第13話 自己暗示
ピッピッピッピッピッピッピッ
電子音がうるせーな。
ん?体が上手く動かせねー。
というよりここはどこだ?
目を開けて辺りの様子を探る。
真っ白な天井にベッドに横たわっている自分?
そして隣には医療ドラマでよく見る心電図の様なもの。
「病院か…。あれからどうなったんだ?」
目覚めたばかりで意識がはっきりしない。
腕を見てみると点滴の管が刺さっている。
「なっ?なんだこりゃ!」
神原は自分が包帯でグルグル巻きにされていることに驚いた。
これじゃあ動かせねーわな。
とりあえず体を起こしてみることにする。
「麦島はどうなった?早くあいつに教えてやらねーと」
ゾンビ映画顔負けの姿でベッドから降りようとするが足の方に何かがいる。
「祥菜か…?」
そこには自分の恋人である伊武祥菜がスヤスヤと眠っていた。
「付きっきりでいてくれたのか。ありがとな。お前を守れて嬉しいよ」
伊武を起こさないようにゆっくりとベッドから降りる。
どうやら俺以外にも入院患者はいるようだがここは症状が重い人で固められているようだ。
気絶しただけの麦島はおそらく別の部屋だ。
麦島を探すために神原は病室を出たのだった。
あぁー、体が重い。
どうやら数日くらいはずっと眠ってたみたいだ。
そして病室を出た時に感じたことだが、足がくっついているのだ。
あんな切断をされてもう治すのは不可能だと思っていたがちゃんと足の先まで感覚は感じるしまるでそもそも切断された事実がなかったみたいだ。
左足のアキレス腱も無事みたいだ。
どうやら俺の知らないところで医療技術というものは発展を遂げたらしい。
それともここにはカエル顔の医者でもいるのだろうか?
そしてもう1つ感じたことがある。
痛みだ。起きた時に全身から痛みを感じたのだ。
痛覚遮断を解除した覚えはないのに痛覚があるのだ。
どうやら気絶などで意識を刈り取られるとかけてある能力が解除されるようだ。
ずっと眠ってたから副作用は感じられなかったがあれ程の暗示をかけて代償がないはずがないだろうな。
気絶解除は案外楽な逃げ道になりそうだな。
もうずっと永久的に痛覚遮断をかけるのも選択肢としてはアリかもしれないな。
神原は一階の総合受付に来ていた。
「すみません、麦島迅疾の病室を探してるんですけど」
「失礼ですがお名前を伺ってもよろしいですか?」
「神原奈津緒です。一緒にここに搬送されたと思うんですけど」
「神原さんですね。––––––––––麦島さんがお待ちです。こちらへどうぞ」
受付のナースさんが受付室から出て自ら案内し出す
麦島が待ってるってどういうことだ?
「こちらの病室です。それでは」
「あ、ありがとうございます」
入口の入院患者の名前にちゃんと麦島迅疾と書いてある。
個室ではないのでノックする必要はないかな。
ガラガラガラ
神原は病室に入った。
さて、手前のベッドに奴はいないな。
てことは奥のベットか、いたいた。
麦島がアホそうな顔で眠っていた。
待ち人が寝てんじゃねーよ。
「おい麦島、起きろ」
体を揺らしながら麦島を起こす。
「う〜、うーん〜。あと五分〜」
「ベタなことしてんじゃねーよ早よ起きろ」
麦島の頭を小突く。
「痛〜!もう誰〜?あっ!なっちゃん〜。無事だったんだね〜」
「おかげさんでな。で、何で俺を待ってたんだ?」
「待ってたってか〜。なっちゃんとしっかり状況確認をしておきたかったからさ〜。なっちゃんと家族以外は面会謝絶にしてたんだよ〜。受付で名前聞かれたでしょう?」
俺はお前の家族扱いかよ。
面会謝絶って普通個室クラスじゃないと出来ないんじゃないのか?
