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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第2章 神岐義晴
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第24話 2つの恩

「えぇ〜、以上のことから。今後の試合ではこちらの球が速く投げにくいボールを採用したいと思います。こちらの球は特殊加工により空気抵抗の力を多く受けることになりま–––––」

 野球連盟の理事長である清家(せいけ)大悟が会見を開いた様子がテレビで放映されている。

 それを横で竹満と一緒に見ている。

「義晴、どえらいことになったな」

「あぁ、話には聞いてたがいざテレビで話を聞いてるととんでもないことをしたんだなって感じるな」

 小鉢から聞かされていたのでインパクトは竹満ほどではないが野球界の歴史を変えてしまったことはやはりそれほどのことをしたんだと感じさせるのに十分だった。

「話聞いてて思ったけどさ、早く投げにくい特殊な球ってことは打った時も飛びにくくなるんじゃないの?」

「多分飛ばないだろうな。空気抵抗を強くするんだから投球だけでなく打球も変わるだろう。そもそも今までとは大きさや重量も変わるから選手が慣れるには時間がかかるだろうね。まぁこの仕様変更で成績が落ちる選手もいれば上がる選手もいるだろうな。どちらにせよ良いスパイスになったんじゃないか?自分でやらかしといて言うのもなんだがこの件で俺が伸びたように野球界にもスポットが集まったんじゃないか?」

 言い訳して納得しようと思っているのか。

「…皮肉だな」

「…皮肉だよ」

 むしろ宣伝費用を請求したいくらいだ。

 だがこの仕様変更はプロ野球以外にも波紋を呼びそうだ。

「甲子園とかもおそらくルールが変わるだろうな」

「甲子園、あぁ、確かにね。甲子園ももしかしたら投手が潰れるまで終わらない事態になるのかな?」

「いや、それだけじゃない。球数だよ球数。プロ野球選手でも30球程度がボーダーラインなんだよ。調べてないけどな。シャークライダースが30に設定してたみたいだから30で通ってるけど実際は分からん。まぁ30だとしよう。プロでも30なら高校生はどうなる。そりゃあプロ選手並みの体を持っている人もいるかもしれんがそれは強豪校ぐらいだ。普通の野球部員は学校があり家に帰っても宿題がある。野球漬けの生活ではないからどうしても体の作りが満たなくなる。俺の見立てだと20球が限界だろうな

 2イニングちょいだ。どんなに速くても2イニングしか投げられない投手なんて使い勝手が悪いだろう。クローザーなら最高だが甲子園でクローザーなんて聞いたことないな。あるのかもしれんが野球には興味がないから分からん」

「2イニングってことは9回まで投げるには最低でも5人必要ってことになるね?」

「そんぐらいだろうな。弱い高校はもっといるかもしれん。俺が怖いのは投手の少ない高校が1人に対して無理して多く投げさせることだな」

「多く投げると最悪どうなるの?」

 そういえば竹満には言ってなかったな。

「まずは筋肉が攣る、そこから肉離れや疲労骨折、関節等の炎症、神経障害とかが発生する場合がある。最悪は二度とボールを投げられなくなるかもな」

「それってさぁ、実験したの?」

 竹満が恐る恐る尋ねる。

「………だったらなんだ?」

 2人の周りが角張る。

 そこにはテレビの音だけが聞こえる。

 神岐が言った途端ピターンと静かさが訪れた。

 竹満は自分が超えてはいけないラインを超えたと直感して二の言葉を出す寸前で引っ込めた。

『そんな酷いことをしたのか!』という言葉を出さなくて良かったと安堵している。


「……………なーんてな」

「はぇ?」

 角張った世界が丸みを帯びていく。

 テレビの音がはっきり聞こえ出した。冷蔵庫のフシューという音が遠くから聞こえる。

「冗談だよ。確かに投げ過ぎると腕に負担が残るが流石に二度と投げられなくなるほどではないと思うぞ。炎症や疲労骨折は覚悟したほうがいいかもな」

「…義晴、完全にダークサイドっぽかったぞ」

 未だに丸い世界への帰還が実感できない竹満は気軽に話せない。

『だったらなんだ?』はそれほどの威力を持っていた

「あははは、試したことがないからな。だって試すのって俺自身じゃん。俺危ないことしたくないし」

「そりゃあまぁそうだけど…」

「甲子園は甲子園で高校の野球連盟があるだろうからそっちで会見はあるかもな。動画を見るななんてことは言えないだろうから同じくボールの変更があるかもな。幸いにもまだ甲子園は始まってないしタイミング的にもちょうどいいかもな。あれっ?」

