第32話 とある日常 神坂雪兎の場合
キーンコーンカーンコーン
チャイムの音が鳴り響く。授業開始の合図だ。
この時間は……理科だったかな。授業の内容はエネルギーについてだ。光エネルギー、熱エネルギー、そしてエネルギー保存の法則をやるらしい。
理科室まで移動して黒い机、何故か高圧噴射するノズルの細い水道管、4つの内1つの側面だけ蓋がされている木製の椅子。教室の後ろには人体模型が内臓をこんにちはさせて立っているのだ。
そして夜中になったらその目がギョロリと動き出す。理科担当は特性なのかは分からないが寡黙なおじちゃんだ。
授業中に眠ってしまうくらいにはトロイ授業を行う。これまで何度被害を受けた生徒がいたことか。
そのくせ眠ってる奴やお喋りをしている奴には容赦なく意欲態度の項目の点数を下げる。まぁ面倒この上ない先生だな。嫌ってる奴等も多い。
だが反抗しようものならよりやられるだけだ。
やってることは間違ってないから責めるにも責められないしな。ただ厳しいだけだ。
けど、成績が優秀な奴にはとことん甘い。
授業をしっかり聞いて点数を取ってりゃ当たりはいい。授業の質自体は高いからな。ゴチャゴチャ言ってんのは授業をちゃんと聞かない間抜け共だ。
全く、中学教育ぐらいで躓いてるようじゃ将来が思いやられるってもんだ。俺も言えた義理じゃあないがな。
だって俺授業出てないし…ハハッ。
ここは幌谷中学校。
都内にある公立の中学校でごく普通の中学校だ。
特に秀でた部分もないが吹奏楽で有名らしくよく全国大会にも出場しているらしい。演奏を聴く機会は同じ校舎にいるのであるが、正直な話よそとの違いが分からん。表現の素晴らしさとか言われても素人目に見て同じにしか見えない。壮大だなーぐらいの感想しか出ない。
あと校舎が狭いことか。体育大会はいつもギュウギュウで行われる。近くに陸上競技場があるんだからそこでやればいいのに何故かいつもグラウンドで行われる。
公立だから金がないのか古臭い伝統やら何やらで校内でやることに拘っているのかは知らないがもっと現状を鑑みて最善を尽くしてほしいもんだ。
俺の名前は神坂雪兎。
雪と書くが読みはふゆだ。よく『ゆきと』と読み間違われる。
肌は透き通るように白く、髪色も白く、名前も体も白っぽい男である。
とても清廉な男に見えるかもしれない。だがそんなことはない。理由は簡単だ。素行が悪いからだ。
体も華奢で細くとても不良とは思えないが不良である。
現に神坂は学校にはいない。学校から少し離れた河川敷で連れと戯れている。学校はそんな非行少年は生徒指導で正しく導かなければならないが神坂にそんなことをするやつはいない。
簡単だ。神坂は成績が学年1位なのだ。成績が優秀なため教師も叱るに叱れないのだ。授業をサボり、給食や昼休みだけ学校に戻ってきてまたサボる。
授業も受けることはあるがそれでも集中して受けている様子でもない。
入学当初はめちゃくちゃ問題になっていたが教師が授業で問題を解かせると正解。1年の最初のテストで1位ともう訳が分からなくなっていた教師も多い。
非行に走っているが節度をわきまえているため警察のお世話になったこともなくあくまで学校をサボっているだけだ。
大人を納得させるには明確な数字という根拠を示すことと言われるが正に神坂がそうだろう。
学校も神坂には一切の不干渉を決め込んでおり神坂にもテスト、行事、最低限の出席、成績の維持をしていればサボりは不問にする。問題行動を起こせば即刻処罰すると神坂に伝えており、神坂自身もそれに了承している。
理科の先生が休みの神坂に点数を下げないのも時たま受ける授業で神坂が好成績を取るのが嬉しいからのようだ。
これは、そんな自由な男の物語。
♢♢♢
「いいよなー、ふゆは、学校公認でサボれるなんてさ」
神坂の連れである月城泰二がボヤーっとしながらボヤく。
月城は神坂と違う中学校に通うこちらもサボりである。
「だったらお前も学校で1番を取ればいい。中学の勉学なんてそんな難しいもんじゃないぞ」
「無茶言うなよ。俺は超が付くほどの馬鹿だぞ。補習なんてしょっちゅうだし先公にもいつもキレられてるし」
「なら学校行けよ。正直ここで駄弁ってても何の意味もないぞ。お前が集まりたいって言うから今日集まってんだ。なんならもうおひらきにするか?」
神坂は立ち上がって尻に着いた砂や汚れをパンパンと叩いて落とす。
「言っただろLINEで。ふゆ宛に果たし状が届いたから指定されたここで待ってるって。これでバックれて学校に突撃されたらふゆだって面倒だろ?」