いや、入口の名前のところ、麦島の名前しかなかったな。
たまたま他に誰もいなかったから出来た芸当か。
「まぁな、俺もお前に言わなきゃいけないことがあるからな」
「えっ〜、なになに〜?」
俺は白衣の男との出来事、麦島が超能力者になったことを伝えた。
「そういうことだ。すまない。俺のせいでお前を…」
神原が頭を下げ謝罪する。
全く無関係の麦島を俺の事情に巻き込んでしまったのだ。
きっと怒っているだろう。
「はぁ〜。なっちゃん〜、頭を上げてよ〜」
言われた通りに頭を上げる。
麦島が呆れたような顔をしていた。
「あのねなっちゃん〜。俺はなっちゃんを置いて逃げたくなかったからあの場に残ったんだよ〜。俺の選択だ〜。それで俺が超能力者になってもそれも俺の問題だよ〜。後悔はないしなっちゃんに恨みなんて感じてない〜。今回のようにまた狙われることがあったとしてもまた2人で切り抜ければいいよ〜。次からは俺も戦力だからね〜」
いつもの口調でゆるい発言。
けど芯に篭った言葉だった。
神原を気遣っての嘘ではなく本当に後悔していないのだ。
けど俺は友達を怪物にしてしまった。
またここで謝ったら怒られそうだな。
俺が出来ることと言えば…。
「ありがとう。お前が友達で良かったよ」
感謝だ。
俺も心の底からの言葉を伝えよう。
「それで俺の能力はどんなのなの〜?」
「分からん。置かれている環境とかなんとか言ってたけど要は本人の特性に合った能力なんじゃないのか?今なんかやってみろよ」
「うん〜」
麦島は手からビームを出すようなポーズを取ったり俺のような精神系能力者のように念じてみたりしたが特に何も変化はなかった。
「何もないね〜」
「そうだな〜。発動条件を満たしてないか別の系統の能力かもしれないな」
「そっか〜。まぁ追い追い分かっていくのかな〜。そうだ!なっちゃんの能力を教えてよ〜」
「そうだな、白衣の男にも能力を見られたしここには誰もいないから教えても平気だろう」
「えっと、どこまで話したっけ?」
「なっちゃんの能力が自身に都合の悪い暗示をかける能力って言うのは聞いたよ〜」
「触りだけか、えっとこの能力はなー。俺に不都合な制約をかけることで何らかのプラスを得ることが出来るんだよ。例えば痛覚を司る神経の機能を失わせる。これはこれ単体で見れば神経機能がなくなるんだからマイナスだ。けどそうすることで痛覚を感じなくすることが出来るというメリットがある。動体視力の強化も静止物に関する情報を全てシャットアウトする。そうすると動いていないものを見ることができなくなるが逆に動いているものだけを注意深く見ることが出来て反応速度が上がるってわけだ」
「凄いね〜。痛覚遮断も動体視力の強化も結果的には強くなってるじゃん〜」
「結果的にはそうだが過程で負荷を負わなければならないがな。頭が良くなるとか足が速くなるとかプラスのみの暗示はかけることが出来ない。あとこの能力の欠点は暗示だからしばらくの間暗示をかける時間を作らなきゃならないことと暗示を解除した時に気分が悪くなることだな」
「難しい能力だね〜。でも痛覚遮断みたいに上手く使えれば相当強い能力になるかもね〜」
「そうだな。けど足が速くなったりしないから能力に頼らない戦闘も学ばないといけないけどな。幸い今は夏休みに入ってるんだし十分に時間はあるだろう」
俺達が鬼束市丸に襲われたのは丁度一学期の終業式の日だったのだ。
つまりもう夏休みに入っており欠席の心配がないのだ。
昼の時間帯から祥菜が俺の病室にいたのもそういうことだ。
「俺もどんな能力か分からないから体だけでも鍛えるよ〜」
「お前はまず体力と減量だな」
「わ、分かってるよ〜」
ダイエットはしたくないのだろう。
嫌そうな顔をしている。
「それでなっちゃんの能力名はなんて言うの〜?」
神原がニヤリとニヤケ顔を浮かべる。
