第136話 なかまづくり⑥
半年前
原宿
「いたか!?」
「いえ、方々探し回っていますが見つかっていません。大きな荷物を持った観光客と宅配業者以外の情報はないですか?」
「ない」
きっぱり言う。
かくいうそいつ自身もそれ以上の情報を持ち合わせていないのだから。
「はぁ……宅配業者は荷物の大小関係なく思しき人物は捕える方針にします」
「医者の方はどうだ?」
「監視していますが、どうも仲間でしょうか?顔が似てる連中と何やら話し込んでるみたいです。妙に周囲を警戒しているようで会話が聞こえるところまで近付けていないため位置捕捉にとどまっていますが…」
「動向は逐一報告するようにしろ」
「はーい」
(だったらテメェが窓口をやれよ。逐一報告するのにどんだけ労力を使うか知らねーのかよ。俺を介すのは毎回連絡をもらうのがめんどくさい、かつスマホ越しだと威嚇できないからだろ。ホントしょうもないなこいつ。底の浅い奴だわ〜)
年上ってだけでデカい顔をしている無能。
年功序列の悪しきところだ。仮に成果主義になっても、「俺は長いから何でも知ってんだ」という訳の分からないことを言って現場を荒らしていくのだろう。迷惑なことこの上ない。
指示だけ出して自ら動くことなく欲だけを満たす。
見苦しい。普段からムカついてはいたが、今日は一段とムカつく。
医者ももっと攻撃しとけば良かったのに、と思うくらいには立腹だ。
(適当こいた報告をしてもいいが、痺れを切らした時に直接現場の連中に聞かれると嘘がバレて面倒だ。血の気の多さと歴の長さで一定の信用を得ているのが鬱陶しい)
悪態が止まらない。さっさとヘマして失脚してくれないかと願うばかりだ。
(にしても…件の医者の警戒度の高さが怪しいな。医者が人を探してるだけなのに金銭をちらつかせたり異様に警戒したり。普通ではない何かがあると見ていいだろうな)
本当なら自分で直接確認したいところだが、無能パイセンが直接報告をもらうことに拘るせいで無能の近くに居続けなきゃいけないため見ることが叶わない。
現場リーダーを現場に置かないというふざけた采配だ。
誰もそれに疑問を抱かないところに自分本位の民族性が垣間見えてしまう。
(探し人が見つかればこの無能といえど現場に出るだろう。それまでの辛抱だな———)
♢♢♢
全く、過剰な期待をしてくれるもんだね。
だが、ここで有用性を見せる必要があるね。
こちらは品定めする側だと言うのに、どうしてこうして立場が変わってしまったのか?
(『確実達成』は不規則の『超能力』なんだけど、それを説明してないから何やら超常現象を引き起こせるくらいに思われているな…。この事態を打破できるほどと思われているようだが———)
失敗しても特大の損失にはならない。
所詮は他人。実は少女の方に『超能力者』としての適性があったなんてことはないだろう。
(これを打破できないようなら俺自身も『超能力者』として一人前とは言えないのかもな。逃げ続けて来たこの9年半。絶対に見つからないように小規模でチマチマ開発してチマチマ金を稼ぎながら全国を転々とする生活はもう疲れた……。この生活もようやく終わる。全ての可能性を根絶して、あの子を取り戻す———)
都道413号線
教会通りの交差点前
この道は一方通行で入り口はここしかない。
なぜ原宿の中でここに当たりをつけたのかというと、竹下通りに少しでも近い場所でかつ車が入ることができて、さらに人の往来も竹下通りよりは少ないからだ。
北側の道路も候補に挙がったが、あそこは警察署が近くにあって、もし警察に通報されたことを想定して、そんな近場にはしないだろうと考えたからだ。
誘拐犯は『確実達成』が作り出した仮想などではなく現実に存在する人間だ。
目撃者を少しでも減らすためならこの場所が最適だと判断した。
怪しい人間がいないかを鬼束兄弟達に見張らせている。
中華系の連中がうろちょろしているらしいが、こちらの動向を監視して近くに控えているということだろう。
