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お前らだけ超能力者なんてズルい  作者: 圧倒的暇人
第5章 旅は道連れ
116/145

第116話 八重洲エンティホテル③

 戸瀬不動産の江津町

 八重洲エンティホテル17階で宿泊客を監視している。

 先程17階に宿泊客が戻って来た。

 レジ袋を持っていたことから外で買い物をして来たのだろう。


 ザッ「こちら江津町、対象が1706号室に戻りました」

「了解、他の宿泊客も警戒しろ」

「了解」

 と言ってもどの部屋に宿泊客がいるかが分からない。

 普通は1泊2日でみんなチェックアウトしていてこの時間には連泊でもない限り宿泊者はない。

 正直江津町は17階には誰も宿泊していないと思っていた。

 チェックアウト時間を過ぎてから誰もホテルから出ていない。

 犯人がまだ内部にいる場合、宿泊客の情報をホテル側が漏らさないことを見越して籠城する構えだと睨んでいた。

 だから普通に外に出たあの男は犯人ではないように思えた。

 奴が籠城用に物を揃えたとしても説明が付くが、一度外を出たことで警戒されることになった。

 敵としては早く外に出たいはずだ。籠れば籠るだけどこにいるかを絞り込むことになる。

 そして籠城は戸瀬不動産側にもデメリットがあった。

 宿泊階の監視はゲートを通過できる宿泊客に限定される。

 つまり監視を交代するには外から新たに宿泊客として戸瀬不動産の人間を入れなくてはならない。

 20階は占拠している。

 他の階にも戸瀬不動産の人間が監視に入っているが、この高級ホテルだ。

 昨日はたまたま取れたが今日も十分な数を予約出来るとは思えない。

 交代できず監視を続けさせられる者、人が足りずそもそも人員を配置しない階も出て来るだろう。

 それにただでさえホテルの通路に突っ立っているだけなのだ。怪し過ぎる。

 4階のサーモグラフィー係もこれ以上4階に居続けるのは苦しいだろう。

 宿泊するでもなくゲートの近くに突っ立っているのだからこれで無害と言われてホテル側も信じられるはずがない。

 今日は乗り越えられるだろうが明日もとなると戸瀬不動産側にも被害が出てくる。

 早く来いと戸瀬不動産側のみんなが焦りを感じ始めた。



 八重洲エンティホテル2007号室

 経過を待っている戸瀬奏音も焦りを強く感じていた。

 まだ、見つからない。

 こうなるとまだホテル内にいるという自分の推理が間違っているのではないかと疑ってしまう。

(間違いなく神岐の仕業。くっ、このまま籠城し続けて持久戦に持ち込むつもりかしら?)

 このままでは戸瀬不動産の仕事の方にも悪影響が出てくる。

 戸瀬不動産の人間としては平原家はビジネスパートナーの娘というポジションだ。

 社長の娘である戸瀬奏音よりも無意識ながら優先度が下がってしまう。その小さな差が犯人探しの方にも影響を与えてくる。

 弛緩して見過ごしたり見落としたりと、人間はずっと100%の集中力を出すことは出来ない。

 この削りが神岐の狙いだとすれば神岐はイケメンの皮を被ったゲス野郎ということになる。

「悪どいわね、神岐」


 1706号室に宿泊客が戻って来たようだ。

 ここから何も変化がなく、チェックインの時間になって一般客が続々とホテル内に入ってくると、人に紛れて見逃してしまうかもしれない。

 もしも、彼がクロで次のチェックインで彼の仲間が入り込んで来たら?

 時間の猶予はない。しかし目の前の彼が犯人である確証が得られない。

 無関係の人間に詰め寄った場合、ホテル側に告げ口されて警察を呼ばれるリスクがある。

 撤退はない。しかし停滞もない。

 この膠着のような動きのない時間。体が暇になれば自然と頭が忙しくなる。

 考えれば考えるだけドツボにハマっていくような、停滞をより停滞へと引っ張り込むように、忙しい頭も溺れて思考停止へと向かっていった。

 そうなると「次動きがあれば」となり動きがない間はどうしても緩くなってしまう。

 戸瀬自身がそう陥っているのだから他の不動産の人達はより顕著になっているに違いない。



 八重洲エンティホテル1706号室


 ガチャッ

 部屋のドアが開いた。

 竹満が戻って来たようだ。

 しかし設楽は動かない。

 出迎えに行ってもしもドアの隙間から戸瀬不動産の人間が見ていたら?