「問題行動を起こすなって言われてるからな。けど巻き込まれに関しては不問にするって言われてるけどな。これは巻き込まれに当てはまるんだろうか?」
「学校を巻き込んだら流石にヤバいんじゃないの?」
「それなら俺のことが公になった時点でヤバいんじゃないのか?」
「前も言ったけど充分ふゆのことはみんな知ってるからね。それこそりょうとの一件以来。学校も不良を成績優秀生徒にして評判が上がったって言ってたじゃん」
「まあそうなんだけどよぉ……はぁ、てかそもそも何で果たし状なんて受け取ったんだよ」
「俺じゃねーよ。りょうが受け取ったんだよ」
月城は隣にいる大男を睨みつける。
「…すまん、彼奴ら雪兎君のことを馬鹿にしてたからつい…」
「あのねぇ、俺のために怒ってくれたのはいいけどさ、だからって俺の強さを証明させるために喧嘩を受けることはなかったろう?」
「すまない」
口数の少ない太い声、彼は臼木涼祢、月城と同じ中学に通う大男だ。
腕っ節なら東京最強と言われている。だがそれも過去の話。
そんな男が何故体の細い喧嘩なんてやったことのないような神坂を雪兎君と呼び、慕い従うのか。それは明白である。
神坂の方が臼木よりも喧嘩が強いからである。
「んで、相手さんはいつ来るんだよ」
神坂はずっと河川敷で待たされているのに我慢出来ず怒りのこもった声で問いただす。
「もうすぐ来るって…、ほら来たよ」
月城が上の堤防の方を指差す。
「……多いな」
神坂が呟く。
「…多い」
臼木も同じく。
「あれ?こっちは3人だって言ったから向こうも同数で来ると思ったんだけど」
「いやいやいや、20は軽くいるぞ。お前何か変なこと言ってねーだろうな?」
「いやぁ、言ってないけどねぇ。ただ、東京最強を狩れるぐらいは用意しとけ馬鹿とは言ったけど」
「答え出てんぞオイ!臼木、何で止めなかった……は聞くまでもないかぁ…」
「月城と右に同じく」
はい分かってましたよ。そういう奴らだもんなお前ら。
はぁ〜、と誰かに聞かせるつもりなのかと言うほどに大きな声で溜息をつく。
実力のある臼木はともかく月城は虎の威を借る狐ってわけではない。神坂や臼木ほどではないが月城もそれなりに腕は立つ。
神坂が20余人を眺めるがこれだったら3対1に追い込まれても月城はやっていけるだろうと見積もる。臼木は言うまでもない。
しかし、3人の中では1番強い神坂だが、彼はタイマンで力を発揮するタイプだ。
神坂は体格の通り喧嘩が弱い。だがこの中では1番強い。相手さんも含めて。
「お前がリーダーの神坂か?」
集団の中から飛びっきり強そうな奴が前に出る。おそらくグループのリーダーだろう。
「あんたらはどこの学校だ?」
「足立区立の学校から腕っ節を集めた謂わば連合軍だよ。枝野中の月城に臼木、『幌谷の白ウサギ』で東京最強の神坂で間違いないな?」
その白ウサギって名前は止めてほしいもんだ。格が下がってる気がするんだが。
「連合軍とは大層なもんだな。足立第三の飛魚さんよぉ」
「月城ぉ、テメェの言った通り数揃えてきたぜ。お前ら3人にどうこうできるのかぁ?」
煽り合いと言うのか既に前哨戦は始まっている、が…。
「くっくっくっくっ」
神坂がその場の様子に耐えきれずに笑いが溢れてしまう。
「おい、何笑ってやがる!」
後ろに控えていた奴が神坂に怒鳴る。
「いやー、あんたらは俺らに勝てるほどの頭数を揃えてきたんだろう?てことはよー、それだけの人数が揃ってやっと俺らとイコールってことだろう?足立区の腕っ節ってのも大したことないなぁって思ってさ、あっはっはっはっ」
喋って手で抑えられないのか普通に笑い出してしまう。
「なっ、てめえら!ぶっ殺してやる!行くぞテメェらぁ!」
「「「オォー!!!」」」
その合唱とともに集団が堤防を降り、神坂達に迫ってくる。
「はぁー、面倒だなぁ。おい月城、奴らは何て言って臼木を怒らせたんだよ」
「あぁ、臼木があんな細いやつの後ろにくっ付いてるなんて臼木も大したことねーじゃん。あの細いのぶっ倒せば俺らが東京最強になれるんじゃねって言ってたよ」
うん、俺がバカにされてる要素が全く見当たらないんだが。けど臼木的には俺がバカにされてると感じたのか…。舎弟、って括りで言っていいのか分からんが慕う者にはそう聞こえたんだろうな。ちょっと嬉しいじゃねーか。
「臼木、月城、お前らが蒔いた種だ。お前らだけで何とかしろ。俺は今回に限ってはバーターだからな。臼木はいつも通り締めは頼むぞ」
「分かった」「任せとけ」
月城と臼木も集団に走っていき迎え撃つ。
♢♢♢
さあ始まりました、神坂グループvs足立連合。
