第29話 神岐義晴vs高鬼④
神岐は部屋から脱出する。
後ろには針の軍隊が押し寄せる。
(やたら小さいなと思ってたがまさか針か。手芸屋で買ってきたか。なるほど、一度に複数扱える高鬼の能力ならナイフ一本よりも有用だな。針の筵にするつもりのようだな。肺や心臓に刺されたらマズイな)
神岐はドアを閉めて針がこれ以上来ないようにする。
ガガガガガガ
ドアに針が突き刺さる音。
突き破りはしなかったが人間の肌なら余裕で貫通しそうだ。
だが助かった。丹愛が倒れていたのは僥倖だ。
丹愛は倒れている状態で針ケースを投げて能力を使った。
仰向けで物を投げたら飛ぶ高さは腕の位置が下がってる+大きく振りかぶらず力が乗らないため通常よりも低い。
そのため針ケースから針が取り出されたのは神岐の頭部ほどの高さだった。
横からの攻撃なら躱せる可能性があるがこれがもし縦、上空からの攻撃だったら危なかっただろう。
雨のように針が降ってきたらとてもじゃないが神岐であっても全て避けることは出来ない。
それに神岐は武器を持ってないので針を撃ち落とすことも出来ないのだ。いや、あるにはある。
丹愛から取ったナイフが。
しかし、刃物などは料理でしか使ったことがない。
勿論だが食材が飛んでくるわけがない。神岐もナイフで落とすという発想自体がなかった。だからナイフで応戦せずに逃げた。
そもそも一瞬のことでそれが念頭になかったと言う方が正しいか。
しかしそれは正しい判断だった。
自身の視界を覆いつくす針の数。素人のナイフ術で捌けるわけがない。
(さて、このまま下に降りたいところだが、高鬼相手に低い場所で戦うのは自殺行為だ)
これは丹愛相手にではない。
高鬼の重要なところは操作物が丹愛よりも高い位置にあることである。
攻撃対象が丹愛より高いところにいようが低いところにいようが関係がないのである。
丹愛より下にいれば雨のように、丹愛より上にいれば突風のように武器が襲う。
それでも武器の位置を相手より高くすればどこにいようとも雨である。いや、それは最早台風と言ってもいいだろう。
(それでも下に行くしかない。丹愛よりも低い位置にいれば攻撃は直線になる。丹愛より下に武器が移動すればその武器は能力がなくなり重力に従って落ちるだけだ。高鬼の加速がある分スコールのようになるがそれで高鬼の支配が消えるならマシだろう。問題はそれを如何に凌ぐかだ)
ドアは依然閉められている。ドアの向こうで丹愛が何をしているのか分からない。
まだ倒れたままなのか。それともドアに刺さってるかもしれない針を戻していつでも攻撃出来るように準備しているのか。
確認したいところだがもし後者だった場合は一発アウトだ。
危険な博打は出来ない。これは下に移動するべきだ。
下なら細かい操作は出来ない、落とすだけだ。丹愛の視覚がなければ攻撃は必中ではないのだ。
神岐は階段まで駆けていき、丹愛の様子を見ることもなく階段を降りていった。
「はぁ、はぁ、いてーなぁ"」
丹愛はようやく地面と背中合わせの状態から体を起こす。
鼻から血は未だに出ている、が、だいぶ治まった。
起き上がったことで鼻が心臓よりも高い位置に来たからだろう。顔の血を拭き取っていく。
「…逃げたか」
針塗れのドアを眺めて呟く。何本かは刺さったまま横にピンと張っているような形だが他は刺さることなく地面に落ちていた。
神岐が階段を下りる音がさっき聞こえた。どうやら低い位置の方が攻撃を受けるリスクが低いことに気付いたのだろう。ただ距離を取ったかもしれないがそれでも正解を選んだことには変わりない。
高い位置は視覚の妨害がなければ裸と一緒だ。
もしこの建物が透明で神岐の場所が分かっていたのならナイフを飛ばしてすぐに終わっていただろう。
「これぞ文字通り高鬼だな。俺の方が上を取っている」
丹愛はフラフラながらも立ち上がってドアに刺さった針を抜いてそれを上に投げる。地面に落ちたのもだ。
ドアに刺さった針は全て抜いて高鬼でコントロールした。
神岐はもう5階にはいない。4階以下か外に出ているか。
また小石を使って神岐の居場所を探そうと思ったが先ほど殴り飛ばされた時に小石は外に捨てられてしまった。
よって丹愛の武器として使えるものは針の束とビニール袋に入ってるまだ使ってない武器だけだ。
ナイフを取られてしまったのは痛い。
上記2つでは息の根を止めるには今ひとつだ。
(ブーツに仕込むなら両方に用意するべきだったな。何で片側だけにしたんだよ俺!)
