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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第3章 神坂雪兎
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第37話 悪ガキ共⑤

 翌日、17時前


 神坂と臼木は対面していた。

 臼木の隣には月城がいる。

 立会人という立場らしい。まずは舎弟という立場を通してもらいたいもんだが。


「初めまして、臼木涼祢君。そこの俺の舎弟から聞いてると思うが、神坂雪兎だ。よろしく」

「こちらこそ初めまして。あんたが幌谷の白ウサギって奴か。ホントに真っ白な男だな。体も小さい。月城が負けたのが未だに信じられん」

「その通り名はあんまり好きじゃないんだ。キラキラネーム感が否めない」

「それは失礼した。神坂君。俺は俺よりも強い男を探している。君が月城を倒したのが本当なら俺と手合わせしてほしい。勿論条件はある」


 どうやら月城から一昨日の出来事を聞いてたんだろう。勝負することで神坂が得をすることがなければ勝負に応じないことを分かっているようだ。

「話が早いな。そうだな、アンタが勝てば東京最強の地位を得る、いやもう得てるのか。その地位に君臨することにアンタが納得出来る。俺が勝ったら月城同様に俺の下に着いてもらおうかな」

 俺の得が少ない気がするがまあいいか。

「こっちの都合で巻き込んだんだ。飲もう。月城、お前は手を出すなよ。タイマンじゃなきゃこいつの実力は測れないらしいからな」

「そんな汚いことはしねーよ。第三者視点から神坂の戦いを見てみたいから俺は視界から外れた場所にいるよ。じゃあ始め!」

「えっ、いきなりかよ」

「先手必勝。油断も手加減もしない。全力で行く」


 打ち合わせのような先制攻撃だが汚いことはしないと月城自身が言っていたので元々速攻型なのだろう

 だが神坂の反応が遅れたのも事実だ。

 臼木の全力の右ストレートを両腕で顔の盾にして防ぐ。が、あまりの威力に神坂は軽く浮いてしまいそのまま後ろへ数十センチ下がってしまった。


「痛ってー、ガードしてなかったら終わってたな」

 打撃が当たった箇所をスリスリと癒しながら言う。

「目はいいな。だがやはり鍛えが足りない。筋肉がないんだろうな。骨の感触があった」

「下の中だと自覚してる」

 下の下はプライドが許せない。

「下の中で上の上の月城に勝てるわけがない。お前の秘策を見せてみろ」

「…今のは対処が遅れた結果だが次はそうはいかない」

「今度はこっちからだ」


 神坂は駆け出し臼木に殴りかかる。

「さあ来い」

 受けて立つようだ。これは手加減や煽りではない。そんな感情抜きにしても臼木のフィジカルは尋常じゃない。神坂を相手にしても150センチと168センチじゃ身長の差がありすぎる。

 上から振り下ろす攻撃になるので威力も乗りやすい。

 だがそれが命取りになる。

「グッ!」

 神坂と同じく、顔面パンチを両手シールドで止める

 がっしりした体格で後退りやバランスを崩すことはなかったが臼木が驚いたのはガードした腕が痛みを帯びていることだ。

(痛い、パンチで痛みを感じたのは2人目だ。月城でも痛みを感じ始めたのは7月なのに。こいつ、やはり月城と同レベル。いや、それ以上、俺に近い力を持っている)


「月城が負けを認めたのも頷ける。いいパンチだ」

「そうかい。じゃあただひたすらな戦いでもやろうか」


 そうして2人は殴り、殴られ、蹴り、蹴られを繰り返した。

 一進一退、2人は互角の戦いをしていた。

 臼木はガンガン攻め、神坂は防御しながらも一発一発攻撃を打ち込んでいた。

 防戦に見えるかもしれないが倒せていない以上臼木もまた決定打がなく膠着状態が続いていた。

 だが15分後、その拮抗は崩れる。



「「はぁ、はぁ、はぁ」」

 休みなく行われた攻撃の応酬。流石の2人も息が上がっており両手を膝に置いて立っている状態だった。だが臼木は勝負がつかないことよりも別のことを考えていた。


(何でだ。スタミナは絶対に神坂よりもあるはずだ。なのに同じく動けない。体格差を考慮するなら俺の方が消耗が激しいことになる。これが月城が言ってたやつか…)


 そして月城はこの戦いの様子を端から眺めていて違和感を感じていた。

(何だ、これ…)




