表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第2章 神岐義晴
26/158

第26話 神岐義晴vs高鬼①

 お洒落なカフェ

 コーヒーが目の前にあるが手をつけられない。

 後ろに男がいるからだ。

 戦えと言われたがそれからは何故か無言になってしまった。こっちとしては戦わないで帰りたいんだが。

 そもそもこの戦い自体が出来レースのようなものなんだが本当のことを言うのもなぁ。

 とりあえず…。

「あのー、そちらはお連れ様ですか?談笑なさるなら是非店内でお願いしたいのですが…」

 神岐と鬼束が知り合いだと思ったのか店の店員が声を掛ける。

 喋るなら注文してからにしろということだろうか。仕切り越しの会話は不自然だからな。

 確かに周りもこちらを怪訝そうに見ている。

 どうやら周りはナイフが机に刺さるところを見てしまったようだ。

 すかさずナイフを見えないように隠したので店員にはバレてないみたいだ。

(なぜ俺が…)

 机にバックリ刺さった痕があるのでバレると机代を請求されてしまう。

「申し訳ありません。そろそろ出ますね。それとお願いしたいのですが、私の荷物をおたくの休憩室で預かっててもらえませんか?」

(俺の言うことに従う。詮索はしない)

「申し訳ありません。当店ではそのようなサービ……

 分かりました。お戻りの際は声をかけてください」

「ありがとうございます」

 神岐はガバッと勢いを付けて立ち上がった。

 そして店の中にいた他の客や付近の通行人に対して、

「連れと場の雰囲気に合わないことをしてしまい申し訳ありません。直ぐに去りますのでどうかお気になさらないでください」

(俺と後ろの男について認識しない。ナイフも見ていない)

 そう言うと周りの人達は神岐達を見ることなくそれぞれ談笑やパソコンを触ったりし始めた。

 神岐は荷物を店員に渡しコーヒーを啜った。

「それが君の催眠能力か…、ははっ、エグいな。あの一瞬で10数人を操るとかたまげたな」

「さぁ、お膳立てはしてやったぞ。戦いたいんだろう?心置きなくやろうじゃないか?それにしてもこんな人が多い場所でやるつもりか。随分とドクターとやらは野蛮なんだな。そんな奴には協力したくはないなぁ」

 見え透いた煽り挑発。

 反発して能力を行使してほしい神岐にとってはいくら認識誘導があろうとも相手の超能力の詳細が分からない以上こちらから仕掛けるのは危ないため相手の出方を伺う必要がある。