(というかあいつらは見つけたとしてどうするつもりなんだか…。馬鹿にされた仕返しで誘拐犯に加担する?単なる金目的?。後者なら金をポンと渡して奪還で終いだが、加担されたら面倒だ。俺らが誘拐犯を捕まえようとするのを妨害されたら、俺はどうにかなっても彼らには難しいだろう。…そもそも、教会通りにいなかったら全て御破算だが、そうなれば教会通りにいるこいつらに動きがあるはずだ。それである程度判別することができる。相互監視で上手いことバランスが取れてるな)
お互いを監視させることでどちらも逃げられないようにする。
仲間ではないのに平和の結束が生まれている。
皮肉な話だ。
奴らが金目的なら必ず近付いて来る。
それで勝手に成果物が上がって来るのならそれでよし。
もはや金が掛かるか掛からないかの話になってきた。
(まあ、そんな簡単には行かないだろう。というかさせない。『確実達成』が必須であり、彼らの力なしでは達成できない。そんな塩梅になって欲しいものだ———)
♢♢♢
「おいおい、ずっといるぜ。俺達を特定したってより、俺達が車で移送する場所を絞ったみたいだな。何で警察じゃなくあんなドブカス人間が子供を探してんだ?」
「理由は分からんが、曰く付きの子供であったのは間違いないな。お前の言う通り殺すのが早い気はしてきたが、その場凌ぎに未来は掴めないだろうな」
「つーと、俺らも覚悟決めなきゃか?車をビタ付けして乗せても、おそらく検問みたいなことをされるな。トランクに乗せて荷物としてやり過ごしたいが、向こうさんもそれを警戒せんわけがねーな」
手っ取り早く車を手配して移送させていればこうはなっていなかったのだろう。
下手に拠点があることでのんびりし過ぎてしまった。
別府に味見なんぞをさせず、そのまま連れて行っていれば良かった。
それもこれも、特殊なオーダーのせいだ。
客は選ぶべきだが、営業は金になるなら何でも仕事をとってきやがる。んでもって実働は末端の仕事だ。
やってらんねーというのが正直なところだ。
「どうする別府。この建物を特定して突撃して来ることはないだろうが、車で連れて行くにも外で待機させっぱなしだとそれはそれで奴らに狙われる。時間の猶予は少ないぞ」
車に乗せてしまえば後は強引に突破出来るかもしれない。
この建物から車に乗せるまでが勝負の鍵となる。
「そうだなぁ———」
所詮は末端だ。
失敗したら切り捨てられ、成功しても足が付けば切り捨てられる。
完璧しか方法はない。
その完璧を完遂するには?
———
「有働、じゃんけんをしよう」
じゃんけん、ということは———
「………俺は変化系を出す。強化系か放出系か、好きな方で逝けや」
♢♢♢
教会通りは通りの中で4つの道に繋がっている。
交差点のそば、美容院そば、ビルへの小道、そしてモーツアルト通りだ。
交差点そばは交差点と兼用でドクターが。
後は順番に市丸、丹愛、実録。そして出口、明治通りとの交差点に零が配置されている。
どこから移動しようとしても零が出口で待ち構えている形だ。
(状況から絞り込んでこの通りになったけど、外れだった場合が恐ろしいな。ドクターは連中の動きから分かると言っていたけど、彼らすらも取りこぼすかもしれない)
それにこんな方法では実地テストと言えるのだろうか?
何かが起こる。それだけは分かる。
ドクターの言う通りにはいはいと動いていたら、その何かが起こった際にフリーズしてしまう。
心構えがあれば、落ち着いて対処できるというものだ。
教会通りにいなくても明治通りを突っ走れば原宿の動きは確認できる。
通りの中に入った弟達、東西でドクターと自分で包囲することができる。
………まだ予感は拭えない。
それはドクターも同様だろう。
弟達は…、順調に進んでいると思っているだろう。
(撒き餌どもの妨害か、誘拐犯の策略か、その他。全ての選択肢を潰していくことは出来ない。刻一刻と状況が変化する中で、最善で最適解を出し続けなきゃいけない。間違ってても、それを軌道修正できなきゃいけない)