 神岐が何かに気付いた。

「ん?どうしたの?」

「いや、球速を抑える対処はしてるけど投手へのケアはどうすんだろうって思ってさ。速くなりにくいボールで投げても腕への負担は変わらないんだから30球しか投げられないのに」

「あっ!」

 竹満は神岐の言いたいことが分かった。

(気付かなかった。確かに投手へのアプローチが何もなされていない。清家は未だに新しいボールについて語っている。

 既に対処を施しているのだろうか。それとも気付いていないのか分からないがそこを改善しないと結局のところ投手のストック戦になっちゃうんだよな)

「想像以上に拗れてきてるね」

 竹満は色々と考えたが結論だけ述べる。

「小鉢さんから聞いた以上に面倒なことになりそうだな。小鉢さんもそのことは言ってなかったから多分連盟はまだ気付いてないんだろうな。全く良い年した大人が何やってんだか」

「小鉢ってテレビ夕日のディレクターって人?」

「そうそう」

 神岐はこの会見が始まってすぐ自分が既にこの会見のことを知っていたこと、そして明日のテレビ夕日のユーツーバー特集に出ることを教えていた。

 口止めをする必要がなくなったからだ。


「さてさて、これからどうなるのか楽しみだね。メジャーリーグとかでもなんか変化があるかもしれん」

「……大丈夫か義晴?敵を作ってもいいことはないぞ」

「大丈夫だ。絶対にお前に被害が行くことはないよ。ほら、テレビ見てないでゲームしようぜ。新しい動画を作らないといけないしな」




 竹満は知っている。

 小学校の頃から神岐とは一緒だったから神岐義晴という男がどういう男かは理解しているつもりだ。

 神岐は昔竹満を助けている。

 それは神岐にとってはなんて事のない事だったかもしれないが竹満にとっては救ってくれた恩人だ。


 昔の神岐は言うならば普通のやつだった。

 平凡な学力で平凡な身体、家庭も普通で秀でたところもなければ劣るところもない周囲に溶け込むような、混ざっていて特色のない男子だった。

 だが小学5年生の夏休みが終わってからだろうか、神岐は成績をグングン伸ばし小6の体力測定では5年生の時はC判定だったのにAを記録した。

 しかし神岐自身の性格は全く変わっていない。

 一緒に遊んでいても神岐はそのままの神岐だった。

 しかし変わっていることに気付いた。

 例えるなら体が別のものになっているような…



 神岐は子供の頃から顔立ちが整っていて女子からもモテていた。

 そのせいでクラスの男子からはいじめとまでは行かないが変なちょっかいや嫌がらせを受けていた。

 それを一部の神岐寄りの男子や女子がその男子達を攻め立てたりと教室の中の勢力が二分されていた。

 しかし5年の2学期初めは嫌がらせをしていた連中がある日を境にピタッと神岐に攻撃するのをやめたのだ。

 神岐がやめてくれと言ったわけでもなく誰かが教師に告発したわけでもない。

 急に終わったのだ。

 その前の日に神岐が嫌がらせを受けている現場にいた同級生の話によれば、いつも通り軽いちょっかいを出していた連中が夏休み明けの学校でイライラしていたのか今までは小突く程度だったのに始めて手を上げた。