「あー、そういえばドクターも関係のない人間は巻き込むなと釘を刺してたな。幸い今君の周りに協力者はいないようだしな」

 ドクターにはここを指定されたんだけど、どうすっかなーと独り言を言うが神岐にはボソボソとしか聞こえなかった。

「ちなみにいたらどうしてたんだ?」

「超能力のことを知られてたら問答無用で攻撃対象だ。殺すことも厭わないよ。竹満君や奈良星君、あと…小鉢、だったっけ?」

 それは神岐と親交のある人達。

「随分と悪趣味な奴だ。人の交友関係を洗いざらいとは…、浮気調査とかで生計を立てたらどうだ」

「はは、それは面白いね。兄貴に聞いてみるよ」

 どうやら彼の兄貴とやらが監視能力を持っているらしい。

 小鉢さんのことも知ってるとなると近しい人間から情報を流してもらっているわけではないな。

 対象となる人物をいつでも監視する能力か。

 対象の限界が何人かは分からないが俺達3人の所在を把握してるとなると3人以上が可能か…。

 となるとここで逃げても追撃は免れないな。

 やはりここで叩くしかない。

 そしてこいつから情報を聞き出す必要があるようだ。

 いや、そもそも戦う必要はないかもしれないな。

「それじゃあ移動しようか」

 神岐はテーブルにあったコーヒーカップとトレイを返却口に持っていきその際に店員に『ご馳走様でした』とお礼を言いお店を出た。


「これっ、返しとくよ」

 神岐がぽいっとナイフを鬼束に投げる。

「わっ、ちょっ、うわっ!」

 突然のナイフ投擲に慌てふためくがしっかりと持ち手を捉えた。ナイスキャッチ。

「何すんだ!危ないだろうが!」

「そっちもさっき投げただろうが。俺がコーヒーカップに手を伸ばしてたら刺さってたかもしれないのによ。こっちは律儀にあんたの方を振り返ってあげてるのに失礼だな全く」

 神岐のペースに呑まれそうになる鬼束。

「はぁ、まぁいい。とりあえずここを出るぞ。俺の能力だとここは破壊しかねない」

「あぁ、俺も無関係の人をこっちの都合で巻き込みたくないからな。だがその前にトイレに行っていいか。コーヒー飲んだから近くなったみたいだ」

「トイレぐらい我慢しろよ」

 はぁ、この人は何も分かっちゃいない。

「おいアンタ、立場を考えたらどうだ。俺はあんたのためにこうしてるんだ。俺は実力行使でお前に能力をかけることだって出来るんだぞ。それをしないのはフェアに戦ってその後に情報を聞き出すためだ。そっちがこっちの要求を1つでも拒んだら能力をかける。あんたの視界に俺の顔を見せるなんて力技でどうにでも出来るんだからな」

 俺の能力を知っているからこそこの手の脅しは通用する。素直に従っているからこそ断れない。

「ぐっ、なら早く行け。逃げないように入り口で待ってるからな」

「どもどもー、じゃあちょっと待っててください」

 神岐は男子トイレに入っていった。


「ちっ、何て態度なんだ、クソ!」

 苛立ちを隠せない鬼束はそばの壁を蹴りつける。

(ドクターはここでは誘う行為だけで戦闘の場合はここで戦うのは控えるようにと言ってたが俺は別に他人を何人巻き込もうが関係ねーんだよ。しかも周りを脅しに使えば神岐は嫌でもこちら側の要求を飲むしかない。奴は周りを巻き込みたくないって言ってたからな)


 ♢♢♢


 ジョーーーー

 水が流れる音。

 果たしてこれを流れていると表現していいものか。

 神岐は用を足している。

 あの場から離れるためでもあるが純粋に尿意を感じたからだ。

 用を足している間に敵について考察する。

(奴の能力、ここを破壊しかねないって言ってたな。ということは広範囲に及ぶ能力ってことだ。つまり奴自身は変化しない。となるとその場所全体に影響を与える能力。空気か…、本人は能力の影響の限りではないとしてもそれはないか。筋はイイかもしれんが周りへの被害が甚大すぎる。今この施設に何人人がいると思ってる。それはないだろう。やはり念動力が1番しっくり来るな。周りの物を手当たり次第にぶつけられたら俺の周りにも被害が及ぶからな。何より俺自身を操られたらたまったもんじゃない。けどここでの戦闘を避けたいのなら人は操れないのだろう。それか的の照準が上手くいかないかだな。超能力を覚えてまだ日が浅いのだろうか。確かに昔から能力を持っていたら白衣の男ももっと早くコンタクトを取ってきてたはずだからな。準備が整ったか最近まで俺達3人の所在を知らなかったか。いや、そもそも俺達は何をもって出会って何をもって白衣の男に超能力者にされたんだ?末端のこいつらが聞かされてるとは思えないな。やっぱそのドクターとやらに直接会うしかないかな)

『離せって–––––––—–ヤバイって!』

 トイレの入り口の方から丹愛の叫び声が聞こえる。

(っとぉ、時間ももうそろそろか。丁度いいな。さて、質問タイムといきますかな)

 用を足し終えた神岐が手を洗い、トイレから出ていく。

 神岐が用を足していた頃、鬼束丹愛は……


 ♢♢♢


 神岐にいいように言われてむしゃくしゃしていた丹愛であったが壁を蹴りつけたことで幾分かスッキリしたのかその後も荒ぶることはなくと男子トイレの入り口の正面の壁に寄りかかって神岐を待っていた。

(くそっ、あの野郎、絶対に容赦しねーからな。確かめるもクソもあるか。最初から殺す気で挑んでやる!)