解説は私、神坂雪兎がお送りします。
普通は相方を付けて解説をするかと思われますが生憎私の周りには誰もいないので寂しく1人で喋っていきます。
さあまずは対戦者を紹介しましょう
まずは神坂グループ。なんと神坂グループはたったの2人しかいません。足立連合は20人以上いるのにどういうことでしょうか?雇用が足りていないのではないかと疑ってしまいます。
少人数なので2人とも紹介したいと思います。
まずはあの金髪ツーブロック、月城泰二君です。彼は足立区にある枝野中学校に通う中学2年生。中学生なのに金髪なんて相当の悪ですねー。
神坂は自身の髪色が白いことを棚にあげる。染めている月城と違って神坂は地毛なのだが。
昔から非行に走っていたようで補導されることもしばしばあったようです。
しかし、神坂雪兎と出会ったことで改心して今では普通の悪です。
普通とは……。
次に紹介するのはあの大男、臼木涼祢君です。月城と同じく枝野中学校に通う2年生。
彼の名前は都内の不良の間では有名で小学校4年生の時に複数の高校生相手に喧嘩で勝つという偉業を成し遂げました。都内最強との声も高い少年です。
今では私に付き従ってくれていますが最初会った時は力をひけらかして好き放題、ってわけではありませんがモテモテで私のように学校をサボることが多い子でした。
ですがこの善良なる小市民である私との勝負に敗北したことで今では私に付き従い、サボりは直っていませんがしっかりと勉強するようになったみたいです。
さあ対戦相手である足立連合の方々ですが……知らない奴ばっかりなので飛ばします。リーダー格は飛魚と言うらしいですね。太平洋でも泳いどけって感じです。
見た目は体格もぎっしりしていてそれぞれ学校では1番を張れるような男ばっかりです。臼木の有名に埋もれた足立の猛者と言えばいいでしょうかね?
さあそろそろ実況をしていきましょう。
喋っている間にも試合はもう後半戦になってまいりました。
いやー、しかし強いですねあの2人。
月城は衝突するや否や強烈な蹴りをお見舞いし足が速いので俊敏生を活かして戦場を駆け巡っています。
一方臼木は強靭な体格で足は遅いですがウェイト、フィジカルでは十分な力を発揮し集団で襲われてもビクともせずに腕の一振りで数人を一度に葬っています。
そんな感じで2対20もの差がありましたがもう既に半分以上は倒れており戦えるのは残り6〜7人です。
「クソが!」
おおっと、モブAと月城が対峙している中モブBが月城の背後から金属バットを振り下ろす。
だが後ろに気付いた月城がモブAに近付きモブAを振り回してモブBに向けてぶん投げる。モブBはAが来ているのは分かっているが今更スイングを中断できず振り下ろされたバットはモブAの背中にダイレクトアタック。
濁音の鈍い音が背中から聞こえてきます。
Aはそのまま地面に倒れてしまって起き上がれない。Bは仲間を傷つけてしまったことで軽くテンパってしまってます。月城君はその隙を逃さない。
Bに向かって走りだし右ストレートを顔面に叩き込みます。
臼木君はどうでしょう。
戦える残りの連合軍が臼木と相対しています。飛魚もいます。しかし攻めあぐねている。臼木の射程から外れた場所でどう攻めるのか機会を伺っています。
しかしA、Bがやられたことで月城が応援に駆けつけると考えた連合は無謀にも360度攻撃を仕掛けました。5人いるのでこれをペンタゴンタックルと呼びましょう。
さあペンタゴンタックルが………決まったーーー。ドンっという接触した音が五重に響きます。さあ流石に臼木も辛いか〜〜〜。
………………
う、動かない。
顔は痛みに歪んでいる様子もなくまるで3歳児が膝にしがみ付くのを温かい目で眺めているようです。変化のない臼木に連合も焦りが出ています。
失敗したので離れようと試みますが既に臼木の射程距離内、退こうとしたところに臼木の両手ラリアットが炸裂ーーー。
2人が倒れます。残りの3人のうち、臼木の元に駆けつけた月城が脇腹を蹴り上げて1人はダウン。
もう1人は逃げ出してしまいもう1人、飛魚も同じく逃げようとしますが逃げた先には何と神坂、私がいました。
「無茶苦茶どもめ、せめてお前だけでも!」と言い私目掛けて拳を突き出します。
何度も言うが神坂は喧嘩が弱い。
パンチなんて臼木のと比べたら幼稚園児だろう。
月城と普通に喧嘩しても間違いなく月城が勝つだろう。それは飛魚が相手でも同じことだ。
飛魚の拳が当たれば流血し、痛みに耐えきれない神坂は泣き出し、当たりどころによっては気絶すらするだろう。
だが…
ゴッ!