「よくぞ聞いてくれたな。市丸って野郎と戦ってる時に考えてたんだよ。マイナスからプラスを得るから俺の能力名は、『自己暗示』だ!」
能力名は自己暗示。邪気眼みたいなのにしなくてよかった。
「いい名前だね〜。俺もそんな名前を付けたいよ〜」
麦島が早く名付けしたくてウズウズしてる。
「これからあの人達のことはどうするの〜?」
麦島が聞きたかったのはこのことだろう。
「まぁ間違いなく接触はしてくるだろうな。計画とかいうやつに協力してもらいたいみたいだしな。お前を能力者にしたのも超能力者を量産するためだろうし。いつ来るか分からないのならこっちから攻めた方が手っ取り早いと思うんだがどうだ?」
「まぁそれが最善だろうけど手掛かりが全くないからね〜。おにつかいちまるって名前ぐらいしか分からないからな〜」
そう、こっちには何も情報がないのだ。
向こうは千里眼でこちらの情報を掴んでいる。
既に情報戦でこちらが負けているのだ。
「とりあえずその名前で調べてみようぜ。確か兄貴がいるって言ってた。千里眼の能力者だ」
「千里眼か〜。じゃあ今この光景も見られているかもね〜」
「かもな。まぁまず準備だな。白衣の男があいつらに目を付けるって事はあいつらは目に留まる何かをやってた可能性が十分にあるからな」
「そうだね〜。そうしよっか〜。じゃあさっさと退院しないとね〜。なっちゃんはいつ退院できるの〜?」
「分からん。さっき目が覚めてすぐここに来たから。けど体も動くし明日ぐらいには退院できるんじゃねーの?まぁ強引に明日退院するよ」
「そうなんだね〜」
それから取り留めもない雑談をしていると…
コンコンコンコン
病室の扉をノックする音だ。
「はーい」
麦島が応答する。
ガラガラガラ
扉が開くと黒スーツで決めた男が2人病室に入ってきた。
「失礼。麦島迅疾君、そして隣の君は神原奈津緒君だね?」
「そうですけど〜、あの〜、どなたですか〜?」
「私達はこういう者です」
胸ポケットから何かを取り出す。
それは警察手帳だった。
ここは神奈川県だから神奈川県警の刑事のようだ。
サイドを刈り込んでいるのが豊橋寛治で隣の顎を上げて高圧的な態度の男が女島泰造と言うらしい。
流石に警察までは謝絶は出来なかったようだ。
「警察の方が何の用ですか?」
「いやーね。君達が発見された館舟商店街のあの通りがあまりにも凄惨すぎてね。警察としても一体何が起こったのか把握しときたかったんだよ。明らかにあれは高校生の喧嘩のレベルを越えてるからね。君達に事情を説明してもらいたいんだ」
豊橋という刑事。中々に物腰が柔らかい。それにしても隣の男はつくづく態度がでかいな。俺らにメンチ切ってるような感じだぞ。
おそらく豊橋さんはストッパー兼お守りみたいな役どころなのだろう。
お疲れ様です。
それにしても、これは事情聴取ってやつだろうな。
そりゃそうだろう、辺り一面真っ赤だったんだ。
救急隊員がトラウマになるほどの状態ではあったと思うがまさか警察まで来るとは思わなかったな。
しかしここで正直に超能力者に襲われましたなんて言ってもこの人達は信じないだろうしなー。
それは麦島も感じているのだろう。
軽くこっちにアイコンタクトを飛ばして頷いている。
「いや〜、それがあんまりよく覚えてないんですよー。もう一瞬の事で血が出て意識が飛んじゃってー」
「僕もですね〜。神原君が血を出して倒れたのを見てショックで気絶しちゃってまして〜」
俺達は覚えてないふりをしてシラを切る。
豊橋は何か思うところがあるようだがグルグル巻きの神原を見て。
「そうだな、被害者の君達を問い詰めてもあまりよろしくないだろう。何も知らないようだし今回は帰るとするよ」
スッと豊橋が立ち上がって去ろうとする。
女島が何か言いたそうだったが豊橋が目で制する。
「何か思い出すことがあったらここに電話してくるといいよ」
そう言いメモ用紙に自分の番号を書いて麦島に渡す
「それじゃあまた。怪我、早く治るといいね」
ガラガラ バタンッ