 戸瀬奏音に顔がバレている設楽は一発で身元が割れて部屋に突入されるだろう。


 ガチャ

 ドアが閉まると同時にオートロックがかかった音。

 これなら外から見られることもないから大丈夫、とはならない。

 そもそも部屋に入って来た人物が竹満ではない可能性も考慮しなければならない。

 あのメッセージは誰かが竹満のスマホを使っている場合もある。竹満を襲ってスマホとカードキーを奪った可能性は十分にあり得る。


「……設楽君、竹満です。『()()()()()()()()()()()()()()()()()』」

「……おかえりなさい」

 ベッドとベッドの隙間に隠れていた設楽が顔を出した。


『車のメンテナンス』

 部屋に戻って来た時に本人確認を行う暗号文。

 敵が『超能力者(ホルダー)』だった場合に『超能力者(ホルダー)』に対して二者間の暗号がどこまで機能するか分からないが顔を出して見つめた竹満は部屋を出ていく前となんら変わりようはなかった。


「17階、4階、1〜3階にもかな。外にも地下にも監視の目があった」

「……それは、当然と言うべきかやり過ぎとも言うべきか」

 平原暁美と戸瀬奏音がこのホテルに泊まることは昨日の内に決まっていた。

 不動産会社だ。従業員数もだが、この都心だ。オフィスもあるだろう。要は人の手配が容易ということだ。これが昨日であれば日曜日で人の手配が鈍化していただろうが、それはまあ時期が悪かったということだ。

 急ごうとしたのは失策だったと設楽は己の焦りを恥じた。

 奇しくも状況説明を求めた竹満が正解を導き出していたということだ。念入りにしなければ打破出来ない。速攻勝負でどうこうなるほど『超能力(アビル)』は甘くない。敵が普通の人間ということでそこら辺の意識が薄くなってしまっていた。

 ここまで想定していたわけではないだろうが、状況判断が最優先というマインド、結果を求め過ぎず着実に達成させようとする竹満の行動観は尊敬に値する。

(これか、俺に足りないものはあったな。あらゆる状況の想定とそれを打ち払う意志と行動力)


「とりあえず必要な物は買ってきた。何事もやり過ぎなくらいが丁度いいな」

 ドサッ

 レジ袋を机の上に置いた。

 レジ袋は萎びず竹満が持っていたフォルムを維持している。それだけ中に入っているということだ。

 設楽が頼んだ物だけではこうは大きくならない。

 やり過ぎという発言からも余分に何かを買ったのだろう。

 とりあえずレジ袋の中身を確認してみる。

 …うん、注文した物は入っている。30分で余分なものを含めて購入する手際の良さ、そして監視の目に気付く探知能力。目に見えないスキルでは自分よりも上だと認めざるを得なかった。

 伊達にcomcomのパートナーとして裏方に徹していないということか…。

 そして余分なものを見てみる。

 何を買ったのか分からないが竹満のお眼鏡にかなう物がなんなのか興味があった。


「……へぇ、()()()()があるって知ってたんですか?」

「昔comcomの撮影で使ったことがあってね。その動画は結局投稿していないから見たことはないだろうね」

 竹満が購入した物は非常に面白そうな物だった。

「限界は?」

「60キロだ。大きめのサイズを買ってきた。温度についても溶ける心配はない」


 平原暁美が入っているスーツケースを見破られる要素がある。

 それは温度と重量である。

 人間1人は成人女性でも40〜55キロほどある。

 このスーツケースは折り畳めば人間を収納できるほどの大きさがあり、その分収納可能重量も上がることになる。

 スーツケースの動きでどれだけの重さがあるかは判別出来る。

 軽ければ階段で容易に持ち上げられるし段差などで揺れる動きも大きくなる。逆に重ければエレベーターやエスカレーターがなければ持ち上げられずローラーで転がしている時の音も重さを感じるものになっている。