飛魚のパンチが神坂を捉えた。飛魚は自身の通う中学では1番強い。自分の拳が相手にどれくらいのダメージを与えるのかは理解している。
それはひ弱な相手も想定してだ。神坂ほどの体格ならまず立ってはいられない。
体重も常人以下であろう神坂では吹っ飛びこそしないが体のバランスが保てず地面に倒れるはずだ。
だが神坂は倒れない。パンチの勢いで数歩後ろに下がったが膝曲がる様子はない。
当たった感触はある。殴ったところは少し赤くなっており殴った時に神坂は軽くウッ!と痛みに応えていた。
それだけだ。
この反応は自身と同じ実力を相手にした時ぐらいだ。つまり神坂と飛魚は同程度の実力ということになる。
「痛ぇー、やっぱり殴られるとかなわんわー」
神坂は顔に手をやり痛みを訴えるがリアクションはそれぐらいだった。
「俺は巻き込まれただけだからやりたくなかったのになー。一発もらったら一発で返さないとな」
神坂はそう言うと拳で飛魚を殴った。
「ウッ!」
飛魚は神坂の拳を顔面に受ける。痛みがジンジンくる。殴られたところは赤くなっている。
痛みはあるがそれほどの威力というわけではなかった。これならまだタックルして無傷だった臼木の方が絶望感は上だった。
(この程度の奴が臼木に勝っただと…、ありえない。神坂で勝てるなら俺でも勝算はあるはずだ。不意打ちや反則で勝ったのか?いーや、それで負ける臼木ではないはずだ。東京最強と言われていた臼木がそんなチャチな手段で負けるとは思えない。何よりそんな手段で負けたのなら神坂と一緒に行動する理由が分からない。臼木が従うと決めるほどの圧倒的勝利を神坂はもたらしたということだ。だが分からない。こいつは…、神坂は…、一体何者なんだ!?)
飛魚は神坂のことを考察するが答えは見つからなかった。
そして神坂は、
「臼木、残飯処理だよ。あとよろしく〜」
神坂は向こう側にいる臼木に呼び掛ける。もう自分で戦うことはしないようだ。
そのまま飛魚の横を歩いて通り過ぎていく。
「待て、俺と戦え!まだ終わってない!」
飛魚は振り返って神坂に声を上げるが…。
突然視界が真っ暗になった。
「はっ?えっ?何だぁ?」
突然のことに戸惑う飛魚。
今はまだ朝の10時だ。とっくに日は昇っているし日没時間でもない。
6月にしては珍しく今日は快晴だ。光を遮るほどの雲もなかった。なのに今自分は何も見えない。
「無理だ無理無理。真っ暗だろう?俺の姿すら見えないはずだ」
前方から神坂の声が聞こえる。いるのは確かだが見えない。
ザッザッと雑草を踏む音が前方から聞こえるだけの世界。飛魚は見えないながらも音を頼りに走って追いかける。
距離感が分からないので走り続けるしかない。
ドンッ!