♢♢♢
原宿 竹下通り
観光客でごった返す通り。
しかし人間全員が全員善人ではない。治安も良好とは決して言えないが、今日の原宿は雰囲気が少し悪かった。
普段からも全くいないわけではないが、ガラの悪い外国人の数がいつもより多いのだ。
危害を加えられたわけでも揉め事を起こされたわけでもないのだが、常に街行く人をギョロギョロと見回しているのは、見られる側からしたらあまり気持ちの良いものではない。
そんな空気が通りに蔓延し、段々と人が減って行った。
そんな事情を知らない外からの来訪者が今も流入しているが、それ以上の速度で流出していっている。
まだ通りにいるのは危機管理能力の欠如している人間だけだ。それか怖いもの知らず。
そんな奴らが残ってるせいでこれまた嫌な客層が形成されている。
店を構えている人達にとっても迷惑千万だが、下手に突くと余計に面倒なことになる。
どうせ行政の割引サービスが適用されるのだ。関わるだけ損だ。
(はぁ…、なんか今日はいやーな感じね。インバウンドで来る人は多くて売り上げにも繋がってるけど…、日本語を話せない人に接客するのって、日本人相手の5倍くらい疲れるのよね)
竹下通りに店を構えて30年
女性向けブランド品を取り扱う"VANCY"の店員である二村は街の微妙な変化に勘付いていた。
厳つい男性が足早に動き回っている。その目付きがあまりに怖く、店の外で店内に入ろうか悩んでいた女性がそれを見て店を離れるのが何回も発生していた。
竹下通りでかくれんぼでもしているのか、何かを探しているようだった。
(贋作を正規品って言って売り捌いてる連中に似てるわね…。見破られたから報復でも考えてるのかしら?ザマァないわね)
彼らの商売のせいで竹下通りに悪い印象を持たれてしまっている。
警察もさっさと検挙してほしいところだが、どうせ警察は本腰入れて踏み込む気配がない。
大方海の向こう側への配慮か、既に金を積んでもらったから見て見ぬふりをしているのか。どちらにしろ彼らが今なお原宿にのさばっているのは変わらない。
早く消えて欲しいと願っていたが、もしかしたらその時が来たのかもしれない。
♢♢♢
最初に気付いたのは、荒くれ者だった。
モーツアルト通りのビルから出て来たのは、登山用の背中いっぱいの大きなバッグを背負った成人男性だった。
登山ウェアを着用していて、これから登山に行くんだろうと分かる格好となっていた。
(大きな、荷物。でも観光客、なのか?)
モーツアルト通りを担当していた末端の構成員には観光客か否かの判断が出来なかった。
判断が付かなくてもとりあえず捕まえろとの指示なので、男に話を聞くことにした。
「へぃ、おにさん。ちょと良い?」
日本語が流暢に話せないのでどことなく片言になってしまうが、それでもリュックを背負った男はこちらを振り向いた。
「No, Thank you.」
結構です。と伝えて男はモーツアルト通りを北に向かい出した。
外国人の客引きに対してのノーセンキューは定番だが、ここで引くわけにはいかない。
何故こんなことをしているのかは知らないが、あいつはともかくあの人経由の指示だ。あの人の言うことならやるだけの価値はある仕事だろう。
「待ってよおにさん」
リュックのベルト部分を掴む。
普通なら肩や服を掴むが、荷物を持った相手を捕まえろという指示が先行して手を伸ばした先がリュックになってしまった。
もしも相手がクロだった場合、直接攻撃を仕掛けたことになる。
ヤベっと内心思ったが、リュックを掴んだおかげで相手は無視することが出来ず止まってくれた。
「何か?時間内に明治神宮に行く必要があるんですけど」
「何って……」
(何だ?捕まえて何を確認すれば良いんだ?あの人は医者が探してる荷物の大きな人をって話だから———)
「……おにさん、医者と知り合いか?」
「…医者?」
(あの女の子を探してるんじゃないのか?医者の娘なのか?)
