島を巻き添えにすることを見越してやがったな…)

 まんまと手のひらの上で踊らされたようで正直不服だ。

 だが決まってしまったものはしょうがない。のらりくらりでやり過ごせば問題ない。



 6組ドッジボール選抜メンバー

 ・神原奈津緒 帰宅部 (放課後に自主トレをしている)

 ・麦島迅疾 帰宅部 (柔道部からの勧誘が凄い)

 ・鯖東イツキ サッカー部

 ・茅愛方助 帰宅部だが学外のボクシングジムに所属

 ・松草知尋 野球部

 ・道駅(みちのえき)悠太 野球部

 ・行灯(あんどん)航平 陸上部

 ・松毬(まつぼっくり)(しゅう) 登山部


ドッジボール対決の始まりです。

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