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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第2章 神岐義晴
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第23話 小鉢勇

 小鉢勇には大学生の時に交際している人がいた。

 しかし、その彼女が妊娠をしてしまった。

 父親には殴られ母親には泣かれてしまった。

 向こうの家に挨拶に行った際も相手の父親に殴られた。

 堕ろすように言われたが彼女が激しく抵抗した。

『この子を堕ろすなら私も死んでやる』と言い大学卒業後の結婚を条件に渋々出産を認めてくれた。


 デキ婚

 もっと清い交際をしていればこんなことにはなっていなかっただろう。

 その後彼女は優を出産し無事に2人は大学卒業後結婚した。

 結婚式は執り行わなかった。

 経緯も経緯だし何よりその時期は就職のことでドタバタしており金銭面でもとてもじゃないが出来る状態ではなかった。

 彼女は『ちゃんとこの子を育てたいから』と就職はせずに専業主婦になった。

 そして小鉢はフビテレビに就職した。

 小鉢はもう父親なのである。その気持ちを忘れることなく仕事に没頭した。

 斬新な企画や番組を制作して大いに貢献してきた。

 休日も返上して会社のため家族のために我武者羅に働いてきた。


 しかし就職して2年後、幸せそうな生活は一気に形を変える。

 彼女が不倫をしていたのだ。

 相手は小鉢と彼女の共通の友人で同じ大学の同級生だった男だ。

 2人は小鉢が一生懸命働いている中で密会しホテルなどに行っていた。

 小鉢がそれに気付いたのは休日、昼過ぎに仕事が片付き家に帰った時だ。

 家に近付くにつれて子供の泣き声が聞こえてくるようになった。

 どこかの家庭のことだろうと思っていた小鉢は家のドアを前にして気付いた。

 その泣き声が家の中から聞こえてきたからだ。

 小鉢は慌てて鍵を開け中に入るとそこには家の中でポツンと置き去りにされていた優だった。

 小鉢は驚き優を抱きかかえ泣き止むようにあやした

 そしてあやすために背中を摩ると優が激しく泣き出した。

 小鉢も何故さらに泣き出すのか分からずそれからもあやし続けたが一向に泣き止むことはなかった。

 そして背中を触るとさらに泣くことに気付いた小鉢は優の服を脱がして背中を見てみた。


 そこには赤黒い痣が背中の至る所についていた。

 小鉢は分からなかった。

 病気かと思いすぐさま病院に駆け込んだ。


 診断の結果は打撲だった。

 医者からも『虐待ですね』と言われ児童相談所に連絡された。

 さらに医者からは軽い栄養失調だと診断された。

 何故放っておいたのですか。それにこの怪我はあなたがやったのですかと怒気を孕んだ医者に言われ小鉢は何も言えなかった。

 やがて病院に児童相談所、さらに警察が訪れた。

 小鉢は見つけた時の経緯を話し、さらに何故か妻が家にいないことを話した。

 するとスマホから妻から着信があり電話に出ると『子供がいなくなった。誘拐されたかもしれない』と困惑した妻の声が聞こえてきた。

『子供を置いてどこに行ってたんだ』と聞くと『いや、ちょっとコンビニに行ってる間に』とモゴモゴとした回答が返ってきた。

 コンビニにしてはおかしい。

 何故なら小鉢が優を見つけてから既に3時間が経っているからだ。

 家から最寄りのコンビニまでは徒歩10分のところにある。

 とてもじゃないが3時間コンビニにいるなんてことはできない。

 小鉢は妻が嘘を付いていると気付いた。

 そしてこの時間に子供を放って出掛けていることの意味を悟った。


『妻は、浮気をしている』

 そして同時に自分の間抜けさを呪いたくなった。

 子供がこんな状態であることに全く気付けなかったからだ。

 小鉢はとてもじゃないが子供のために時間を作る余裕はなかった。

 最低限の家族サービスはしていた。

 ゴミ出しなどの家事も家にいるときはなるべく率先していた。

 だが直接的な子供の世話は妻に任せきりだった。

 まさか妻に虐待を受けていたなんて、満足な食事も受けていなかったなんて。

 その場に医者や警察官がいる中で小鉢は憚らずに号泣してしまった。

 警察官が必死に小鉢を宥める。

 10分後、精神的に落ち着いた小鉢は電話のこと、そして自分の予想を周りに打ち明けた。

 児童虐待が確定しているのだ。医者の診断もある。

 警察の動きは早かった。

 すぐさま小鉢の家に警察官を派遣した。

 電話の通りなら小鉢の家に妻がいるからだ。

 警察署に連行して取り調べを受けるようだ。

 不思議なことだが小鉢が優に虐待をしていると疑われることは一切なかった。

 まず自分がやってたら自分で病院に連れて行くなんてことはしないだろうしあの号泣を見せられたらとてもじゃないが演技とは思えない。子供を純粋に思ってのことだと分かったと後で警察官に説明された。

 その後妻、小鉢雛は警察に連行され取り調べを受けた。

 そして誘拐ではなく泣き叫ぶ声が大きくて近隣住民から通報があって病院に搬送されたと説明すると途端に目が泳ぎ始めた。

 虐待をしていたのかという質問に対し雛は虐待などしていないと否認していたが医者の診断結果を伝えると途端に『夫がやっていた。私は止めようとしたが暴行を受けて何も出来なかった』と泣きながら言った。

 だが先程小鉢の全力の号泣を見ていた警察官。

 その涙に何の気持ちもこもっていないことにすぐ気付いた。

 子供を置いてどこに行っていたのかと尋ねると先程と同様にコンビニに行っていたと証言したが警察官が『3時間もですか?』と笑いそうになった言い方をするとまたもやしどろもどろになった。