有働は想定外の質問に思わずフリーズしそうになったが、下手な長考は言い逃れと勘繰られてしまう。
「医者の知り合いはいないですよ。あの、急いでるんで。これ以上しつこいようなら警察を呼びますよ」
警察
そのカードを切られると、これ以上は踏み込めない。
だが疑わしきは捕まえろという命令だ。
シロクロの判定なんて依頼主しか出来ない。
それに、神社に行くのに竹下通りを経由するのも腑に落ちない。
とりあえず連れて行けば分かる話だ。
ここは竹下通りに比べたら閑静な通りだ。
多少騒ぎが起こっても見る人は少ないし、騒ぎが漏れても近くにいるのは同じ組織の仲間だ。
むしろ応援が来る。
であれば強気で行くしかない。
「いいから、来いや!!」
リュックを思い切り引っ張る。
背負った男は寄りかかるような形になった。
リュックのベルトを掴んでいるため荷物を放棄しない限りは離れられない。
「イタタタ。何すんだ!?離せ!誰かー、警察を呼んでくれーーーー!」
捕まった男は思い切り大声を張り上げた。
ズボンのポケットへ手を伸ばす。自らも警察を呼ぼうという魂胆だ。
警察を呼ばれてしまう
「止めろ!一緒に来てくれるだけで良い」
「誰かーーーー、警察をーーーー」
ここは人は少ないが無人ではない。これ以上騒がれると警察を呼ばれてこちらがしょっぴかれる。
捕まっても誰も助けてはくれないだろう。
組織の犯行でもなくあの人から人探しを依頼されただけだ。
お願いを過大解釈して暴走したとして切り捨てられるのがオチだ。
割引サービスを用いても被害届を出されて裁判沙汰になればそれだけで肉体的時間的拘束を受ける。
黙らせるしかない
スッ———
「騒ぐな。殺すぞ」
ナイフを男の首筋に当てる。
男は流石にナイフでは命の危険もあるのか、ようやく黙ってくれた。
「シロだと分かれば解放する。だから黙てついて来てくれ」
「おい、どうしたよナイフまで取り出して…あっ、大きい荷物」
大声に導かれたのか、仲間がこちらにやって来た。
「こいつを連れて行く」
「分かった」
仲間はスマホを取り出して誰かに電話をかけ始めた。
(さっきまでスルーだったのにリュックを持って外へ出たら話しかけられた。荷物の有無。大きい荷物って言い方からして、やはり女の子を探している?でもすぐにリュックの中身を見ないのは何故だ。誘拐犯から取り返したいなら真っ先に確認するだろ!)
自分達を探している連中がいるのは確定だ。
だが何故警察でもない日本人でもない連中が追っているのだ。
あの女の子は関係者にいないと言っていたが、嘘だった?
だが女の子は普通の日本人に見えた。何故こんな奴らに追われているのだ?
誘拐犯としてではなく荷物を持っただけで怪しい扱いされるのは何でだ?
(誰のところへ連れて行くんだ?シロの判定基準は何だ?どの道、連れて行かれてはダメだ。じゃん負けしたんだから、囮役として最大限に掻き回さなくてはならない)
全員の注目が自分に向けば、別府はフリーになって動きやすくなる。
竹下通りにそぐわない登山ウェア。
人1人収められるくらいの大きなリュックにして正解だった。
これがセカンドバッグくらいの大きさなら見向きもされなかっただろう。
車が通りに着くまでの時間稼ぎ。
渋滞次第で時間は変動するが、30分くらい撹乱すれば良いだろう。
竹下通りの中をぐるぐる回っても良いし明治神宮に行くのも良し。
明治神宮からなら代々木上原や新宿方面だってどこでも行ける。
俺はリュックを背負っただけの実質手ぶらだ。
中身を調べられても何も出やしない。
仮に捕まって…この際警察でも良いな。警察が踏み込んでもそれは巧妙に元手を伏せた雑居ビル。
そして踏み込めば踏み込むほど警察が手を出しにくい相手へ辿り着く、まるで反比例。
完璧……とはこのアクシデントの中言えないが、ミッション達成はほぼ確と言って良いだろう。
(別府の暴走抑止もないなら、俺は俺の好きなようにやらせていただくかね)
別府が抑制の効かない倫理観を失った性魔獣であることは間違いない。
そんな男とバディを組むのは、正反対で真っ当な人間。誰もがそう思うだろう。
それは違う。
好き勝手動き回るルール無視の新入社員を、ルール遵守のマニュアル人間が更生できるわけがない。
そう、答えは———
ガッ
「えっ?」
グギッン
「いてっ!?」
グリュンッ
ズガガァァァァァァン
「ぐぇぇぇぇ」
「な、何してるお前!!」
有働は、リュックのベルトを握りしめている手首を思い切り掴んで捻った。
痛みで手の力が抜けたのを見逃さず、手をリュックから引き離し、足払いによって相手の体を浮かせて、地面に叩き付けた。
もう1人の仲間も突然のことにアクションが遅れてしまい、有働の追撃の右ストレートを顔面にモロに受けてしまった。