 行動には起こしていないが未だに腹の底では神岐への怒りが込み上がっていた。

(そもそも能力使わなくても催眠能力なしの神岐は一般人そのものだ。野球動画で見せた140キロは凄いが今ここには投げれるものはない。それに対して俺は能力を使わなかったとしてもナイフがある。これで足を刺して動けなくすればもう詰みだ。そのまま心臓にぶっ刺して殺してやる。ドクターには予想以上に能力依存で彼個人は大したことなかったとでも言っとけば十分だろう。零兄には隠れ鬼(インビジブルスナッチ)を使うなと言ってるしな。市丸兄や実禄はどうなってるんだろうか?実禄の能力は今回のシチュエーションには最高だろうな。相手の自由を奪うのは拷問とかにはうってつけだ。そして市丸兄だが…俺達3兄弟の中ではイマイチパッとしないし制限も多くて不便な能力だが鉄球やナイフを自由自在に動かせるのはかなり厄介だ。3人で1対1対1をしたら近距離戦では実禄が勝つだろうが基本は俺か市丸兄だろうな。操作物への自在さを考えれば市丸兄だろう。こっちは操作が不自由な上に展開に時間がかかるからな。零兄は……、まぁ千里眼能力だしな。戦闘向きではない。けど零兄をバカにする奴は俺達3人の中にはいない。戦闘には使えないが常に監視できるのは不意打ちや奇襲にはうってつけだ。むしろ千里眼があると分かれば逆に常に監視されているという恐怖はかなり来るものがある。それぞれ1対1で模擬戦をやった時は零兄にはかなりてこづらさせたからな。もうあんな試合はしたくないな)

 男子トイレの前に突っ立っているので奥にある女子トイレに入る女性から白い目で見られている。

(うっ、早くしろよ神岐。中々居心地が悪いぞここは!)

 そんな気まずさを感じながら神岐を待ち続ける丹愛。


「すみません、少しお話しいいですか」

 丹愛はトイレから隣の男性に視線を移す。

(はっ?)

 丹愛がそう心の中で思うのも無理はない。

 そこには青い制服、頭部が平たい帽子。

 警備員がそこにはいた。

「えっ、はい」

 そう言うまでに数瞬のラグが生じてしまった。

「実は刃物を持った男を見たと連絡があってね。その男の特徴があなたに非常に似ていたものですから。失礼ですが荷物検査させてもらっていいですかね?」

「えっ、いや、持ってません。人違いですよ」

「大丈夫です。すぐ終わりますから」

 丹愛は是が非でも荷物検査は避けたかった

 ここでナイフを持っているのがバレたら神岐と戦うのが困難になってしまう。

 しかもさっき神岐に渡されたばかりでナイフはズボンのポケットに入れたまんまなのだ。

 普段は見つからないようにブーツの中に隠しているが鞘にも収めていないから感触で刃物だとバレてしまう。

 警備員が丹愛に手を伸ばす。

 何とかして辞めさせたいがここで抵抗すれば間違いなくクロだと思われる。

 どうしようもない状況であるがこの男も神岐と同じ超能力者。

 この障壁、超能力でどうとでもなる。

(動きは不自然になるが仕方ない)