 そして宿泊部屋に重さを誤魔化すものはなかった。

 部屋の中のオブジェを使うことも考えたがどれも派手で大きいため小さく折りたたむことが出来ないためどう誤魔化すか迷っていた。

 見られることを前提にした立ち回りが難しいと感じながら必要な物を竹満に注文したのだが、模範解答とも言うべきアイテムを買って来た。

 これがあれば重さも、温度も解決出来る。




 先程の宿泊客がエレベーターに乗ったことを確認して坂峰は無線を飛ばした。

「サーモグラフィーを当てたところ、温度が低かったためアイスなどの冷たい物と思われます。何かまでは袋越しのため判別は出来ませんでした。他にも何か入ってますが温度ではこれ以上のことは分からないですね」

 ザザッ「ご苦労、引き続き監視を続けてくれ」

「しかし、これ以上は限界です。対象がフロントに何か話した後からこちら側をチラチラ見続けてます。4階に居座るのはもう限界です」

 彼が不審人物としてフロントに問い合わせたのだろう。

 今は電話している風を装っているがそれもいつまで続くかどうか。

 かと言って一旦外に出て戻って来てもマークされる。それは坂峰、湾平に限らず全員が警戒されるだろう。まだチェックインの時間でもないのにいるからだ。

 4階は無理でも地下と1〜3階は監視出来る。


 ザザッ「分かった。2人は3階のソファで監視をしてくれ」

「坂峰、了解」


「湾平、3階に移動だ」

「やっとですか、もう針の筵みたいで嫌でしたよ」

 2人はエスカレーターへと向かった。

「3階と言っても、3階から4階って見えないようになってますよね」

「宿泊する客にだけ派手な装飾を見せてるんだろうな。3階までは一般客も使う程度の装飾しかないからな。デジュニーに来たかのような夢演出だろうよ」

 不動産会社の人間として、そのような注文を受けることはよくあるため、この説明で湾平も納得した。

「見えなくてもエスカレーター、エレベーターが移動手段なんだ。その出口には全て人員を配置している。4階が手っ取り早かったがそれでも逃げられるような隙はないはずだ。それに各階に人を配置しているから移動すれば即座に全員に伝わるしな」

「…そうですね。むしろ座りながらなら楽ですね。立ちっぱで足がそろそろキツかったですから」

 エスカレーターで降りながら自身の脹脛を揉み込む湾平。



 ザザッ「こちら江津町、対象が1706号室に戻りました。袋の中身は確認出来ませんでした」

 ザザッ「そうか…、深追いはせず出て来るまで待とう。…そちらは待機は問題ないか?」

「はい、チェックアウト後の清掃、ベッドメイキングも終わっているのでホテルの従業員も見てないですね。ただ何かしらの定期巡行があれば不審に思われますね。監視カメラは見当たらないですが不信感を与えないために客には見えないようにカムフラージュしていると思われます。長居は出来ないでしょう」

 ザザッ「……そうか、苦しい展開になって来たな。………社長が謝罪行脚を始めた。既に業務に影響が出始めている」

 江津町を始め本作戦に従事している者の呼吸が一瞬止まった。

「今急いで人員を調達しているが、早くても明日になりそうだ。何とか今日一日を踏ん張ってくれ。チェックイン時間になれば宿泊部屋組は1〜3階と外へ移動しろ。人が増えれば中での監視はもう意味をなさない」

「江津町了解」

 他の監視人も続々と無線で了承を飛ばした。


 ♢♢♢


 さらに20分後

 ようやく動きがあった。


 八重洲エンティホテル2007号室

 先程の無線を聞いていた奏音は憂鬱になっていた。

 既に業務に影響が出ており父親が謝罪に走り回っているとのことだ。

 暁美の誘拐は隠せても戸瀬不動産で異常事態が発生していると外野は想像するだろう。

 そこから誘拐へは結び付かないが株式会社である以上は株主への説明も必要だし関係各社への説明責任が伴う。

 これを社外秘で押し通せるはずはない。それは企業の信用問題に関わってくる。

 しかしここで暁美の捜索を諦めることは父もだが会社として望まないはずだ。

 この惨状が暁美の無鉄砲さが招いた結果、というのも事実だがじゃあそれで()めますは通らない。

 暁美の次に狙われるのは奏音なのだから、犯人を捕まえておきたいのは暁美の安否以上に自らの危険を回避するためだと思うことはごく自然なことだった。

 しかしそれが棒に振る結果になっている。

 この件で娘の暴走に手を貸し、父親が社員を私的に使用したとレッテルを貼られた場合が怖い。

(私自身も責任を取らないといけないわね。縁談かしら?所詮令嬢の価値は接続器(コネクター)ね…)



