第27話 神岐義晴vs高鬼②
ここが廃ビルか。
神岐はショッピングモールを抜けて廃ビルまで来た。立ち入り禁止の看板が立てられている。取り壊し予定日や取り壊し業者が書いてある看板もある。
どうやら取り壊しは3日後のようだ。
入り口のそばにあったテナント紹介のオブジェを見てみると金融機関や不動産会社が中に入っていたようだ。だがそれも随分前の話のようだ。
ビル全体に不穏なオーラのようなものが漂っている。もしかしているのかもしれない。
霊感がない方だがなんとなくいそうな気がする。
建物もボロい。壁にはヒビが入っている。擦ると軽く粉が舞う。
(アスベストとか使ってないよなぁ、不安になるんだが)
自身の健康被害を心配する神岐。このままここに居ても怪しまれてしまうので中に入ることにする。
扉はガラス戸だ。ここは駅から反対方向なので一通りは少ない。
今のうちに入ることにしギギギと鳴るガラス戸を開けて中に入った。
エレベーターはあるようだ。ランプは5まである。どうやら五階建てのようだ。しかしエレベーターが稼働している様子はない。
もうじき工事が入るのだから電気ガス水道は既に切ってあるのだろう。
仕方ないので階段で上に上がることにする。電気がないので足元は暗い。窓がないからだ。
タン、タンと足音だけが響く無の空間。
暗く音もない世界。
たかだか1建物にいるだけだがまるで檻の中にいる気分だ。
2階に上がると窓があるため足元は快晴だ。真っ昼間だからより克明に感じる。
とりあえず腰を落ち着けたいので近くのテナント部屋を物色して机と椅子を探す。
中は撤去したのかほとんど何もないが幸運なことに倒れた本棚を見つけた。
おそらく組み立て式のもので部屋から出すのが面倒だったからそのまま放っておいたのだろう。
神岐は本棚の埃を軽く手で払って落とし、座れる状態にして座った。
座ってようやく今の現状を冷静に考え直すことができた。
(さて、指示通りここまで来たわけだが…、さっきは鬼束君に裏工作するかもよとは言ったがモールを出てからここまで来る間に誰ともすれ違わなかったからな。掛けられなかったよ。まあでも問題ないだろう。
高鬼、触れた物が自身より高い位置に来た時、その物体を操れる…か。触れなきゃいけないってことは空を飛んでる飛行機を操ることはないってことか。あんな鉄の塊を落とされたらたまったもんじゃないからな。触れられる物…、そのへんの石ころとかか?それを自身より高い位置に持っていくんだから手段は上に放り投げるしかないわな。それか自身が低い位置に移動するか。上に放るなら触れるという発動条件とも相性はいいな。問題は操れるものの大きさ重さ数だな。集団戦闘向きって言ってたから数は制限がないんだろうな。石の雨も簡単に降らせられそうだ。危険なのは大きさと重さだな。上から攻撃が来るってことは重力もそのまま落下の力に加わるってことだから威力が増大しちまう。距離は……、まあ考えないようにしよう。石ころを上空3000メートルまで飛ばして落とされたら…。生きれるだろうか?いや生きれない)
反語を用いてみる。中々悪くないな。
漢文とかは反語とかが多くて訳するのが難しかったな。
センター試験も漢文には随分手を焼いたな。都内の私立高校は漢文をやらないって前聞いたからそれだったら私立に行けばよかったな。
現代文と古文は8割くらいは取れてたから総合点では足を引っ張る形になったな。
あまり親に負担をかけたくないから公立の高校に進学したけどさ。まぁその高校が都内でも有数の進学校だったおかげで京海に行けたんだけどな。
買い物に10分かかるとしてここに着いてからもうそろそろ10分くらいか。
その間神岐はビル内を探索していた。
大きい家具は至る所に見受けられたがそれ以外に面白そうなものは特に見つからなかった。
神岐は現在5階の以前探偵事務所が入っていた場所にいた。
なぜ分かったというとドアの左上に掠れてはいるが三上探偵事務所と書いてあるのが確認出来たからだ。
さすが探偵事務所。他のテナントと違い何も残っていなかった。
