第19話 テレビ出演①
あれから3日が経った。
直角までの右肩上がりはひとまず落ち着いた。
それでも投稿する前の伸び率とは比較にならないほどだ。
チャンネル登録者は400万人になった。
投稿する前は30万人ほどだったのでたった数日で10倍以上にまで膨れ上がった。
今までは気軽に返せていたリプライ返信もにその数は比例して10倍以上になりとてもじゃないが一人一人に返すことが困難になった。
しかし動画の再生数は依然として上昇を続けており現在2100万再生だ。
想像はしていたが予想以上の事態に神岐は喜んでいいものなのか微妙な気持ちだ。
神岐は学校に行きつつも一連の件の対応で疲れ切っていた。
来るとは分かっていても実際に来てみるとやっぱり面倒だった。
落ち着いてはいるが世間的にはまだホットな話題なのだろう。
地上波ではもうニュースになることはなかったがyu-tsu-buやニッコリ動画、Adema TVなどの配信サイトでは依然としてザワザワしている。
そしてそんなザワザワに動かされた組織が1つ……
最高の盛り上がりを見せた野球動画。
comcomの知名度、人気はうなぎ登り。
しかし神岐の日常は依然として変わらない。
週明け月曜日に神岐は普通に学校に行っていた。
周りはやはりcomcomの話題だ。
普段何してるんだろうーとか聞こえるがすぐそばで本人が聞き耳を立てていることなど露知らずだろうな。
あの動画は全国的に拡散された。
それは同時に全国で催眠をかけたということだ。
特定や詮索をしないと催眠をかけているので誰も神岐がcomcomであることに気付いていない。
しかし認識誘導にも弱点はある。
それは発動条件が神岐の姿を見た状態で神岐の声を聞くというものだ。
つまり目が見えない者、耳が聞こえない者には神岐の能力は掛からない。
しかしそういった障害を患った者がcomcomに興味を持つことはないだろう。
よって神岐に死角はない。
だからこうしてのんびり過ごせている。
週明けは騒がしかった。
大学の野球サークルの人が俺の動画を見てキャッチャーを気絶させて救急車に呼ばれたらしく実体験を交えた話は大学中の話題を掻っ攫った。
奈良星も俺のところに来て嬉しそうに語っていた。
俺も奈良星に紹介してもらったという手前動画を見て感想を述べあったりした。
テレビではワールドカップの話題にシフトしていて下火になりつつあるが口コミ?というのだろうか、それについては依然盛り上がっている。
♢♢♢
数日後
神岐は現在自分の家にいる。
せっかくのバズ、この流れで何かもう一本動画を出しておきたかった。
comcomは動画の更新頻度は決して高くない。
しかし月1本以上という決まりだけは設けている。
それがないと何もしなくなるからだ。
もっとも本当に月一本なんてことはなくゲーム実況は頻繁に投稿しているし生放送も定期的に行なっているが。
実写だけが月1本ペースなだけだ。
実写というのはネタ探しが面倒でしょうがない。
しかもこの右肩上がりだ。
400万人に相応しい動画を作らなくてはならない。
ハードルが上がっておりそれなりにプレッシャーもある。
認識誘導を使えばどんなゴミ動画も再生数を稼げるのだから適当でもいいと思うかもしれないが人間何かしら抑制がないとダメになってしまう。
(イドとエゴ?だっけか。人間はそれを均衡にして生きている。
どちらが傾くと今まで50:50で保たれていた心が一気に傾く。
ダイエットのために食事制限を繰り返してようやく痩せたのに反動でバクバク食べてしまいまた太る。
いくら雑にやっても問題ないとはいえそれなりの時間と苦労をかけて動画を作らないと自分の人間としての部分がダメになってしまう。
ダラけるのならその分頑張らないといけない。
でも面倒だからとりあえずゲーム実況をしよう)
早速諦めてゲームをパソコンに接続する神岐。
するとメールボックスに着信があった。
神岐はcomcomとしてのメールボックスを解放している。