 戸瀬不動産の通信機が無線を受け取った。

 ザザッ「こ——江津町。緊——態———たい———ガガガガガガガガガガ」

 17階の監視をしている江津町からの無線だ。しかし音が途切れ途切れだ。マイクから離れているせいだろう。しかし何か強烈な音が鳴り…

 プツッ

 無線が切れた。

 嫌な未来を想像していた奏音であったが謎の無線で現在に戻された。

「きん……たい?…………!?緊急事態!」


 ザザッ「こちら奏音、緊急事態です。誰か17階に向かえますか?」

 ザザッ「こちら18階の加世田(かせだ)です。向かいます」

 ザザッ「こちら16階の万戸(まんのへ)です。私も向かいます」

 ザザッ「待ってください奏音様」

 口を挟んだのは戸瀬不動産の幹部であり今回の作戦のトップである井筒(いづつ)だった。

 彼が無線で現場に指示を出していた謂わば司令官のようなポジションの男だ。

「加世田、万戸。階段から向かえ。通常階段と非常階段の2箇所からだ。エレベーターはどの階に機があるか丸わかりだから行き先が分かる。誰か、今のエレベーターの場所が分かるか?」

 ザザッ「こちら7階の串木野(くしきの)です。エレベーターは全4機。4階、8階、17階、20階です」

「了解だ。エレベーターに動きがあればすぐ報告しろ。下に動くエレベーターは最重要警戒だ。坂峰、湾平。4階には近付けないがエスカレーターで降りて来ればすぐ連携しろ。地下と1、2階も同様にだ」

 ザザッ「3階坂峰了解」

 ザザッ「外組那波了解」

 ザザッ「18階加世田、階段から向かいます」

 ザザッ「16階万戸、では非常階段から向かいます」

「奏音様、よろしいですね?」

 それは暗に勝手に指示を出すなというところか。

 確かに両方が片方の階段で向かった場合、もう片方が手薄になる。ホテルの構造上エレベーターと階段、非常階段を一望することは出来ない。数多くの宿泊部屋を監視出来る位置に陣取るしかなかったしここで漏れがあっても出入り口は4階のゲートの1つしかない。4階の坂峰、湾平がサーモグラフィーで検査することが出来るはずだったが、それも出来なくなった。4階から先は出口が複数ある。抜けがある可能性は決して0にはならない。


「……えぇ、いいわ。結局私の()()()()だったし」

「……」

 井筒は何も言わない。井筒は最初敵は既にホテルの外にいると判断し、ホテルの外を重点的に捜索しようとしていた。それが奏音のまだ内部に潜伏しているという推理の元で全階層に社員を配置することになった。

 井筒としてはここで平原暁美を救出して株を上げようという魂胆なのだろう。それが奏音の言う通りに事が運べば井筒の功績が霞んでしまい評価されなくなるのを井筒は危惧しているのだ。

 井筒のやったことは奏音の指示にちょっと上乗せした程度であるのにこうして強めに口出しするところに彼の思惑が透けている。

 だから遠慮なくカウンターを入れた。お前最初はホテルの外を中心に探そうとしていたのに随分な言い振りだなと。

 ならばと奏音はさらにカウンターを入れる。


「奏音です。5階、6階で監視している方、階段と非常階段を張っていただけないしょうか?加世田さん、万戸さんが向かう前に既に敵が階段を降っている可能性があります」

 奏音の言うことは正しい。

 江津町の緊急事態の無線では敵がその時間17階にいる確たる証拠にはならない。エレベーターは串木野の報告で17階にあるが、動いてはいない。ならば階段で既に降り始めた可能性は十分に考えられる。