建物は老朽化しているし長年誰も使っていないのか埃は舞っていたが他と違ってサッパリとしていた。使用者の人柄が伺える。
あまりにも何もないから部屋が広く感じる。
神岐も一人暮らしをする際に部屋を探していたが、引っ越す前に見た部屋の広さといざ引っ越して家具などを移動させたら前よりも小さく感じてしまったことがある。
それは家具を入れたことで壁が見えなくなり面積が覆われてしまったために狭く見えてしまうのだが部屋探しに結構な時間をかけたためショックも比例して大きかったのを覚えている。
高級なデザイナーマンションだからそれでも広かったけど。にしてもユーツーバー歓迎のマンションがあるとは思っていなかった。
入居者が全員ユーツーバーというわけではないようだがやはり防音設備が優れているのがいいらしく神岐が部屋探しでこのマンションを見つけた時は150ある部屋が2つしか空いていなかった。
新築防音セキュリティ万全。
防音に特化しているためかたまにマンションの住民と大学に行く際などにすれ違うが楽器を持っている人が多い。美大は金持ちが行くって言うしな。
やはり音楽を嗜んでいる人には好条件だろう。
普通の家族や高齢者など幅広い層が神岐のマンションには住んでいる。立地もいい。
もしかしたら俺が気づいていないだけでユーツーバーも住んでいるのかもしれない。
一通りの探索を終えた神岐は2階の棚に腰を下ろしていた部屋まで戻ってきた。
もうそろそろ丹愛が来る頃だ。ガタガタの窓を開け、軽く顔を出す。
右手にはショッピングモール。左手は道が続いている。右と左で随分と華やかさに差が出ている。
左は道があるだけで住宅もポツポツとあるだけだ。右はショッピングモールや駅、それこそ見えづらいが自身の通う京海大学もある。
どうしてこんなに変わってしまったのか。
ここだって古い建物こそあれど再開発でもすればいい街になりそうなのに。
何も作らないなら思い切って農地にするのもいいかもしれん。うちの農学部の実習場には持ってこいだ。
オリンピックが2年後に開催されるからこちら側に予算を回せないのか。それともそもそも諦めているのか。
行政はシステム的で意味が分からないところが多いからここの土地を変えるのにも馬鹿みたいな認可や手続きがいるのだろう。めんどくさい。
住民には新しく作るタワマンに今までの家賃で住まわせてやるから土地を寄越せとかでも行っておけばいいのに。
そのためだったら俺の認識誘導だって有効に使ってもいいのにな。
廃れた左側を見ながらそう考える神岐。
そしてショッピングモールがある右側に視線を移すとこちらに向かってくる影を捉えた。
「来たか」
最初は逆光で顔がよく見えなかったが近付くにつれてそれが鬼束丹愛であることを確信した。
準備をすると言っていたが丹愛の身の回りには大きな変化はない。買い物をしたのだろう。左手にはビニール袋を携えている。
それだけだ。
大袈裟ではあるが大きい武器の一つでも持ってくるだろうと思っていた神岐にとっては拍子抜けだ。
時間制限をそれとなく言ったが本当にそのビニール袋の物だけで俺と戦うつもりなんだろうか。
丹愛は立入禁止の看板の前で止まり辺りを見渡している。俺を探しているのだろう。
「ここだ」
神岐は丹愛に自身の場所を知らせる。丹愛が2階の神岐の方を見やる。
「すまない。少し遅れた」
「もともと指定はしてない。10分位を想定してたけどこれぐらい誤差だ。問題ない。おいアンタ、それだけで大丈夫なのか?」
神岐は丹愛の持っているビニール袋を指差す。
「大丈夫だ。大きい物はその分重いからまずここまで持ってこれない。迎撃戦でなら大きい物も使っていいがここは互いに知らない土地だ。敵地に赴くと想定すれば移動性を考えて装備は軽く少ない方がいい」
「だからって俺は丸腰だけどな」
「どうやら準備という準備もしてないみたいだな。余裕か?」
「……こう見るとどっちがどっちか分からないな。俺は敵に挑まれている。ってことは主人公側は俺のはずなのにどうも俺が悪役みたいな感じになってる」
「主人公はハンデなんて敵に与えないからな。そう考えると俺が主人公に見えるのも納得が行く」