「豊橋さん、いいんですか?あいつら絶対何か知ってますよ」
女島は納得がいってないため豊橋に抗議する。
「そんな事は分かってる。無理やり外されたシャッターが2枚。内1枚は数十メートル離れた中央広場に置いてあった。そして神原君の出血量と体の傷の具合が割りに合わない。あの容体だったらもっと出血が少なくないと説明がつかない。そして麦島君の頭部の火傷の跡だ。火傷を起こせる物はあの現場にはなかった」
実際に現場を見て、そして2人の容態を見た豊橋は2人の嘘を即座に見破っていた。
そして…と豊橋が続ける。
「おそらく彼ら以外の人物が誰かいたに違いない。アレだけの芸当の数だと複数犯の可能性もある。彼らが加害者のことを言わない理由は分からんが私達はその人物を探すのが先だろう。商店街周辺の聞き込みと防犯カメラのチェックだ。急ぐぞ!」
はいはい分かりましたと女島も渋々了承する。
神原達と警察
2つの勢力がそれぞれ白衣の男達の捜索に乗り出す。
♢♢♢
麦島との話を終えた神原は自分の病室に戻ってきた。
手に1階の自販機で買ったコーヒーを持っている。
ガラガラガラ
病室に入ると自分のベットがある方向から何かが走って来た。
「奈津緒君ー」
その何か、伊武祥菜が神原に向かって飛びかかった。
「ちょ、祥菜、俺病人。苦しい」
傷は塞がったが痛みはまだ伴っているので伊武に抱きつかれると体の節々が痛みを上げる。
「どこ行ってたのよ!そんな体で!心配したんだから!」
涙目で伊武が叫ぶ。
「ごめんごめん、ちょっと麦島と話がしたくてさ。にしてもよく俺が入院してるって分かったな」
祥菜の体が神原から離れる
「麦島君がメールで教えてくれたの。奈津緒君が重体で病院に運ばれたって。ねぇ、何があったの?」
「………悪いがそれは言えない」
知ってはいけない。市丸との戦いでも祥菜は人質にされてしまった。俺と親しいってだけで。隣にいた麦島でなかったのも俺をコントロール出来るレベルの人質を選んだと言うことだ。麦島だったら切り捨てるとでも考えていたのか。ムカつく野郎だ。俺はテリトリーの中の人間は総じて守るんだよ!守ってやる。絶対にだ。
「それって前言ってた秘密ってやつ?」
秘密とは祥菜から告白を受けた際に諦めてもらうために言ったものだ。
「あぁ、今回は俺だけだったから良かったけど祥菜にもいずれ危険に遭わせるかもしれない。だから…」
「だから別れようって言うの?前も言ったよね?そんなの気にしないって。恋人がこんなになってるのに別れて自分だけ助ろうだなんてそんなの嫌!そんな事言わないでよ……」
祥菜の目から涙が溢れる。
「いや、あの、あのね、別れ話をしたいんじゃなくてね」
神原がしどろもどろになっている。
「ふぇ?」
伊武が腕で涙を拭き取ってこちらを見る。
神原は上を見上げて大きく深呼吸をする。
そして伊武の目をまっすぐに見つめる。
「君を今後危険に遭わせるかもしれない、だから……」
そう言って伊武の体をそっと抱きしめる。
さっき飛びつかれたのとは違い優しい抱擁だ。
「だから、俺が祥菜を守ってみせる。必ずだ」
神原の抱きしめる力が強まる。
「グズッ、ゔん!」
伊武も神原の腰に手を回して抱きしめる。
「大丈夫だ。俺は死なない。こうして生きて、祥菜を抱きしめてやるよ。だから、安心してくれ」
「ゔん、ゔん!」
あれからしばらく抱き合っていた。
2人はひたすらにお互いを離さない。
忘れてはいけないのだが神原の病室は麦島とは違って他にも入院患者がいる。
もちろんこの光景を見ているが誰も邪魔はしなかった。
プロポーズとも取れかねない神原の言動に同じ男として尊敬の念を感じていた。
ここで妨害をする奴は男じゃない。
まぁ邪魔は入るのだが…。
ガラガラガラ…
「奈津緒ー、着替え持ってきたわよ……って何してんのあんた」
病室に40代くらいの女性が入ってきた。