初期の人助けはここから寄せられるメールからしていたものだ。
知名度が上がり人助けをしなくなった後も惰性でメールボックスはそのままにしてある。
ファンからの応援のメッセージ、他の投稿者からのコラボ依頼、企業からの案件の持ち込み。
主な使用用途はこの3つだ。
しかし殆どが1番である。
2はそれこそ数件しか来たことがなく3番は1回も来たことがない。
そして今回のメールの宛先はなんと3番からだった。
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初めましてcomcomさん。
私はテレビ夕日ディレクターの小鉢と申します。
この度当社が企画する『最近話題のユーツーバー特集!』という番組に是非とも出演していただきたくご連絡させていただきました。
この番組はタイトルの通り今年に入って話題になった動画を投稿された方を中心としてユーツーバーの方にインタビューをするという内容になっています。
comcomさんは顔を隠して活動されているようですのでインタビューは顔を映さない等の配慮をさせていただきたいと思います。
先日投稿された動画を拝見しました。
私も動画を見て試してみましたが20キロほど速くなりました。
おかげで息子からは『パパって野球選手なの?』と言われまして非常に気持ちの良い経験をさせていただきました。
ここだけの話ですが近々野球界の方でcomcomさんの動画についての声明が上がるみたいです。
それについてのお話もしたいと思います。
もし出演してくださるのでしたらお返事ください。
株式会社テレビ夕日 企画担当室ディレクター 小鉢勇
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神岐はそのメールを読み終わり背中を椅子に預ける
ギィーと言う音だけが響く。
(テレビ夕日って言えばアニメやゲームとかのサブカルチャーの発信を積極的に行なっているテレビ局だ。世間のアニメは悪という考え方を真っ向から無視してゴールデンタイムにバンバンアニメを流す局だって有名だったよな。あと空気を読まない番組を作ったりだとか。フビテレビや二本テレビほどのメジャーさはないが一部ではチャンネルに困ったらとりあえず夕日を見ろと言われているほどの浸透ぶりらしい。なるほど、この局なら地上波でユーツーバーを出演させたりしそうだな。顔出しNGへの配慮。ユーツーバーに寄り添っていて好印象だな。そこまでして俺を起用したいのか…。まぁこの企画をやる上で今流行りの俺は外せないよな。プロ野球界の話にも興味があるし、とりあえず受けてみてあんまりだったら途中で悪いが断ることにしよう)
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小鉢様
comcomです。
オファーの連絡ありがとうございます。
私なんかでよければ是非とも使ってください。
日程ですが、私は土日でしたらいつでも空いています。
場所もテレビ夕日さんの希望に合わせます。
よろしくお願いします。
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♢♢♢
「おっ、返事が来た!」
とあるオフィス
パソコンをカタカタ打ち込んでいた男が右下のポップアップに気付いてタイピングを止める。
ポップアップをクリックしてメールのページを開く。
「………よしっ!」
周囲で作業している人がいるにも関わらず大声を上げガッツポーズをする。
周りも怪訝な目でその男を見る。
隣のデスクに座っていた女性が声を掛けた。
「小鉢さん、うるさいです」
冷たい関心のない声で言う。
「もう、そんなこと言わないでよ莉奈ちゃん〜」
ヘラヘラとした表情でうるさい男、小鉢勇が莉奈という女性に絡む。
「ちゃんはやめて下さい気持ち悪いです。あと気軽に下の名前で呼ぶのはやめて下さい不快です」
莉奈と呼ばれた女性は敬語を使いつつも小鉢のことを罵倒する。