「ゔゔうううう」
「いって…………」
片や地面に叩きつけられ、片や顔面パンチだ。
起き上がることは叶わない。
「俺の邪魔をするな」
そう言って有働はモーツアルト通りを北に進んだ。
向かう先は竹下通りだ。
答えは、暴力
無法者には暴力をもって制する。
別府を抑え込めるのは別府よりも強い者だけ。
威嚇だけしか能がない連中程度なら簡単に捌くことができる。
「…さて、こっちに釣られてくれよ海を越えた同業者さん」
♢♢♢
「モーツアルト通りでリュックを背負った怪しい人物を確認したとのことです」
「行き先は!」
「竹下通りです」
「は?こっち側に来るのか?」
「目的は不明ですが、医者がいる方向とは反対側なのでまず我々が先に捕まえることが出来るかと」
「なら全員を竹下通りに集中させろ。捕まえてしまえばこっちのもんだ」
「………承知しました」
(短絡思考め、こっちに来る奴が医者の探し人なんて確証はないのによぉ)
だがそんなことを言っても聞く耳は持たないだろう。
命令にははいはいと了承しながらも、部下への指示には医者達の監視を引き続き行うように伝える。
トップが無能でも指揮官が優秀なら組織は回るものだ。
神輿は軽い方が良いとは日本の言葉だったか。
組織論とは世界共通で同じような結論に至るのかもしれない。
「私は2人の救護に行きます。表に出ますか?」
「当たり前だろ!この手で捕まえてゴミ医者との取引に使う。後は俺が指示するからお前はそっちに向かって良いぞ」
「承知しました」
ニヤッ
簡単簡単
簡単すぎて本人を前にしてるのに笑みが溢れてしまう。
(これ以上俺が引っ張るとあいつの功績は薄れるからな。救護と言って自然に探し人から遠ざかれば必ず出しゃばってくると思ったぜ!)
これでようやくバカの命令を聞くことなく自由に動くことが出来る。
(日本人の医者。どんな奴か非常に興味深いな)
♢♢♢
モーツアルト通りを監視していたのは実録だった。
有働と中国人の争い事もコッソリと見ていたのだ。
5人で通りを監視する際のサインは決めてある。
報告のためにその場を離れるのは機会損失になるからだ。
実録が両隣と丹愛と零が見えるところまで移動してジェスチャーで見つけたサインを送った。
丹愛から市丸に、市丸からドクターへとサインが送られた。
「三男……いや、長兄がいるから四男か。モーツアルト通りを北に移動…。竹下通りの人混みに紛れる感じか」
確かにサインが送られる前に、何人かが慌ただしく移動しているのが見えた。
モーツアルト通りの何者かの捕獲に総動員するつもりらしい。
(けど、監視の目がそのままだな…)
まだ自分達は監視されているらしい。
全員移動を想定していたが、どうもこちらには一切の隙を与えるつもりはないらしい。
(会話した奴はそこまで頭が良くないだろうからいなくなると思ったんだがな…。思えば強く踏み込んで来ないのも自制が効いている。奴ではない奴が指揮していると見ていいな)
だが監視だけで捜索部隊は向こうに行ったらしい。
それだけの少数なら問題ない。
それに近付かないようにしているため、教会通りに連中はいないはずだ。
先程のジェスチャーも悟られてはいないし、暗号というほどではないが他人からは体を大きく動かしている変人としか思えないだろう。
「逃げ込んだんなら加担の線は薄くなったか…。さて、誘拐犯がそんな簡単に捕まるとも思えないし車が通れないところに逃げ込んだ…。張られていることがバレて逆方向に逃げたのか……」
奴らが捕まえるのを待つことも出来るが、失敗した場合が面倒だ。
隣の市丸にサインを送る。
「えぇっと……。リュックの男を、捕まえろ。俺と…、丹愛と…、実録の3人でか」
リュックの男はさっき実録が見たという怪しい人物だろう。
竹下通りの方に向かったらしい。
ドクターと零兄は車が入り込める教会通りの監視のために離れるわけには行かない。間にいる俺達三つ子なら動きやすいから外国人達より先に捕まえろということのようだ。
(……鬼ごっこね———。家族以外とやるのなんていつぶりだろうな———)
鬼束と時雨の過去編その6です
ついに誘拐犯が動き出しました
囮になった有働を追う怪しい中国人組織と三つ子達
動きを見せない別府
移送のタイミングを狙うドクターと零
そして捕まったままの時雨
3つの勢力が絡み合う展開となってきました
過去編も佳境になっております
おかしいな?
どうやって時雨が超能力を自覚したのかって話が元々の流れだったのに、まだそこに辿り着いてないですね
はい、群像劇なんてそんなもんです
次回も過去編です
武闘派の有働を止めることは出来るのか!?