 警備員の手が丹愛に届く直前に一歩後ろに下がり右半身を後ろに下げる。

 これによりナイフの入っている右ポケットは警備員からは視覚に入る。

「なっ、君!逃げるんじゃあない!」

 警備員がさらに距離を詰める。

 距離を詰めてきた段階で丹愛は動かない。

 しかし右手にはナイフを取り出し終えた。

 警備員は丹愛の左手首を掴むと左手を背中まで引っ張り上げた。

 丹愛は振りほどこうとしたが関節に決められたため振り解けない。

「痛い痛い痛い」

 警備員も相手が刃物を持っているかもしれない男だから一切気を抜かない。

 これ以上曲げたら左肩が脱臼しかねないところまで左腕を曲げている。ミシミシと音を立て始めている。

 これ以上の抵抗は自身の体にも危険と判断した丹愛は空いている右手で壁をバンバンと叩きつける。

「分かった。応じるから!応じるから離せって!腕外れるから。抵抗しないから、ヤバイって!」

 必死の訴えでようやく警備員の男も丹愛への拘束を解いた。

 拘束が解かれたことで緊張が切れたのかそのまま地面にへたり込む。

「最初から応じてくれればよかったのに。さぁ、荷物を出しなさい」

 丹愛は素直に応じてポケットから財布を取り出す。

 一連を見ていたのか周りはトイレに用があったであろう人が数人集まっている。

「名前は?身分証ある?」

「…財布の中にあります」

「中を改めるね」

 許可をもらい警備員が丹愛の財布を開きマイナンバーを取り出した。

「名前は鬼束……にあいでいいのかな読みは?」

「…あいじゃなくてえいです。丹愛と書いてにえいです」

「難しい読みをするね。キラキラネームってやつかい?年齢は19歳。住所は…… っと、すみませんお騒がせして、どうぞお通りください」

 周りの人だかりに気付いた警備員が丹愛を壁際に動かして道を作る。

 通り道を作られてこれ以上野次馬が出来ないのでトイレに入っていく。

「っよし、いないな。19ってことは大学生か?」

「大学には行ってない」

「ふん、道理で。それでナイフはどこに隠した」

 鼻で笑ってるのだろう。大学にも行かずにプラプラしてるとでも思ってるのか。

「そんなの持ってねーよ」

「だったら何故抵抗したんだ。何もないなら抵抗する理由がないだろ!」

「急に悪者扱いされたから反射的にだよ。急に手を出してきたら逃げるだろう普通」

「嘘をつくな。右のポケットを見えないようにしていただろう!まだそこから何も出してないじゃないか。早くそっちも出しなさい」

「だから何もないってば!」

「だったら見せるんだ!」

 警備員が丹愛の右ポケットに手を伸ばし付近を弄るが…。

「ない…だと…、君!どこに隠した!」

 細長いものは見つからなかった。

「だからないですって、もういいですか?抵抗したことは謝罪します。ですが私は人を待ってここにいるのであまり相手を驚かせたくないんですよ」

 認めん。断じて認めない。しかし現物は見つからない。ならこれ以上この男を拘束し続けることは出来ないと警備員は自己の感情よりも状況を見て冷静に判断した。

「すみません。こちらの手違いでした。失礼しました」

「いえいえ、こちらこそ誤解を招く真似をしてしまってすみません。お仕事頑張ってください」

 警備員はその場を立ち去ろうとする。

 そして丁度同じタイミングで。

「いやー、お待たせしました。あれ?なんかあったんですか?」

 神岐がトイレから戻ってきた。

「ちょっとゴタゴタがあっただけで何も問題はないさ。さあ早く移動しようか。長居するとまた面倒なことになる」

 丹愛は去りゆく警備員をチラッと見る。

 神岐もそれにつられて警備員の方を眺める。

 ふっ、と笑ったかと思うと、

「警備員ですか?それは災難でしたね。ナイフを持ってるのはバレなかったんですね。それは良かった良かった」

「「は?」」

 こいつは何を言ってるんだ。

 何故警備員がいる前でそれをバラす。

「君、やっぱり持ってるんじゃないか。もしかして君が連絡にあったナイフで脅されている人かい?」

「そうなんですよ助けてください。ナイフで脅されてどこかに連れて行こうとするんです。何とかトイレで時間を稼いで警備員さんが来るのを待ってたんです」

「君、動くんじゃあない。もう一度調べる。両手を挙げなさい」

「神岐テメェ何考えてんだ!」

「いやいや、俺は何も。誰かがナイフで机に刺すところを見ていたんでしょうね。第一ここでナイフ持ちと一緒に行動していたら俺まで共犯扱いじゃないですか?そんなの真っ平ですよ。テスト前なのに余計なことで時間を割かれたくないですからね。警備員さん。こいつの住所って分かりました?」