「お堅いなー莉n「霧矢」……霧矢ちゃ「ちゃん!」…霧矢君…」
すっかり萎縮してしまった小鉢。
「正直女に君もどうかと思いますがちゃんよりはマシです。次やったらセクハラで訴えますからね」
小鉢の方が先輩であるはずなのだが目が先輩に向けられるものではない。
言うならば……ゴミを見るような…。
「はい…」
ゴミは言い訳をしない。
素直に頷く。
「それで何をそんなに喜んでいたのですか?」
「あぁ、うん。ユーツーバーの企画あったじゃん。あれで今話題のcomcom君にオファーしたんだけど本人からokが来てね。嬉しくてつい叫んじゃったんだ」
おちゃらけた感じは消えて淡々と答える。仕事モードというべきか。
「comcomって先週の野球のですか?よくオファーを受けてくれましたね」
「なーに、こういうのは相手が欲しそうな物を垂らしとくんだよ。そうすれば勝手に食いついてくれるさ」
小鉢勇という男は女性社員からの評判が悪い。
チャラチャラして気軽にファーストネームで呼びちゃん付けをするから軽い男として敬遠されている。
しかし性格に反して仕事の方は優秀であり奇抜ながらも優れた番組を成功させてきた。
入社数年にして次期企画担当室室長とも囁かれている。
霧矢も小鉢のことは好ましく思っていないが仕事に関しては先輩として尊敬している。
現室長やテレビ夕日の上層部からの信頼も厚い。
本人もこんな自分を拾ってくれたテレビ夕日には感謝しており日々局のために仕事に励んでいると飲み会の時に言っていた。
「私には出来ない駆け引きですね」
霧矢は自分が頑固で堅っ苦しい性格であることを分かっている。
そのため企画室内でも浮いてるとまでは言わないが積極的に絡んでくる人がいない。
仕事も真面目なことしかアイデアが出せず自由な風土のテレビ夕日とは少し考え方が合わなかったりしている。
しかしそんなの御構い無しに気軽に話しかけてくる小鉢に対しては好ましくはないが特別な思いを抱いていることは本人も自覚していない。辛いという気持ちが先行していてはっきりとしていないのだ。
「インタビューっていつ行うんですか?」
「えっ、そうだね。向こうは休日だったらいつでもいいらしいから今週末にでもやろうかね」
「そうなんですね…」
霧矢は黙る。
言っていいものか迷っているようだ。
「どしたの?」
たまらず小鉢が尋ねる。
「あの…、私も同席していいですか?」
「えっ、うん。それはいいけど。霧矢君ってニュース番組のミニコーナー担当じゃなかったっけ?こっちは完全にバラエティーだけど大丈夫なの?」
「小鉢さんは軽いしセクハラ紛いなことしますけど、企画担当室で1番だと私は思ってます。私はこういう性格なのでもっと柔軟な発想が出来るようになるために今回のインタビューに同席させてください」
霧矢は頭を下げる。
小鉢は霧矢が真面目なのは知っているし自身のそういうところで悩んでいるのも知ってる。
もちろん自身が好かれてないのも。
そんな霧矢が自分を1番だと言い、意地を張らず小鉢から得ようとする姿勢に感動した。
無論そんな可愛い後輩の頼みを断るわけにはいかない。
「いいよ。その姿勢嫌いじゃない。じゃあ莉奈ちゃんって呼んでも「訴えますよ」…そこは真面目でいくのね……。じ、じゃあcomcom君に土曜日にテレビ夕日の会議室でやるって連絡するね。君からも彼に聞きたいことあったら質問していいからね」
「分かりました。ありがとうございます」
気にするなと手を振りタイピングを再開する。
(嫌いじゃない…ね)
嫌いだけど仕事ぶりは尊敬している。
自分でも矛盾した感情だとは分かっているがそうなのだから仕方ない。
嫌いだけど話しかけてくれるのは嬉しい。
嫌いだけど…。
神原サイドは警察や学友達
神岐サイドは親衛隊やテレビ局を絡ませていきます
もう一人はまだ決まっていません
3人目は年齢しか決まってないので展開が全く浮かびません
もうすぐ神岐も鬼束兄弟と戦うことになるので早いうちにプロットをまとめておきます
次回はインタビュー回です