「はっ、なら俺は悪役らしく主人公を待ち構えている体で行こう。余裕かと言われればそうだ。ハンデを与えてるんだ。余裕と見てもらってもいい」
「互いに超能力を考えればそうだな。アンタのその催眠能力は強い。俺もあんたの顔をしないようにするので精一杯だ。会話してると自然と顔を見ようとしてしまう」
そうか…まだこいつ知らないんだったな。
「こっちは武器なし、そして超能力を相手に使えない…か、それぐらい制約がないとな。それでいいのか?」
「いいんじゃないか?どうせ催眠をかけられたらそれで詰みだ。俺があんたの能力に掛かったら負けだ。あんたは俺に自身の顔を見させる。俺はあんたを殺す。それがルールだ」
「分かった。じゃあ始めよう。仕方ないことだが、強者感が出てイキってるみたいだからあんまりこういったことは言いたくないが、そちらからどうぞ」
攻撃手段が肉弾戦の神岐はどうやっても先手が取れない。
2階にいるので攻撃をするにはまず1階に降りないといけない。
それに相手の出方を伺うという意味でもここは先に敵の能力を今度こそしっかりと目に焼き付ける必要がある。
そう考えた丹愛は…
「では遠慮なく、まずは軽くパフォーマンスをしよう」
丹愛はそばにあった立入禁止の看板に触れる。
「これで完了だ。あとはこれを自身よりも高い位置に移動させればいい」
なるほど簡単だ。触れるだけでいいのは有効だ。
たくさん触っておけばそれが上に来さえすれば時間が空いてもそれを操れるのだろう。
流石に1分以内などの制限時間はあるようだがあの看板ぐらいなら1分ぐらいで出来るだろう。
丹愛は看板の下の支えを両手で掴むと、それを思いっきり上に放り投げた。
看板とて金属やら木材やらが使われている。
だが簡素な構造のそれは足が倒れないように補強されているだけでそれ自体はあまり精巧ではないようだ。精巧でないなら軽い。
放り出された看板は簡単に丹愛の頭上まで飛ばされた。
その瞬間看板はピタリと空中で静止した。
「なるほど、ナイフを隠したのもそれか、天井にでも固定してたか。よくバレずに上に投げれたな」
「かなり不自然な動きをしちゃったけどな。これが高鬼だ。自分以外の超能力を見るのは初めてだろう?」
「あぁ、俺の能力は物理的に作用しないからこうやって物が浮いてるのを見ると超能力って本物なんだなって実感するよ」
神岐の認識誘導は人間にしか能力が効かず、人間ほどの知能がない他の動物や機械などの無生物には全く効かない。
そして催眠術などは超能力でなくても実際に理論に基づいた物が既に存在している。大半は眉唾物だろうが暗示や洗脳も事例としてある以上全くの嘘と決め付けることは出来ない。
そのため神岐は超能力者ではあるが超能力者だという実感があまり沸いていなかった。
しかしこう物が空中でワイヤーなどをなしに固定されているのを見ると、嫌でも本当だと受け入れざるを得なくなる。
「さぁ、パフォーマンスは終わりだ」
看板が浮き上がり神岐と平行の位置まで移動する。
「俺の能力を聞いてよく上で待ち構えていたな。お前のことだ。能力の影響がない1階で待っていると思ってたから地上でアンタを探していたがまさか上にいるとは。そこはもう俺のテリトリーだぞ」
「もちろん分かった上でだ。ちゃんとお前の能力が光る場所で戦わないとな。俺は下に行ってぶん殴る。あんたはそれを阻止する。分かりやすい構図じゃないか?戦いは敵将の首を取った方が勝ちみたいなシンプルな条件がいい」
「それは戦国時代の話だろう?今は違う。敵将を討ってもすぐに頭はすげかわる。昔ほど主君への忠誠もないだろう。そっちがそれでいいならこちらも利用させてもらう!」
看板が神岐目掛けて真っ直ぐ飛んでくる。
神岐は窓から乗り出している体を引っ込めて丹愛からは死角の建物内部の隅に移動する。
看板は真っ直ぐ進んでいきそのまま壁に激突した。
その衝撃で看板は上下半分にぱっくり割れてしまった。
(精密な動きは出来ない…見えない場所の俺は探知できないか。つまり奴の視界に入らなければまずは大丈夫)
冷静に分析をする神岐。
命がかかっている場面でも焦ることなく落ち着いて判断が出来ている。