「はい、東京都文京区×××2丁目の︎︎︎です」

 おいおいおい待て待て待て。

 何でこんなにあっさり人の個人情報を…。

 こいつ、まさか!俺の個人情報を聞き出すためにわざと警備員をよこしやがったな!

 だが神岐に警備員を呼ぶ時間はなかった。

 いや、奴の催眠能力があれば簡単か。だが店にいた人間に催眠をかけてたから店にいた人は違うとして店を出てから神岐と接触したのは俺だけだ。

 俺がいつのまにか操られて知らぬ間に警備員を呼ばされていた?

 いや、俺は奴の顔を見ていない。

 あいつと顔を合わせた奴は店を出てからは……。


 あいつだ。

 トレイを返却口に持って行った時だ。

 あそこで店員と顔を合わせていた。

 あの時に催眠をかけたんだ。

 おそらく4階の男子トイレの前にいる男が刃物を持っているって警備員に連絡するように催眠をかけたんだ。

 そして神岐は俺と警備員を会わせるために俺をトイレに行かせるように仕向けたんだ。

 何て抜け目のない奴だ。

 くそ、他人を巻き込みたがらない奴だと聞いていたがまさか無関係の人間を催眠にかけて俺のことを探りに来るとは。

 なるほど、奴と戦う時は周囲に人がいないところに行くべきだった。

 ショッピングモールで仕掛けるべきではなかったな。じゃあドクターなんでここを指定したんだ?

「文京区か、ちょっと待てメモを取る」

 神岐がスマホを取り出す。

 スマホのメモ機能に先ほど聞いた住所をフリック入力で打ち込む。

「よし完了。んで年齢は?」

「19歳です」

 警備員は躊躇うこともなくペラペラと喋る。

「何だ年下か。じゃあ敬語で話す必要もないな。おい、応援を呼べ。こいつを動けなくして尋問タイムだ」

「分かりました」

 警備員はベルトに引っ掛けてある無線機のようなもので連絡を取りだした。

「刃物を持った男を抑えた。至急応援を頼む」と無線機に口を近づけて連絡している。状況が状況なのですぐに来るだろう。

 無線を使っている間に脱出を試みたが先程よりも力が強いため抜け出すことが出来ない。

「無理だ無理だ。力のリミットを外してるから普通の人間の力では解けないよ」

「めちゃくちゃな能力だなチクショウ。複数の指示や催眠をかけることも可能なのかよ」

「あぁ、人の数、催眠をかける数に制限はない…はずだ。人数はともかく1人にかけられる数は分からないな。お前で実験するのも悪くないかもな。さあ、喋ってもらおうか。いや、催眠にかけてスマホのロックを解除してもらうのもいいかもしれん。いやダメだ。お前には能力は使わないんだったな。えぇとじゃあどうしようか」

(余裕ぶりやがって!)

 ああじゃないこうじゃないと神岐はどうにか丹愛に催眠をかけずに情報を聞き出すのかを考えるのに夢中だ。警備員も相変わらず力が強い。手首あたりに鬱血痕が見え始めた。

 一体どれほどの握力があるのだろうか?