 神岐は軽く後ろに飛ばされ泣いてしまったらしい。

 そして『やめてよー』とそいつらに言った途端男達は神岐にちょっかいを出すのをやめて帰っていったらしい。

 そして次の日にはピタリと嫌がらせの類は止んだ。

 見ていた友人は流石に手を挙げて泣いてる神岐を見て自分がやったことに気付いたからやめたんだ、良かった良かったと言っていたがしばらくして神岐の変化に気付き出した竹満にはそれが変化による物だと分かった。

 それはいい変化だったから竹満も気にはなったが個人のことなので気にしないことにしていた。


 そして5年前、中学3年生のある日学校に行くといつもはいるはずの神岐がいなかった。

 結局始業のチャイムギリギリに神岐は教室に入ったのだがその顔は酷くげっそりしていた。

 以前のような竹満だけが感じたような小さい変化ではなく誰が見ても分かる変化だった。

 クラスメイト、そしてホームルームのために後から入った教師も神岐の顔を見るなりどうしたと駆け寄りちょっとした騒ぎになった。

 校内1のイケメンの非常事態だ。教師からの信頼も厚かった神岐を皆が心配した。

 保健室に行けと言う担任に心配ないと神岐はそのまま自分の席に着いた。

 そのまま朝のホームルームは沈んだまま行われた。

 そしてホームルームが終わりクラスメイトが神岐の席に行くが神岐は心配いらない、少し1人にしてくれと言いクラスメイトを拒んだ。

 クラスメイトは素直に神岐の言うことを聞いて授業で教科担任が神岐を心配するたびに先生を宥めていた。

 そして竹満はクラスメイトに『神岐君のそばにいてあげて』と言われた。

 クラスで小学校から神岐と一緒なのは竹満だけだったから竹満に頼ったのだろう。

 神岐はみんなのアイドルだった。

 神岐はそれを自覚していたのかは分からないが誰とも近しい関係にはならなかった。

 恋人は作らなかったし放課後にクラスメイトとゲーセンで遊ぶなんてこともしなかった。

 良くも悪くも平等だった。

 けど昔からの馴染みである竹満には少しだけではあるが近い距離で接していた。

 週末遊びに出かけたり互いの家でお泊りをする関係だった。

 周りも竹満だけは例外で神岐の近くにいてもやっかみなどはしなかった。それをしたら神岐に嫌われるからだ。

 だが竹満を通して神岐とお近付きになろうという者もいなかった。

 一度それをした人に神岐がキレたからだ。

 そんな奴とは仲良くしたくないとみんなの前で言い放ったので以後それをやる者はいなかった。


 そして昼食の時間

 神岐達が通っていた中学は昼食は各家庭の弁当だった。

 食べる場所も決まりはなく学校から出なければどこでもいいというスタンスだった。

 竹満はいつも神岐と教室で弁当を食べていた。

 2人で食べ時々クラスメイトが交じって食べるといった感じだ。

 だが4限の科目の教科書を片付けている間に神岐はどこかへ行ってしまった。

 そしてLINEに屋上に来てくれとメッセージが来た。

 竹満は思いつめた神岐、屋上。その2つから自殺の可能性を感じ全力疾走で屋上へ向かった。

 おそらく人生で1番早く走っていただろう。

 階段を登る時も手すりを使って最短ルートで階段を駆け上がった。腕にかかるGがとんでもなく手すりがビキっと音を立てた気がしたがそんなことに目を向けることなく屋上をひたすらに目指した。


 屋上に着くと神岐は背中をフェンスに預けてグッタリとしていた。

 一先ず自殺していないことに安堵した竹満ほ神岐の方へ歩み寄った。

「どうしたんだよ急に」

 神岐は顔を上げて竹満の顔を確認する。

「あぁ、速かったな。凄いドタドタ聞こえたぞ」

「お前が死ぬかもしれないと思ったからだよ。………何があったんだ?」

「……何かあったのかは言えない。そもそも原因も分からないし言ったところで信じてもらえないから」

「…むず痒いな。それで、人に言えない悩みなら何で俺を呼んだんだよ」

 冗談をする奴ではない。自分のポジションを理解しているにしろしてないにしろ朝の見てくれはパフォーマンスではないことは明白だ。そんなことをしたら周りが騒ぎ出すことが分からないほど神岐は馬鹿ではないしふざけたがりでもないと分かっていた。

