第25話 超能力者来襲②
清家による記者会見の翌日の19時
テレビ夕日で『話題のユーツーバー特集!』という番組が放送された。
これは人気の、ではなく最近急上昇している投稿者にスポットを当てたものだ。
毎日ラーメンを食べる動画を投稿して飯テロとして、そしてラーメンの宣伝も行なっている『ズズズTV』チャンネル登録者180万人。
オタクっぽい格好をしているがダンスのキレはユーツーブでも最高峰、『EAB』チャンネル登録者112万人。
視聴者からは『王』と呼ばれ、最近ではプロ資格も獲得しニッコリ動画では知らない者はいないレジェンド、『みょこう』チャンネル登録者95万人
先日の配信で20万人もの来場者数を記録した最強配信モンスター、『加藤准』チャンネル登録者76万人。
どれもこれも最近名前をよく聞く者ばかりだ。
そして、番組の最後に紹介されたのが…
あの番組が放映されてから1週間が経過した。
最後に紹介されたのはcomcom。
番組は視聴率のために最後のユーツーバーはシークレットゲストとして宣伝していたようだがあの4名以上に現在勢いがある投稿者はcomcomしかいないので最早comcomが出るのは周知の事実となっていた。
番組が始まる前からcomcomが出るのではということでネットは盛り上がり、実際にその通りなのでcomcomが登場するとネットは大盛り上がりだった。
神岐は事前に自分が出ると言えなかったので番組を見るように認識誘導で催眠をかけれなかった。
なので番組自体を見ない人がいることが予想されたがそんなことはなかった。
やはり400万人の力は侮れないものだ。
comcom登場時の瞬間視聴率は他の競合のフビテレビ、二本テレビ、TBP(Tokyo Broadcasting Project)のゴールデンを抑えての24%を記録した。
これが現時点での今年最高の視聴率となった。
comcomのチャンネル登録者も420万人に伸びTwitterのフォロワーは150万人
おはようとツイートしたら10万リツイートという話題を通り越して人気投稿者へと成長してしまった。
特に視聴率の件は小鉢から連絡がありひどく感謝された。
この数字的根拠を持って役員会議で配信部門の件を議題に挙げるようだ。
莉掛も大層喜んでおり近いうちに食事でも行こうと誘われた。
気を遣うのは嫌なので断りたいが何故か滝波夏帆が同席するということなので受けることにした。
いや、別に滝波夏帆がいるから受けたわけじゃないからな。
そこまでお膳立てされたのを無下にするのが申し訳なかったから断っただけだからな。
俺は彼女はネットで見つけたいんだよ。
恋人に時間をかけるのが面倒だからだ。自分の時間を優先したいからだ。
定期的な電話でご機嫌取り、毎月の記念日のプレゼント。嫌気がさす。
まぁだが滝波夏帆は冗談抜きで可愛いから友好関係になれるのなら素直に嬉しいと言おう。
そういえば平原暁美からは最近あまり連絡が来なくなったな。
期末試験で忙しいのだろうか?
俺も期末試験はあるが授業が簡単なのは適当に流し大変なのはちゃんと聞くというメリハリのおかげで余計に時間をかけずに勉強出来ている。
これならまず単位を落とすことはないだろう。
秀は取れずとも優は確実に違いない。
そんな大盛り上がりから時間が経ち…
神岐はインタビューの裏話を配信で話したり普通のゲーム実況を投稿したりと小鉢達との約束通りに活動を続けている。
野球動画ほどの伸びは流石にないがそれでも450万人に相応しい再生数は取れている。
神岐自身もこれなら問題ないと小鉢にそちらが決まり次第お話を受けたいと連絡した。
小鉢からもまだ確定はしてないが役員の感触もいいからとりあえず10月に開始する方向で進んでいることを聞き夏休み中に投稿者目線での話を聞きたいということで役員会議にお呼ばれしている。
その会議の後に社長との食事が待っている。
なので会議で粗相を起こすものならその後の食事会がお通夜モードになってしまうので注意しないといけない。
テレビ夕日は自由な社風なので出勤はスーツでなくてもいいらしいが重大な会議や催しの時はスーツの着用が義務付けられている。
確かに髑髏のネックレスを付けた人がどれほど素晴らしいスピーチをしたとしても内容が頭に入ってこないだろうからその判断は正しいだろう。
そのため神岐もスーツで会議に望まなくてはならない。
神岐自身スーツは成人式やインターンシップなどで着たことがあるので着ることに抵抗はないが回数をこなしていないので毎回ネットを見ないとまともにネクタイを結べないのが本人の悩みのタネだ。
今日は7月24日
大学帰りに駅前のショッピングモールに立ち寄っていた神岐は昼過ぎだというのに学生がやたら多いことに気付いた。
(こんな昼間から遊びに惚けるとは彼らは非行少年達かぁ?