「まぁまぁこんな人前で抱き合ってるなんてあんたも大胆になったわねー。そちらは彼女さん?あんた彼女いたなら紹介しなさいよー。あんたってば暗い性格だから女の子の気配とか全然感じなかったけど、やることはやってるのねー」
「か、母さん。何でここにいんだよ!」
神原は病室に入るなりまくし立てる女性に戸惑う。
「何ってあんたが目を覚ましたって病院から電話があったから来たのよ。にしてもっあんたー、あっはっはっはー、全身ぐるぐる巻きってあんたゾンビじゃないんだからー。あっはっはっはっは」
笑いが抑えきれず声を出して笑ってしまっている。
「ねぇ、この人は?」
見かねた伊武が神原に問う。
「俺の母親だよ」
嫌そうに祥菜に教える。
「あぁどうもどうも、ちゃんと挨拶してなかったわね。奈津緒の母です。あなたは?」
「伊武祥菜と言います。奈津緒さんとはお付き合いをさせていただいてます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね。奈津緒、あんたこんな可愛い子どうやって射止めたのさ。まさかあんた弱みを握ってんじゃないでしょうね」
速攻犯罪者扱いですかそうですか。もう少し自分の子供を信じて欲しいね。
「あのねー母さん。脅して付き合ってる子がわざわざ病院まで来るわけないだろ?普通逃げるだろうがよ。正真正銘の恋人だよ」
神原を伊武の肩に手を回し自分の元に寄せる。
伊武はアワアワしながらどうにか神原の母と会話を繋げようとするがテンパってて言葉になってない。
その様子を見て神原の母、神原実も納得する。
「どうやら本当みたいね。祥菜ちゃん、今度うちにいらっしゃい。あなたの話を聞きたいわ〜」
「ひぇ、ひぇい、べひびきまず」
彼氏の母親の登場、抱き寄せ、そして先ほどの抱擁で伊武の頭はパンクしかかっている。
「祥菜、落ち着け」
神原が伊武の背中をトントンと叩いて落ち着かせる。
どうにか落ち着いた祥菜が母親と俺のベッドで談笑している。
あのー俺横になりたいんだけどー。
2人は会話に夢中で神原のことを気に留めていない。
まぁいっかな、祥菜も元気になったみたいだし。
神原は壁に寄りかかり窓の外を眺める。
「そういえばあんた、何でそんな怪我したのさ?」
実が神原に問いかける。
「えっ、いやーそのー、あんまり言いたくないと言うべきか言えないというべきか、あのー」
警察、祥菜と同じくあの時のことを素直に話すわけにはいかないので誤魔化そうとするが肉親相手に即座に嘘はつきづらく逆に怪しまれてしまう。
「あんた、何かヤバいことしてるんじゃないでしょうね」
してるというよりされたんですけどね。
「してないよ。大丈夫。俺の問題だから」
祥菜に目をやって答える。
祥菜は納得してくれたのか問い詰めたりはしてこない。
自分からは聞かず、俺が話すのを待つことにしたのだろう。
「ふぅん」
実は思案顔をしている。
「まぁいいわ。無茶はしないようにね」
「えっ、問い詰めないの?」
もっと追求してくるもんだと思ってたが…。
「何よ?言いたいの?めんどくさい子ね」
「いや、言いたくないけど」
そんな構ってちゃんじゃないっつの。
「言いたくないなら詮索はしないわよ。祥菜ちゃんが納得してるのに私が言うのは野暮ってもんでしょ?。けど祥菜ちゃんを泣かせることだけはするんじゃないよ」
「分かってる。絶対に守るよ」
それは絶対だ。
必ず守る。
手を出す奴はギタギタに潰す。
「にしても嬉しいわね。あんたがこんなに感情を表に出すなんて。昔っから何考えてるか分かんなくてちょっと不気味だったんだからあんたわ」
自己暗示を抑えるために仕方なくだよ。好きで閉鎖的になったわけじゃないのに。
「うるさいな、そんなことはどうでもいいだろ」
「でも最近は何かそんな風には見えなくなったわね。祥菜ちゃんのおかげかしら?それともあの子のおかげかしら。よくウチに来るあの子」
「麦島のことか?あんな奴のおかげなわけないだろ。俺にも色々あんだよ」