丹愛は自身の判断に後悔する。
神岐をナイフ一本でやれると内心過信してしまったのか。だがクヨクヨと後悔はしてられない。神岐の居場所を見失ったのだ。
さっきは下から神岐を攻撃したが今度は上から神岐を攻撃する。
何とも言えないがそれでも戦わなければならない。
どんなに情けをかけられようとも、どれだけハンデをもらおうとも。内心では分かっている。
神岐は俺に合わせてくれていると…。
トイレ前で、そしてここで、少なくても2回、神岐は勝っていた。
それを情け、余裕でこちらにいいようにしてきた。心の中では神岐に勝つのが無理だと分かっている。
これだけの戦闘をしたんだ、ドクターも満足するだろう。
もしこれを零兄には隠れ鬼を使わないように言ったがもし能力でこれを見ていたとしたら、呆れるだろうか?
そのことをドクターが知ったらどう思うか?
無理はするな。君は大事な仲間なんだから、と言うだろうか?
神岐君は強かった。相手が悪かったなと慰めるだろうか?
慰めほど惨めなものはない。
だからこそ、神岐を殺さなくてはならない。
自身の余裕、過信、全てを外に放り出して神岐に勝つ。確かめる?それはもう十分に達成した。
これはもうエキシビションだ。俺の俺による俺のための闘いだ。
丹愛は針を使い、小石の時に行った索敵を開始する
ビルの構造は全て把握した。
単純な数の総和だけみれば小石の時よりも針の方が断然多い。さらに一個一個が小石以上の攻撃力を持っている。
神岐に当たれば必ず痛みで呻き声を上げるだろう。
丹愛はフラフラで壁に手をつけながらではあるが神岐を追いかける。
♢♢♢
逃げられないというのはもどかしい。それが神岐が感じたことだ。逃げようと思えばすぐに逃げられる。だが敵に監視能力がある以上逃げたって事態は変わらない。
ならば敵が1人しかいないこの瞬間に勝負を決めるべきだ。それは理解している。
だが、トイレとさっきの殴り飛ばしたので既に2回勝っている。
3度目の正直を狙う向こうさんと2度あることは3度あるの俺。
めんどくさい。
相手の誤解に付き合うのもそろそろ飽きてきた。
時間帯は…3時か。
神岐は付けていた腕時計で時間を確認する。
そろそろ終わり時かな。向こうさんも針を使ったんだ。まだ武器を忍ばせているだろうからそれを見てから終わらせよう。
神岐は建物の外にいた。
2〜4階層だと上から武器を落とさせて逃げても回収されてしまう。
なら最初から最下層にいるのが相手の攻撃手段を減らす意味でも最善だ。
地面に落ちたのを拾って上に投げるには数秒時間がかかる。神岐の運動神経なら数秒あれば間合いは十分に詰められるだろう。
さっきも既に高鬼で小石を操作している状態でも攻撃が当たるまでに1秒近く掛かっていた。
それが準備も出来てない状態なら例えさっき以上に丹愛との距離が離れていても問題ないだろう。
いや、これは…
丹愛は神岐が隠れていないか慎重に調べながら階段を降りていた。
針の索敵を各階に展開し神岐がうつ伏せになっていても場所を探知するように徹底的にだ。
そして2階にもいないことが分かった丹愛は1階に降り立つ。
「難しい能力だな高鬼ってのは!」
ビルの外で再び対面する2人。
「どういう意味だ?」
「俺が1階、アンタが2階なら攻撃を避けてもアンタと離れていて攻撃出来ない。アンタの攻撃手段は封じれるけどな。お互いに同じ階層に入れば俺は直接攻撃出来るチャンスがあるがアンタより下に俺がいないから攻撃が消えることがない。ここは斜面でもないしな。俺は下にいれば勝てると思ってたがこれは難しいな」
丹愛はイマイチ神岐の言っていることが分かっていない。何を言っていいか分からない様子だ。
「簡単に言えばアンタの能力は強いってことだよ。最初に言ってた通り大きい武器を持ってこられたらこっちはやられてたな」
「それはどうも。だが能力を使ってないアンタにここまでやられてるんだ。アンタは超能力関係なしに強いよ。能力依存じゃないのはデカイ。お互い能力なしの殴り合いだったら絶対に俺が負けているからな。だがこうして超能力の存在1つで戦いは大きく変わる」
「同感だ」
互いが互いを認め合う。
これが昨日の敵は今日の友と言うのだろうか。
まだ1日も経ってないが。
「さぁ、終わらせよう。もうだいぶ時間が経っている気がする」
「店で会ってからどれくらいだ?1時間は経っているか?まだ周りにバレてないのが不思議なくらいだ。音は結構大きいの出てるのにな」