 倍は出ているだろうか。110、いや120か。

 だがこいつらは大事なことを忘れている。他の警備員が来るまで何分だろう3分ぐらいか。それまでに神岐と共にショッピングモールを出なくてはならない。


「うーん、そうだ!他の客に写真を撮らせてネットに拡散しよう。そこで情報提供を募ってこいつの兄弟のことや経歴とかを調べてもらおう。掲示板に晒すのも悪くない。19歳の若さで白衣の男に協力するぐらいなんだからもしかしたら素行の悪さで補導歴もあるかもしれない。警視庁の知り合いに調べてもらうのもいいな。やっぱ持つべきはコネクションだな。なぁ、鬼束、お前もそう思うだろう?」

 1分もの思案の成果を披露するが返事がない。

 鬼束達の方を見ると態勢は目を話す前と全く変わらない。

 警備員は鬼束を拘束して鬼束は屈んだ状態で腕を背中に回されて顔の半分は壁にめり込んでいる。

 ちなみにトイレを利用する者はもれなく認識誘導を使いこちら側を認識しないようにした。

 さらに尿意、便意の強さを高くしているので猛ダッシュでトイレに駆け込む。

 額から冷や汗のようなものがダラダラと流れている様を流れるのは中々性格が悪いなと神岐も自覚している。


 何も変わらない光景。

 だが1つだけ変わっていることがある。

 それは警備員の背中にナイフが突き刺さっていることだ。

 神岐も気付くのに時間がかかった。あまりにあっさりとしていたからだ。

(馬鹿な!両手が使えないんだぞ!)

 警備員の体術は素晴らしい。鬼束の顔を壁にめり込ませる。左腕を背中に回し右手は警備員の強化版右手で手首を抑えている。

 足は態勢を下げることで踏ん張りが効かないようにしていて力を込めることができないようにしてある

 その状態でナイフを刺すなんてことは出来ないはずなのだ。

(第一ナイフはどこに隠していた。捕まえさせるためにナイフを持ってると警備員の前で言ったが肝心のナイフはどこにやったんだ。俺がトイレから出た時警備員は去ろうとしていた。つまり身体チェックで刃物が見つからなかったってことだ。俺が戻った時に鬼束はナイフを持っていなかった。だが今こうして背中は赤く染まっている。さっきと同じだ。ありえない方向からナイフが飛んできてる。くそっ、俺が目を離していなければはっきりと分かったのに)

「…いつまでそうしている。警備員はもう負傷者だぞ」

 何かをしたであろう鬼束に話しかける。

「それがまだ意識があるみたいで力が衰えてないんだよ。痛みがあるはずなのによー」

「そんな角度で刺したら気絶しようにも出来んだろ。それに意識を失うまでは俺の能力の影響下にあるから意識を刈り取らないと拘束は取れないぞ」

「どこに刺さったか分からんけどそうか、浅かったか。場所が悪かったな。距離が足りないか」


 ナイフは警備員の背中に垂直に刺さっている。

 これは背中の面から見てではなく地面から見て垂直という意味だ。

 警備員の背中は地面に垂直に近かった。真垂直ではなく少し傾いていた。

 そしてナイフは地面から垂直に刺さっている。

 コーヒーショップと同じだ。

 そして背中が垂直に近いため真上から刺したであろうナイフは背中からほんの10数度ほどの角度を付けて刺さった。

 背中に垂直に刺さっていたから内臓を損傷していただろう。

 しかし垂直であったため深く刺さってはいるが内臓にまで刃が達していないのだ。

 つまり肉だけを刺したことになる。

 血管神経筋肉肋骨は損傷したであろうが器官は無事なのだ。

 そのため警備員は意識を失うことがなかった。


(ナイフを自在に操作出来る能力…半分だな。だったら警備員を殺せるはずだ。奴も見えてないと言っていた。条件があるんだ。その条件の中でしかナイフを動かせないんだ。時間、距離、場所、様々要因は考えられるな)