 それからは警察の質問に対して一切否定と黙秘を始めた。

 ラチがあかないと判断した警察は雛のスマホの中をあらためた。

 そこにはびっしりと浮気相手とのLINEのやりとりが残されていた。

 まるで恋人のようなやり取り、夫である小鉢や優に対する暴言、そして極め付けは『あのガキがピーピーうるさいから背中殴って黙らせてやった』という文面だ。

 さらに食事を与えていないというやり取りも残っていたためクロだと判断した警察は証拠を見せつけ、暴行、育児放棄などの諸々の容疑で雛を逮捕した。

 警察は浮気相手も虐待に加担していると判断し浮気相手、和村永也(えいや)を同じく暴行の容疑で事情聴取を受けることになった。

 和村は虐待などしていないと否認した。

『家には行ったことがない。そもそも暴行も子供の躾のためだと言っていた。夫は育児をせずに仕事ばかりだと聞いていた』と。

 浮気については素直を認めた。

 あんな真っ黒なLINEを見せられたら何も言えないだろう。

 浮気相手からも証言が取れたことで雛の容疑は完全なものとなった。

 雛は起訴され裁判で育児放棄と暴行は卑劣なものであると判断され懲役4年、執行猶予なしとの判決が出た。

 女親からの虐待で執行猶予なしは滅多にないことらしい。

 やはり浮気をしていたというところが大きかったようだ。

 小鉢と雛は逮捕のあとすぐに離婚することになった。

 警察や児童相談所の介入もありスムーズに事が運んだ。

 財産分与はなし、親権は父親の勇に、養育費はなし、慰謝料は子供の治療費と精神的苦痛で250万円請求した。

 慰謝料は雛の両親が一括で支払ってくれた。

 雛の両親からすまないと土下座をされた。

 しかし両親のせいではないからと頭を上げされた。

 浮気の理由については小鉢が仕事にかまけてこっちは育児ばかりで辛いし寂しかった。

 その時にたまたま和村と買い物先で偶然出会い愚痴をこぼしていたら口説かれてそのままホテルに行ってしまった。

 それからは子供のことを考えるのが嫌になり殴ったり食事を与えなかったりといった虐待を行った。

 しかし小鉢にバレると不味いから小鉢がいるときはバレないように振る舞った。

 その日も夜遅いと聞いていたから夕方まで遊ぼうと朝からホテルで行為に及んでいた。

 家に帰ったら子供がいなくてテンパってしまったと言われた。

 期間については4ヶ月らしい。


(自分で産むと決めて自分で働かないと決めておきながら寂しくて浮気はないだろう)

 と小鉢は思ったがもうこんな女のことを考えるのは嫌だったので何も言わないことにした。

 小鉢はその後淡々と話を聞き、手続きを済ませた。

 両親からも『若さ故の失敗だと思え』と慰めか戒めか分からないことを言われた。

 こうして小鉢はシングルファーザーになった。


 だがこれだけでは終わらない。

 身内に逮捕者が出たということでフビテレビでの小鉢の立場が一気に悪くなったのだ。

 元々小鉢は優秀故に周りには好まれていなかった。

 さらに子供のことや離婚の手続きの諸々で何日も仕事を休んでいたのがさらに印象を悪くしてしまった。

 周りが有る事無い事言いふらしその話は上層部の耳にも入った。

 小鉢は幹部に呼ばれ事情を説明することになった。


 そして1週間後

 小鉢は自主退職を勧められた。

 子供の世話が大変だろうという理由だったが要は体のいい追い出しだった。

 小鉢の企画はテレビの在り方を大きく逸脱したものが多くそれ故に会社との摩擦も少なからずあったからだ。

 小鉢はここに自分の居場所がないことを感じ取り自主退職を受けた。


 ♢♢♢


「信じていた相手が子供を傷付けていたんです。もう結婚は考えてないですね。今の状態でも十分生活が成り立っていますしね」

 小鉢は2年前の出来事を思い出しながら答える。

「君は霧矢君と仲がいいじゃないか?彼女ではダメなのかね?」

「ダメって訳じゃないですよ。正義感があって好感は持てますが向こうからは嫌われてますからね。その可能性はないと思いますよ」

「……」

「お気持ちは嬉しいですがもう大丈夫です。それでは今日はもう失礼します。優のこと考えたら会いたくなりましたので」

「あぁ、楽しんでくるといいさ。今回はインタビューのため仕方がなかったがなるべく休日に仕事は持ってこなくていいんだからな」

「分かりました。それでは失礼します」

 小鉢が社長室を出る。


 1人になった社長室で莉掛は2年前のことを思い返す。

(小鉢君、君の過去のことは十分に理解出来る。だが君は自分の幸せを軽んじてはいないかい。もう一回幸せになったっていいじゃないか。子供がいることが唯一の生きがいだと言ってたじゃないか。子供のそばにいてあげなくてどうする。小鉢君、私は未来のテレビ夕日を君に任せたいと思っている。だが、今の君には任せたくないな。何をするにしても結局は自分なんだ。君が幸せであって初めて他の人も幸せに出来るんだ。辛い思いをしてる人が作ったものを見て素直に笑い楽しむことは出来ないぞ!


 comcom君、小鉢君の友人になった男よ。私は上司だから言えることも出来ることも限られてる。だが君になら小鉢君を変えられるかもしれないな。君のやり方を私に見せてくれ)

 莉掛は社長室の中で2人に期待を込める。

次回はようやく戦闘回です

長らくお待たせしました

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