「たまたまだろ。じゃあ行くぞ」
最後の戦いが始まろうとしている。
「さっきはドアに阻まれたがここにはドアの代わりは何もないぞ。いいのか?」
「何もないもんは仕方ないだろ。盾になりそうなのがないんだし。俺はナイフ一本だぞ。ナイフで弾いてもアンタの高鬼の支配からは解放されないだろ?棚を使ったみたいにそれ自体の動きを封じるしかないんだろう?」
「そうだな。動きを止めたいならナイフで弾くんじゃなくて手で掴むしかないだろうな」
丹愛の頭上を針が浮遊している。
「おいおい、無茶言うねぇ。一本掴む間に何本に刺される?これは躱しながら一本一本動きを止めるしかないだろうな」
「殺す気で行く」
「どうぞお構いなく」
丹愛は頭上の針を神岐に飛ばす。
神岐は入口の門と建物の入り口の間にある草がボウボウの空間に走っていく。
針もまた神岐を追いかける。
(門の外に出てもいいがこれだと俺の勝ちの望みがなくなってしまう。ここは庭、って言っていいのか分からないがこの庭の空間で丹愛から見えない死角に入りながら応戦していく。見えなくなれば針を広げて探すはずだ。そうすれば1つ1つの間隔が空く。それを繰り返して針の数を減らしていくしかない。さっきのようなジャンプで能力を解除させる方法はもう通じないだろう。そもそも奴に近付くことができない。そしてこの針の数、いや、もうそれはもう問題ない。既に終わっている)
神岐は建物の陰に逃げ込む。
これで丹愛から正確な位置は捕捉されないだろう。針も陰に入ってくる。
予想通り針は神岐を真っ直ぐ狙うことなく面積を広げ始めた。丹愛の死角に居続けて針の動きを封じて奴に近付く。丹愛は高鬼の維持で追いかけることは出来ないはずだ。
庭の地形を把握してないだろうし、これだけの量を操作しながら自身も動くのは難しいだろう。頭がパンクしてしまう。
せいぜい歩く程度だがあの手負い、集中力は普段の状態以下であるはずだから動くことは出来ないはず。
(1番厄介なのは挟み撃ちされることだ。反対側から針を迎えされられれば俺はなす術なく終わるだろう。この10数秒、これを耐えきれば終わりだ)
針が少しずつ向かってくる。挟み撃ちを考えるなら逃げすぎても同じだ。ゆっくりゆっくり下がり、場所がバレないように退く。
それだけでいい、バレなければこっちのもんだ。
(無理だ。そっちから逃げたとしても反対側からも針を移動させれば挟み撃ちになって神岐の居場所は自ずと分かる)
丹愛は反対側からも針を神岐の元に向かわせて神岐を追い込む。
攻撃をすることを考えるなら同じ階層にいるというのは一理あるが丸腰の神岐にはそれはどっちだろうが詰みだ。
丹愛は今度こそ勝ちを確信する…が、
(いや待て)
丹愛は思い留まる。
(なら何故庭に逃げるんだ?塀は十分死角になるし距離が離れれば動けないこっちには場所を捕捉する手段はない。何故挟まれる庭に行くんだ。まさか…)
丹愛は神岐が門の外に何か仕掛けを施したのではないかと思い門の外を調べようと思い門の方に向かおうとした。すると……
「ねぇおじさん。ここで何してるの?」
門の前に半袖半ズボンの子供がいた。そばに自転車がある。
おそらくショッピングモールに向かおうとここを通った時に気付いたのだろう、と丹愛は思い、
「何でもない。早く向こうに行きなさい」
少年に向こうへ行くように促すが、
「ここってもうすぐ壊れちゃうんでしょ?何でここにいるの?作業服着た人じゃないよね。おじさん誰なの?」
「何でもないって、あとおじさんじゃないから。さあ行った行った」
「おじさん悪い人だ。ここは入っちゃダメだって言われてたもん。おじさん出なきゃダメだよ」
「しつこいぞ!どっか行けって言ってるだろ!」
「ヤダ!悪い人の言うことは聞いちゃダメって先生言ってたもん!」
丹愛が子供を追い返そうとするが子供は先生に教わったことに忠実に従いそれに抗う。
「悪い人がいたら警察を呼ばないと」
子供はからっていたリュックを下ろし、何かを探す
警察を呼ぶと言っているから携帯電話の類いだろう
(くそっ、警察を呼ばれるとマズイ。何でこのガキこんなに強情なんだよ。神岐がこっちに逃げなかったのはこのガキが来るのが見えたからか?てことはこいつは神岐の催眠にかかっている?いや、掛かっているならさっさと警察に電話すればいいはずだ。おそらく掛かっていない。奴も警察を呼ばれるのを嫌がっていたはずだ。ただのガキだ。しかしどうやって警察を呼ばせずにどっか行かせるか。仕方ない。こいつは神岐の動きを封じるように買っておいた物だが仕方ない)