飛魚は何かにぶつかってよろめいてしまった。
神坂に当たったのか?そう思ったが全身でぶつかったのですぐに違うと気付いた。
神坂は覚えている限りでは自分より背が低かったはずだ。もしぶつかったとしたら胸や腹、足だけがぶつかっていなきゃおかしい。
そして、自分が顔もぶつかるほどの壁なんて1つしかない。
「飛魚とやら、終わりだ」
上から太い声。臼木だ。
臼木は飛魚が反応する間も与えず飛魚を殴り飛ばした。飛魚の体は宙に浮き顎を確実に殴ったため脳が揺れる。
もう飛魚にまともな判断能力は残っていないだろう。視界がない中で聴覚も嗅覚も触覚も感覚も奪われた飛魚は雑草を超えた川そばの石地帯まで飛ばされて、気を失ってしまった。
「ふゆ、こいつどうする?」
戻ってきた神坂に月城は掴んでいるモノを見せて尋ねる。
それは逃げていったもう1人だった。襟首を掴まれ身動きは取れない。
「どうするったってなぁ、どうしようかねー?」
神坂も処理をどうしたらいいのか決めあぐねていた。だが1つだけ言いたいことがあったのでそれだけ言うことにした。
「お前らよー、俺らに喧嘩ふっかけるのはいいけどよ、時間を考えようや。俺は学校はサボるが最低出席日数は満たさなきゃならないのよ。こんな昼間に果たし合いを仕掛けるのはやめてくれないかな?放課後でいいだろう放課後。あとは場所も考えろよな。学校に迷惑をかけるようなことをしたらただじゃ済まさねーからな。倒れてる奴らにも伝えとけ。分かったな」
「は、はい、分かりました」
完全にビビってしまっているモブC。
「月城、もう離していいぞ。おいお前、こいつらをちゃんと持って帰れよ。おい、帰るぞ」
「はーい」
月城は掴んでいた襟を離してCを解放する。
そのまま帰路につく。
臼木も合流して3人で土手の階段を登っていく。
「これからどうすんのー?」
「学校行くに決まってんだろ?今から行けば2時間目には間に合うからな。お前らも行っとけよ学校」
「ふゆは真面目だなー。…真面目かなー?」
自分で言って自分で頭にハテナを浮かべる月城。
こんな時間にここにいること自体真面目とは言えないだろう。
「分かった。着替えて学校行くよ」
臼木は素直に言うことを聞いて学校に行くようだ。
「えぇー、まぁりょうが行くなら俺も行くよ。めんどくさいなー」
月城は乗り気ではないが臼木も神坂も学校に行くとなると自然と1人になってしまうので渋々学校に行くことにする。
「じゃあな。もう変な果たし状なんか引き受けるんじゃねーぞ」
最後に2人に忠告してそれぞれ別れる。
♢♢♢
疑問に思うだろう。神坂雪兎について。
月城や臼木に勝ち、飛魚とも互角の力を持っている
だがやはり優劣がおかしい。
神坂>月城、神坂>臼木、臼木>飛魚の力関係なのに神坂と飛魚の力関係は神坂=飛魚なのである。
上記から用いて2人を表すならば神坂>飛魚になるはずである。なのに2人は拮抗しており神坂はトドメを臼木に任せた。
言うまでもないが臼木と飛魚では臼木>飛魚である。月城と飛魚でも多少は時間が経過するが最終的には月城が勝っただろう。
神坂は臼木より強い、臼木は飛魚より強い。しかし神坂と飛魚は互角。これは読み違いでもなければ書き間違いでもない。
これは事実だ。
では何故こんなおかしなことになっているのか?
答えは簡単。
神坂雪兎にその謎を生み出す力があるからである。
そう、神坂雪兎は超能力者である。
神原奈津緒、神岐義晴と同様に10年前に白衣の男、ドクターによって超能力を与えられていたのである。
当時4歳
その時のことはほとんど覚えていない。
唯一覚えているのは誰かが自分を庇ってくれたということだけである。
自分以外に2人いたこともドクターのことも何も覚えていなかった。守ってくれた人がいたことだけ覚えていた。
どういう状況でそうなったのか?何故超能力者にされたのかは何も分からない。神坂の中にあるのは自分を守ってくれた人にお礼を言うことである。
幼稚園児の神坂はそれをずっと夢だと思っていたが、自身に超能力があることを知ってそれが現実のことだと気付いた。
しかし、守ってくれた人が男なのか女なのかすらも分からないため何も出来なかったのだ。
もし会えるのなら、お礼を言いたい。素行は悪くなっているがいつかお礼を言いたいと神坂は常々思っている。
自分がこの力を備わったのはその人にいつか恩返しをするためだと神坂は考えている。
(あなたに顔向けできるほど良い人生は送っていませんがあなたに守られたことはずっと大切にしています。もしあなたに会えるのなら、俺の力で今度は俺があなたを守ってみせます)
神坂はずっと抱えてきた誓いを胸に学校へと進んで行く。
神坂雪兎
能力名:???
詳細不明
臼木涼祢
能力なし
月城泰二
能力なし
第3章スタート
次回は3人の出会いについてです