 ザザッ「5階、ローレンです。階段から向かいます」

 ザザッ「6階、天虎(てとら)です。非常階段から向かいます、が……。井筒さん、よろしいですか?」

 天虎は念の為井筒に確認を取った。

 井筒としてはまたも奏音に上を行かれてしまった。

 井筒の取れる選択肢は3つ。功績が奏音に奪われる事を受け入れて会社のために動く。二つ目は人1人を運んで階段を降りられるはずがないと一蹴しローレンと天虎を動かさないこと。三つ目は奏音とは違う指示を出す事。

 上二つはどう転んでも井筒のプラスには働かない。自身の功績のために取るなら三つ目だが現状奏音の案以上に奏音、社員を納得させるだけの作戦が出てこない。

 ローレンと天虎、加世田と万戸がすぐ動いたのは奏音の言う事が正しかったから今回も正しいと判断してのことだろう。天虎は確認を入れたが天虎の性格上、面目を潰されたんじゃないかという井筒の体裁を気にしてのフォローだった。

 空気を読むのが上手い天虎の気配りが逆に井筒のプライドに触れてしまった。天虎に矛先は向かないが、そう思われてしまっている自分自身が猛烈に恥ずかしくてたまらなかった。

 ここで下手に反発すれば作戦は失敗する。平原暁美を取り逃がした場合、功績どころか会社の未来も悪くなる。

 自分の立場のためにその立場の根幹がなくなっては本末転倒だ。


「あぁ、奏音様の言う通りに動きなさい」

 ここは素直に受け入れよう。

 これで奏音の言う通りにしたところでこのチームのトップは自分だ。成功すれば希釈はされるだろうが甘い汁は啜れると判断した。

(足掛かりにすればいいさ。社長から評価をもらえれば出世もしやすいからな)

 社長の娘すら利用してやると井筒は心に決めた。


 というのを奏音も無線越しで感じていた。

 昔から奏音や暁美に介入してポイントを稼ごうとしていたのはよく感じていた。

 皇太子の乳母が政治的発言力を強めるように、井筒も私のお世話係をすることで父から評価されて晴れて幹部入りしたのだろう。

 正直令嬢たるやを散々説いていたこの男のことは好きになれなかった。

『世の中の可愛いはおっさんが作っている』なのか知らないが、令嬢の心構えを何故おっさんから教えられなければならないのだ。どちらかと言えば平原家から教わることの方が多かった。

 それをあたかも自分の手柄のように吹聴しているのがこの男だ。

 先程の回答を聞くに流石に理性は残っているようだ。

 指揮に影響はないだろう。

 そして問題は江津町の緊急連絡だ。

 17階で何かが起こった。

 1706号室の宿泊客が何かしでかしたのだろうか。

 井筒が状況連絡しないということは江津町のメガネの映像がないのだろう。17階がブラックボックス化してしまった。

 加世田と万戸が到着すればまた状況が変わるはずだ。

 こちらが否が応でも動かざるを得ない。

 ここからが勝負なのかと奏音はここにはいない奴を思い浮かべながら無線機を強く握りしめた。


「…暁美のことよりも、神岐との知恵比べ合戦が主軸になってるわね…」

 どことなく試されているように感じるが、少しだけ、少しだけ楽しんでいる心がある。

 昨日のファンタジーで感性が狂ってしまったようだ。

 隕石は降って来ないし異形の人間はいないが、それに似た緊張感、臨場感がこのホテルに充満していた。

(………ふふっ、絶対に捕まえてやるわ!)

 犯人を憎む気持ちよりも、自身を満たすことに奏音の振れ幅が向いていた。











(順調だ。順調に沈んでいる―――)











神岐のいない神岐サイド

ついに動き出した竹満、設楽

異能を知り、異常に順応に始めた戸瀬

神岐の狙い通りに成長していっています。


いよいよホテル脱出が始まります。

江津町に起こった異変、戸瀬不動産側の包囲網。

動きが分からない竹満達。


異能がない人間同士の戦い。

八重洲エンティホテルに向かっている鬼束達は関わってくるのか。

8月6日はまだ終わらない。

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