「確かにお兄さんは入っちゃいけない場所に入っちゃったけど理由があるんだよ。お兄さんはね、マジシャンなの」
ここから上手く凌いでやる。
「マジシャン?それって手品をする人?」
「そうだよ。お兄さんは手品の練習のためにここにいたんだよ。手品の練習は人に見られたらいけないからね」
丹愛の策、それは自身をマジシャンと偽り子供に納得させることだ。
「おじさん手品出来るの!凄い凄い、ちょっと見せてよ!」
よしよし食い付いてきた。
「いいよ、でも見せたらすぐに行ってくれるかな?」
「うん、約束する」
子供は笑顔で頷く。チョロいな。
高鬼をこんな遊びで使いたくないがこれは緊急事態だ。仕方ない。神岐の方に集中出来ないから針を操作出来ない。不規則に動かして針を触れないようにしつつそれを神岐の周りに囲って檻にすれば動けなくなるだろう。
まずはこの子供の処理が先だ。
丹愛はビニール袋から青いボールを取り出す。
「これを持ってごらん」
丹愛が子供にボールを渡す。
子供はそのボールを受け取るとそのまま下に落としてしまった。
「このボールすごく重いよ?」
頑張って持ち上げようとするが踏ん張ってもピクリともしない。
「そうだろう?このボールはトレーニング用で普通より重いボールなんだよ。これを今から風船みたいに浮かせてみるね」
「無理だよおじさん。そんな重いボールが浮くわけないじゃん」
「まあまあ見てなって」
丹愛はボールを拾いあげる。
「これを上に放り投げるよ。普通ならこのまま下に落ちるけどこれが落ちないんだ。見ててね」
丹愛は2キロのボールを上に放り投げる。
そして高鬼を発動させてボールを空中で固定した。
「凄い!落ちてこない。何で!?」
「これがマジックだよ。どうだい。これでおじさんがマジシャンだって信じてもらえたかな」
「うん。ねぇねぇ、これって動かせるの?」
「出来るよー、ほらー」
ボールを空中で8の字に動かす。
「わぁー、おじさん悪い人じゃなかったんだね」
ようやく信じてもらえてホッと息をつく丹愛。マジシャン=良い人という公式が子供にあってよかったと安堵する。
「もういいかな?これから新しいマジックの練習がしたいんだ。誰にも見られちゃいけないものなんだ」
「うーん、分かったー」
子供はようやく信じたようで手に握っていたキッズケータイをリュックに戻して自転車の方に戻っていく。
「おじさーん、ありがとねー。頑張ってねー」
子供は自転車に跨りショッピングモールの方へと進んでいった。
これで障害はなくなった。これで神岐に集中出来る。
そう思い神岐が隠れた方向に顔を向けた、が…。
丹愛の正面、そこには神岐の顔があった。
「うわぁぁ!」
丹愛は体をビクッとさせて片足を半歩下げる。
「いつの間にここにいる。針はどうした!」
「あぁ、あれね。走って抜け出したよ。ほらっ」
そう言って神岐は右手を丹愛に見せる。
手の甲に針が刺さった跡があり軽く出血している。
「不規則に動くようにプログラムしてたんだろう?あんたの高鬼は自分で動かすのと予め動きを決めておくパターンの2種類ある。あんたの真上にずっと小石が動いていたのが後者だろう?自動で動かしてるから管理する必要がない。なら無理に突っ込んでも針はぶつかって乱れるだろうがそれも自動で元に戻る。アンタは気付けない。気付けるのは解除された時。違うか?」
(当たっている。確かに自動で動かす状態にするとそれが位置は分かってもそれが今どうなっているのか確認出来ない。すぐに元に戻ろうとするから目視でしか変化に気付けない。自動操作も併用しないととてもじゃないが膨大な数を操作することは出来ない、パンクしてしまう。だがそれを予想で思い付いても実践するか?実際やって違ってたら場所がバレて人間ウニになってたかもしれないのに。なんて精神力だ)
神岐は針の檻に突っ込み強引に檻から出たのだ。
手の甲以外にも針が体に刺さったが深手を負うほどではなかった。
そして丹愛が子供の相手に夢中になっている間に背後を取っていたのだ。そして丹愛は気付く。
(ヤバイ、顔を見ちまった。もう催眠に掛かってるのか?それとも一瞬だったから掛かってないのか?)