いや、7月末だから終業式か。どうりで心なしか学生達がはしゃいでるな。あんなに騒いでどうせ8月末頃には夏休みの課題に忙殺されてヒーヒー言いながら徹夜で課題に取り組むんだろうな。哀れなり。大学生にそんな障害はない!)
心の中で年下にマウントを取る20歳大学生。
テストが来週に控えており内心ちょっといつもより心が落ち着いていない。
それでも神岐はアルバイトをしていないので同級生よりは時間は持て余している方だ。
同じゼミ生の的場や虹石も『テスト期間なのにシフト入れられちゃったー。勉強できないじゃーん』と嘆いていたのを耳にした。
江東からはそんなことは聞かれなかったがバイトはしているとは言っていたので彼女達ほどではないが大変だろうとは思う。
神岐が真っ直ぐ帰らずにこんなところにいるのは今日発売の新作ゲームを買うためだ。
これを今日明日の生放送で実況する予定だ。
わざわざ店頭に行かずともネットで買えばいいのだが以前ネット予約で注文した時に何のイレギュラーかは分からないが配送が困難になり商品が届くのに4日もかかったことがあった。
その4日の間にいろんな実況者が既に投稿や配信をしていたので完全に出遅れたのは苦い経験だ。
その件以来、神岐は最新作は必ず店頭で予約して当日受け取りをしている。
これなら確実に商品が届くからだ。
先程ショッピングモール内にあるゲームショップで新作ゲームを購入してきたばかりだ。
そのままショッピングモールを去るのももったいなかったので神岐は中にあるコーヒーショップで小休止をしていた。
隙間時間を有効に使うためにカバンに入れてある英語の単語帳を取り出し英語の勉強をする。
就職はしたくないがスキルの獲得を目的として語学の勉強は1番力を入れている。
と言っても簡単な部分だけだ。
いざ外国の方と話すとなったらネイティブすぎて聞き取れないし日本人が学ぶ発音だと本場の人に通じなかったりする。
玉ねぎを英語で発音する時に日本ではオニオンと発音すると習うが本場の玉ねぎの発音はアニョンである。
アニョンが正しいのではなくわざわざオニオンと一字一字丁寧に発音するのではなく滑らかに流暢に話した結果だ。
オニオンと言うとアメリカ人にはあまり伝わらないらしい。
何回か言えば伝わるのだろうが玉ねぎをアニョンと言う人達にオニオンと言っても何言ってんだこいつとなってしまう。
そういったところからも英語はあまり得意ではない
習っても上手に使いこなせないからだ。
最悪な話認識誘導で相手に日本語で会話させることも可能だから本腰を入れて取り組む必要はない。
頑張ってますアピールの一環だ。
英語が1番力を入れないと単位がもらえないからな。
今回の期末で一番厄介なのは英語だろう。
さてさて単語帳に集中しよう。
irrelevantは………無関係だったかな。
relevantが関連したという形容詞だから反対の意味の無関係だ。
でも反対の意味を表すなら普通disやun、inが使われるんじゃないのか?