「臼木ぃ!!!何やってんだ!」

 介入するつもりはなかったがこれだけはどうしても言っておきたい。そう思い臼木に呼びかける。

「邪魔をするなと言ったはずだ!」

「お前手加減しないって言ってたじゃねーか!何で本気で戦わないんだよ!」

「ふざけるな。至って真剣だ。手は抜いてない」

「嘘付け!何だお前らのしょうもない戦いは!喧嘩の体はなしてるけどレベルが低いぞ。神坂ぁ!お前もこの前の時みたくやれよ!」

「俺も本気だ。昨日と全く変わってないぞ」

「今のお前らならワンパンで倒せるぞ。ちゃんとやれ!」

「だってよ。随分な言いようだ。じゃあ引き続きやろうか」

 神坂は息を整えて再び臨戦態勢に入る。

 一方の臼木はまだ準備が整わないでいた。

「はぁ、俺が手を抜いてるだと。あの野郎。見てろよ」

 臼木も呼吸を整える。そして真っ直ぐ立ち上がる。が…


 ピキリと体に違和感を感じる。

 そして腕が、足がプルプルと震え始めた。

「何だ、立てねぇ」

 バランスを崩した臼木はそのまま横に倒れてしまった。



「攣ったか」

 倒れた臼木を見下ろして神坂は言う。

「お前、何をした。神経毒か」

「その発想に至るにあたってお前の戦歴には驚嘆するがあいにく俺は道具は持ち合わせていない。学校帰りだから勉強道具はあるがそれでもお前を倒すほどのものはないよ。何かしたのは正しいけどな」

 マジでどんな奴と戦ってきたんだよ。こぇーよ。

「…俺がオーバーワークしたってのか」

「そうだ。体で表現できるパフォーマンス以上のことをすると肉体は悲鳴をあげるさ」

「俺はそんなヤワじゃない」

「知ってる。だからそうなってんだよ。どうする?まだやるか?俺は出来るぞ。身の丈にあったことしかやってないからな」


 この状態でやっても神坂の一方通行だ。立てない自分には抗う力はない。この上下の態勢がそのまま実力となっている。

「……参った。俺の負けだ。月城ぉ、俺の負けだ!」

「ならもういいか」

 神坂はそう呟き、月城がこちらに駆けてくる。


 ♢♢♢


「まさか臼木に勝つなんて…」

 月城は驚きを隠せない。

「見て分かっただろ。今は全然痛みもないがさっきまで俺は立つことすらできなかった。お前と同じだ」

「白ウサギ、お前何したんだよ!」

「その呼び名はやめろ舎弟。お前あとでしっぺな」

「いいから質問に答えろ…答えてください」

「はぁ…」

(言っていいものか。名彫の兄ちゃんにも言ってないんだけどな。まぁ舎弟にぐらい言ってもいいか。吹聴したり脅したりするようには見えないし)