丹愛は神岐の顔を見てしまった。
神岐の能力の発動条件を満たしたということだ。
つまり、丹愛の負けである。
「だが高鬼をあんな風に使うとは思わなかったよ。てっきり力ずくで排除すると思ってた」
あれ?普通に会話を続けている。
もしかして俺が見てしまったことに気付いてないのか?
とりあえず悟られないようにしよう。
「やっぱり気付いていたのか。道理で不利な庭に逃げたわけだ。子供に攻撃が当たることを懸念したんだろう」
「まぁそんなところだよ。だがいいのか?近付けてるぞ」
神岐が腕を振りかぶるのと丹愛がそれに気付き、上で浮かせていたボールを落とすのはほぼ同時だった
神岐の右腕が再び丹愛の顔面を捉え、そして丹愛のボールが神岐の右胸を直撃した
「「ガッ!」」
神岐は衝撃で後ろに仰向けに倒れ、丹愛はまた後ろに飛ばされる。
「はぁ、はぁ、いてーな全く、打撃は痛くてしょうがない」
神岐は負傷こそしたが無事のようだ。
これが左胸だったら心臓にダイレクトに当たって心停止もありえただろう。
丹愛は止まっていた鼻からの出血が再び始まった。
「お前、俺の顔を見ただろう?お前の背後にピッタリ張り付いてたんだ。あれで上手に顔を見らずに俺を見るなんてことは出来ない。俺の勝ちだな」
丹愛は血を止めようと顔を位置を上げる。
天を見上げ血が落ちないようにする。
「だが、アンタは攻撃を受けている。あまりの刹那だったから催眠が上手く掛からなかったんじゃないのか?」
「確かにな、0コンマで能力を掛けることは難しいよ。催眠を掛ける間は少し時間がないと出来ないからな。あの瞬間では掛けられなかったよ。だが顔は見せた。そしてお前はまた倒れている。もう終わりだ。このボールで俺に何かするつもりだったんだろうが結局出来なかったな。食らっちまったが」
転がったボールに触って動きを封じる神岐。
「結局ナイフは使わなかったな。どうもナイフ を人に向けるのは良心が痛むのかな?」
ポケットの中のナイフをガチャガチャと弄る。
神岐が良心があるのかは分からない。おそらくないだろう。
丹愛は万策尽きた、と神岐は思っているだろう、と丹愛は考える。だがまだ高鬼は終わっていない。
「ふっふっふっふっ」
不適な笑みを浮かべる丹愛。
「何がおかしい?出血多量で頭をやっちまったか?」
「馬鹿め、上を見ろ!」
神岐は言われた通りに上を見る。
すると、そこには数十本の針があった。
「道理で少ないなと思っていたがまさかずっと上に浮かせていたとはな」
「もしも俺が追い詰められた時のためにあえてさっきの攻撃で使わなかった針達だ。そしてまだお前を追っかけてた針は能力の影響下にあるぞ!」
建物の陰に行った針達が戻ってきた。
「正面から、上から、100本以上の針の雨だ。終わりだ神岐!」
針の雨が神岐を襲う。
ブズブズブズブズ!
柔らかいものに刺さる嫌な音。
針の雨は神岐を狙い定め、そして、神岐は針の餌食となった。
顔も、腕も胴体も、足も、全身針塗れになり神岐はそのまま地に倒れた。
次回決着