ここではirが反対を表す単語のようだな。
これは間違ってinって書いてしまいそうだ。気を付けよう。
じゃあ次は……minutesか…、意味は確か……
「意味は分だろう?」
神岐の後ろで男が答える。
「あれっ?違ったかな?時間の分だろ?大学生でまだその段階なんだな。京海大学もその程度なんだな。早稲田慶應と並び評されるが初見はその程度の大学か?」
男は続ける。どうやら大学生にもなってminutesが分などの中学1年生レベルの単語を覚えていたから馬鹿にしたいのだろう。
だが大学生の単語帳にそんなイージーな問題が載っているはずがない。
「残念。minuteは分という意味があるがここでの答えは『議事録』だ。会議の内容をまとめるの議事録だ」
突然背後から話しかけてきた男に気持ち悪さを覚える神岐。
正解を言って間違った男が逆上する可能性もあったがそういった類いは年齢や身分でマウントを取るのが多いので学力でマウントを取ることはまずないので逆上を考慮せずに言い返した。
学力でマウントを取るのは婚活女ぐらいだろう。
実際男はキレたりしなかった。
「へぇー、そんな意味もあるのか。俺達は学校に行ってなかったからな。知らなかったよ。ありがとう兄ちゃん」
「そうですか」
神岐はわざわざ後ろを振り向いて会話するのが面倒だったので振り返らずに言葉を返した。
これで男も去ってくれると思っていたのだが背後の気配が動いた様子はない。それどころかじっと見つめられている感覚すらある。
「あのー、まだ何か様ですか?」
たまらず振り向こうとするが…
「振り返るな」
うなじに何か鋭利なものが当たる。
「神岐義晴だな」
「いや、人違いですよ。私は立花優作です」
咄嗟に否定し自然な流れで偽名を名乗る。
「隠さなくてもいいよ。君が神岐義晴君だということは調べが付いてるんだよ。じゃあこう言ったらいいのかな。君はcomcomだね?」
(俺がcomcomであることを知っている。動画を見てる人には能力を使っているから、それでも知ってるのは)
「………誰だあんた?俺の名前だけ知ってそっちは教えないのは不公平じゃないのか?」
「それもそうだな。俺の名前は鬼束だ。君に協力してもらいたい」
「協力だと。ナイフ突き立てて協力しろってそれは協力打診とは言えないんじゃないか?知ってるか?それは脅迫と言うんだぞ」
「君の顔を見るわけにはいかない。君は催眠の能力を持っているんだろう?」
「!」
「言ったろ?調べはついてるんだよ。おそらく顔を見たらアウトなんだろう?動画でもそれで視聴者に催眠をかけているんだろう。君の顔を見たら催眠にかかるから俺は君の顔は見ない。さぁ返事を聞かせてもらいたい」
「そもそも協力って何だ。誰の差し金だ!」
「ドクターだよ。俺達に超能力をくれたんだ。その見返りに協力している」
「!……なるほどね…白衣の男か」
「っ!、そうか、知っているのか。というところを見ると君はドクターに能力を貰ったことを覚えている様だな」
「10年も前だから朧気だけどな。当時5年生だったら曖昧ではあるが流石に記憶には残ってるよ。ということは残りの2人もやっぱり超能力者みたいだな」
「そうだ。2人とも超能力者だ。普通に生活している。今頃俺の兄弟達が同じようにコンタクトを取っているはずだ」
「それで…目的は…?」
「強い超能力者を集めている。君も能力を貰った口だろう?是非ともドクターに協力して欲しいんだが?」
協力ねぇ…。
「別に望んでなったわけじゃないんだけどな。まぁそれなりに感謝している。だがそれで協力する理由にはならないんだなこれが。俺は学校や活動で忙しいんだ。あんたらに付き合っている暇はない。もういいかな。流石に首筋にずっと当てられると痛いんだが…」
液体が垂れてないから出血はしてないようだがずっと突き刺さっていてもうそろそろ痛みも精神的にも限界だ。
「そうか…」
そう言うと鋭利な物を首から離す。
「断られることは承知だ。君達はドクターに気に入られているみたいだが俺達は納得いかん。催眠能力は確かに強力だが催眠にさえかからなければただの一般人だ。そして俺は決してお前の顔を見ない。故にお前は能力を使えない。ドクターから大したことのない能力だったら殺しても構わないと言われている。俺と戦え神岐義晴!ドクターに認められるその力を俺に証明してみろ」
鬼束はナイフを神岐のいる机に刺す。
後ろを見れない神岐には上から突然ナイフが降ってきたように見えた。
(催眠にかけられないのに力を証明しろって…、俺個人の素の力が協力をする相手にふさわしいかを見極めるってところかな?
それにしても…俺の真後ろにいる状態から机にナイフを垂直に刺す……普通なら不可能だな。後ろから投げたって放物線を描いて刺さるわけだからどうやっても斜めに刺さるはずだ。しかも回転もなく真っすぐ落ちてきた、超能力じゃないと出来ない芸当だ。だがどんな能力かが分からないな。さてさて、能力を聞き出すことは簡単だ。俺に能力を与えたドクターって奴のことも聞きたい。だが鬼束丹愛だったか?そいつの言う通り超能力が使えない敵と対峙した時俺は無力だ。戦闘力は平凡だろう。身体能力はいい方だがそれが戦闘向きかと言われたら分からない。人助けの一環でそういう争い事は経験したことがあるがそれも認識誘導ありきだったからな。奴は認識誘導の能力を勘違いしているがまぁいいだろう。奴の誤解に乗ったまま超能力で勝ってやる!)
神岐義晴
能力名:認識誘導 ルビ不明
条件を満たした相手を催眠をかけられる状態にする
鬼束丹愛
能力名:不明
詳細:不明
第2章も佳境です