「おい、お前。もうじき他の警備員が来るんだぞ。ここには監視カメラはないがお前がやったってことはバレるんだぞ」

 あと数分ならおそらく警備員は気絶せずに持ち堪えるだろう。

 丹愛は何とか手首に掴まれているのを外そうと試みている。

「あぁっ!でもこうするしかねーだろ!くそっ、しぶといおっさんだなオイ」

「もう帰っていいか?お前どうせ捕まるんだし」

「いいわけねーだろ。早く外せ!くそ、せめて片手だけでも使えればナイフを使えるのに」

「やだよ。いいからもう諦めろ。詰みだよ。早く離してくれよ。こっちもお前が殺人未遂で捕まったら聞きたいことも聞けないんだよ。警視庁に催眠仕掛けて乗り込むのは現実的じゃないしさ」

「分かった。じゃあこうしよう。俺を助けてくれたら聞きたいこと全て答える。だから開放してくれ」

 ほう、破格の条件だな。だが信用出来んな。

「じゃあ今ここでお前の能力について教えろ」

「えっ、いやーそれはちょっとー」

 神岐が言った途端に口籠る丹愛。

「言えるのか?言えないのか?どっちだ!早くしろ。もうじき来るぞ」

「分かった。あとで言うから、お願いだ。ここで面倒になるとドクターに迷惑をかけちまう」

「今言うんだ。妥協はしない。あと5秒以内に言え。俺を推し量るだけなら別に能力を教えたって問題ないだろう?お前も俺の能力を知ってるんだしいだろう?」

 俺の能力を知ってるならお前の能力を教えろ、そこまで難しく不条理なことは言っていない。

「そんな簡単なこともできないのか?そこまでして俺を殺すことにこだわりたいか?つまらんプライドは捨てろ。今でこそ俺は能力を使わないでいてやってるんだ。その状態なら無理矢理目を開けさせて俺の方を向かせることだって容易だ。俺がそれをしないのは何でもかんでも能力に頼りたくないからだ。この能力は万能だが使い方を悪用すればテロだって余裕さ。動画で全員ジェノサイダーになれって命じた瞬間に第3次世界大戦の始まりだ。俺の能力はそれほど危険なんだ。お前に自殺しろと命じれば俺は手を汚さずにお前を命を刈り取れる。お前は俺の掌の上なんだ。いい加減気付け。白衣の男のためにもさっさと言え。言えばこの場を収めてやるし俺の力の証明にも協力してやる。さぁ、どうする?カウントするぞ」

 5………4………

 神岐のカウント

 丹愛はそのわずか数秒間に思考を巡らせる。

(能力を言うだけ、それだけだ。嘘を言うことだって出来る。適当に誤魔化せばとりあえずその場は丸く収まる、が…

 プライドか…。そうだよな、目的を忘れるな鬼束丹愛。

 あくまでもこれは神岐の俺たちへの勧誘。そして実力の確認だ。俺が神岐達に納得出来ないから殺すんじゃない。実力のほどを推し量ればそれでいいんだ。見失っていた。ここは神岐の提案に乗ろう。ここで断れば俺は銃刀法と殺人未遂で捕まり他の兄弟達にも迷惑がかかる。何よりドクターは追われている身だ。仲間が欠けるのはドクターにとって痛手だろう。奴らの力は強大で不気味だ。俺達は交戦することなく逃げた。弱い、強くなるんだ。超能力を貰ったのに無様な姿はこれ以上見せられない)

 3………2………


 1………

高鬼(タワースナッチ)