 言い出しっぺの月城は勿論だが臼木も神坂の秘密が知りたいので神坂が二の言葉を繰り出すのをじっと待っている。月城も騒ぎ立てることただじっと待った。


「お前ら、超能力を信じるか?」


 ♢♢♢


「「超能力?」」

 2人の声が重なった。

「スプーン曲げとかサイコキネシスとかか?」

「そうだ」

「だが俺らは疲労しただけだぞ。超能力とは関係なくないか?」

「いや、ある。俺の能力は特殊なんだ。月城、さっきお前が言ってたのは間違いない。臼木は普段の全力で戦えていない」

「…周りの酸素を奪う能力か?」

「違う。だったら俺も影響を受けてるはずだ」

「お前が強くなった…じゃ俺が全力を出せなかった説明にならないな」

 2人は神坂の能力に皆目見当が付かなかった。だが2人とも超能力の存在を否定することはなかった。超能力と言われれば神坂の強さを説明できるからだ。

 しばらく2人は能力を言ったがどれも正解ではなかった。


「だぁーーー分からん!降参だ。教えてくれ。普通の能力じゃないんだろ?」

 月城がリタイア、臼木も答えが出ないようでタイムリミットでリタイアでいいだろう。

「じゃあ答えを言うぞ」




「俺の能力は相手の力を俺の力まで調整する能力だ」

「「はぇ……、ん???」」

 どうやら理解出来ていないらしい。

「お前らの症状で説明するとするなら、2人とも息が上がって筋肉痛みたいになってるのは俺が肺活量と筋力を俺のそれと同じにしたからだ」

「ん?え?それがどうして疲労するんだ?」

 月城は理解出来ていないようだが臼木は何となく掴んだようだ。

「なるほど、肺活量筋力がないのにいつものように動き回ったからオーバーワークになって体に影響が出たってことか」

「その通り。月城が俺らの戦いがチープに見えたのは俺のレベルの戦いだったからだ。当事者からしたら全力なのに周りからは弱く見えてるのはそういうことだ」

「なるほど、相手が強ければ強いほど勝てる能力か。恐ろしいな」

 臼木は概要を理解し、この能力の危険性に気付いたようだ。

「んー?まだイマイチ分からん。もっと分かりやすく説明してくれよ」

「えぇー、力を同じにする能力って言ってんじゃん。そうだな〜」

 そう言って神坂は黙った。また何か切り出すのかと待っていたが切り出すより早く声を上げる男が1人。


「ガッ、息……が…で、き…ない」

 突然月城が呻き声を上げ喉の辺りを抑える。

「どうした月城」

 臼木が駆け寄り手を尽くそうとするが月城の様子は戻らない。段々と顔が真っ赤になってきた。

「神坂!何をした!」

 臼木が吠えるが神坂は掌を見せてまあ待てとジェスチャーをする。

「んばはぁっ!はぁ、はぁ、死ぬかと思った」

 涙目の月城が目一杯息を吸い込む。

「三途の川は見えたか?」

「川じゃなくて走馬灯?ってやつなら見えたよ。13年の人生がグワァーて頭を流れてくんだよ。あれが死の間際に見えるやつか…」

「へぇ、本当にあるんだな。俺も見てみたいな」

 人を殺しかけておいて呑気な神坂。

「神坂、何をした。それも能力か?」

「俺は息を止めた状態で能力を使ったんだ。すると呼吸を止めた状態が共有されて相手も息が出来なくなる。こういう能力だ。身を以て味わっただろ」

「…俺、絶対神坂には逆らわないようにするよ」

 呼吸させないなんてチート技を見せられたら反抗心もなくなるってもんだ。


「んで、能力ありとは言え俺が勝ったんだ。舎弟は決定として、臼木的に自分より強い奴が現れてたらどうするつもりだったんだ?」

「簡単だ。そいつに従うだけだ。だから俺の要求はもう叶った。あんたに従う」

「俺もだ。よろしく頼むよ」


 こうして神坂は2人の舎弟を手に入れた。



「あー、よろしく。じゃあまず呼び方を決めようか。俺はまあ変わらず臼木と月城でいいや」

「じゃあ俺は神坂のことはふゆって呼ぶことにするよ雪兎(ふゆと)だろ下の名前?臼木はりょうでいいよな?」

「俺も下の名前で雪兎君と呼ぶよ。お前は月城のまんまだ。俺に勝ったら下の名前で呼んでやるよ」

「な、中々の目標するなおい。あぁ、ギャフンと言わせてやる!」

「じゃあ俺帰るね。勉強しなきゃいけないから」

「サボりのための成績維持か。俺も勉強を頑張るかな。底辺高校には行きたくないしな」

「俺もだ。あんな高校には絶対に入らん!」

 神坂はその熱の意味は分からないが話を知っている月城は理解しているので『一緒に良いとこ行こうな』と宣言して臼木の苛立ちを取り除いた。


「学校、行けとは言わんが休むのは程々にな。教師とも良い折り合いをつけることも大事だからな。じゃあ何かあったら連絡してくれ。じゃあな」

 神坂は返事を聞く前に土手を登っていく。

「おぅ!」「分かった」と上がっていく途中に聞こえたのを確認して振り返ることなく自宅へと帰っていった。




「反則じゃん。ってお前なら言うと思ってたがな」

 神坂が見えなくなった後月城に尋ねる。

「まぁびっくりしたけども、お前みたいに苦悩があるのは聞いてたからな。超能力者なのもそんな感じかなって思っただけだよ。俺らをこき使うってわけでもなさそうだし」

「ポジション的には友人って感じだな。…分かってると思うが神坂の話は」

「分かってる。他言はしない。あとふゆは能力があってもスペックは貧弱だから何かあったら俺達が守ってやろうな」

「当然だ。それが俺らの雪兎君への奉公になるんだからな」



 3人はそれからも平日にサボって出掛けたり、休日は遠出をしたりとそれなりに楽しい生活を過ごした。

 臼木敗北の話はうっかり月城が喋ってしまったせいで臼木の無敗神話の崩壊と臼木に勝った神坂のことが枝野中から幌谷中、足立区を超えて都内全土に及んだ。そのせいで幌谷中によその中学校が攻めてきたりとかなり大問題になったが臼木と月城が仲介で入り学校に被害が及ぶ前に叩き潰したことで襲撃もなくなった。直接学校に行ったら臼木が出てくる。幌谷の白ウサギとやるならちゃんと手続き(月城、もしくは臼木へのコンタクト)を取らなければならないという決まりが不良達の間で暗黙の了解として定められた。それでも大抵は神坂に行く前に2人が叩きのめすのだが、この前の足立連合は神坂を侮辱されて臼木が引き受けてしまったという特殊ケースだ。神坂が出張ることは滅多にない。



 幌谷中での神坂の扱いも変わった。

 学力の高さは周知されていたが喧嘩もあの伝説の臼木涼祢に勝ったということであまり好かれていなかった男子からの羨望が強くなった。女子からは最早アイドル的な存在となってしまった。神坂に一泡吹かせようと画策していた連中も暴力では叶わないと知るや一気に活動は水面下に沈んでいった。それでも時折地上まで波が立つので完全には消滅していないだろう。


『幌谷の白ウサギ』の名前は足立区だけでなく隣県にまで及ぶようになった。

 今までは『成績優秀のイケメン白髪』だったがそこに『腕っ節は東京最強』が付け加わった。ファンクラブは幌谷中だけでなく月城達がいる枝野中やその他周辺の中学校にまで広がった。

 規模が大きくなったため成瀬に寄せられる任務の大きさも比例して上がったため成瀬が頭を抱えてしまうのはまた別の話。



 こうして3人は出会い、仲良くなっていった。

 だが3人はまだ気付かない。喧嘩に応じない神坂をよく思わない勢力があることを。その勢力が幌谷内の反神坂勢力と結託し、神坂襲撃事件が発生するのだが、それはまだまだ先の話。

ようやく過去編が終わりました

そしてごめんなさい。次回も過去編です

あのキャラがようやく登場です

もう薄々気付いてる人もいるんじゃないの?

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