(高鬼、まさかこの程度ではないだろう。次が来る)
バラバラになった看板がカタカタと動き出す。
看板が再び浮き上がり今度は隠れている神岐を炙り出すためだろうか、渦巻き状にぐるぐると円を描き始めた。
円が最初に描く隅っこにいた神岐はこれでは看板が当たると思い部屋の中央まで移動する
看板がガガガガガガガと壁を削りながら少しずつ弧の半径を小さくする。
(場所は分からずともこうやって広範囲で仕掛ければいずれ当たるってわけか。部屋の出口は…、割れたもう片方が待ち構えている)
看板は2つに割れたがそれぞれが意思を持つかのように2つはそれぞれ別の動きを取っていた。
1つはグルグルと、もう1つは出口の場所が分からないのだろう。
出口側の面を行ったり来たりして出口に近寄れないようにしている。
(一度触れた物が分かれても操作出来るのか。不味いな。出口がないな。それに少しずつ迫ってる。スネぐらいの高さを保っている。しゃがんで躱されないようにだな。さて、どう切り抜ける。窓から飛び降りたいが窓の外で何を仕掛けているか分からない以上、身動きの取れない空中に行くのはマズイ。スネの高さならジャンプすれば事足りるか。中央に来てるならジャンプで円の外側に移動すればとりあえずは大丈夫だ。この部屋で何か使えそうなのは……この棚だけか)
それは神岐が椅子がわりに使っていたものだ
元々部屋の真ん中にあり神岐も動かすことなく使っていたからまだ看板によって破壊されておらずそのままの状態を保っていた
(だがジャンプで外側に行けば棚は使えなくなるな。なら今使うしかない!)
神岐は棚をどうにか使うために棚を倒れている状態からなんとか立たせようとするが自身の背丈よりも大きい物なので上手く腕の力が入りづらく思うように起こすことが出来ない。
「くっそ、無駄にデカいし重い。これはここの人達が置いていくのも分かるなぁ!」
神岐は起こすのを諦めた。だが策がないわけではない。
棚は持ち上がりはしないがひきづって動かすことは出来る。
神岐は棚を押して部屋の中心から外側にズラしていく。
自ら看板に近付くのは危険行為だがここで大人しくしているのはより危険だ。
そして50センチほどだが棚を動かすことに成功した
そしてそのタイミングで丁度渦巻きの看板の通るルートと棚が置いてある場所が交差した。
パーンという大きな音が立つ。
棚は質量が看板よりも大きいため加速していても棚には及ばなかった。
看板は棚にぶつかりその衝撃でルートが逸れた。
その逸れたルートの先には出口を塞いでいる看板
2つは衝突し2つどころではなくさらに細かく砕けてしまった。
これは偶然ではない。
神岐は棚をただ外側に引きずっていたわけではない。
棚と看板が交差した時、看板は棚に押し負けるだろうと予測した神岐は棚を引きずりつつもその向きを斜めにしていた。
光の入射角と反射角だ。
入射角と反射角は反射面の垂直線に対して左右対称で同じになる。
神岐は反射した先に出口が位置するように棚の向きを変えて棚の逃げ道を誘導した。
そして神岐の企て通り、看板は棚に弾かれて看板同士で衝突した。
「はぁ、はぁ、能力がないと一般人ってのもその通りかもしれないな」
頭を使って切り抜けたとはいえ、超能力が使えない神岐は棚を持ち上げることも出来ない普通の人だ。
棚を全力で動かしていたため軽く息切れしている。
(はぁ、動かないな。今のうちに…)
先程よりも細かくなった看板
また動き出す可能性があったので神岐は割れた看板を拾った。
(俺は奴に触れていない。それに戦いを挑むのならまず俺に触って操るはずだ。それをしないということはおそらく人間には高鬼とやらは効かない!能力を説明する時も物体と言っていた。人間も対象なら人や物と言うはずだ。人間を物体に含める人なのかもしれないがもし人間を操れるのなら最初から俺を操作しなかったのは不自然だ)
神岐の予測は当たっている。
高鬼は生物には能力は効かない。
石などの無機物の物体を操る能力だ。
さらに鬼束市丸の色鬼同様に衣服も人の一部と判断されるため操ることは出来ない。
♢♢♢