 神岐がカウントを止める。

高鬼(タワースナッチ)、それが俺の能力だ」

「…どんな能力だ」

「俺が触れた物が俺よりも高いところに移動した時、その物体を操ることが出来る」

「……嘘はついてないな」

「付いてない。何なら今だけお前の能力を使って俺に嘘をつかせなければいい」

 ………

「どうやら目が覚めたみたいだな。信じよう。約束通り戦うには応じる。だがまずはそいつの傷を直すのが先だ」

 神岐は丹愛達の方に近づき警備員の顔を手で掴むとそれを自分の方へと向けた。

「解除」

 そう言うと今まで自分を拘束していた力がすっとなくなった。

 まるで魂が抜けて空っぽの人形になったような。

 丹愛は拘束がなくなりようやく立ち上がれる。

「自分でナイフを抜け」

「失血死しないか?」

「もうじき応援が来る。そいつらにこの人の処置を頼む」

「分かった」

 丹愛は警備員の後ろに回り刺さっていたナイフを引き抜いた。

 血はピュッと軽く出たがドバドバと溢れる様子はなかった。

 だがまだ警備員の意識は切れてはいなかった。

「たぶんリミッターを外した影響でアドレナリンが出たんだろうな。血がそんなに出てない。これなら死ぬことはまずないだろうな」

 そしてようやく他の警備員がトイレに辿り着いた。

 警備員達がトイレの惨状を見て変な行動を起こす前に神岐が認識誘導ですかさず催眠をかけた。

「警察も救急車も呼ぶな。客に騒ぎがバレる。あんたらそこの非常口から来ただろ。非常口からこのおじさんを運んで裏口へ出てタクシーで病院まで行け。運ぶ際は傷口が心臓より高い位置になるようにうつ伏せで運べ。この程度の出血なら1時間ぐらい持つ。止血とここの痕跡を消せ。他の奴らに見られても何とか誤魔化せ。いいな」

「「はい、分かりました」」

 警備員達は負傷した警備員を抱え上げ、非常口へと消えていった。

「床に血がつかなかったのが幸いだな。多少の痕跡は残ってるかもだが警備員に任せよう。これでこのまま移動出来る」

 神岐は現場付近を見渡して判断する。

「助かった。すまない」

 丹愛は神岐に頭を下げる。

「俺らは敵だ。敵に頭を下げるな。みっともない」


「さて、じゃあ約束の件だが、やっぱ俺とあんたじゃ実力に差がありすぎる。身体能力はわからないがやっぱり能力性能で差がありすぎる。あんたの好きな場所を選べ。ハンデをやる。イラつくなよ。これは事実だ。諦めろ」

 悔しいが認めざるを得ない。

「分かった。ショッピングモールを出て左手に取り壊し予定のビルがあるだろう。先にそこに行っててくれ。俺は準備をする。ハンデを貰ってはいるがあんたに勝つつもりで行く」

「廃ビルなら人も寄り付かないから他人を催眠にかけるってことも出来ないわな。だがいいのか?あんたが来るまでの間に俺は付近の住民を催眠にかけて裏工作を試みるかもしれないぞ」

「それでも構わない。高鬼(タワースナッチ)は対集団になっても問題ない力だ」

「分かった。じゃあ先に行っているから早く来いよ。あまり遅いと帰るからな」

「なるべく早く行くようにする」

「そうか…」

 そう言うと神岐はトイレを後にした。

 丹愛は神岐がこのまま逃げる可能性を考えていなかったわけではないがここまで協力してくれておいてそのまま帰るとは思えなかった。

 おそらく向こうも零兄の隠れ鬼(インビジブルスナッチ)の存在を意識しているから逃げても意味がないことを分かっているはずだ。

 だいぶ譲歩してくれた。こちらも殺すつもりで行くべきだろう。

 丹愛は決意を固めると準備を整えるためにショッピングモールの中を進んで行った。

神岐義晴

能力名:認識誘導 ルビ不明

神岐の体を見た状態で神岐の声を聞いた対象に催眠をかけることが出来る


鬼束丹愛

能力名:高鬼(タワースナッチ)

触れた物が自身より高い位置に移動した時、その物体を操ることが出来る


作者の声

まさかの果たし合いみたいになっちゃいました

けど丹愛君はナイフしか持ってなかったので準備が出来るのは本人にとってありがたいです

次回から戦闘が始まります

※認識誘導強すぎな

なろう主人公に相応しくなっちゃってるw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