「そうよね。色々あるわよね。まさかあんたがファッション雑誌を買うなんてね」
「んな!?」
唐突で思わずバランスを崩して倒れるところだった。
「何で知ってんだよ!」
「あんたの着替えを箪笥から取り出した時に見つけたのよ。何いっちょまえに色気付いちゃってー」
ニヤニヤしながらこっちを見ている。
「彼女の前ではカッコよくいたいと思うことがそんなに悪いことなんですかー?」
「悪いことじゃないわよ。むしろいいことよ。ちょっとからかっただけよ。祥菜ちゃん、あなた愛させてるわね。奈津緒が自分から行動するなんて凄いことよ」
「は、はい」
自分が愛されてると知った伊武は顔が赤くなってるのを隠すために両手で顔を覆っている。
しかし耳までは隠せておらず耳が真っ赤である。
神原もまた隠してたことがバレて恥ずかしそうにしている。
それを実はほのぼのとした表情で見守っている。
「じゃあ私はもう帰るわね」
実は帰り支度を始める。
「あぁ、わざわざありがとう。明日にはもう退院するからさ、明日また迎えに来てよ」
「明日ってずいぶん急ね。まぁいいわよ、明日も休みだから迎えに来るわ」
「わ、私ももう帰ります。部活が夕方から始まりますから」
「わざわざ来てもらって済まんな」
「ううん、私が来たかったから。それに…」
また伊武の顔が赤くなってる。
やめてくれ、俺も恥ずかしくなるから。
俺とんでもないことを言っちまったな。
必ず帰って抱きしめるとかあーーーー。
神原は自分の発言に身悶えしてる。
「祥菜ちゃんも帰るのね。私車で来てるから送ってくわ。館舟高校でいいのね?」
「はい、ありがとうございます」
よく見ると祥菜のそばにスポーツバッグが置いてある。
それによく見たら夏休みなのに制服だ。
元々この後学校に行く予定だったのだろう。
「んじゃ明日来るわね」
「奈津緒君、またね。退院したら連絡頂戴ね」
「あぁ、分かったよ」
2人が病室を去っていった。
ようやくベッドに横になる。
「邪魔くさいなー」
神原は腕と足に巻かれた包帯を外す。
まだ赤いが傷は塞がってるな。
これなら過度な運動をしない限りは大丈夫だろう。
神原は包帯を取って軽くなった体をストレッチでほぐす。
これからの方針としては鬼束市丸についての調査だな。
警察に頼らない以上俺らでどうにかするしかない。
麦島の能力のことも調べないといけないしな。
けど夏休みは十分にあるんだ。
課題が多いけどそんなのは今やればいいしな。
実は実が着替えと一緒に神原のカバンを持ってきていたのだ。
鬼束に襲われたままなら課題が全部入っているはずだ。
少しでも終わらせて調べる方に時間を割けるようにせんとな。
神原は机をセットして課題に取り組み出した。
現在 7月26日
ここから神原奈津緒の物語を始めたいところだがまだ待ってほしい。
彼らの発言の節々に違和感を感じていなかっただろうか?
「…君達はドクターから直接能力を貰ったんだろう?君達のことは監視させてもらったが君の能力だけは分析出来なかった。…」
「…また会おう。私の希望達よ」
君達、達、達………
そう、これは神原奈津緒1人の物語ではない。
10年の時を経て、一度集まり分散した者達がもう一度交わり合う。
その時、神原達は?白衣の男達は?警察は?謎の治癒女は?
彼はまだ3分の1に過ぎない。
3つが合わさり、ようやく1つになるのだ。
さぁ、時間を巻き戻そう。
ここからは別の3分の1の物語だ。
神原奈津緒
能力名:自己暗示
自身に都合の悪い暗示をかける
麦島迅疾
能力不明
鬼束市丸
能力名:色鬼
触れた色を操作する
白衣の男 本名不明
能力不明
鬼束零
能力名:隠れ鬼
千里眼能力
詳細は不明
萩原時雨
能力名:瞬間移動
自身や触れた物体を別の場所に移動させる
謎の女
能力名:治癒活性
手から出た緑色の波動で細胞を活性化させ回復を促す
これより第2章開幕