「……やるな。どうやら能力頼りという訳ではないらしい。看板同士をぶつけられたか」
丹愛は戦闘が始まってから入り口からは一歩も動いていない。
高鬼を舐めていた神岐に初手で詰ませようと看板を壁にぶつけて2つに分け、退路を塞いで神岐を追い詰めていた。
勿論窓から逃げる可能性も考慮していた。
ブーツの中に入れていたナイフを抜き取りいつでも投げられるように準備していた。
「一応いつでも攻撃出来るようにしとくか」
丹愛は持っていたナイフを上空に向けて放った。そして看板同様にナイフが空中でピタリと止まった。
「看板の方は……、ん?動かせないな。距離は…5メートル。どれも同じ場所にある。何かに封じられたか?」
高鬼は自身が今現在操作している物体の場所を把握することが出来る。
操った物体に目が付いているわけではない。
看板が壁にぶつかった場所を把握し部屋の間取りを頭の中でイメージし、それぞれを動かしていた。
この把握だがこれはその物体が操作出来なくなるまで続く。
操った物体を操作出来なくなるのは2つ。
1つはその物体が自身よりも低い位置に移動すること。低い位置に移動した瞬間、その物体を自由に動かすことはできなくなりそのまま重力に従って下に落ちる。
そしてもう1つは……
♢♢♢
ゴゴゴゴゴゴゴ
ズズーン
部屋に大きな音が広がる。
「これでよしと」
神岐はパンパンと手を払って手に着いた埃を落とす。
看板を全て拾い集めて棚の中に入れたのだ。
そして棚の中に入れた後、棚をひっくり返して看板が棚から出てこれないように閉じ込めた。
もう1つはその物体を動けなくさせることである。
看板は3キロあった。
高鬼は上にある物を操れるがそれには語弊がある。
操れるといっても動かせるだけであり色鬼ほど縦横無尽に動かすことは出来ない。軽いものほど速く動かせるがそれでも色鬼ほどではない。
看板が2つに分かれた時の片方の重さは1.5キロ。
それをいくら加速があったからといって重さ80キロの棚は動かせない。
そしてなにより動きが止まった状態では加速もつけられない。
さらに先程の衝突でさらに細かくなったため質量は1キロを切っている。
何十倍も質量に差がある物を予備動作なしで動かすのは不可能だ。
そのため看板は棚から出ることは出来なかった。
動かせなくなるとその物体にかけられた能力は解除される。
動けないなら能力を掛ける必要がないからだ。
これは自動で解除され鬼束丹愛の意志とは無関係にはたらく。
さらに棚の戸を地面に接するようにしたため戸を開けるという方法も取れない。
ショッピングモールで警備員を刺したあとに能力で引き抜かなかったのはナイフが肉にぎっちり収まったため能力が解除されて引き抜けなかったからだ。
一度動きが止まると高鬼はひどく脆い。
そのため物体を一旦捕まえられたらその物体は動かすことが出来ず力を失う。
また操るには再びその物体に触れて上に動かす必要がある。
「とりあえずここを出よう。閉じ込められたらダメだ。広いところに出よう」
神岐は息を整えて立ち上がり2階の部屋を後にする。
「さて、降りるか、上がるか……」
♢♢♢
「おそらく2階にはいないな」
看板にかけられた能力が自動で解除された。
今操作しているのはナイフだけだ。
「なら次はどうしようかなーっとー」
左手首にかけてあったビニール袋を弄る。
(俺自身も行動しないとな。場所は把握出来てもやはり直接見た方が操りやすいからな。だがこのまま建物に入るべきか?もう神岐はそこの部屋にはいないだろう。俺に近付くために下に降りるか。それとも俺のカードを見ない内は近付かないか。それでも同じ場所に止まりはしないだろうから上の階か?上に行ったのなら引き続きここで能力使って襲った方がいいだろう)
「上がるか、待つか……」
「「どっちだ!?」」
神岐義晴
能力名:認識誘導 ルビ不明
姿を見せた状態で声を聴いた相手を操る
鬼束丹愛
能力名:高鬼
触れた物を自身より高い位置に持っていくと操ることが出来る
人を操る能力者と物体を操る能力者の対決
初っ端から熱いですねぇ
戦いはまだまだ続きますよー