「…聞きたいことがあったんだ。なぁ宗麻、俺は5年前から変わったと思わないか?」

「5年前?」

 5年前は神岐が超能力者になった頃だ。

 自身の能力が向上したことを言っているつもりだ。

 勿論竹満はそんな事実を知らない、だから当時思っていたことを。

 竹満は5年前から変わったよと伝えた。竹満の視点から神岐に客観的に伝わるように。

「けどそれは良い変化だと思ったし義晴自身も分かっていることだと思ってたから特に何も言わなかったよ。お前がクラスで人気になり始めたのもそのぐらいだろ?嫌がらせもなくなったしクラスの中心みたいになってたじゃないか?」

「やっぱり変わってたんだな」

 神岐は納得顔をしていた。

「お前は変わる前の俺と変わった後の俺、どっちが好きだ?」

 好きかと聞かれて茶化す気は一切ない。TPO的に今それを行うのは神岐からの信頼を失うことだ。

「さぁ、よく分かんない。昔も今もお前の根っこは変わらないんじゃないか?今のお前でも俺を助けてくれるだろうし」

「助ける?何のことだよ?俺お前を助けたりしたか?」

(やっぱり無自覚か、まぁ俺が助けてやったんだぞ感謝しろとか言うムカつく奴よりはマシか)

「助けたんだよお前が気に留めてないだけで。お前が昔の自分との乖離で悩んでいるなら今も俺の時みたく人助けをすればいいんじゃないか?お前は体こそ変わったかもしれないが心は昔のまんまだろうが!何が原因で悩んでいるのか知らないけど、お前の身に何があったのか分からないけど、そのままでいいんだよ。変わった自分に合わせるな!真っ直ぐ歩いてきた神岐義晴を路頭に迷わせてるんじゃねーよ!」

 はぁ、はぁ、と息が荒くなる。

 全力ダッシュにこの量だ。声を荒げたせいで余計に疲れる。

 それでも竹満は言いたいことを全て言った。

「……変わらなくていいのか?」

「変わるなら国籍も変えてみろ」

 無謀なことを言ってみる。

「ぶっ、あっはははははー。それは無茶だな。分かった分かった。なんか悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。変わらなくてもいいのか…。うん、助かったよ。おかげで吹っ切れた」

「?いまいち分からんが解決したならいいや。ほら、いつまでもカッコつけてフェンスに寄りかかってないで早く戻るぞ。昼飯食いそびれちまう」

「けっ、人が一生懸命悩んでたってのになんだその言い草は。ほら、戻るぞ。ビリは帰りジュース奢りな。ヨーイドンッ!」

「あっ、義晴。フライングだぞそれ」

 先に走り始めた神岐を竹満は数テンポ遅れて走り始める。

 どうやら今日は出費がかさみそうだ。


 ♢♢♢


「義晴」

「ん?」

「変わってくれるなよ。変わるなら国籍も変えてみろよな」

 あの時に神岐に言った言葉と同じ。

 神岐ははっと驚いた顔をしたが、すぐに元に戻し、

「道に迷ったりしねーよ。ちょっと冒険するだけだ」

 神岐もまたあの時に竹満が自分に言ったのと同じような言葉で返す。

「ならいい。困ったらいつでも助けてやる。昔の恩返しだ」

「…なあ、俺本当にお前を助けたのか?全く記憶にないんだが…」

 一生懸命昔のことを思い出そうとしながらブツブツとゲームの準備をする神岐、本当だと説明しながら手伝う竹満。

 2人がこうして5年もcomcomの活動を続けているのは2人の助けられた恩と救われた恩が入り混じって出来た絆の賜物だろう。

 これから先2人には様々な試練が待ち受けているのだろうがこの2人なら、なんとかするかもしれない…

神岐が活動初期に人助けをしていた理由、2人の友情について書いてみました

次は本当に戦闘回です

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